作品タイトル不明
第227話
「あれれ? テンジくんじゃん! ひっさしぶり」
物資のポイントを獲得したその女性が、不意に二人の方向へと振り向いた。
そこにいた知り合いの顔を見るや否や、彼女は大きな声でテンジの名前を口に出していた。思わずテンジは優しく手を振り返していた。
立花(たちばな) 加恋(かれん) ――チャリオットの入団試験を一緒に乗り越えた三人の友達の一人だ。
これであの入団試験を乗り越えた第26グループの面々が、ここ最終予選の会場に集まったことになる。運営側の 草津(くさつ) 郷太(ごうた) 、選手としてはプロのギルド【Chariot】から 水江(みずえ) 勝成(かつなり) 、そしてアマチュアとして立花加恋、最後に日本探索師高校の学生として天城テンジ。
運命なのか、それとも必然だったのか。
彼ら第26グループが再びここに集まった。
(みんな本当にこの一年と少しで着実に成長してるんだなぁ。ほんの少し会ってなかっただけなのに、あのときのメンバー全員がここにいるって凄いことだよ。いつかは会うことがあると思っていたけれど、こんなにも早いなんて想像もしていなかった)
彼女が参加していることは事前に雑誌で見て知っていた。
だからテンジはいつか立花と再開するだろうとは思っていたが、まさか競い合う場で再開するとは思ってもみなかったのだ。それこそ古籠火を視認できる人物が彼女だったなんて、一番の驚きだった。
いや、一番の驚きは今の彼女の佇まいかもしれない。
一年前よりもずっと彼女の佇まいがプロ”らしく”なった。間違いなく良い師と出会うことができ、必死に努力してきた証だった。
草津や水江だけじゃない。
彼女もまた夢をあきらめずに必死に努力した来たこと知れただけで、テンジは嬉しくなっていた。自分と同じく、一生懸命努力している友人が何人もいるってことが励ましになっていた。
「久しぶりだね立花さん! それにしても先越されちゃったか~」
「うっふん、初めてテンジくんに勝っちゃった! 天才くんにだって私はまだまだ遅れをとらないのですよ! 年上の底力思い知ったか」
Vサインをしながら立花はくしゃっとした笑顔を浮かべる。
そんな彼女の明るい言葉に乗っかるように、テンジも負けたように頭を掻く仕草をしてゆっくり彼女の元へと歩み寄っていく。
「やっぱり物資の高ポイント逃したのは痛いなぁ。さっきみんなに聞いた感じ上位陣は割と接戦な気がしてるんだよね」
「えっへんポイントは私の物だよ~。でも、他の物資は分配できるみたいだよ! ポイントはプレゼントに最も早くタッチした一人だけって指示書に書いてあるけど、他の物資は先着四人で分けて使用するようにだってさ」
「「えっ?」」
思わず黒豪とテンジの驚き声がハモった――まさにそのタイミングだった。
突然、シーカーオリンピアのメインテーマソングがこの試験会場に大きな音で鳴り響き始めたのだ。近くにいた選手たちは何事かと、空を見上げる。
ザザっと雑音がスピーカーから聞こえてきた。
次に聞こえてきた声は、活気のある統括プロ探索師――鵜飼蓮司――だった。
『えー統括プロ探索師の鵜飼です。それぞれのプレゼント獲得者が決定しました、獲得者はおめでとう! 本当にがんばった! みんなレベル高いからこっちもドキドキハラハアだったよぉ~、最高!!』
本当にこの予選を楽しんでくれていただろうテンション高めな鵜飼の声だった。
彼が楽しめているということは、これを見ていてくれているコアなファンたちも楽しんでくれていることだろう。鵜飼が常々口にしているという『みんなが楽しめるシーカーオリンピア』は今のところ順調にいっているらしい。
それを知ってテンジも少しだけ嬉しくなっていた。
『――でもね、もうすぐ陽が落ちて危ないのでいったん最終予選は中休みに入りまーす。今からポイント集めは絶対にダメ!! 夜の森をなめちゃダメだよ、怪我だけは俺も嫌だからね。とはいっても君たちはすでにレベルの高い探索師の卵だ。このままホテルに帰って明日の朝から再開だぁ~とはならないよ? このまま自分たちで寝床と食料を確保して、明日の予選に備えよう。――ということで一日目は終了、お疲れ様!! 明日も一日頑張ろう、おー!!』
ブツッとスピーカーとの接続が途切れた音が彼らの耳に届いてきた。
少しの間、三人に沈黙の時間が続いた。
それを打ち破ったのはちょうど数秒まえにここへとようやく到着した、織井成哉であった。
「ハァ……ハァ……四番着ですか。さっき物資を分配する的な声が聞こえてきたのですが、もしかして俺も物資はもらえるんですかね?」
「だね! 私が見たこの指示書には『最初に物資へたどり着いた人がポイントを独占し、その他の物資は先着した四人へ均等に分配すること』って書いてあるよ。ただ――」
そこで立花は少し言葉を濁す。
不意に物資が入っていた白い袋の中から木箱を取り出すと、他の三人へ中身を見せた。そこには2Lの水と人参、玉ねぎ、ジャガイモなど食材と料理道具がいくつか入っていた。
「分けろと書いてはあるけど、どう考えてもカレーを作れって感じのラインナップなんだよね~。これみんなで作れってことだよね?」
「「「…………」」」
なぜ予選を一時中断してまでこんな時間を設けるのだろうか。
そんな疑問が全員の脳裏によぎる中、テンジがぽんと手をたたく仕草を見せる。
「たぶんこの機会に仲良くなれってことじゃないかな? 僕がお世話になってるギルドの人も機会があればたくさん話した方がいいって教えてくれたし」
「そうだな。このレベルの選手ともなれば今後もチームアップする機会があるだろうし、すでに予選も始まってるから共闘するような馬鹿な真似もそうそう起こさないだろうという判断だろう。てか、下手したらこの会話すらすべて筒抜けだろうしな。そういう意味で鵜飼蓮司はこの場を設けたのかもしれないな、天城の意見には一理ある」
黒豪が珍しく、テンジの言葉に賛同してくれた。
そんな二人の言葉に織井と立花もうなずき、即席の四人でカレーを作ることになった。
さすがにこのレベルの学生ともなれば周りをよく見て自分の役割をすぐに考え行動してくれる。料理が得意なテンジはそちらをメインに、ソロキャンプが趣味だという黒豪は火をくべ、織井は飲み水を確保するために前に見たという源流へと水汲みへ向かった。立花はこの競争での勝者ということで一時的にリーダーに任命され、周りをうまく回してくれた。
それぞれが的確にかつ素早くカレーを作り上げていった。
† † †
「天城……お前料理上手すぎないか?」
「うん、天才だよ! うまうま」
「さすがです、天城先輩。でもなんでスパイスなんか持ち歩いていたんですか?」
「えっ……名残りかな? 凄く食いしん坊な師匠がいてさ」
曖昧な返事をするテンジに、思わず立花と織井はくすっと笑っていた。
塩なんかは良く持ち歩く探索師はいるものの、スパイスを持ち歩く探索師は非常に少なかった。それも何種類も常備しているのなんて珍しすぎる部類に入るだろう。
今回は市販のカレールーに、テンジが追いスパイスを振りかけていた。静かな森でのご飯に運動後ということもあり、普通のカレーがひどく美味しく感じていた。
彼らはぺろりとカレーを平らげてしまう。
その後、黒豪が作った焚火を囲いながらリラックスをしていた。
そこでテンジが意外に思っていたのは黒豪が率先してこの場を設けたということだ。
彼の性格ならば拒否するとも思っていた。いや一年生のときの傲慢だった彼なら確実に拒否していただろう。この三年間で心境の変化でもあったのか、思いのほか黒豪はこのコミュニケーションタイムに肯定的だった。率先的に会話を切り出し、時にリアクションをして、円滑にこの場を進めてくれていた。もしかしたら暫定的なリーダーの立花よりも、彼にはリーダーや隊長としての才能があるのかもしれない。
この映像を見ているギルドがあれば、彼の評価もまた違ったものになるだろう。
そんな確信をひそかに抱いていたテンジは、ふと新たな会話を切り出す。
「みんなポイントどれくらいになったか教えてもらえるかな? 僕が感じたのはいやらしいところばかりにスイカが隠されていて、想像以上にポイントが集めづらいってことなんだけど。探索ってよりもかくれんぼしてるみたいだなぁって思ってる」
そんな中でテンジが会話を切り出していた。
ずっと気になっていたポイントの集めづらさにについての話だ。
「表面的な探索力だけではなくて、もっと技術面に即した探索力を見たいんだろうな。ちなみに俺は今48だ」
「私は62です! プレゼントブーストなければ危うかったです……」
「自分は先ほど言いましたが、42ですね。天城先輩はどんな感じですか?」
黒豪、立花、織井の順に隠すことなく教えてくれた。
少しの間テンジはいつもの癖で独り言をぶつぶつと唱えた後、顔を上げる。
「僕はちょうど50だよ。やっぱりみんなそんな感じだよね、思ったよりも上位陣は接戦になりそうな予感がするね」
「だな」
「自分もそう思います。この四人のレベルが他と比べて低いとは思えないので、50前後が現段階でのトップ層だと考えるのが妥当かなって」
「あっ、でも二時間前に水江くんと会ったとき『俺か? 89だが』って教えてくれましたよ! やっぱり一線で活躍しているプロは違うなぁって思ってたのですが、みんなの聞いて安心しました。水江くんが異常だったんですね。もしかしたらもう100超えてるかも」
立花の天然な発言に男子三人衆がどよめいた。
黒豪、織井、テンジは間違いなくこの最終予選の中でもトップクラスの選手だ。プレゼントブーストを受ける前の立花の22ポイントという数値を鑑みても、この三人は本選に進めるだけの実力を所持している。
そんな三人を圧倒して、すでにプロの水江勝成はポイントを100近く所持している。
たとえ水江が探知系の能力を所持していたとしても、この予選内容の趣旨を考えれば水江のペースがずば抜けていることがわかった。というか探知系特化の選手はその特徴上、この最終予選まで上り詰めることは難しいと言われている。
「水江勝成……一年前にあのチャリオットの入団試験にアマチュアながら一発合格しすぐに天職へ覚醒、その数か月後にはAチームに昇格した男か。確か天職の等級も名称も公開していなかったな?」
「はい、俺の知る限り公開していなかったと思いますよ黒豪先輩」
「やはりか。まあでも、さすがにまだAチームでは候補生扱いに近いんだろう。たった一つしか年が違わないのだから、この大会も武者修行的な感じで――」
「ん? 水江くんは来月から攻撃隊の一番チーム副隊長になるって私聞いてるけど?」
「なっ!?」
驚きのあまり黒豪は手に持っていた木製のコップを地面に落としていた。
同じく織井も驚きのあまり口をあんぐりと開けたまま、固まってしまった。
【Chariot】のAチームは世界的にも有名な精鋭であり、入ることさえ非常に困難だ。
中でも一番隊から五番隊までチーム分けされており、その一番隊と言えばAチームの中でも選ばれた七人しか名乗ることは許されていないエリート。そこの副隊長ともなれば実力はすでに折り紙付きだということになる。
そこにまだ二年目の 新星(ニュービー) である水江が抜擢されるとなれば、それは世界的なニュースだ。
「ちょ、ちょっと!? 立花さん!?」
「ん? ……あっごめん今の無し! 聞かなかったことにして」
そう、これはまだ世間には公表されていないのだ。
水江はあの日からずっと仲のいい第26グループの戦友だからこそ、立花とテンジには先行で情報を教えてくれていたにすぎない。ほんの二週間前に『来月からAの一番隊副隊長に内定した。これからも精進する』と、短文が第26チームのグループチャットに書き込まれたのだ。
黒豪はその言葉でようやく冷静さを取り戻したのか、地面に落ちたコップ拾い上げると飲み口についた土埃を払う。
ぎろっと鋭い眼光を立花とテンジへ向けた。
「なぜ未発表の情報を知っているんだ? チャリオットAチームの昇格情報ともなれば、マスコミが喉から手が出るほど欲しい情報だぞ。それこそ新人が一番隊副隊長なんて異常だ」
どうしようかなぁと立花は逃げるように視線をテンジへ向ける。
そうして自然と黒豪の鋭い視線はテンジへと変わっていた。
ちょっと怖いと思いつつも、テンジはあきらめるようにはぁと息を吐く。
「契約だから入団試験の詳しいことまでは言えないけど、水江くんと立花さんと僕、あと協会の草津さんって人の四人グループで一年前に入団試験を受けたんだ。で、そのとき合格したのが水江くんなんだよ」
「なるほど、そういう関係なのか。納得いった」
「あと一応テンジくんも合格してましたけどね! 私は落ちました!」
「なっ!?!?」
「えっ天城先輩も!?」
本当に彼女はいらないことばかり言っちゃう人だ。
口が軽いとまでは言わないけれど、自慢の友達の話ともなれば油のようにぬるぬると言葉が滑っちゃう性格なのだ。実力はついても、そこだけはいまだに治っていないのだとテンジは思う。
何かを諦めるように、無数に輝く夜空の星を数え始めるテンジであった。
「受かったよ。だけど僕は――」