軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第209話

リオンの指示に呼応するように、足踏みしていたプロ探索師たちが一斉に動き出す。一体も逃がすなという零級探索師の声に従い、バラバラに散らばっていくモンスターを包囲しようと一心不乱に走っていた。

そんな中、一人の探索師がウサギに似た個体へと指を向けた。

「そいつだ! その足の速いやつを先に潰すぞ!」

「了解――『グレネード・ソニック』ッ」

率先して能力を発動した探索師の足裏から連続して爆発が発生する。

その探索師はあっという間にその俊足モンスターへと辿り着くと、そのまま爆風で加速された踵蹴りをモンスターの頭部に向かって振り下ろす。

「ル゛ィィ!?」

プロ探索師の攻撃はいとも簡単に直撃した。

それから間もなくのこと、小さくなったその個体は体の端からダイヤモンドのような鉱石へと硬化現象が始まった。つまり、魔鉱石化が始まったのだ。

その光景を目の当たりにした探索師は、近くにいた仲間たちへと勢いよく叫ぶ。

「いける。俺達でも倒せるくらい弱っているぞ!」

その声を聞いた探索師たちの顔色が一気に明るく変わたのがわかった。喪失しかけていた自信を再び取り戻し、顔色がやる気に満ち溢れる。

プラービリナのアレクはこれを機と見た。

ダンジョン内に響くほどの大声で仲間たちへと改めて指示を出す。

「全員聞こえたな? 一体たりとも逃すな……なんとしてもだ。ギルドの威信をかけて本気で殲滅戦に移行するぞ」

「「「「おう!!」」」」

こうして作戦は、討伐戦から殲滅戦へと切り替わったのであった。

† † †

最初は順調だったのだ。

殲滅戦は滞りなく進んでいるように見えた。

中国の四川炎帝に所属する一人の探索師――第二チームの隊長、ジャオ・ハオ――が、隣で戦っていた仲間に向かって言った。

「おい一向に減んねぇぞ、こいつら。俺たちが総力戦で屠ってるのに景色がまるで変らん。ちゃんと倒せてるんだよな?」

「私たちの周囲の個体は魔鉱石化してるからそこは間違いないはずよ。でも……確かに数がまるで減ったように見えないわね。どうなってんのよ」

そんな疑問を抱き始めたのは、殲滅戦をはじめて間もなくのことであった。

これだけの人数の探索師が本気を出せば、たとえ数百と超えるモンスターであろうと殲滅戦に移行すればどうってことない数のはずなのだ。たとえモンスターに戦う意思がなく、逃げるしか脳のない雑魚に成り果てたところでこの結果が変わるとは思えなかった。

「カルチャル、数はどうなってる?」

疑問を感じたジャオ・ハオは、ギルドの探知系統の天職を持つカルチャルという人物に大声で聞いた。

まさにその瞬間の出来事であった。

ギルドに所属する伝令役の探索師が焦ったようにこの場に駆け寄ってくると、嫌な知らせを告げる。

「隊長、気を付けてください。あっちの戦場では分裂する個体が出てるらしいです」

「なるほど、そういうことかよ。条件はわかったのか?」

「猿に似た個体、能力付与なしの物理攻撃が揃うと分裂するとのこと」

「なるほどなぁ、 四川炎帝(うち) には関係ねぇ話だ。阿呆やったのはどこのギルドだよまったく、この一大事をわかっちゃいねぇのか。まぁいいわかった、他のところにも伝えてくれ」

「了解です」

その指示を聞いて、伝令役の探索師は颯爽と次の戦場へと駆け出していった。

それを見届けつつ近くにいた個体を三体ほど一度に屠った彼は、再び探知できるカルチャルという探索師へと声を掛ける。

「ざっくりでいい、数は?」

「……およそ1200、たったの数分足らずで倍以上に膨れ上がっている」

「ふぅ、わかった」

観念したように溜息を吐くと、ジャオ・ハオは手に持っていた三又の紅槍の石附を地面へと強く打ち付ける。そしてチームメンバー全員に聞こえるように叫んだ。

「このままじゃあジリ貧だなぁ! アレを使う」

突然、ジャオ・ハオの黒髪が赤く染まっていく。

紅槍の形状が燃え滾るように変化していくと、彼がまとっていた赤色の炎のようなオーラが急激に膨れ上がっていく。

そんな隊長の姿を見た仲間の探索師たちは、武者震いからの笑みを浮かべていた。

「炎三槍よ、輪回の炎を食らえ――」

強力な一部の探索師のみが扱えると言われている、長呪文詠唱を伴う攻撃。それを繰り出そうとしたジャオ・ハオ隊長から探索師たちは一定の距離を保っていた。

「流葬演舞、回々宙田の炎を灯せ。三劉業炎の……」

最後まで詠唱を言いかけた。

――その瞬間だった。

三又の紅槍が内包していた荒れ狂う炎が突如鎮火してしまう。

「だ、誰だてめぇ!?」

ジャオ・ハオが突如叫んだ。

誰もが気づかぬうちにジャオ・ハオの真横に赤髪の何者かが立っていたのだ。

その端整な顔立ちの青年は額から角のようなものを生やしており、ジャオ・ハオでさえ炎が鎮火するまで一切存在に気付かなかった。

あきらかに異質な何かであった。恐怖すら感じた。

それでもジャオ・ハオはプロ探索師で、中国でも有名な四川炎帝の第二チーム隊長なのだ。威厳を忘れまいとあえて高圧的に声を上げる。

その青年はそっと紅槍の柄に手を置くと、ふっと微かに笑う。

「失敬、友に似た火の香りがしたもので」

「は? つか、それよりもっ!」

タイミングを計って大技を繰り出そうとしていたジャオ・ハオの目の前に、十を超えるモンスターの群れが押し寄せてきていたのだ。その青年にタイミングをずらされたことで、倒そうと思っていた個体が近くまで向かってきていた。

慌ててその青年の手を振りほどき、紅槍に炎を灯す。

「炎三槍――」

再び、赤髪の青年の手が紅槍の柄に置かれた。

そしてジャオ・ハオは目を疑った。

「火が……消えた?」

青年が手を触れると、自分の炎が掻き消えたのだ。

さきほども同じように火を掻き消されたジャオ・ハオは目を疑うしかなかった。この炎はそんじゃそこらの炎とは違い、中国でも随一の火系統能力だと言われている。触れれば即死、または強烈な痛みを伴うかなり強力な炎。

ジャオ・ハオが彼の瞳を見ると、彼は優しく笑っていた。

「失敬、この火は我らの火に干渉するのでお控えください」

「……我らの火?」

聞き返すジャオ・ハオだったが、その青年は笑うだけで答えてはくれなかった。そして半歩前に歩み出すと、腰に携えていた一本の刀に手を掛ける。

四川炎帝の第二チーム隊長であるジャオ・ハオでさえ、気を抜くと見逃してしまいそうなほどの居合速度だった。

時を忘れて、美しいとさえ思った。

「――『 獄炎華(ごくえんか) 』」

刀から同類の炎球が放たれると、ここら一帯にいたモンスターたちがまるで重力を無視したかのように体を炎球へと吸い寄せられていく。そして一定の数が集まったところで強烈な爆発が巻き起こり、モンスターを木っ端みじんの肉塊へと変えたのであった。

「なっ!? 俺と同じ……いや、それ以上の炎」

その一撃に驚いたジャオ・ハオだったが、次の瞬間にはさらに驚くこととなった。

青年の放った炎球攻撃が、見渡す限りいたるところで確認できたのだ。それに戦場のあらゆる場所から恐怖が増している嫌な感覚があった。

ふと、青年はこちらへと顔を向ける。

「あとは私たちにお任せください」

そう言い残して、その青年はここから立ち去っていった。

いや、その青年という表現ももしかしたらそぐわないのかもしれない。ジャオ・ハオの目には彼と似た容姿と角を持った化け物たちが何人、何十人も、何百人も映っていたのだ。

戦場の至る場所で、鬼のような人間が地獄の業火が吹き荒らしている。

鬼のような容姿をした千を超える化け物たちが、戦場で獅子奮迅の活躍をしていた。だが彼らが繰り広げていたのは殲滅ではなかった。

鬼のような獰猛な笑みを浮かべ、死を、拷問を楽しんでいるような。

そんな蹂躙に近い戦いを繰り広げていたのだ。

地獄獣(かれら) が召喚されてたったの数分ほどで、モンスターは瞬く間に淘汰されていく。

その異様な様子を目の当たりにしていたのは、誰よりもこの戦場を常に探知し続けていた探知役の探索師たちであった。その様子をプロ探索師たちは、再び唖然と見ている他なかった。

プロが手を出すまでもなく、戦いの終わりが近づいていた。