作品タイトル不明
第44話
「あの……もう一ついいですか?」
「いいよいいよ~、加恋ちゃんの質問ならなんでも答えてあげる」
立華の細い声に、福山は食い気味な爽やかスマイルで答える。
その様子を、草津と水江はあまりよく思っていないらしく、少しばかりイラついたような表情をしていた。
「個室型ダンジョンってのはなんでしょうか?」
「あ~、さすがに一般人じゃ知らないか。個室型ダンジョンってのは探索師間でのスラングみたいなものなんだよね。ゲームで言うところのサーバーが違うとか、鯖が違うとか、そういう感じなんだけどわかるかな?」
福山の説明に立華は「はい、わかります」と即答した。
個室型ダンジョンとは、一つのサブダンジョンゲートから複数のサブダンジョンへと入場できるダンジョンの分類方法の一つである。
今回の場合は、目の前にあるダンジョンゲートからそれぞれのグループに対し、一つのサブダンジョンがあてがわれることになるだろうとテンジは予測する。
たった一つのサブダンジョン権利を買収することで、複数のサブダンジョンを得らえるようなことである。
その中でも、一つのチームで1ルートの攻略を目指すのだ。
「他に質問はあるかな? ……うん、なさそうだね。それじゃあ行こうか」
福山は参加者たちに意思確認を済ませると、すぐにゲートの方へと体の向きを変え、近くに立てかけられていた小さなバックラーを手に持った。
その様子を見て、参加者たちも気合を入れ直し彼の後を追った。
そんな時、福山はゆっくりと振り返った。
その瞳はさきほどまでのちゃらちゃらした様子はまったくなく、探索師としての真剣な表情をしているように見えた。
「入ってすぐにモンスターに襲われるようなことはほとんどないけど、念のために俺から入るから。適度の間を空けて入ってきてね。それじゃあ、ゲートの向こう側で」
福山はプロ探索師としての顔を垣間見せ、堂々とした面持ちでサブダンジョンの白いゲートを潜っていった。
テンジたち四人はその後姿をジッと見つめてその時を待つ。
「入っていいぞ」
そこで五道が先を促すように、ゲートの前で立ち止まていた参加者たちに声を掛ける。
慌てた様子で立華が槍を握り締め続き、草津がテンジと同じアイアンソードを握り締めて入っていく。
次に、同じく剣を持った水江が入っていった。
「あぁ、そうだ。五道さん」
「ん? どうした?」
テンジはゲートに入ろうとした足を止めて、近くにいた五道へと振り返った。
そうして身に着けている剣とインナースーツを見せるような仕草をする。
「五道さんのおかげで剣とスーツを買い揃えることができました。これで僕もようやく探索師としての道を真っ当に歩めそうです。本当にありがとうございます」
「気にすんな。言葉の感謝よりも、結果で俺に見せてくれ」
「はい!」
五道は少し照れ臭そうに笑いながらも、結果で示せとテンジを鼓舞するのであった。
今更だけど、直接感謝を言えて心が軽くなったテンジは、他の参加者たちとはまるで違う軽い足取りでゲートを潜っていくのであった。
† † †
ゲートを潜ると、そこには古びた神殿のような柱が添えられた一本道のサブダンジョンが広がっていた。
足元には石畳が敷かれてはいるが、所々が裏返ったり割れたりしており、立ち回りを間違えれば足を取られてしまいそうな場所が続いている。
道の幅は10mほどはあるようで、五人のパーティーであれば十分に立ち回れる広さがあった。
天上もかなり高く10m以上はありそうだ。地面と天上の中間地点には松明のような灯りがぽつぽつと設置されており、来るもの拒まずというダンジョン特有の雰囲気を感じる。
三人の参加者たちは初めて自分の目でダンジョンの内部を見たのか、傍から見ても緊張を隠せていないようであった。
その中でも一人、テンジだけは慣れた様子で周囲の戦場を細かく確認していた。
「よし、全員揃ったようだね。ここから50mも歩けば、すぐにモンスターたちと出くわすことになる。まぁ、みんなそれぞれの武器を持っているから、試験だということを意識して俺に地力を見せてほしい」
福山が改めて参加者たちの服装や装備を確認しながら言った。
立華加恋、19歳の大学二年生である。
服装は多少お洒落に気を使いつつ、運動のしやすい私服を着用している。中にはインナースーツも来ており、テンジと同じく四等級の青色を着用しているようだ。
背丈は150後半くらいなのだが、身長と同じくらいの長さを持つ無骨な四等級の槍武器『シードランス』を所持している。
草津郷太、22歳の大学四年生である。
高校では普通の一般分野を学ぶ学生であったが、大学ではダンジョンに関する研究を選択したことで、今回のチャリオット入団試験に参加することとなった。
累や朝霧のように本気で受けているわけではなく、どちらかというと記念受験のような気持ちで参加している。
ただ、中学からラグビーをしていてことで体格が非常に優れている。チャリオットが欲しがりそうな巨躯の盾役に非常に向いていると判断されていたのだろう。
その手には貯金をはたいて買ったであろう五等級武器『アイアンソード』が握られており、私服の中にはインナースーツは無いように見える。
服装はラグビーユニフォームなのか、かなりスポーツマンという感じが漂っていた。
水江勝成、17歳の高校三年生である。
日本探索師高校の受験に落ちた経験があり、ひと際テンジのような日本探索師高校の生徒を嫌う節があった。
両親は探索師ではないが、運動能力が非常に優れているため探索師を目指している。
服装からも本気度が垣間見えており、私服の中には三等級の緑色のインナースーツを着用していた。
所持している剣も四等級の『連撃剣』であり、このグループの中では最も威力の高い剣を持っていた。
時折、テンジを睨む仕草をするのは、単なる敵対視線である。
そして、福山はテンジの格好を見た。
「君は確か……天城典二くんかな?」
「は、はい、天城です! 今日はよろしくお願いします!」
「うん、よろしくね」
テンジの服装は日本探索師高校の黒地に灰色ラインの入った制服、その中には四等級の青いインナースーツを着ていた。
手には五等級武器の中でも、最も平凡な『アイアンソード』が握られており、日本探索師高校の生徒にしてはどこか貧相な装備であったのだ。
しかし、福山はテンジが五道と親しく会話していたことと、葬儀などで見た顔だなぁ、とここでようやく思い出す。
「あぁ、君! 財布喰らいの片割れじゃないか! あはははっ、思い出したよ! 五道さんの財布をすっからかんにさせた子だ!」
「えぇ!? 財布喰らいってなんですか!?」
「五道さんの財布をすっからかんにしたから、君はうちではそう呼ばれてるんだよ。あははは、そうか君だったのか! どこかで見た顔だなぁとは思ってたんだけど、ようやく思い出したよ。そっか、君が荷物持ちの……」
福山はあの事件に緘口令が敷かれていたことを思い出し、すぐにそこで言葉を止めた。
それでもテンジには理解できたので、無言で頷き肯定しておいた。
テンジは半年前から荷物持ちのアルバイトを始めていたが、一度もチャリオットのAチームとは組んだことはなかった。
大体組むとしてもBチームの人たちが多かったのだ。
チャリオットにはチーム制度が存在する。
ギルドの在籍人数は56名であり、一級探索師が9名、二級探索師が25名、三級探索師が22名という内訳だ。
一級探索師たちは単独での仕事をこなせるためにチームには組み込まれていない。
二級探索師たちは『Aチーム』として定期的に仕事をこなしている。三級探索師たちは『Bチーム』として仕事をこなす。
ただし、これはあくまで基本的なチームであり、仕事の内容によってはAチームやBチーム、一級探索師関係なくレイドを結成することもある。
その中でもテンジは五道率いるBチームに参加したことしかないため、目の前の福山とも面識はあまりなかったのである。
「あ、あの……福山さんは彼と知り合いなんですか?」
そこで立華がおそるおそる質問をした。
「知り合いって言うかなんというか……なんだろうね?」
「僕はよく五道さん率いるBチームの方々と一緒にレイドを組ませてもらっていただけですよ。ただ、補助探索師としてではなく、荷物持ちとしての参加でしたが」
「そうそう、テンジ君はそんな感じの子だよ! あ~、でも、俺自身は今日が初絡みだから贔屓目なんかでは見ないよ。というか面識がないから俺が試験官を任されたんじゃないかな?」
あははは、と福山は笑って言った。
本来であれば少し落ち込むべきなのだろうが、合格したくないテンジにとっては少しありがたい言葉だった。
しかし、そんなテンジの存在を良く思わない人が一人いた。
「ちっ」
かなり控えめな舌打ちではあったが、水江がテンジに舌打ちをしたのを聞き逃さなかった。
福山はもちろん聞こえていたのだが、彼はあえて聞こえない素振りをした。
「さぁ、ここで長話もあれだから先に進もうか。俺は後ろで君たちの審査をするから、四人でできるところまで頑張ってね」
福山はそう言うと、参加者たちの肩を強く押し出し、自分は一番後ろへと陣取った。
背中を押された立華、草津、水江の三人は咄嗟に武器を構えて、一本道の先へと鋭い視線を向ける。
「テンジ君は構えないのかい?」
「はい、まだ早いです」
「そうか……」
さすがは何度もダンジョンを経験している日本探索師高校の生徒だな、と福山は内心で言葉を加えるのであった。