軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十九話 幻影の打開策

「アアア……!」

悪樓が俺の死角へと回り込もうと動く。

悪樓は俺が〈影踏み〉で動けない、現在の間合いでの外側を綺麗に泳いでいる。

……このままでは悪樓の攻撃に対応できない。

元々素早さのない重騎士が麻痺まで受けたら、もはやただの的である。

悩めば最悪の事態へ陥る。

俺は考えるより先に、〈影踏み〉の維持を捨てて前に出た。

「アアッ!」

なまじ知恵の回る悪樓だからこそ、俺が〈影踏み〉に徹するから今は安全だと思い込んでいたらしい。

悪樓は一瞬その場で停止した後、後れを取り戻そうとするかのように慌てて飛び掛かってきた。

俺はそこを叩く準備は既にできていた。

「〈シールドバッシュ〉!」

ルーチェ達が立て直す時間を少しでも稼ぐため、皆とは別の座標へ殴り飛ばす。

悪樓は勢いよく地面に身体を打ち付けそうになったが、そのままスムーズに〈土泳魚〉のスキルで地面に潜り、〈シールドバッシュ〉のダメージを回避していた。

「器用な奴め……」

四人掛かりで、こちらがまともに攻撃に出られていない。

せいぜい俺達の与えたダメージは、ルーチェの不完全な〈竜殺突き〉くらいである。

もっとも、ルーチェは元々速さで敵を翻弄する道化師クラスである。

元々の攻撃力自体はかなり低めであり、クリティカルのない単発火力の掠り傷では、ほぼ無傷にも等しいが。

「〈パララヒール〉で麻痺を回復してもらいました!」

ルーチェが俺の横へと立つ。

「アタシが今度こそ、〈竜殺突き〉で消し飛ばしてやります!」

ルーチェがぎゅっとナイフを握る。

「……ただ、〈ドッペルイリュージョン〉が厄介だな」

「だ、大丈夫です! 見極められなかったら、三分の一を引いたらいいんです! アタシ、こういうの得意ですから!」

「三分の一を引くのはルーチェは得意だろうが……幻影かもしれないと迷いながら振るって、クリティカルを出せるものじゃないぞ」

〈竜殺突き〉は、集中して精神を研ぎ澄ました一撃を放つことで、安定してクリティカル攻撃を狙うことのできるスキルである。

幸運力に成功率が依存するところもあるが、そもそもその前に芯で敵を捉える必要がある。

空振れば麻痺攻撃が飛んでくる状況で、雑念のない一撃を放つというのは難しい。

この辺りのレベルになってくると、ルーチェの素の攻撃力ではまともにダメージが入らない。

〈竜殺突き〉なしで悪樓を倒し切るのは困難だ。

メアベルもケルトも攻撃特化のクラスやビルドではないため、彼らに今からアタッカーを熟してもらうことも不可能だ。

いっそ〈ダイススラスト〉で【六】頼みで動いてもらった方がいいかもしれないとも考えたが、さすがに余裕のなくなった今から安定しない戦法へと切り替えるのはリスクが高すぎる。

「もう一度俺が〈影踏み〉で押さえ込んで、そこを叩いてもらうしかないか……」

もっとも、ただでさえ素早い上に、自在に地中へ逃げられる悪樓相手に、それが容易に叶うともあまり思えなかったが。

向こうもこのスキルを警戒しているはずだ。

「そっか……幻影じゃないと、そうわかっていたらいいんね」

メアベルがぐっと杖を構える。

「メアベル、何を……」

「来るぞ、ルーチェの方だ!」

俺が問うより先に、ケルトが叫んだ。

水を飛ばしながら、三体の悪樓が現れる。

姿を現すと同時に〈ドッペルイリュージョン〉を使うことで、どれが本体なのかを見切らせなくする戦法らしい。

派手に飛沫を上げたのもどうやらその一環のようだ。

「三分の一、三分の一……!」

ルーチェが自分に言い聞かせるように、繰り返し呟く。

「〈エリアヒール〉!」

メアベルを中心に、広範囲に光が広がる。

光は俺達を、そして三体の悪樓をも包み込んだ。

だが、悪樓の内二体は、回復の光を透過していた。

「よくやったメアベル!」

「アアッ……!」

思惑の崩れた悪樓が、動きを止めてルーチェから距離を取って逃げようとする。

俺は回り込むように悪樓へ接近し、至近距離から剣の腹で奴の身体をぶん殴った。

「〈当て身斬り〉!」

鈍い音と共に、悪樓の身体が跳ね上げられる。

ルーチェが悪樓へ接近し、深く腰を落とした。

「〈竜殺突き〉!」

「アオオッ!?」

ルーチェの放った一撃が、悪樓の胸部を貫いた。

悪樓の身体が水面へと落ちる。

重傷のはずだが、紙一重で仕留め損なったようだ。

悪樓はそのまま〈土泳魚〉で逃げようとして頭を水中に潜らせたが、突き出した尾をフリフリと左右に振るばかりで、それ以上は進まなかった。

「アア……ア?」

俺は〈影踏み〉で、がっちりと悪樓が逃げられないように押さえていた。

「メアベル、頼む!」

「え……ウ、ウチなんよ?」

メアベルが驚いたように俺を見る。

「ああ、最初に言っていただろう? メアベルに途中でレベルを上げておいてもらうのがいいと」

「で、でも、経験値掠め取るみたいで気が進まないんよ……。【Lv:76】の経験値なんてB級冒険者でも貴重だし、別にウチら固定で組んでいるわけでもないのに……」

そのとき、地中へ潜ろうと必死に尾を振っていた手負いの悪樓が、どうやらスキルで押さえつけられているらしいと悟ったらしく、身を翻して俺へと飛び掛かってきた。

「アオオオオオッ!」

「エルマさん、悪樓が……!」

破れかぶれの強襲。

まともに速度も出ていなかった。

俺とて別に油断していたわけでもない。

俺は盾の角度を整え、〈シールドバッシュ〉でメアベルの方へと悪樓を弾き飛ばした。

「メアベル、パス」

「アアッ!?」

「わっ、わわっ!」

メアベルは咄嗟に、力任せに杖を振った。

ゴスッと鈍い音が響き、悪樓の顔の肉が大きく抉れた。

【経験値を2048取得しました。】

【レベルが74から75へと上がりました。】

【スキルポイントを1取得しました。】

ひっくり返った悪樓が、大の字で地面の上に仰向けになっていた。

「け、結局、最後の一撃もらってしまったんよ」

メアベルが申し訳なさそうに口にした。