軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もうひとつの初恋 4

色々と仕方なかったとはいえ、もうすぐ結婚する立場である上に、私を好きだと言ってくれているフェリクスにこの状況を見られてしまったのは、かなり気まずい。

フェリクスの眼差しはやはり冷たいもので、私は慌ててルフィノから離れると、彼に向き直った。

「二人はこの部屋で何を?」

「ポーションを作ろうと思ったの。そうしたら、私がエルセ・リースの生まれ変わりだって、ルフィノが気付いていたことを知って……」

その上で前世の記憶があると自ら話したことを正直に告げると、フェリクスは目を見開く。

そんな中、ルフィノは静かに頭を下げた。

「申し訳ありません。全て僕が勝手にしたことです」

「……どうか顔を上げてください」

フェリクスはそれだけ言うと、小さく微笑んだ。

「こうして再会できて、懐かしむのは当然ですから」

「ありがとうございます」

それから二人は仕事やベルタ村についての話をし、フェリクスの様子もいつも通りで、思わずほっとする。

「では俺達の結婚式が終わり次第、すぐに三人で向かえるよう、こちらでも準備をしておきますね」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

(フェリクス、怒ってないわよね……? 良かった、私ってば自意識過剰だったみたい)

「それでは、僕はそろそろ失礼します。──ティアナ」

「うん?」

「薬草はここに置いておくので、何か分からないことがあればいつでも呼んでください」

「ええ、ありがとう」

やがてそれだけ言うと、ルフィノは部屋を出て行く。

ドアが閉まる音を聞きながら、これまでとは違い『ティアナ』と呼ばれたことに少しの戸惑いを感じていた。

(でも、元々エルセと呼んでくれていたし、私に対して『様』なんてお互い落ち着かないもの)

とにかくルフィノにはバレてしまったものの、これまで通り過ごせそうでよかったと安堵する。

そしてフェリクスに、この部屋についての感謝と先ほどの謝罪を伝えようとした時だった。

「俺ももう行くよ」

彼は不自然に私に背中を向けると、そのまま部屋を出ていこうとしてしまう。

「ねえ、フェリクス! 待って」

慌てて追いかけてフェリクスの前に立ち、顔を見ようとしても、ふいとやはり不自然に顔を背けられた。

(やっぱり、フェリクスは怒っているんだわ)

「ごめんなさい、私が──」

「別にティアナが謝る必要はないから、気にしないで」

声も言葉もいつも通りだけれど、絶対に嘘だ。

思い返せば彼が室内に入ってきてから、一度も視線が絡むことはなく、私の方を一切見ていなかったことにも今更になって気が付いた。

「ねえ、私の目を見て」

「…………」

「フェリクス、お願い」

こういう時は関係が悪くなってしまう前に、絶対にその場で目を見て話をして解決すべきだというのが、昔からの私のポリシーだった。

だからこそ、フェリクスの両腕を掴んだのだけれど。

「……俺はこのまま、出ていこうとしていたのに」

「──え」

「あなたが悪い」

そう告げられた瞬間、手を振り払われ両肩を掴まれた私は、フェリクスによってドアに押しつけられていた。

整いすぎたフェリクスの顔が、鼻先が触れ合いそうなくらい目の前にあって、思わず息を呑む。

(やっぱり、怒っているじゃない)

フェリクスは怒っているような、拗ねているような傷付いているような、そんな表情をしていた。

「……ルフィノ様とティアナが抱き合っているのを見てからずっと、頭がおかしくなりそうだった」

フェリクスはそう言うと、私をそっと抱き寄せ「ごめん」「好きなんだ」と呟いた。

かなり気にしていたのだと思うと胸が痛んだものの、同時にドキドキしてしまい、顔が熱くなっていく。

好かれているのが、彼の全てから強く伝わってくる。

「あの、フェリクス、ごめんなさい」

「謝らないでほしい。ティアナは悪くない」

「でも……」

「全部分かってるんだ。俺に何かを言う権利なんてないことも、形だけとは言え俺達がもうすぐ結婚する仲で、ルフィノ様がこれ以上あなたに近付かないことも」

フェリクスは「それでも」と続ける。

「どうしようもなく嫉妬して、腹が立つ」

「フェリクス……」

「……それにルフィノ様は俺よりずっと大人で完璧で、素晴らしい人だから。怖いんだ」

私がルフィノを好きになることを、フェリクスはひどく恐れているようだった。

──フェリクスは子どもの頃から、ルフィノに対して憧れを抱いていたことを思い出す。

(けれど、ある日からルフィノとの練習を嫌がったり、ルフィノの話をすると拗ねるようになった覚えがある)

もしかするとフェリクスは、その時既に私のことを好いてくれていて、焼きもちを焼いていたのかもしれない。

悲しませてしまった罪悪感はあるものの、フェリクスが愛おしく可愛く思えて、私は彼の頬に手を伸ばした。