作品タイトル不明
087 エピローグ
晴れた青空から差し込む光を背に、ピンク色の髪が輝きを纏う。
普段の太陽のような明るい笑みとは違い、真剣な表情を浮かべる少女――ルクシアがそこにいた。
「……ルクシア」
不意に現れた彼女に戸惑いつつ、俺は名前を呼んだ。
タイミングを見計らったような登場に、ほんの少しだけ緊張が走る。
しかしルクシアは俺の問いかけに応じることなく、そのまま静かに口を開いた。
「アレンは、すごいよね」
「…………」
「ユイナやリリアナだけじゃなくて……リオン先生まで救っちゃうんだもん」
その言葉は、俺とリオンの戦いから、その後のやり取りに至るまで全てを目撃していたという証明だった。
視線を交わしたまま、俺たちの間に沈黙が流れる。
やがて彼女の表情に、僅かな変化が現れた。
「だからさ、アレン」
ルクシアは彼女に似合わない悲し気な笑みを浮かべ、口を開く。
「 い(・) つ(・) か(・) き(・) っ(・) と(・) 、 私(・) を(・) ――――」
しかし、ルクシアが最後まで言い切ることはなかった。
途中で言葉を止めた彼女は表情を変えることなく、俺の反応を窺うようにじっと見つめてくる。
俺はそんなルクシアに向き合いながら、ゆっくりと思い出していた。
―――― 原(・) 作(・) に(・) お(・) け(・) る(・) 彼(・) 女(・) の(・) 役(・) 割(・) と(・) 、 そ(・) の(・) 結(・) 末(・) を(・) 。
ルクシア・フォトン。
主人公と同じクラスに所属し、稀代の天才魔法使いと呼ばれる彼女の本質はメインヒロインではない。
むしろその逆――
『メインエピソードⅢ
最終パート【 魔王(まおう) の 依代(よりしろ) 】』
このパートにおいて、 ル(・) ク(・) シ(・) ア(・) は(・) ボ(・) ス(・) と(・) し(・) て(・) 主(・) 人(・) 公(・) た(・) ち(・) の(・) 前(・) に(・) 立(・) ち(・) は(・) だ(・) か(・) る(・) こ(・) と(・) と(・) な(・) る(・) 。
しかし、それは何も彼女に悪意があったからではない。
魔王を復活させるための依代としての圧倒的な才能を持つルクシアは、幼少期より禁忌の大魔術師ジオラスターの研究対象として育てられた。
その後、学園長イデアーレの手によって救い出され、封印を施されることで彼女の中にある力のほとんどは鎮められたものの、研究成果として魔王の力の片鱗がそのうちに秘められていることは変わらない。
その結果、メインエピソードⅢにおいて、魔王はルクシアの体を依代として復活を試みるのだ。
そうして始まったボス戦。
対峙するのはルクシアの体から生み出された魔王の化身と、魔王によって操られるルクシア本人。
グレイたちにルクシアを救う手立ては存在しなかった。
ルクシアと魔王の魂は同一化されており、どちらかを殺せばもう一方も死に絶えるからだ。
ルクシアを救うことはおろか、魔王の化身とまともに渡り合うことすらできない。
そんな中、最後に 主人公(グレイ) が選べたのは、一時的に体の支配権を取り戻し無防備状態となったルクシアの願い通り、彼女を殺すことだけだった。
その結果、依代を失ったことで魔王の化身も同時に消滅し、グレイたちは九死に一生を得ることとなるのだ。
そう。
ルクシア・フォトンこそ、『ダンジョン・アカデミア』における 絶(・) 望(・) の(・) 象(・) 徴(・) 。
運命(シナリオ) によって 死(・) を(・) 決(・) 定(・) づ(・) け(・) ら(・) れ(・) た(・) 一(・) 人(・) 目(・) の(・) キ(・) ャ(・) ラ(・) ク(・) タ(・) ー(・) であり、そんな友人を救うことができなかった絶望を活力に変え、グレイはさらなる力を求めることとなる。
そして、その強い意志を以てレイヴァーンによる最後の試練を突破し、聖なる炎の力を獲得するのだ。
そしてこれを機に、この世界は本格的に残酷な牙を見せ始める。
メインエピソードⅣにおける恩師リオンとの対戦を始め、グレイは様々な選択を強いられ、絶望を乗り越えながら突き進んでいくことになる。
……いずれにせよ、このままだとルクシアの死が確定していることは間違いなく、皮肉にもグレイがこれから待ち構える幾つもの試練を乗り越えるうえで、必須のイベントであることにも変わらないのだ。
そしてルクシア自身、日に日に自分の中に眠る魔王の力が膨れていっているのには気付いているのだろう。
近いうちに訪れる破滅の日を前に、救われる方法がないか探し、俺に期待しているのかもしれない。
けれど――――
「………………」
俺は、ルクシアに言葉を返すことができずにいた。
リオンに宣言したように、俺は自分の大切な人たち全員が幸せになる結末を望んでいる。
その証明がリオンの救出だったわけだし、当然ルクシアにも同じように救われてほしいと思う。
それでも答えられずにいるのは、リオンの時と違って、呪印にヒールを発動するような都合のいい方法がないことをよく知っているから。
今(・) の(・) 俺(・) に(・) ―――― 俺(・) た(・) ち(・) に(・) 、 ル(・) ク(・) シ(・) ア(・) を(・) 救(・) え(・) る(・) だ(・) け(・) の(・) 力(・) は(・) な(・) い(・) の(・) だ(・) 。
沈黙が長く続いたことで察したのだろうか。
ルクシアは突然、明るい笑顔を戻した。
「なーんちゃって、変なこと言っちゃったね! 忘れて! それじゃ、アレン!」
そう言って彼女は軽やかな足取りで背を向け、あっという間に走り去っていった。
あまりにも自然な動きで、まるで先ほどまでの暗い表情が嘘のようだ。
「………………」
去り行く彼女の背中を見届けた後、俺は静かに頭上の空を見上げる。
結界が消えた先に広がるのは、澄み渡る青。
それが果たして、誰の心情を表しているのかも分からないけれど――
「……俺は、絶対に諦めない」
――静かに、だけど強く俺は誓う。
歪んだ 現実(シナリオ) の終着点は、他でもない俺自身が選んでみせるのだと。
『死にゲー世界のモブに転生した俺は、外れジョブ【ヒーラー】とゲーム知識で無双する』 第二章 完