作品タイトル不明
第166話
中央の窪地地帯へと飛び降り、森の中を全速力で駆け出した矢先のことだった。
流星の如く視界の端を何かがよぎったのを確認した。
(今、一瞬だけ光ったような。モンスターの仕業? ……いや、違う)
少し遠くで残像も残らない光の速さで何かが蠢いたのを、テンジはその瞳でしっかりと捉えていた。瞬きするよりも速かったそれが何なのか、一つの可能性が脳裏を過ぎる。
ここにいる探索師の中で唯一、光りにまつわる天職を有する存在。
テンジもこの短期間でここにいる全探索師の天職や能力を把握しているわけではないが、それでも一人だけ思い当たる人物がいた。
それはこの戦場で最も探索師ライセンスの等級が高い女性――、
「うん、今のはリィメイ学長だね」
彼女の天職正式名称を知る者はいない。
『光の魔女』なんて呼び名が付いているものの、本当に光りを司る天職を所持しているのかは誰も知らないのだ。公表していない理由は分からない。
だけど、光の正体が彼女であることは容易に想像できる。
(速い、速すぎる。あれが零級探索師の真の姿、本気を出した時の爆発力なのか。……うん、あまり考えすぎるのは良くないね。僕の悪い癖だ。今は頭を切り替えていこう)
不要な考えを吹っ切るようにブンブンと頭を振ると、テンジは改めて自分の役割を反芻する。
(リィメイ学長はあくまでメインモンスターと対峙する役割だ。僕は彼女が全力で戦えるための戦場整理をする役割――子飼いの殲滅だ。その役割に専念しよう)
リィメイ以外の彼らの役割は、彼女が全身全霊にモンスターと憂いなしに戦えるよう子飼いを殲滅し続けること。そして機会があれば、リィメイのカバーに入ること。いたってシンプルな作戦だが、それ故に難易度は非常に高い。
細かな作戦が決められていないと言うことはつまり、それほど未来の状況を読み取れないということを指し示す。現場の個人の判断がより重要視されている作戦は、各々の判断力に委ねられているということだ。それほどまでにこの戦場は読みづらい。
それが返って、まだまだ学生であるテンジの心に負荷を掛けていたのをまだ知らない。
やはり学生は学生であって、何かが足りないのだ。