軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十話 悪樓のドロップ

「レベルは上がったか?」

俺はメアベルへとそう尋ねた。

「きっちり二つ上がったけど、う~ん……なんだか申し訳ないんよ」

メアベルが眉尻を垂らして、そう口にする。

「俺にとっても、そうしてもらった方がありがたかったんだ。それに回復役はレイドだとギルドからの手当てが保証されているとはいえ、前の探索のときもしっかりと配分できた気がしていなくてモヤモヤしていたからな。いい機会だった」

「レベルは上げたかったし、そう言ってもらえるのはありがたいけど、ううん……」

「いいんじゃねぇのか。〈嘆きの墓所〉でも、お前だけ大して経験値入ってなかったんだろ?」

ケルトも俺の言葉に同調した。

「あのときも普段の探索の十倍近くは入ってたんよ。回復クラスはどうしてもレベルの上がりが遅いから、そこは別にエルマさんらが気にしなくてもいいのに」

ルーチェがふと気が付いたように、悪樓の亡骸へと駆け寄っていく。

元々ミイラのような外観だった悪樓は、時間経過に従って肉が急速に風化し、ほとんど消えかかっていた。

ルーチェは干乾びた悪樓の肉片を掻き分け、銀色の輝きを放つ腕輪を取り出した。

「あー! 皆さん、装備アイテムがドロップしてましたようっ!」

ルーチェが嬉しそうにそう口にする。

「……なぁ、装備アイテムってそんなぽんぽんドロップするものじゃねぇと思うんだが。〈嘆きの墓所〉でもよく落ちてたけど、そんなによく出てくるものなのか?」

「まぁ、ここぞというときに落ちない方が珍しいくらいには出るか。ルーチェの幸運力は桁外れに高いからな」

「小さい街だとアイツ一人で物価が変わるぞ……」

道化師で初期スキルツリーに〈豪運〉あるケース自体、キャラメイクとリセットをそれなりに繰り返さなければ引けないセットである。

隠しパラメーターの幸運力に至っては、キャラメイクして〈豪運持〉持ちの道化師を引いた上で、ある程度レベルを上げて、幸運力を検証できるスキルを百回近く発動して偏りを調べる必要がある。

ゲーム時代でさえここまで完成された〈ステータス〉を誇る道化師はなかなかお目に掛かれなかった。

ルーチェの掲げる腕輪には、複数の魚と、その中央に人魚のいる浮き彫りがなされていた。

魚の目には小さな水晶玉が埋め込まれている。

俺は腕輪を〈ステータス〉で確認した。

――――――――――――――――――――

〈人魚の腕輪〉《推奨装備Lv:76》

【魔法力:+15】

【市場価値:四千三百万ゴルド】

深海の国の腕輪。人魚の強い魔力を帯びている。

所有者に〈水属性耐性〉と〈麻痺耐性〉を与えてくれる。

――――――――――――――――――――

「おお、なかなかの性能だな」

腕輪は装飾系の装備アイテムに分類される。

〈マジックワールド〉では、装飾に分類される装備アイテムは二つ以上付けることはできない。

装備しても優先度が高い方の性能が反映される。

性能的な反映は武器に比べれば控え目で、特に低レベル向けのものはほとんど効果を実感できないレベルのものが多く、どうせすぐ不要になるからと後回しにされることが多い。

ただ、レベルが上がり難くなってくる七十台後半向けのもので、補正値もそれなりに高く、耐性スキルが二種ついているのはかなり有用だといえる。

特に状態異常・麻痺はかなり凶悪なので、耐性装備は持っていて損はない。

「よ、四千三百万ゴルドだと!?」

同じく確認したケルトが、唖然と口を開けて〈人魚の腕輪〉を見つめていた。

「いや、これは値段より性能の有用さの方に目を向けるべきだ。耐性装備なんて〈魔法袋〉に入れとけばいつか使い時が来るんだし、魔法力に下駄を履いておきたくなる場面だって少なくない。価値のわかる奴なら、もっと高値を付けてくれるだろう。ただ、それでもこの腕輪を売るのは勿体ない……」

「まず値段だろうがよ! お、お前の感覚の方が絶対おかしいからな!? マジでこんな頻度でポコポコ高額ドロップしてるのかよお前ら!」

ケルトが早口でそう言った。

「じゃあこの腕輪は、トドメを刺したメアベルさんのものですね!」

ルーチェがメアベルへと〈人魚の腕輪〉を差し出した。

「え、え、えぇっ!? さすがにまずいんよ!」

「でも、そういう取り決めでしたし……」

「俺も前回、それでもっと高額な装備品をもらっている。別に俺達にとって魔法力の上昇はそこまで美味しくない。メアベルが使った方がいいだろう」

「四千三百万ゴルドの扱いをそんな気軽に決められるの、絶対におかしいんよ!? エルマさんら、絶対に感覚麻痺してるんよ!?」

「……な、なぁ、エルマよ。もう一体、悪樓を探しに行かねぇか?」

ケルトがとんとんと、俺の背を叩く。

「今回のレイドは、一応最速で先回りしておきたいからな」

「別にそう焦らなくても、エルマほど早く最奥部まで来れるような奴はいねぇって。他の奴ら、あと数時間は掛かるだろうよ。な? な?」

ケルトが完全に〈人魚の腕輪〉の価値に心を奪われている。

俺は誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

「とりあえず装備はしておいた方がいいですよ。メアベルさんの魔法力が上がったら、アタシ達も戦いやすくなりますし」

「うう……四千三百万ゴルドに、傷付けそうで怖いんよ……」

ルーチェに説得され、メアベルが恐る恐ると〈人魚の腕輪〉に腕を通していた。

「……と、そうだ、メアベル。〈信仰の杖〉にスキルポイントを割り振っておいてくれ」

俺はメアベルへとそう頼んだ。

忘れない内にやっておいてもらった方がいい。

「わ、わかったんよ」

メアベルが〈ステータス〉を開き、スキルポイントを割り振っていく。

「う~ん、やっぱりこのスキル、そんなに戦況を変えてくれるものには見えないんよ。コスパも悪いし……。ここの〈夢の主〉に使えるん?」

「まぁ、保険の保険ってところだな。俺もまず必要ないとは思っている。ただ、〈信仰の杖〉は専用スキルツリーだし、どう転んでも無駄にはならないからそこは安心してくれ」

「なるほどなんよ……?」

メアベルが首を傾げた。

「……チッ。まぁ、こんな高レベルの〈夢の穴〉で欲を出すべきじゃねぇか。なあ、エルマよ、また今度俺と……!」

ケルトは作り笑いを浮かべてそこまで口にしたところで、唇を噛んで表情を曇らせた。

「どうしたケルト?」

「……足音、一人。こっちに誰か近づいて来てる」

俺も即座に仕舞いかけていた武器を構えた。

俺達はレイドの課題を無視して、ギルドの掴んでいたよりも正確な地図を用いて、ほぼ最短でこの〈夢の主〉の部屋近くまで来たのだ。

多少遅れたとはいえ、この早さでレイドの内容に従ってここまで追い付いてこられたとはとても考え難かった。

「誰が出てきても絶対に心を許すな。隙を見せたら一瞬だ。対人戦は、魔物相手より遥かに簡単に人が死ぬ」

冒険者と魔物には大きなパラメーターの差がある。

それは魔物はレベルが高い個体ほど、HPの上がり幅が大きくなっていく、という点である。

故に魔物戦は、如何に相手の膨大なHPを削っていくかの戦いになる。

対人戦は一瞬だ。

自身の技術とこれまで育ててきたスキルツリーを武器に、一度でも流れを掴んだら相手に抵抗を許さずそのまま殺し切ることが求められる。