軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十六話 おとぎ話

「どうだい? 少しはスッキリしたかい?」

「はい。お陰様で大分楽になりました」

しばらくの間崩れるように泣いたことで、溜め込んでいたものが流れ出て、体調的にかなり良くなった気がする。

決して慰めてもらうためにグレゼスタに来た訳ではないのだが、おばあさんのお陰で気持ちの部分で非常に楽になった。

「それは良かったよ。……それで、ルインが訪ねてきた人を蘇生させる植物についてなんだがね、申し訳ないんだがワタシは見たことも聞いたこともない」

「聞いたこともない――ですか? 以前、一度だけこの話をしたことがあるのを記憶しているんですけど」

「んー、聞いたことないというのは少し語弊があるかな。実在している情報についてを聞いたことがないというのが正しいね。どこどこで見つかったとか、どこどこに生息しているとか、そういった情報は生まれてからこの方、一度も聞いたことがないんだよ」

おばあさんが一度も聞いたことないということは、恐らく存在しない可能性が非常に高いということなのだろう。

俺にそれを暗に教えてくれているのだろうが、そのことは承知で俺は今日訪ねてきている。

「おばあさんに確かな情報がないことは、俺も承知の上で来てますので大丈夫です。以前、少し口にしていたおとぎ話についてだけでも聞かせて頂けませんか?」

「うーむ。そこまで意志が固いのなら、ワタシもその話について話すけど……本当に何の情報も得られないよ」

「はい。お願いします」

それから、おばあさんの知っているおとぎ話についてを聞いた。

内容は英雄譚よりも突拍子もない童話のような話。

とある国で生まれた美しい姫が、その美貌を魔女に嫉妬されて呪い殺される。

その姫の許婚であった隣国の王子は、呪い殺された姫の仇を討つべく魔女の下へと向かった。

無事に魔女の住む森を見つけて、姫の仇は討ち取ったものの虚しさだけが残り、魔女の住む森で涙を流したところ、足元に咲いていた一輪の花が王子の涙に触れたことで、黄金色に輝きを放った。

なんと、その黄金色の花は人を蘇生させる植物で、魔女に呪い殺された姫は花のお陰で生き返り、めでたしめでたし。

おばあさんが渋ったのも分かるほど、情報も薄ければ突飛もないお話。

「――と、こんな感じの話だよ。この話から得られる情報なんて微塵もないだろう」

「確かに確証のある情報が一つもないおとぎ話ですね。せめてどこの国のお話なのかさえ分かればいいのですが……」

「どこの国の話かさえワタシも知らないね。今のルインには本当に言いづらいんだけど、蘇生については諦めた方がいい。この話のように仇討ちを目指した方がまだ利口だと思うよ」

おばあさんの言っていることが正しい。

踏ん切りをつけ、魔王軍を滅ぼすことに全力を尽くす。

何度か頭を過ったが、俺が求めているのはアーメッドさんを殺した相手を殺すことではなく、アーメッドさんともう一度話がしたいだけなのだ。

もちろん攻め込んできた魔王軍への怒りは強いが、例え滅ぼしたところでこのおとぎ話のように空しくなるだけなのも目に見えている。

「俺は仇討ちではなく、もう一度だけアーメッドさんと話がしたいだけなんです。その可能性が絶対にないと言い切れるまでは、探したいとそう思っています」

「確かに、復讐に身を燃やすルインは想像がつかないね。…………分かったよ。一人だけ伝説や未知の物について詳しい人物を知っているから、その人物のことを教えよう」

「そんな人がいるんですか?」

「……ああ。そいつとは、昔ちょっとだけ一緒にパーティを組んでいた人物でね。少し場所を変えるよ」

そういうとおばあさんは、軽く身支度を整えてから『エルフの涙』から外へと出て行った。

俺もその後をついていき、『open』と書かれた看板をひっくり返すのを見てから、街の中心部を目指して歩き始める。

どこに向かっているのかは見当もつかないが、恐らくだけどその人物の下へと向かっているのだと思う。

ただ、おばあさんとパーティを組んだ人がグレゼスタにいるなんて、一度も聞いたことがない。

一体どこの誰なのだろう。

少し期待しつつ、おばあさんの後をついて行ったのだが、辿り着いた場所はあまりにも予想外の場所だった。

「…………ここですか?」

「ああ。ルインにとっては嫌な場所だろうがすまないね」

「いえ、俺は大丈夫です」

おばあさんのその言葉からも分かる通り、着いた場所は俺が以前勤めていてクビとなった治療師ギルド。

完全に頭から消え去ったと思っていたが、この建物を見た瞬間に嫌な思い出が次々と蘇ってくる。

「すぐに連れ出して、また場所を変えるから安心しとくれ」

そういうと、おばあさんは治療師ギルドへと入って行った。

俺も大きく深呼吸を行い、呼吸を整えてから治療師ギルドへと入る。

外観は当時と変わらないままだが、内装は全く別の建物のように感じるな。

患者さんも以前のようにお金持ちのような人だけでなく、老若男女問わず溢れかえっている。

拝金主義で選民思想の強かったブランドンが辞めたことで、正常な治療師ギルドへと戻ったということなのだろう。

俺もこの治療師ギルドだったら、楽しく働けていたのだろうなとたらればな感想を抱きつつ、ついていくがままにギルド長室へと足を運ぶ。

「アイリーンだ。入るよ」

扉前でそう名乗ると、中の返事も待たずに扉を開けたおばあさん。

「せめてノックぐらいしてから入ったらどうなの?」

「うるさいね。ワタシのお陰でそこに座れているんだから、一切の文句は受け付けないよ」

かつてブランドンが座っていたギルド長室の椅子には、青みがかった綺麗な黒髪の驚くほど綺麗な女性が座っていた。

この人が今の治療師ギルドのギルド長で、おばあさんとパーティを組んでいた人物なのか?

見た目から考えると、時系列的には絶対にありえない。

そう思うほど、ギルド長は若くて綺麗な人だった。