軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十二話 戦いの犠牲

後はルーチェ達の方の、二体目のパッチワークを片付けないといけない。

俺はパッチワークの亡骸の前で数秒息を整えて休憩を挟むと、彼女達の方へと目を向けた。

パッチワークが三本の剣を振り回す。

ルーチェがそれを右へ右へと逃げて耐え、ケルトがパッチワークの背や腕を狙って矢を放って動きを妨害している。

メアベルはMPが怪しくなってきたらしく、〈アイス〉の攻撃は止めてルーチェを回復させることに務めているようだった。

「ケルトさん、もう一歩前に出られないんね? どう見てもルーチェさん限界なんよ!」

「猫被るの止めたら滅茶苦茶言いやがってクソ僧侶が! 狩人は、そういうクラスじゃねぇんだよ! ここまで注意引いてることに感謝しやがれ!」

……態度はむしろ悪くなっているが、とにかくケルトもまだ残ってくれている。

「でもこのまま行ったら、ウチのMPがなくなって全滅なんよ!」

「そのときは俺だけ〈脱兎〉で逃げてやるよ! こっちは逃げ足があるんだから、ここまで死地に付き合ってやってるだけで感謝しやがれ!」

明らかにルーチェの負担が大きそうだったが、どうにか死者を出さずに済んでいる。

あまり攻勢には出られていないようだったが、HPは半分以上削れている上、パッチワークの撃てる〈デスソード〉も後一発だけだ。

今の〈死線の暴竜〉状態の俺が入れば、すぐにパッチワークを倒せるはずだ。

俺も走って彼女達の許へと向かった。

「きゃあっ!」

そのとき、剣を避けきれずにナイフで受けようとしたルーチェが、力負けして壁に叩きつけられた。

「ルーチェさんっ!」

「僧侶女! お前が急かすからだぞ!」

まずい……あの体勢だと、ルーチェは次の攻撃を避けられない。

パッチワークも逃げ回られて苛立っているはずだ。

確実にスキルで仕留めに来る。

俺の危惧通り、魔法陣が展開された。

この距離だと間に合わない。

「ルーチェ、逃げろ!」

俺は大声で叫んだ。

ルーチェは慌てて立ち上がろうとするが、明らかに〈デスソード〉の方が速い。

そのときだった。

「チッ……〈脱兎〉!」

ケルトが地面を蹴り、身体を丸めて飛ぶ。

逃げるつもりかと思ったが、そうではなかった。

綺麗にルーチェの許まで滑り込み、彼女の身体を弾き飛ばす。

「ケ、ケルトさん、ありがとうございま……」

「俺は恥知らずだが、恩知らずじゃないつもりだからよ。わざわざ逃げた奴助けに飛び込んできたときには、正直腹の中で笑ってたぜ。上の冒険者ほどクソ野郎が多い。B級で生きていくなら、せいぜい気を付けるこったな」

ケルトが寂しげに笑う。

直後、紫の刃が、彼の身体を引き裂いた。

周囲に真っ赤な血が舞った。

ケルトの身体が地面を転がる。

「よくやってくれた、ケルト」

俺はパッチワークの無防備な背を、全力を込めて斬った。

背中の腐肉が大きく抉れ、背側に生えていた腕の一本が宙を舞う。

パッチワークの縫い目が解け、巨体が崩れ落ちていく。

【経験値を2478取得しました。】

ついに二体のパッチワークを倒した。

初見殺しの〈デスソード〉の対処法をしっかりと共有できていたのがよかった。

半ば即死技の大ダメージスキルを持っている相手に長期戦をするのは、それが最適解だと頭では理解していても、精神の方が持たずに決着を焦ってしまう。

ルーチェが俺を信頼してくれていたことと、冒険者として経験の長いケルトが焦るメアベルを止めてくれていたのが大きいだろう。

「ケ、ケルトさんが、ケルトさんが動かないんよ!」

メアベルが青い顔で彼の身体を抱き起こす。

「ア、アタシのせいです……。アタシが焦って動いて、ケルトさんがその犠牲に……。身勝手な人だと思ってたのに、どうして……」

「まぁ……なんとなくわかるよ。こいつの考えていたことは」

狩人は器用貧乏寄りのクラスである。

一番の強みは機動力と遠距離攻撃にあるが、攻撃力に欠けるため補佐寄りの戦い方をするのが前提であり、決定打にはなれない。

パーティーで本領を発揮するには、基本的にちくちく攻撃して魔物の注意を引きつつ、その機動力を活かして広範囲の仲間のカバーを行う立ち回りが求められる。

ただ、機動力による広範囲のカバーが最大の強みである分、トドメの一撃を取るか譲るか、露骨に選べてしまうのだ。

譲っていればいいようにされるだけであるし、かといって一度でも掠め取れば恨みを買うことになる。

「どうせ嫌われ者なら、徹底してやろうと思ったんだろう。中途半端が一番辛いだろうし、かといって譲ってばかりで生きていけるほど甘い世界ではないからな」

『俺は恥知らずだが、恩知らずじゃないつもりだからよ』

ケルトは最後にそう言っていた。

最初から譲歩するのはただの弱腰だと舐められるからごめんだが、受けた恩は返しておきたいと、そう決めていたのかもしれない。

ケルトを直接助けたのはルーチェであったため、目の前で見殺しにするのは気が引けたのだろう。

「なっ! 何を平然としてるんよ、エルマさん! あんまりいい人ではなかったかもしれないけど、さっきまで仲間だった人が死んだんよ……!」

「いや、生きてるぞ、ケルトは」

「えっ?」

俺の言葉にメアベルが目を丸くする。

「つつ、つ……致命ダメージくらったせいで、ちょっと意識が飛んでたみてぇだな。おい僧侶、とっとと回復してくれ」

ケルトが目を開く。

「ケルトさん! よかった……生きてたんよ……」

メアベルは力が抜けたらしく、息を漏らしてその場に屈む。

経験値から、これは四人のときの減り方だなと分かっていた。

「狩人には〈擬死〉のスキルがあるからな」

俺の言葉で、ケルトの肩がびくりと揺れた。

〈擬死〉はダメージを受けてHPが残り僅かになった際、死を偽装してその場に倒れる、というものである。

魔物に付けられたターゲットを近くの冒険者に移せる上に、運がよければそのまま逃げられるかもしれないスキルだ。

「な、なんだ、俺を非難する気か! 当たりどころが悪かったら、あの魔法で死んでたんだぞ! どうせ動けなかったんだから、生き残る可能性のある方を選んだだけだ!」

「……気ぃ失った振りしてなかったらまだ見直せたんよ」

メアベルが呆れたようにそう零した。