軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第68話(閑話:地獄クエスト編その1)

――入団試験が終わった翌日のこと。

真夜中。

妹の真春はすでに就寝しており、天城家はしんと静まり返っていた。

家の中で、テンジは自分の部屋のベッドに腰を掛けながら閻魔の書を眺めている。すでに世間一般では就寝時間なのだが、テンジの服装は今にも運動ができそうなスポーティーなものであった。

近くにはペットボトルに入った水や探索師用のクッキーなんかもバッグに詰められて、無造作に床に置かれている。

「……真春はもう寝たかな? そろそろ始めよう」

昨日の試験は思いのほか体力を消耗していたようで、テンジはお昼過ぎまで泥のように眠ってしまった。そこから起きてすぐに色々な準備を始め、真春が寝た後にこうして行動を起こしている。

もちろんやることなんて一つだろう。

特級天職《獄獣召喚》の詳細な検証と地獄クエストである。

だからこそ、少しくらいの物音なんか誰も気にしない深夜に行動を起こしていた。

「さて、まずは小鬼の数を増やしておこう」

ベッドに座ったまま、テンジは「新しい小鬼の召喚」を頭の中で念じた。

すると閻魔の書がぱらぱらと捲れていき、『召喚可能な地獄獣』のページでぴたりと止まった。

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『召喚可能な地獄獣』

【赤鬼種】:

・小鬼(五等級)

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すでに小鬼(五等級)の文字は銀色で輝いており、本当に新たな小鬼が召喚できるのだと確信する。そして指の腹をその文字列に押し付ける。

そうすると、目の前の床に紫色のゲートが現れ、地面から一体の小鬼が現れた。

「おん」

小鬼はテンジの姿を見るや否や、すぐに片膝をついて忠誠を尽くしたような行動をした。両手は胸の前で交差させている。

テンジは小さな声で「よろしく。君の名前は小鬼3号ね」と語り掛ける。この辺りから名付けにはバラエティを出さないようにした。増えすぎると、あとあとわからなくなる可能性があるからだ。

すぐに小鬼は「おん」と了承した声を出す。

「それじゃあ、他の二体も出そうか」

そうしてテンジは二度、銀色の文字に触れ別の小鬼を召喚する。

すぐにゲートが出現し、そこから新たな小鬼が二体現れる。ここには合計で三体の小鬼が現れた。ちょっと部屋の中が手狭になってしまった。

「おん」

「おんおん」

「君は小鬼4号で、君は小鬼5号ね」

「おん」

「おんおん」

小鬼たちはやはり少しずつ違う特徴を有しており、小鬼3号はどこかイケメンな雰囲気があった。小鬼4号は少しぽけーとしたおっとり雰囲気が強く、いい意味で少し和む。

小鬼5号は、少し強そうだ。というのも他の四体と比べるとほんの少しだが、筋肉がしっかりとついていて身長が高いのだ。

それはそれで召喚の際に個体をイメージしやすいので、テンジにとってはありがたいことであった。

次に念のため小鬼3号、4号、5号のステータスを確認した。

特にこれといった変化はないようで、小鬼くんや小鬼ちゃんと同じようなステータス構成であった。ただ、小鬼5号だけは少し攻撃力が高かったのは面白い発見だろう。

とはいってもどんぐりの背比べであって、さほど変わりないようにも見える。

「それじゃあ、経験値の方もよろしくね」

テンジは三体にそう告げると、すぐに地獄領域へと帰す。

というのも、すでに三体はうずうずと体を動かしており、用がないなら地獄領域に帰してくれという雰囲気をぷんぷんに漂わせていたのだ。

少しくらい会話に付き合ってほしいとも思うテンジだが、それが彼らの習性なのだろうと今では少し割り切っていた。

「さてさて、予想通りにステータスも変わってるかな?」

そうして閻魔の書のステータスページを確認する。

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【名 前】 天城典二

【年 齢】 16

【レベル】 1/100

【経験値】 130/5000

【H P】 1028(1012+16)

【M P】 1016(1000+16)

【攻撃力】 1171(1155+16)

【防御力】 1043(1027+16)

【速 さ】 1024(1008+16)

【知 力】 1043(1027+16)

【幸 運】 1045(1029+16)

【固 有】 小物浮遊(Lv.6/10)

【経験値】 5/45

【天 職】 獄獣召喚(Lv.1/100)

【スキル】 閻魔の書

【経験値】 130/5000

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(召喚前の攻撃力は1096だったよね。ということは……やっぱり僕の推測通りだ。小鬼一体につき25の攻撃力が追加されているな)

今回の場合、新たに三体の小鬼を召喚したので合計で75の攻撃力が追加されていた。

一度、召喚した小鬼を消去して、新たな小鬼を召喚することは可能だ。しかし、同時に追加攻撃力25も消滅する。

そこから「召喚した地獄獣の数」ではなく、「保有している地獄獣の付加値」に応じたステータスが反映されるのだと改めてわかった。いや、もうテンジの中ではそれは確証に変わっていた。

「にしても……やっぱり凄いステータス値だなぁ。いきなり1000近くも増えるなんて」

たった一日で、テンジは三級探索師にも劣らない身体能力を手に入れていた。

その事実にいまだに心の整理は追いついておらず、体の感覚も追いついてはいなかった。

何度か全身に力を入れ、力を抜き、力を入れてを一日中繰り返してはいたのだが、それでもやっぱり今までの十六年間で培ってきた自分の感覚とはずれている箇所がいくつもあって、使いこなせているとは言えないだろう。

それでも思っていたよりも制御はできている。ニードルマウスの群れと戦ったときはアドレナリンも出ていて大雑把な戦闘になっていた。だからこそ、落ち着いてわかることもある。

ほんの僅かな微調整が難しい。

今のテンジは自分の力についてそんな考えを持っていた。細かな、というのは割り箸を持つときに力を入れるとバキッと折ってしまったり、歩くスピードがちょっと速くなったりとか、そんな感じである。

「ポイントは正常に減っているのかな?」

テンジは次にポイントの減り具合を確認する。

――――――――――――――――

【魔鉱石変換】

ポイント: 323

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「あっ、やっぱり変わっているな。推測通りだ」

ポイントは正常に小鬼一体につき5ポイントが減っており、三体で合計15ポイントが引かれていた。

ここでも推測が確証へと変わっていた。

他にも地獄領域の赤鬼種が5/5へと変化しており、小鬼一体で分子1が増えることが明確になった。

たった1レベルが変わっただけだが、それでも推測から確証へと変わった項目は思いのほか多かった。

それに何といっても、ステータスの上昇だろう。今後はこの体に慣れていかなくてはならないと気を引き締め、今後のトレーニングを考え直すテンジであった。

そうして、ゆっくりと閻魔の書をあのページへと捲っていく。

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【実行可能な地獄クエスト】

クエスト名:

『赤鬼からの挑戦状~Level.1~』

《達成条件その1》

・スクワット5000回

《達成条件その2》

・シャドーボクシング10時間

《クリア報酬》

・五等級武器「赤鬼ノ短剣」

・五等級装備品「赤鬼バングル」

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そのページを見て、テンジは立ち上がった。

隣に置いてあったバッグを背負い、体に不調がないかを軽くストレッチしながら確認し、「よし」と言って気合いを入れ直した。

夜は深く、真春はすでに夢の中だ。

耳を澄ませば隣の部屋からは真春の寝息が微かに聞こえ、カチカチと時計の指針が回る音が部屋の中に木霊している。

初めて経験した地獄クエストは今でも忘れられないほどには、鮮明に覚えていた。

焦り、恐怖、不思議、辛さ、脱力感、死……あのたった六時間半の出来事で、テンジは多くの感情を芽生えさせた。

今回の地獄クエストは、前よりも条件が二つ少なく、運動項目の二個だけがある。

それでも、そこから得られるであろう報酬が欲しくて、テンジはいち早くこのクエストに挑戦したかった。

「――始めようか、二度目の地獄クエストを」

そっと、テンジは銀色に輝く『赤鬼からの挑戦状~Level.1~』の文字列に触れた。