軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話 魔鉱虫オレアント

俺達はギルドの手配した馬車で移動し、問題の場所へと辿り着いた。

「ギギ……ギギギギ!」

平原には全長二メートル程度の、巨大な蟻の化け物が大量発生していた。

体表は錆びた金属のようで、仄かに青い鈍い輝きを放っている。

俺達の馬車を見掛けてか、森から次々に後続が姿を現す。

ざっと見えるだけで、全体で二十体程度だろうか。

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魔物:オレアント

Lv :65

HP :156/156

MP :86/86

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「うひゃあ……なかなかのレベルですよ……数も多いですし」

ルーチェはそこまで言って、〈 魔銀(ミスリル) の笛〉の冒険者達が乗り込んでいる前方の二台の馬車へと目をやった。

彼らとも既にやや対立気味なため、同じレイドの味方だとも言い難い。

そんな状況でレベル60台の魔物の群れを相手取ることに不安があるのだろう。

「ここまで多いとはな」

オレアントの群れを前に、俺は息を呑む。

「エルマさんから見ても、やっぱりこの数はちょっとよろしくないですよね。ひとまずあの方々と接触できただけで第一の目的は達成できたようなものですし、後方で控えめに立ち回った方が……」

「あれだけのオレアントがいれば、ルーチェの幸運力があればかなりのドロップが期待できる! 元のドロップ率が低い分、鉱虫共のドロップアイテムはなかなかのものだぞ……!」

俺の言葉に、ルーチェがガクッと肩を落とした。

「どうしたんだ、ルーチェ?」

「いえ、エルマさんの目には、あの虫さんの群れがもうドロップアイテムにしか見えていないんだなって……。アハハ、エルマさんが平常運転で、アタシもなんだが安心しました」

ルーチェが苦笑いをしながら頭を搔く。

「もしかしてエルマさん、〈 魔銀(ミスリル) の笛〉を探ることよりドロップアイテムが主目的だったりしませんか?」

「何を言っている? どっちも大事だぞ」

「な、なるほどです……」

今回の目的は大きく分けて二つある。

〈 魔銀(ミスリル) の笛〉に接触して、連中が抱えている錬金術師の秘密を暴くこと。

そしてもう一つは、その際の交渉を優位に進めるため、連中の目的である鉱虫のドロップアイテムを俺達で横取りすることである。

そして錬金術師に接触できたとしても、こちらから鎧の素材となる金属を提供する必要がある。

鉱虫のドロップアイテム…… 魔虫銀(インヴェダイト) であれば申し分ない。

一石二鳥の計画である。

つまり連中と交渉するための金属に加えて、鎧分の金属も確保する必要がある。

「でもあのレベルの魔物の群れは、さすがにちょっと危険ですね。囲まれてスキルを撃たれると、それだけでかなり苦しいことになりますよ」

「オレアントはHPと素早さこそ低めだが、他のステータスが高い。特に攻撃力と防御力には要注意だ。スキルも中近、両方持っている。だが、俺達であれば……」

「おい、野良犬共!」

ルーチェと打ち合わせをしていたのだが、前方から怒声が飛んできた。

顔を上げれば、嫌味な口髭の男フラングが、俺達の馬車へと近づいてきていた。

彼の背後には〈 魔銀(ミスリル) の笛〉の冒険者達五人が揃っている。

「俺はギルドから、レイドの指揮を任されている。貴様らの行動は、俺次第というわけだが……その意味、わかっているか?」

フラングがニヤリと笑う。

レイドがバラバラにならないため、名目上のリーダーがギルドより定められている。

ある程度は彼の命令に従う必要がある。

「お前達クランも、ラコリナのギルドから突つかれるのは苦手だろう。どうせ既に目を付けられているんだろう? あまり強権を盾に無茶を言うなら、こちらも当然嘆願書を出させてもらうことになるが……」

俺の言葉を聞き、フラングは眉間に皺を寄せて目を細める。

苛立っているのが見え見えだ。

これで大人しくなってくれるはずだと見込んでいたのだろう。

「チッ、多少は頭が回るらしい。目障りなガキだ」

これで露骨にこちらを妨害する命令が出されることは牽制できた。

「……だが、レイド監督の命令として、妥当なものならばどうだろうなあ?」

フラングが口を広げて、ニヤリと笑う。

さすがに指揮権限を持つ者と対立しつつ、レイドを熟すというのは厳しそうだ。

理由を付けて後ろに下げられれば、満足にドロップアイテムを集められない。

最悪ギルドに報告されるのを呑んだ上で、命令を無視するのも視野に入る。

ギルドに報告されてもそこまでの痛手ではない。

証言者は全員同じクランメンバーなのだから、安易に相手の言い分を聞き入れることはないだろう。

ギルドとしても、クランと一般冒険者の揉め事にわざわざ関与したいはずがない。

「重騎士に道化師、貴様ら二人には、先陣を切ってあの虫共を叩いてもらう。敵の数が減るまでは、馬車の護衛が必要だ。万が一にも御者を死傷させるわけにはいかんのでなあ。連携の利く我々で馬車を守りつつ、状況を見てそちらにも加勢させてもらう」

フラングの言葉に、俺は耳を疑った。

「俺とルーチェだけで先陣を……?」

「フフ、フラング様も人が悪いわね。こんなチンチクリンのガキ二人で、オレアントの群れに敵うはずがないでしょうに」

フラングの後方の踊り子の女が言えば、クランメンバー達からどっと笑い声が上がった。

「おいおいアイネよ、俺は野良犬共に蟻の相手を任せっきりにするわけではないぞ。馬車防衛の折を見て、手を出すと言っている。もっとも、それが少し遅れれば、二人共無事では済まんかもしれんが……」

フラングが踊り子の女へとそう返す。

どうやら彼女の名前はアイネというらしい。

「わかった。その話……受けさせてもらう!」

俺は馬車から飛び降り、オレアントの群れへと突撃した。

「エルマさん!?」

ルーチェが慌てて俺の後を追う。

「なんだあいつら……死ぬつもりか?」

フラング達は呆気に取られた様子で、ぽかんと口を開けて俺の方を見ていた。

下げられたらどうするかと考えていたが、前線に立たされる分には全く問題ない。

こんなに都合のいい命令が飛んでくるとは思わなかった。

「アタシ達だけで先陣を切るなんて……だっ、大丈夫ですか!? あの蟻さん達、頑丈で攻撃スキルも強力なんですよね!?」

走りながらルーチェが問い掛けてくる。

「オレアントは動きが遅く、単調……つまり、俺達と相性がいい」

俺の言葉に、俺の言いたいことを察したらしいルーチェがきゅっと口許を結び、不敵な笑み浮かべた。

「じゃあエルマさんに引き付けてもらって、アタシは死角から飛べばいいですか?」

「ああ、それで頼む!」

俺はそう言うと、足を早めてルーチェの前に出た。

俺には〈 マジックワールド(ゲーム時代) 〉の知識とプレイヤースキル、そしてエドヴァン伯爵家の元後継ぎとしての剣術がある。

単調な魔物の相手は一番得意だ。

モーションは覚えているし、対応するための剣技は身体に叩き込まれている。

「ギギギッ!」

オレアントが前脚を持ち上げると、奴の脚先の爪が輝く。

そのまま俺目掛けて、素早く振り下ろしてきた。

オレアントは移動速度こそ遅いが、この〈鉄爪〉のスキルはなかなか速いため侮れない。

身体を逸らして右の爪を避け、左の爪は剣で弾いて〈パリィ〉する。

体勢が傾いたところへ、盾でぶん殴って強引に崩す。

「ルーチェ!」

「わかってますよぉっ!」

オレアントの死角へ回り込んでいたルーチェが、大きく跳び上がってナイフを振り上げた。

オレアントは素早さがない。

攻撃速度は優秀なスキルで補えているが、移動速度も、振り返る速度も遅い。

そして昆虫型であり六つ脚であるため死角が大きく、方向転換の遅さと合わさり、背中を取られた際の隙が大きい。

そして隙の大きい相手には、モーションの大きな強スキルが刺さる。

ルーチェが奴の背にナイフを突き立てた。

「〈竜殺突き〉!」

髑髏の光が広がる。

〈奈落の凶刃〉のクリティカル二倍の効果だ。

オレアントの最大の強みは、その防御力から来る持久性である。

〈自己再生〉のスキルも有しており、なかなか倒し切れない上に、群れる性質を持つ。

そのため気がつけば囲まれ、高火力のスキルであっという間にHPゼロへと追い込まれてしまう。

だが、クリティカル攻撃は、対象の防御力を半分としてダメージ計算が行われる。

つまり防御力が高めな反面、HP最大値が低めのオレアントは、ルーチェの〈竜殺突き〉のカモなのだ。

「ギッ……ギアッ!!」

髑髏の光が広がると同時に、強烈な破裂音が伴う。

オレアントの硬い甲殻が砕け散り、その全身が爆ぜて体液が飛び散った。

甲殻や脚の破片が辺りに散乱する。

【経験値を604取得しました。】

経験値の取得メッセージが表示される。

「ば、馬鹿な! 頑丈なオレアントが、一撃で……な、なんだ今のはァッ!?」

馬車の傍から見ていたフラングが、目を見開いて大声を上げた。

「うう……エルマさん、ごめんなさい。ドロップなし……ハズレでしたあ……」

爆散したオレアントの中心で、ルーチェががっかりした表情で立っていた。

「気にするなルーチェ! こいつらはドロップが渋い! 数はいるからどんどん行くぞ!」

俺は挟み込むように迫ってくる二体のオレアントを睨みながら、ルーチェへとそう叫んだ。