軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者68 いざ、第二の地獄へ

中国のダンジョンが日本よりも大きいことは把握していた。

その発生地点にある黒穴もダンジョンのサイズに合わせて拡大しており、街一つを飲み込んだソレは一種のブラックホールめいた印象を抱かせる。

中に入っても死ぬ訳ではないが、こんな巨大な穴に入るのは勇気が居るだろう。

初見でなくとも二の足を踏みたくなるのだ。初めて実際に見た榊原達が息を呑むのも無理はない。

それでも、俺達は最短で此処を攻略しなければならないのである。現状の戦力を用いて十階層のダンジョンを踏破し、これ以上のモンスター出現を抑え込む。

小山の頂上から俺達は様子を眺めた。一部の冒険者に野営の準備を進めさせ、遠くから双眼鏡を用いて情報収集に動く。

敵の出現位置を知れば、そこがダンジョンの入り口だ。未来の記憶の位置と変わらないのであれば事前に決めたルートを用いることが出来るし、そうでないなら一度榊原と話し合わなければならない。

生き残りの人間が居るかも探せるだけ探す。これはついででしかないが、折角助けられる命があるなら助けておいた方が多少なり国民からの印象も良くなるだろう。

如何に指導者達が日本を悪く思っていたとしても、今回の件は感謝を述べなければならない件だ。

これで感謝も無ければ国際問題に発展する。現状は輸出も輸入も緊急的に停止状態だが、それが永遠に続くことになりかねない。

が、俺も加わって双眼鏡で探してみるも人らしい影は見つからなかった。

慎重に行く為に敢えて半日は時間を費やしてもダンジョンの入り口くらいしか解らず、それもやはり未来で知ったものと変わらない。

敵の出現頻度も一時間毎に計測してみたが、これも完全にランダム。少ない時は数匹程度で、多ければ数十単位で敵が外に出ていってしまっている。

「……予測しての動きは難しいですね」

二度目の夜を迎え、俺達はライトを地面に向けて少ない光の中で顔を合わせる。

榊原が厳しい顔で言っているように、敵の動きを完全に把握して動くのは不可能に近い。

やはり当初の予定通り、その場その場での対応で行くしかないだろう。休息が可能なスポットは事前に榊原には伝えてあるので、俺が意見を口にしないでも彼女が勝手に行くべき道を語ってくれる。

「榊原隊長。 やはりダンジョン周辺の敵生体は少なくなっています。 迅速に進めば我々が突入するまで敵との戦闘は限りなく零に近付けることは出来るかと」

「それは重畳。 ですが、問題なのは中に入った直後です。 ――いきなり何体の敵に遭遇するか解りません」

ダンジョンのモンスターが溢れ出るまで、第一階層には多数のモンスターが存在することになる。

俺も入った直後に多数のモンスターの群れとかち合い、その殆どを相手せずに潜り抜ける形で突破した。

今回もその全てを相手するのは難しく、されど規模の違いで逃げ切れるか定かではない。

十や二十で済めば御の字であるが、間違いなく三桁は襲い掛かってくる。一体一体は大した個体ではないとはいえ、大量に襲い掛かられれば処理しきれなくなるだろう。

「私達のレベルはまだ低いです。 全てを相手に出来ない以上、最速で一層を抜けなければなりません。 幸い、予言者さんからはこのダンジョンの全十層の大まかな図を貰っています」

榊原は腰ポケットから数枚の折り畳まれた紙を取り出す。

開くとA4サイズにまで広がり、中には俺が何時間も使って書いた地図がある。

一層は日本と同様に草原が広がり、二層からはいきなり森の中だ。この森は五層まで続き、六層目からは石造りの迷路が始まる。

迷路とは言ったが、然程大きくはないので迷う確率は低い。だが経験の浅い冒険者を殺し切るには十分だ。

一度迷い、慌てたが最後。挟み撃ちを食らって即あの世行きになる。

それでもダンジョンとしては低難度。少なくとも、このダンジョンは今後出現する大規模迷宮を攻略する上でのチュートリアルになる。

「森は兎も角、迷路ですか……。 この地図通りなら下に降りた瞬間に迷路になるのですよね?」

「ええ、そうです。 内部は光苔のようなもので照らされているので、注意すべきはトラップと曲がり角ですね」

「急に人為的な物が出て来る訳か。 これで簡単な方だってんだから、これからが怖いな」

溜息が冒険者の一人から漏れた。

今でさえ俺達に楽観は無い。情報が集まれば集まる程に攻略の難しさが見えてきてしまい、生き残れる可能性がずっと低いのではないかと思ってしまう。

他の冒険者も気持ちは一緒だ。攻略が可能かどうかを話し合う前に、先ず生きて帰れるのかを話し合った方が建設的ではないかと考えているだろう。

特に、この場には俺が居る。正体を知っている人間以外には俺は有望株であるだけの新人であり、ダンジョンに潜らせるなど論外も論外。

何も言わないのは、俺の参加に何らかの意味があると思ったからか。上が決めた命令であれば、この場の誰もが口を挟めない。

「……モンスターが大量に出て行った後に行きましょう。 一層は日本のものとほぼ変わらないようなので、迅速に石段を降りて二層を目指します」

「それしかないでしょうな。 時間はどうします?」

「出現頻度がランダムです。 なのでこれから監視を行い、出て行った直後に動けるようにします。 テントは此処で放置です」

向かうタイミングを定め、俺達は廃墟で休息を取った時のように交代でダンジョンを見ることになった。

最初の二、三時間では大した数は外に出て来ず、変化があったのは三時間後。

数多くの小動物達が拡散するように出て行く光景を冒険者が報告することで俺達は一斉に動き出した。

移動は早歩きに留め、全員で違う方向を警戒する。もしも直ぐに新しい敵が穴から出て来るようであれば、一度撤退して去るのを待つつもりだ。

しかし、ダンジョンはモンスターの鳴き声以外では実に静寂を保ち続けた。

確かにあれに生物的構造物は存在しないが、だからといってここまで静かだといっそ不気味だ。

夜闇に乗じての行動だったので視界確保も最低限。迅速に動いたお蔭でモンスターとの夜間戦闘は発生しなかったのが今のところ良い話か。

常人の足であれば全力疾走に近い速さとなった俺達は、ものの数十分で黒穴の目前まで迫った。

「……近くにモンスターの姿は見えません。 行きましょう!」

榊原の声に小さな返事で応える。

モンスターの出現位置から飛び込み、日本ダンジョンと同様のゆっくり落ちる空間が俺達を出迎えた。

緩やかに落ちながら、目は常に下へ。僅かな光が徐々に徐々にと接近していく度に緊張感が増していき、思わず息をするのも止めてしまいそうだ。

光が大きくなる。そして、穴を抜けた刹那に視界は一気に明るくなった。

「解っていたことだが……」

思わず文句が口から出て来る。

目の痛みを気合で誤魔化しつつ、直ぐ目の前の石段の上に着地した。

顔を上げた刹那――俺の意識は強制的に切り替わる。何せ傍には日本ダンジョンに突入した時とは比較にならない敵の群れが居たからだ。

晴天の空に緑豊かな大地。それらが出迎える筈の第一層は、しかして視界の半分程をモンスターで埋め尽くされている。

大部分はやはり雑魚ばかり。外に溢れ出たモンスターが今か今かと自分が出て行く瞬間を待ち侘び、今は入ってきた直後の俺達を見ている。

「――――突破!!」

榊原の大声が一層を駆け巡る。

無意識でこちらも大声で返事をし、敵が動き出す前に石段を蹴って一気に駆け出す。

相手も彼女の声で一斉に行動に移し始めた。己の凶器を用いて俺達を食らってやろうと、凶暴性を微塵も隠さず走り寄る。

モンスターの津波。久方振りのダンジョン攻略は、こうして始まった。