軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話 蟻の群れ

二体のオレアントが、俺を挟み込む形で前後に立つ。

後方のオレアントがルーチェへと意識を向けようとしたので、俺はすかさず相手の影を踏み、勢いよく足を引いた。

オレアントは影越しに身体を引っ張られ、強制的に俺へと意識を戻した。

「俺とじゃれ合ってもらうぞ」

「エルマさん、その状況で足まで動かせなくなったら……!」

オレアントの死角へ向かっていたルーチェが、驚いた表情を浮かべる。

オレアントの警戒すべきスキルは主に三つだ。

先に見せた素早く敵を引っ掻く〈鉄爪〉、高速で直進して来る〈突進〉、そして大きな岩塊の砲弾を放つ〈ロックキャノン〉である。

素の速度のステータスが低いため、そこを誤魔化してくるこの三つのスキルが厄介となる。

だが、スキルであれば予備動作があり、動きも単調になる。

レベル自体は俺やルーチェの方がオレアント達より高い。

二体程度、充分引き付けられる。

それに攻略がルーチェの〈竜殺突き〉のクリティカル頼みである以上、彼女は完全にノーマークにしておくのが好ましい。

時間を掛ければ、他のオレアントが寄ってくる。

「ギィッ!」

後方のオレアントが魔法陣を浮かべる。

〈ロックキャノン〉である。

放たれた巨大な岩塊が、真っ直ぐ俺へと飛来してくる。

俺は〈影踏み〉を維持したまま身体を大きく反らし、盾の表面で岩塊を転がし、最後に押し出して大きく軌道を変える。

そして、別方向から向かって来ていた新たなオレアントの目前へと、岩塊を落とした。

「ギッ……!」

これで多少は近寄ってくるのを牽制できたはずだ。

素早く振り返り、一体目のオレアントの〈鉄爪〉を剣で捌く。

そうしている間に、俺と白兵戦をしているオレアントの背へと、反対側から回り込んできたルーチェが飛び込んでいく。

「はああああっ!」

大振りの一撃がオレアントの背を砕き、髑髏の光と共にその甲殻が爆ぜる。

【経験値を770取得しました。】

爆風を利用してルーチェが跳び上がる。

「足場お願いします!」

ルーチェの声を受けて、俺は空へと盾を掲げる。

宙で回転しながら落ちてきたルーチェは、俺の盾を蹴って大きく跳び上がった。

〈ロックキャノン〉を放とうと構えていた二体目のオレアントの頭を飛び越え、その背にナイフを突き立てる。

「もう一発〈竜殺突き〉!」

二体目のオレアントが爆散する。

【経験値を535取得しました。】

順調過ぎる。

さすがは〈奈落の凶刃〉様だ。

防御重視のオレアント相手に綺麗に噛み合っている。

「ギ、ギイイイッ!」

攻めあぐねていた三体目のオレアントが、俺目掛けて突進で強引に距離を詰めてきた。

これは避け切れないな。

相手の勢いを利用したカウンターを合わせてやるのは簡単だが、余計な被ダメージを負う上に、どうせ俺では倒し切れない。

俺は盾を突き出して〈シールドバッシュ〉を放った。

大蟻の鼻っ面を殴りつける。

「ギッ……!」

オレアントも衝撃を受けて面食らったようだが、突き飛ばされたのは俺の方だった。

オレアントは防御力が一番だが、それなりに攻撃力も高い。

〈シールドバッシュ〉の押し合いは防御と攻撃のステータスで合算されるため、負けている分、俺が突き飛ばされることになる。

元々オレアントの〈突進〉のスキルには対象を弾く効果があるため、その分も加算される。

だが俺は、飛ばされる直前に〈影踏み〉を行っておいた。

突き飛ばされた俺とオレアントの飛距離が広がり、〈影踏み〉の影の弾性力が発揮される。

〈シールドバッシュ〉と〈突進〉の反動で体勢が崩れていたオレアントは、突如〈影踏み〉に足を引かれ、地面に腹を打ち付けた。

その瞬間の隙を、死神が刈り取る。

「更にもっぱつ!」

ルーチェが三体目のオレアントの側面に立ち、〈竜殺突き〉をお見舞いした。

オレアントの巨躯が宙を軽々と跳び、髑髏の光と共に爆散する。

【経験値を713取得しました。】

【レベルが75から76へと上がりました。】

【スキルポイントを1取得しました。】

俺の死角を補うように、ルーチェが背中合わせに降り立った。

順調過ぎるな。

敵との噛み合いもあるが、〈死神の凶手〉に慣れてきたルーチェが頼もしすぎる。

それに、アイテムドロップの方も収穫があったようだ。

新たな三体のオレアントの残骸の内、二つにゴツゴツとした石の塊が落ちている。

模様は不均一でまばらであり、その色は仄かに青黒い。

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〈 魔虫銀(インヴェダイド) の石塊〉

【市場価値:二千六百万ゴルド】

妖しい輝きを帯びた石塊。

魔鉱石を好んで食す鉱虫が体内で生成する、 魔虫銀(インヴェダイド) を多く含有する。

強力な魔法金属であるが、不純物が多く、精製せねばまともに扱えない。

――――――――――――――――――――

よし……これが目当てのアイテムだ。

〈 魔虫銀(インヴェダイド) の石塊〉はオレアント以外を含めた鉱虫達全般からドロップするアイテムである。

ただ、まず精製が必要なため、これだけ持って行っても鍛冶師では対応できない。

錬金術師の手を借りる必要がある。

ややドロップ率が低いが、今のところ四体倒して二つと、なかなか上出来だ。

「やった! 出ましたよう、エルマさん! これで一気に五千万ゴルドゲットです!」

ルーチェが生き生きとした様子で声を上げる。

「ば、馬鹿な……なんだ、奴らは……! オレアントがあっという間に消し飛んでいくぞ!?」

馬車の方から俺とルーチェの戦いを眺めていたフラング達は、呆然とした様子で立ち尽くしていた。

「銀面卿め……! 鉱虫共は頑丈で厄介だと散々口にしていたのに、ラーナのように切り裂かれていくではないか!」

フラングが顔を真っ赤にして悪態を吐く。

「重騎士に道化師……まさかあの二人、〈黒き炎刃〉を倒したパーティーの内の二人では!? 上位では珍しいクラス……そうそう被らないはずです!」

「な、なにぃ!? ぐっ……!」

フラングも俺達の話は多少知っていたらしく、顔を青くし、苛立ちに目を細める。

「部外者に 魔虫銀(インヴェダイド) を持っていかれて堪ったものか! とっとと奴らに続くぞ! ぼさっとするな!」

フラングが部下に怒鳴る。

馬車の近くから見物を決め込んでいた六人組が、慌ただしく俺達の許へと駆けてきた。

万が一を考えれば、あんまり馬車の守りを疎かにされても困るんだがな。

俺とルーチェは順調に六体目、七体目のオレアントを仕留め、無事に三つ目の〈 魔虫銀(インヴェダイド) の石塊〉の入手に成功していた。

一方、様子見で大きく出遅れたフラング達は、実戦でもオレアント達相手に随分と苦戦している様子だった。

「全然ダメージが通っていない……!」

「勝手に下がって回復するな! 前線が崩れる!」

オレアントは頑丈で攻撃も苛烈、その上で群れる性質を持つ。

戦い方を失敗すれば、レベル以上の脅威となる魔物だ。

〈 魔銀(ミスリル) の笛〉の連中のレベルもこのレイドを受けている時点で俺達とそう変わらないはずだが、随分と翻弄されている様子だ。