軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第51話

「――ッ!」

再び、錆びた騎士が大剣を構えながら地面を強く蹴り上げた。

今度は直線的な軌道ではなく、言葉通り上へと跳躍して、上段から水江を攻撃しようとしてくる。

水江はふっと後ろへ半歩下がる。

「――ッ!」

錆びた騎士にはそれが逃げの一手だと思ったようで、してやったような声を上げた。

しかし、水江はすぐにその場で自分も跳躍した。

「福山さん!」

「『羅生門・子壁』ッ」

跳躍と同時に福山の名前を呼ぶと、大剣と水江の軌道上を遮るように羅生門の防御壁が出現した。

水江は利き手ではない左手に連撃剣を握り変え、錆びた騎士の片足を右手で掴んだ。

そのままブランコでも乗っているかのように、ぐるんと振り子で錆びた騎士の背後へと入り込み、両足の関節を一気に叩き斬ろうと剣を横に振りかぶった。

「おらぁ!」

洗練された水江の連撃剣は見事に錆びた騎士の膝関節を裏側から叩き斬り、ボスはがくりと力を失くしたのであった。

水江は横切りした勢いで近くの地面に態勢を崩しながらも着地する。

ガシャァァァン、とものすごい音を立てて錆びた騎士が着地するが、足が斬られたためにその場に転倒した。

「やあっ!」

そこに立華が接近し、左肘の関節部分に槍を突き刺し振り抜いた。

黒い血がびしゃりと飛び散ると、四肢が斬られた錆びた騎士はその場にがしゃりと力なく倒れ伏せた。

二人の連携で、錆びた騎士の四肢はすべて断ち切られた。

「これで最後だ!」

水江が着地から一分一秒も惜しいとすぐに立ち上がり、錆びた騎士の元へと走り寄ってきていた。

目の前で力なく倒れ伏せている錆びた騎士を熱い眼で見下ろし、連撃剣を構えた。

そして切っ先を下に落とすように、兜と首元の間の隙間に連撃剣を突き刺したのであった。

「――ッ!?」

その瞬間、錆びた騎士の声にもならない鳴き声がボスエリアに木霊した。

未知の力で接着されていた錆びた銀色のフルプレートが、がしゃりとばらばらに分解され、その隙間から黒くてどろりとした血のような何かがが全身から流れ出てくる。

ボスエリアにはほんの少しの静寂が訪れた。

それから間もなく、ボスの死体が端から分解され始めたのであった。

小さくて、1センチもない大きさの黒い十字架がちりちりと舞い上がっていき、ダンジョンの天井に吸い込まれていく。

「よしっ!」

「やりましたね!」

水江と立華ははじめてボスを倒した喜びをひしひしと感じていた。

戦闘で掻いた汗を飛び散らせながら、男女という違いを気にすることなく全力で喜びながらハイタッチをしていたのだ。

そんな二人の元に福山と草津が近づいてくる。

「お疲れ様。いや~、思ったよりもあっさり倒しちゃったね。とりあえず初ボス討伐、おめでとう、二人とも。超強い盾役がいたにしても、十分すぎる結果だね」

「本当にすごいよ! 二人とも」

草津は痛そうに脇腹を押さえながらも、二人に笑顔を振りまいた。

その様子を見て、水江と立華は慌てて草津の元へと駆け寄っていき、すぐに地面に座るように肩を貸す。

「おい、大丈夫か? 脇腹の骨か?」

「うん、たぶんひびが入っちゃったと思う。ごめんね?」

「いや、俺の指示ミスだ。ボスの力量を誤った俺に責任がある。最初から福山さんに頼っていれば、こんなことにはならなかったはずだ」

草津が申し訳なさそうに謝ったところで、水江が被せるように頭を下げた。

確かに指示ミスはあったかもしれないが、初見のボスで脇腹のひびだけで倒せたことは、十分に誇っていいことだろう。

それほど、今回のボス討伐は世間一般的に見ても凄いことなのである。

ネガティブになりかけた空気を切り裂くように、パンパンッと乾いた音を響かせた。

「はいはい、謝るのはそこまで。とりあえず草津くんはすぐに『転移クリスタル』を使って、チャリオットの本営に戻るように。そこで治療を受けてね」

「あっ、え……でも…………」

「駄々を捏ねてもだめだよ? その怪我はすぐに治療をしなきゃ、色々とダメなやつだ」

「ぼ……僕はまだやれます!」

福山のその言葉は実質の「不合格」宣言だ。

この試験の合格はあくまでサブダンジョンの攻略。

ここで帰還させられるということは、草津は不合格ということになる可能性が高かった。

その言葉を聞いた水江と立華は、どうすればいいのかわからないという表情をして福山の次の言葉を待っていた。

「いや、まだ不合格と決まったわけじゃないからね。一先ずは本営に戻って治療を受けてきなさい。これは要請じゃなくて、俺からの命令だからね? それともリーダーの命令を聞けないのかい?」

パーティーやレイドにとって、リーダーは絶対である。

五道のように、その指示に従うことが探索師にとっての当たり前なのだ。

「わ、わかりました……」

探索師としての振舞い方を問われた草津は、悔しそうに下唇を噛みしめながらも、仕方なく首を縦に振った。

その表情はやりきった一面と、ゴールまで届かなかった不甲斐なさを併せ持った、なんとも言い表せない二面を持っているように見えた。

そこで水江が福山へと聞き返した。

「草津はまだ不合格ではないんですか?」

「そうだね、まだ決まってないよ。あくまで合否はチームの誰かが攻略すれば……っと、これ以上は言えないな。いや~、俺ってよくしゃべりすぎだって叱られるんだよね。怒られちゃう、怒られちゃう」

誤魔化すように笑い始めた福山であったが、参加者たちにはその言葉は確かに希望の言葉であった。

――合否はチームの誰かが攻略すれば。

それが意味すること。

ここにいる一人でもゴールできれば、チーム全員に合格の可能性が残るということだ。

その事実に気が付いた水江と立華は、思ったよりも晴れた表情で草津と視線を合わせるように屈み、あえて笑った。

「あとは俺たちに任せてくれ。ここまで本当に草津の盾には助かった、お前がいなければここまで来ることはなかったと思っている。また、地上で会おう」

「そうですよ! 私はもう草津さんを他人として見られません! 一緒に最終試験に行くんです!」

「……うん、ありがとう。それじゃあ、僕は邪魔にならないうちに戻るよ」

草津は少しだけ嬉しそうな顔に変わった。

そして、福山から貰った『転移クリスタル』を手に持ち、「転移」と小さく呟く。

瞬時に体が青白く発光し始めた。シュインッと小さな音が鳴ると、草津の姿はすでにこの場から消えていた。

転移クリスタルは非常に高価な代物だ。

事前に設定した場所に瞬時に移動できるアイテムであり、上級探索師は常に持ち歩いているようなものである。

ただし、これが使えるのは地上かサブダンジョンの中だけであった。

メインダンジョンでは何かの力に阻害されているのか、指定された場所に転移することはできず、これを使ったところでダンジョンのどこかへとランダム転移させられてしまう結果となる。

今、草津が使ったのは四等級の転移クリスタルであり、最大転移距離が三キロ以内と決まっているアイテムである。値段で言えば、一つ50万円ほどだ。

おそらく転移場所は、入り口のあのテントに設定されているのだろう。

「さて……って、あぁ、草津くんのアイアンソードを返すの忘れてたなぁ。まぁ、あとで返せばいいか! ってことで、第26グループのみんな! ここまでお疲れ様!」

福山は、草津がいなくなると陽気な声でそう言い放った。

「ここまで?」

その言い方に、水江は少し引っかかっていた。

あえて「ここまで」という言葉は使わなくとも、「お疲れ」とだけ言えばいいのだが、福山は「ここまで」という言葉を妙に強調してように聞こえたのだ。

不意に、福山のイケメンスマイルが不気味に見えてくる。

「うん、もう少し進めばこのサブダンジョンも終わりだよ。この先50メートルくらいかな? そこにサブダンジョンの出口となるエンドゲートがあるんだ。ということで、疲れてると思うけどもう少しだ! 頑張ろう!」

立華は「もう終わり」という言葉を拾い上げ、心の底から嬉しく思っていた。

立華は草津が帰還させられたことで、このサブダンジョンはまだまだ続く可能性があると考えていた。

サブダンジョンの基本構造は、第一ボスエリアから多くても第四ボスエリアまでが存在すると言われている。だから、多くてもあと二回のボス戦があると予想していたのだ。

しかし、福山はもう少しでゴールだと言った。

つまり今のボスエリアがこのサブダンジョン最後のボスエリアだったということになる。

「――行きましょう! 水江くん! もう少しです」

「そうだな、行こうか」

水江の返事は、どこか自信のない返事であった。

陽気で少し天然な立華に腕を引っ張られるまま、第二ボスエリアにいつのまにか出現した出口へと向かう。

ボスエリアの出口は戦闘終了と同時に出現する。

入り口とは別の扉が気が付いたときには現れているのだ。そこを潜れば先のダンジョンに進める具合になっている。

気が付いたとき、というのは今まで誰もボス部屋の出口が出現した光景を見たことがなかったからである。

研究者たちはこれを「意図的に感知できないようになっている」と表現していたりする。

そうして彼らはボス部屋の出口を潜り抜ける。

五十メートルほど歩いた先に、地上へと繋がるエンドゲートを見つけた。

サブダンジョンは通常、ダンジョンの一番奥にあるエンドゲートを開き、誰か一人でもそこを通過することでサブダンジョンの崩壊期が始まる。

そこから約一週間かけてサブダンジョンゲートが徐々に狭まっていき、最終的にはぷつんと何かに握りつぶされるように消滅するのだ。

攻略後はその一週間という猶予期間を使って、魔鉱石の回収とモンスターの死骸から採れる素材の回収をギルド主導で行うのが通例だ。

「あれがエンドゲートですね。写真では何度か見たことありますが、やっぱり実際に見るとでは感じる雰囲気というか……おどろおどろしい怖さがありますね」

立華が視界の先で捉えた漆黒のゲートを見て、思わず感想を漏らしていた。

サブダンジョンの入り口ゲートは何等級だろうと「白」である。

そして出口は何等級だろうと「黒」と決まっているのだ。

逆に、メインダンジョンの入り口は「黒」で、出口は「白」であると聞いている。

これには意味があると研究者たちは推測しているが、未だに理由は判明していない。

「俺はさすがに見慣れたけど、最初はそう見えるよね。でも、慣れてくると『黒』のゲートは安心感を与えるようになってくるよ」

「安心感ですか?」

「そうそう。黒のゲートは探索の終了を告げるイメージなんだよね。サブダンジョンは出口がこの色だし、メインダンジョンは大体黒ゲートから入って黒ゲートから出るでしょ? 帰りには毎回この黒ゲートを通るから、俺には終わったって感じがするんだよね」

「なるほど、それは知りませんでした」

水江が福山の言葉に納得し、その黒いエンドゲートへと視線を向ける。

テンジも久しぶりに見たエンドゲートを見つめながら、「はぁ、ようやく終わったぁ」と心の底からしみじみするのであった。

(やっぱり……小鬼を検証する隙はなかったな。終始、隣には福山さんがいたし、なんだかんだ水江くんがほとんどやっつけちゃったしなぁ。収穫がないのは痛かったけど、いい経験にはなったな)

こうして、第26グループはエンドゲートの前に到着した。