作品タイトル不明
冒険者99 起床後、爆弾
伯父が燃えに燃えているまま、会社を作る話は急速に進んでしまった。
俺としても面白い話だとは思うが、出来る出来ないかを問われれば出来ない確率の方が高い。似たようなビジネスモデルは既に存在しているとあの後に調べたものの、どれも成功しているとは必ずしも言えない状態だ。
それもその筈。彼等は冒険者そのものと繋がりを作っている訳ではない。
このビジネスはギルドに合格するまでをゴールとしている。伯父もそうだが、このビジネスは入った後までを考慮していない。
能力がどうだとか、技能がどうだとか、モンスターの強さや種類の詳細情報までを集めずに基本的には肉体の鍛錬に重視している。
それが不正解ではないが、よく知らずに単純に鍛えているだけでは合格は難しい。
海外であれば合格ラインは低くなっている。彼等はなるべく多くの若くて意欲のある人間を入れ、冒険者そのものの母数を増やしたがっている。
国によっては補助金を出して貧困層からも拾い上げているようで、しかしそういった層の子供が即戦力になる例は少ない。
何処の国も日本の冒険者を求めている。だからこの手のビジネスは雨後の筍のように生え、そして結果を出せずに自滅していく。
中には詐欺上等で始めた輩も居るようで、一般的な常識を備えた人間からは怪しい仕事の一つに数えられてしまった。
スタートの時点で悪い印象を伯父の店は背負うことになるのだが、当の本人もそれは理解している筈だ。
その上で覆す手段をあれこれ考えているようで、まだ頭の中にしか形になっていない。
伯父にとって他とは違うのは、実際に冒険者が関与していることか。内情に多少なりとて詳しい人間が居るお陰で情報の質は遥かに良くなる。
とはいえ、言った直後に事業の設立なんて出来る筈もなし。
俺も協力はするものの、稼働が開始されるまでは教えるべき内容を纏めてマニュアルの形に整える作業を本業の傍らやっていくことになる。
これが少し難しい。ギルドは把握していて、一般の人が把握していないラインで俺は記載していかなければならないのだ。もしもギルドすら知らない情報を記載してバレた場合、家族から疑われるのは間違いない。
意外に厄介な仕事内容になったものの、それでも俺は悪い気がしなかった。
なにせ原石を直接見れるのだ。ギルドとまったく関係の無い場所で未来で活躍する冒険者を見つけ出せた場合、なるべく早めにその才を叩き起こすことが出来る。
俺の今の肩書も彼等の警戒度を下げるにはもってこいだ。現役の冒険者の意見なんて、彼等からすれば喉から手が出る程に欲しいだろう。
ギルドが副業を認めているのも直ぐに調べて把握している。情報漏洩に気を遣えば、老人達から突き上げを食らうこともない。
伯父の目的は俺への支援だが、新しい有望株を多く生み出してくれればそれ自体が支援になる。
「――これで一先ず全部か」
息を吐く。
血の付いたナイフを振るって鞘に収め、多数のモンスターの死体に目を通す。
伯父のしようとしていることに参加はするつもりだが、本業も疎かにはしていられない。
まだまだ俺は復帰直後。ギルドとしてもいきなり危険な場所に向かわせる気は無く、本日は予定通り日本のダンジョンでモンスターを倒して、素材を回収する作業員を護衛する仕事に就いている。
固定メンバーとして榊原を隊長とし、参加する人数は俺と例の四人を合わせた六人。
対して企業が派遣する作業員の数は百人と多く、その全員が一般人だ。
彼等は事前に会社の方で契約を結んだバイトであり、正社員は責任者の一人だけ。その責任者は俺達に対しては謙った態度をしていたが、バイトに向ける眼差しには侮蔑の色があった。
今回の企業は大手であるので、責任ある仕事ではある。
が、如何に大きな会社でも人間として質の悪い側が紛れ込むのは避けられない。榊原も短く打ち合わせを済ませ、以降は作業員や責任者達となるべく接触しないことにしていた。
とはいえ、此処はダンジョン。一体何処でモンスターが出現するかは解らない。接触しないことにしても近くには待機せねばならず、そこは四人組で纏まって連携行動をさせておいた。
俺は別の地点で遠くからモンスターを狩り、榊原が全体を見て零れた個体を処理する。
敵の強さは既に知れていたから、単独行動を誰がしても咎められることはない。まぁ、俺は元植物人間だったということで心配されはしたものの、あんな戦闘をした所為で本当に軽いチェックみたいなもので終わった。
「こっちはまるで変わっていないな。 有り難い反面、本当にどんな原理でそのままになってるんだか」
小鬼の死体はこの仕事が開始されてから既に三百は超えている。
どいつもこいつも弱いクセに突撃思考で、偶に石を投げる個体が居てもまるでダメージが無い所為で逆に鬱陶しく感じてしまった。
木々の暴力も嘗てであれば危険に思うこともあったが、ナイフで軽く腕を振るだけで中央から両断される。小動物達は睨めば散って逃げていき、およそ脅威となる存在は見つかることはない。
この仕事に俺が居る意味は無い。楽ではあるが、同時に退屈でもある。目はモンスターを探してはいるも、頭はどう暇を潰すかを考えていた。
『――それなら、僕とお話しない?』
「ッ!?」
唐突に頭に響く声。
少女特有の高い声に意識は完全にそっちに持っていかれた。
「ナラか」
『ふふ、おひさ。 それよりどうしたんだい? また無視をされると思ったのに返事をしてくれるだなんて』
「とある奴からお前と話せと言われてな。 ⋯⋯それより、これまでどうして黙っていた」
俺が目覚め、今日この日を迎えるまで。
ナラ本人からの接触は一度として無かった。システム画面が出てくる気配すらも無いのは流石におかしいと思っていたが、まさか直接頭に語りかけてくるとは。
俺の返事にナラはなんてことも無しに寝てたんだよと答える。
既に死人である彼女に睡眠の必要性があるとは思えず、つい反射的に疑問を口にしてしまった。
『寝てたっていうより、休息みたいなものだね。 僕の魂と君の魂は繋がっているけど、結局は血の繋がりもない赤の他人だ。 そんな赤の他人である君の身体を使うと、肉体との齟齬でとてつもない負担が襲いかかってくる。 更に神の眼の機能も一部使用したから、追加でどんって感じできたんだよ』
「成程⋯⋯。 榊原から話に聞いていたが、お前が表に出るのは負担がある訳か」
『そういうこと。 ⋯⋯で、僕からも質問良いかい?』
彼女が寝ていた時間は、決して俺が植物状態から目覚めた時からではない。
恐らくは二年近くを俺と同様に眠り、つい先程起きたのだ。彼女としては周囲の情報を集めたいだろうし、俺自身に報告も兼ねて質問もしたいだろう。
彼女が何を言い出すのかは正直予想している。そして彼女は、実に解かりやすく俺に問を投げた。
『質問は二つ。 先ず第一に、どうして今の君に神の眼の負担が無いのか。 第二に、現状で僕の居た世界から何か来ていないか』
真剣な声。
普段の軽やかな印象がある言葉とは違い、硬さの混じる声にマリーザの雰囲気を感じた。
異世界で俺は結局、彼女達の始まりを目にしていない。そうなる前に世界そのものが崩壊し、今一度詳しく知りたいならもう直接尋ねるしかない。
これまで避けていた存在との対話に、僅かな緊張を覚える。
ソアのように上手くいく保証は無い。あちらはもっと全力な姿勢だったから信じることが出来たが、彼女の場合は同様にいくとはとても思えなかった。
「先に二つ目の質問から答えよう。 俺が把握する限り、その影は見つかってない。 もしかすれば裏で暗躍している可能性があるが、今の俺にその裏側を調べる術はない」
『まぁ、そうだね』
「そして一つ目の質問の答えだが、お前と話をしろと言っていた人物が調整してくれた。 名前は――――ソアだ」