作品タイトル不明
第50話
第26グループの面々はあれから三度の戦闘を経由し、ようやく第二ボスエリアの目の前へと辿り着いていた。
テンジの視線の先には薄紫色の巨大なアーチ状な両扉がある。
第一ボスエリア同様に複数の様々な図形を組み合わせた奇怪な文様が扉には刻まれており、どこか異様な雰囲気すら感じる。ここには一つの玉宝が埋め込まれていた。
そこで福山が全員の足を止めるように言葉を紡ぎ始めた。
「さて、今回は俺を含めた全員でボス戦を行うよ」
「福山さんも一緒に、ということでしょうか?」
「そうそう、このまま俺は水江くんの指示下に入るから、一人のパーティーメンバーとして活用してくれ。もちろんスキルや武器も使う所存だよ」
「わかりました……テンジはどうする?」
水江がテンジへと視線を向ける。
テンジは慌てる様子もなく平然と答えた。
「最初は様子を見てるよ。水江くんから指示があれば、僕も参加するという方向でいいかな?」
「わかった」
あくまで消極的な姿勢を貫く不気味なテンジを見て、水江は怪訝な視線を向けた。
一体、この青年は何を考えてこの試験に参加しているのだろうか。
何を目的にこの場に立っているのかだろうか。
水江にはこの理由に全く見当がついていなかった。
正直に言うと、テンジはパーティーの邪魔をするわけでもなく、むしろ稀に後方から指示を飛ばしてくれるので、彼らにとっては助かっている節さえあった。
だが、その理由がまるでわからないのだ。
ここに参加している者は誰だって、チャリオットに入団したいがためにこの場に勇気をもって立っている。しかし、テンジだけはそんな感じではなかったのだ。
もしかしたらチャリオット側からの意図があるのかもしれない、と考えた水江であったが、戦闘中に福山と会話していた内容から、テンジはあくまで自分たちと同じ参加者なんだと知った。
だからこそ、天城典二という存在をさらに不気味な存在へと昇華させていた。
(不気味な男だな……いつもへらへら笑ってるし、何を考えているのかまるでわからない。まぁ、今はこいつのことはいいか。目の前のボスに集中しよう)
水江は不要な考えを振り切るようにテンジから目線を逸らし、他の二人と福山へと視線を向ける。そこには準備万端だと物語る凛々しい顔があり、水江は少しホッとした。
自分と同じ志を持つ奴らも、ここにはいるんだと。
「よし、やってやろう」
水江がボス部屋の扉にある手形のくぼみに片手を置いた。
ギギギギッと金属が錆びたような音がダンジョン内に響き渡ると、扉がひとりでに押し開いていく。半分ほど扉が開いたところで、ボス部屋の全容がわかった。
「円形舞台、青と金の装飾、古びた玉座、ボロボロな神殿オーダー……さきほどとあまり変わらないですね」
「そうらしいな。さあ、勝つぞ」
「うん」
「はい」
彼らはゆっくりとボス部屋の中へと入っていく。
部屋に入ってもすぐに何かが起こるわけではなく、このサブダンジョンのボス部屋では、エリアの中央にある直径10mほどの四角型魔法陣が刻まれた床に足を踏み入れると、魔法陣が反応し、玉座の上にボスが形成されていく仕組みらしい。
そうして水江が床の魔法陣に足を踏み入れて、すぐのことだった。
「みんな来るぞ」
水江は黒くて小さな十字架がちろちろと玉座に集まり始めたのを確認して、重心を少し落とした。その手には刃こぼれ一つしていない業物の連撃剣が握られており、洗練された剣型の構えをする。
ちろちろと集まった十字架は徐々に形を整えていき、二メートルほどの人形を作りあげた。
錆びた銀色のプレートアーマーだった。
中身は空洞なのかわからないが、黒い闇に包まれているようではっきりとは確認できない。
両手で持つのは身長大ほどもある大剣であり、西洋の騎士を思わせる風貌をしたボスが彼らの前に出現した。
そこで、三人のすぐ後ろで仁王立ちしていた福山が、いつも通りな気楽な声でみんなへと語り始めた。
「今回のボスは通称『 錆びた騎士(ロステッド・ナイト) 』、大剣を型にそって振り回すボスだ。グフゥほどの巨体ではなく、強烈な振り回し攻撃さえガードできればそれほど強い敵ではないよ。今回は俺と草津くん、盾役二人をどう扱うかが課題になる。さぁ、始めるよ!」
「「「はい!」」」
福山がそう言葉を投げかけると、三人はすぐに最適な陣形へと隊列を組み直した。
いつもは水江が一番前に出て、その後ろで草津と立華が控える隊列を取っていた。しかし、今回は福山のアドバイス通りに、草津を前衛へと押し出し、その両斜め後ろに水江と立華が武器を構えて待ち伏せる隊列を組んだ。
「福山さんはその場で待機をお願いします! まずは草津がどれだけ耐えられるかを確認します」
「わかったよ」
水江がすぐに福山へも指示を出した。
しかし、その指示は待機であり、まずは自分たちでどれだけ戦えるのか見定めたい様子だ。
「――ッ!」
錆びた騎士が地面を強く蹴りだし、大剣を横に構えながら迫ってきた。
はじめてのボス、草津は少しばかり体が強張っていた。
いつもは前に出て逆にタックルを返すほどには強気な姿勢を取っていたのだが、この時ばかりは、その場でどしっと構えるだけであった。
草津が手に持っているのはバックラーだ。
ただ待ち構えるだけの受け技には、あまり向いていない。
そのことに気が付きながらも、福山は押し黙ったまま次の光景をジッと見続けた。
大剣が空気をブゥンと裂きながら横なぎに振り回された。
「――うっ!?」
草津のバックラーに、大剣が轟音を響かせながら激突した。
「草津!」
「草津さん!」
草津は錆びた騎士の力強さと大剣の重さに力負けをした。
なんとかバックラーで防御することはできたのだが、相手の馬鹿力に体を軽々と持ち上げられ、遠くの地面へと吹き飛ばされてしまったのだ。
それでも日本の世代別代表に選ばれるだけスポーツマンというべきか。
ごろごろと何度か地面をボールのように転がったものの、自慢の運動神経で咄嗟に受け身を取り、なんとか耐えるのであった。
「大丈夫か!?」
「うん、僕は大丈夫!」
草津は水江の言葉に即答した。
そのまま次の攻撃に備えるため、立ち上がろうとする。
「うっ!?」
その瞬間、あばらに強い痛みが走った。
悲痛の叫びを聞いた水江はすぐに草津が戦えないことを悟り、福山へと指示を出す。
「福山さん、すいませんがお願いします! 大剣の防御を任せていいですか?」
「うん、俺に任せなさい」
水江の指示と同時に、錆びた騎士が再び大剣を真横に構える。そしてガシャガシャと金属音を鳴らしながら駆け出した。
次に狙われたのは、大きな声で指示を出していた水江勝成だった。
突然、ボスから標的にされたことで首筋に冷汗を流す。
それでも水江は福山という最強のカードを信じて、臆することなく錆びた騎士へと向かって走り始めた。
その様子を近くで見ていた立華も、水江には遅れまいと慌てて駆け出す。
「いいね~」
福山はその勇敢な行動を見て、思わず賞賛の声を漏らしていた。
「――ッ!」
再び、錆びた騎士が間合いを測りながら、最適のタイミングで大剣をブゥンと振り回した。
すぐ目の前まで迫ってくる大剣が怖いと思う水江であったが、絶対に目を瞑ってやるものかと意地でなんとか心を持ち直す。
そして錆びた騎士の兜目掛けて、連撃剣を上段に構えた。
その時だった。
「『羅生門・子壁』ッ」
福山がスキルを発動した。
水江と大剣の間に一辺一メートルほどの小さな羅生門を出現させ、壁を築いたのだ。
先ほどは巨躯の草津を吹き飛ばした威力を持つ大剣が、ガキンッと甲高い音と火花を散らし、いとも簡単に受け止められることになった。
「いい判断だ、水江くん! 今は俺を信じて攻撃に専念しろ! 攻撃役は敵にダメージを与えて初めて攻撃役となる! 仲間を信じて挑む者が、攻撃役になる資格を持つんだ!」
「はい!」
その間にも水江は錆びた騎士に切迫していた。
ボスの目の前で急停止し、その場で力の限りの跳躍を見せた。それと同時に上段から連撃剣を振り下ろす。
「おらぁ!」
「――ッ!」
錆びた騎士は、慌ててもう片方の手で連撃剣を受け止めようとする。
しかし、水江が手首に華麗なスナップを利かせてその片手間な防御をするりと潜り抜けた。
連撃剣が錆びた剣士の兜に直撃した。
ガキンッという火花と共に、連撃剣の特殊効果「二連撃」が発動する。
連撃剣。
一度の攻撃で、二倍のダメージを与える効果を持つ四等級武器である。
水江は力の限りの二倍の攻撃力を、錆びた騎士の兜に直撃させた。
しかし――。
「なっ!? 固い!?」
兜は小さく凹んだ程度で留まり、決め手になる一撃とはならなかったのだ。
連撃剣は高威力な剣であることが知られ、例え鎧型のモンスターでも内部へとダメージを与えられることで有名だった。いわゆる貫通攻撃という特性を持つのだ。
ただ、それは通常のモンスターに限定された効果であり、ボスモンスターに限っては貫通攻撃は通用しない。
「やあっ!」
そこで隙を狙っていた立華が、シードランスを勢いよく突き出し、錆びた騎士の関節部分を狙った。
切っ先は吸い込まれるように右手の肘関節に入り込み、立華はぐさりと何かに突き刺さる感触を感じた。
「ていやぁっ!」
そのまま槍を横へと振り払い、中の肉を断ち切る。
すると、黒い血のような液体がプレートアーマーの中からびちゃりと飛び散り、傍から見てもダメージを与えられたことが分かったのであった。
ふらりと、錆びた騎士は後ろへとたたらを踏んだ。
すぐに水江と立華はその場を離脱し、錆びた騎士との間合いを確保する。
「水江さん、関節部分です!」
「あぁ、そうみたいだな。さすがは立華だ、いい観察眼をしている」
右肘の関節を断ち切られた錆びた騎士は、右手をだらりと力なく垂らし、左手で大剣を持ち直した。
その様子を見て、二人は同時に同じ推察をしていた。
「立華、本当にナイスだ。関節をすべて攻撃できれば、勝機は見えそうだぞ」
「そうみたいですね、やってやりましょう! 草津さんの弔いも込めて!」
「……いや、僕はまだ死んでないから」
立華が突然の天然発言をしたことにより、離れた壁際で戦闘の邪魔にならないように避難していた草津は、つい突っ込んでしまった。
その様子を後ろから見ていて、福山は「ぶっ」と吹きながら笑うのであった。
隣にいた真面目な水江でさえ、思わずくすりと笑う。
「あー! すいません! 弔いは止めです!」
恥ずかしそうに立華は顔を赤面させ、再び錆びた騎士へと視線を向けた。
そこで福山が再びアドバイスをするべく、口を開いた。
「本当にいいね! 正解だよ! 錆びた騎士はその特性上、関節部をすべて断ち切ってしまえば動かなくなるし、死んだ判定となる。ただし、最後に首を断ち切らないと意味がない。その調子で頑張るといい!」
「「はい!」」
二人が元気に返事をしたところで、片手を失った錆びた騎士が再び地面を強く蹴り上げた。