作品タイトル不明
第二百九十五話 望まぬ再会
その他挨拶周りに遠出するための準備を終えた俺は、再びロザリーさんの下へ訪ねてお金を手渡してから、その日の内にランダウストを後にした。
トビアスさんも探し出して会おうと何度も考えてはいたが、心情的に会うことが怖く、結局何も言わずに出て来てしまっている。
ランダウストを守るために、実力のある【青の同盟】さん達に声を掛けるのは至極当たり前。
それにトビアスさんが声を掛けずとも、他の人に声を掛けられたり自主的に参加していただろうから、今回の悲劇は免れなかった。
頭では分かっているのだが、自分の未熟さも含めて気持ちがある程度落ち着いてから、トビアスさんとは会うと決めた。
――そして、ランダウストを出た俺がこれから向かうのは、俺の知る限り一番知識を持っているであろう人物の下。
そう、『エルフの涙』のおばあさんだ。
死者蘇生の話を聞いたのもおばあさんからだし、何の情報もない今の状態から少しでも前進するためにも、おとぎ話でもいいから聞きに行くべきと考えた。
おばあさんなら知り合いに有識者がいるかもしれないし、薬師ということもあっておばあさん自身の知識も豊富。
個人的に気掛かりなのは、盛大に送り出してくれたのに何も成し遂げられずに帰還すること。
おばあさんはいつでも逃げてきていいと言ってくれたし、顔を見せれば喜んでくれるのだろうが、俺の中ではそのことが少しだけ引っかかっている。
……ただ、情報を集めなくてはいけないということを考えれば、そんなちっぽけなことを気にしている暇はないため、俺は早足でグレゼスタを目指して道を進んで行った。
ランダウストを発ってから三日が経過。
長い道のりだったが、ようやく俺の第二の故郷とも言えるグレゼスタが見えてきた。
エドワードさんと共にランダウストに向かった時は六日かかったが、今回は速度重視な上に修行も行っていないため、前回の半分の日にちで辿り着くことに成功。
そこまでの日にちが経っていないが、門から覗くグレゼスタが懐かしく感じ、嫌でも【青の同盟】さん達への初依頼のことを鮮明に思い出す。
懐かしみに来たわけではないと、強く自分に言い聞かせて門を通り、どこにも寄らずにそのまま『エルフの涙』へと直行した。
グレゼスタの街のはずれにある、ほんのりと自然の香りが漂う小さなお店。
なくなっていたらどうしようと少し不安だったが、いつもと変わらない場所にお店がありホッと胸を撫でおろす。
それから、数回ノックをしてから扉を押し開けると、カランコロンと扉に付いている鈴が心地の良い音を響かせた。
最後に尋ねて来た時と何も変わっていない店内。
そしていつもの如く、店内を見渡してもおばあさんの姿は見えない。
俺は一つ大きく深呼吸をしてから、店の奥にいるであろうおばあさんに声を掛けた。
「おばあさんいますか? ……ルインです」
そう声を発した瞬間に、店の奥から激しい物音が鳴った。
それから普段は杖をついてゆっくりと姿を見せるおばあさんが、慌てた様子で走って俺の前へと姿を見せてくれた。
「お久しぶりです……と言っていいんですかね。ずっと会いたかったです」
「おぉ……。本当にルインじゃないか! どうしたんだい急に訪ねてきて!」
おばあさんは俺の顔を見るなり、驚いた表情からすぐに満面の笑みへと変えて歓迎してくれた。
一番信頼できる人ということもあり、少しでも気を抜くと涙が溢れそうになる。
「実は……」
俺は感情を押し殺して再会の感動を味わう間もなく、今回戻ってきた理由についてを、おばあさんに一から全て話す。
ランダウストでの出来事、アーメッドさんのこと、そして蘇生の方法を探しているということ。
最初は笑顔で聞いてくれていたおばあさんの顔が、話が進むにつれて険しくなり、蘇生の方法を探していると伝えたところでゆっくりと首を左右に振った。
「ルイン、大変だったね」
「いえ、俺は何も……大変じゃなかったです」
「あれだけ表情豊かだったルインが、ずっと無表情で感情を押し殺しているんだ。自分では気づいていないのかもしれないけど、大変だった……いや、今も大変なのがワタシには分かるよ」
そう優しい声で慰めてから、俺の頭を軽く撫でてくれたおばあさん。
その行為に一気に涙腺が緩くなり、俺は涙を溢さないように上へと向く。
全てが解決するまでは、絶対に泣いてはいけない。
自分にそう課したため、何も考えないようにして必死に感情を押し殺す。
「悲しかったら泣いてもいいんだ。辛かったら泣いてもいいんだ。泣いたからといって、ルインの気持ちが流れ出る訳じゃないんだからね」
「…………ずいまぜん。少じだげ」
その言葉に押し殺そうとしていた感情が抑えきれなくなり、一気に涙腺が崩壊した。
泣いたらアーメッドさんへの思いが薄れる。泣いたら心が折れる。泣いたら二度と立ち上がれなくなる。
強い思いがのしかかり、特別霊安室での涙を最後に押し殺していた全ての涙がとめどなく流れ出ていく。
そんな膝から崩れ落ちて泣き崩れる俺に、泣き止むまでおばあさんはずっと優しく背中をさすり続けてくれたのだった。