軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第228話

そこでテンジは言葉を詰まらせた。

たとえ事実がどうであれ自分がお世話になったチャリオットの入団を辞退したなんて話はどう考えても他人に言いふらすような内容ではないことに気がついたのだ。

心の中でギルドへ謝ってから、テンジはみんなへと顔を向ける。

「――いや、これ以上は話したくないな。ごめんね」

少しだけ申し訳なさそうにするテンジの表情を見て、皆はそれ以上追及してこなかった。

聞きたい気持ちはあるのだろう。だけれど彼らはそこをわきまえてくれていた。

(みんなありがとう……やっぱり日本人の僕にはここが一番暮らしやすい場所だ)

それからも彼らは他愛もない会話を続けた。

どこのギルドが大規模な探索を予定しているだとか、どこどこの探索師がギルドを移籍するだとか、あそこの訓練動画がどうだったとか――そんな学生らしい会話。

あそこのギルドではこんな訓練を経験したとか、あそこのダンジョンのモンスターの弱点はあそこだとか――実践的な情報のやりとりもした。

ここにいた四人全員、みんな本当に探索師が好きなのだと知れた。

やっぱり好きなことを好きなだけ語れる友達は大事で、それを語り合える時間ってのも彼らにはとても重要な時間だった。

そうテンジは改めて思うのであった。

「名残惜しいがそろそろ寝るか。明日の本番に備えないとな」

「そうですね。みなさん簡易式保護帳もってきてますよね?」

「もちろん!」

「当たり前だ」

「自分もちゃんと持ってきてます」

簡易式保護帳は腰のポーチに入るサイズの極環境でのテントのような睡眠グッズだ。

これはダンジョン産のアイテムなどではなく、普通の企業が探索師用に開発した最新の防寒グッズであった。今となっては常備するのが当たり前となっている道具である。

「では、風邪ひかないように寝ましょう! あと凍え死なないで!」

彼らは楽しい会話をしたあとに、それぞれの簡易的な寝床で床についたのであった。

† † †

夜も更けてゆき、真冬の寒さが身に染みてくる。

深い眠りに就いていたテンジを、突然の空腹が襲ってきた。

「むにゃ……んにゃんにゃ…………ダメだ、やっぱりあれだけじゃご飯が足りなかった」

最近の自分の食欲には本当に驚かされる。

天職に目覚めるまでは食欲よりも睡眠欲の方が強かったのに、ここ最近ではどんな欲よりも食欲が勝り始めてきている。

これが天職によるアンバランス現象だとは気がついている。それでもやっぱり抑制が効かなくなってきている自分もいたのだ。

テンジは眠たそうに起き上がると、帳を片付けてその場でググっと背伸びをする。

ちょうどそのときだった。

「あれ? 眠れないの?」

少し離れた場所で帳を立てていた立花が声をかけてきた。

テンジと同じタイミングで目を覚ましていたようで、彼女もぐっと背伸びをしながらそんなことを聞いてくる。猫のように眠たそうな眼をこすり、にっこりとほほ笑んだ。

「うん、お腹すいちゃってさ」

「テンジくんは前から食いしん坊だったもんねぇ。ねえちょっと散歩しない?」

† † †

二人は少しの間、静寂を好むようにゆっくりと暗い森の中を歩いていく。

少し歩いていくと眼下の廃れた街並みが見える場所までやってきた。その奥には文明を取り戻した光群がきらびやかに彼らの視界を染めていく。

そこではたと立花が足を止めた。

「あのお猿さんはテンジくんだよね?」

「うん。やっぱり見えてたんだね」

すでにテンジは古籠火から彼女――立花加恋が例の女子だと知らされていた。

だから特に隠すそぶりは見せなかった。そもそも彼女はすでにテンジが入団試験のときに小鬼を召喚した場面に遭遇していて、そこまで驚かないことも知っていた。

立花が確信を得たのは、おそらく偶然出くわしたときにテンジの傍に古籠火が浮遊していたからだろう。

テンジは傍に浮いていた閻魔の書を手に取ると、そっと召喚の工程を済ませた。

「おいで――【古籠火】」

優しいテンジの言葉に反応し、苔にまみれた深い緑の地獄門が現れる。

ふと立花を見ると、彼女はすごく驚いた表情をしていた。確かに彼女にこの地獄の門を見せるのは初めてだったかもしれない。

「凄い綺麗」

「もしかしてこれも見えてるの?」

「うん、見えてるよ。そう聞くってことは他の人には見えない 生き物(もの) なの? 私って昔からそういう人じゃないものがよく見えちゃうんだ。ずっと見えるってわけじゃないんだけど、結構頻繁に見ちゃうの」

テンジはその言葉に対し静かにうなずいて肯定する。

そうして地獄の門より現れた古籠火を手なずけるように、そっと手を差し伸べた。

「入団試験のときからなんとなく気がついていたとは思うけど、これが僕の天職」

「私の大好きだった英雄探索師に似ていて、とても素敵な天職だと思うよ。少なくとも私はテンジが不安に思ってるように怖いとは思わないかな。それを知りたかったから私に教えてくれたんでしょ?」

立花は恐れるそぶりすら見せずに、にっこりと笑って答えてくれた。月光に輝く彼女のその笑顔は、勇気を振り絞って自らの天職を明かしたテンジの心を優しく包んでくれていた。

テンジは知りたかったのだ。

自分の異質な”生物を召喚する”という能力が、他の人にはどう映るのか。でもそんなテンジの考えなどお見通しだと言わんばかりに、立花は答えてくれた。

「ありがとう立花さん。素直な性格な立花さんだったからこそ、本当に良かったよ」

「何が?」

「僕はもう隠さないって決めたんだ。でも僕のこの力を知ったら必ず恐怖を抱く人が出てくるってことも知ってる。だから、素敵だって言ってくれた立花さんに今僕は救われた気がしたんだ――」

一つ間を置くように、テンジはきれいな三日月を見上げる。

「でもこれで、これから僕は気兼ねなくこの大会に挑めそうだ」

「ねえ、私のポイントをテンジくんに返せないかな?」