軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

076 逆撫で

――突如として現れた俺の存在に、周囲の視線が一斉に集まる。

立ち込める魔力の靄が揺らめく中、そこには様々な表情が浮かんでいた。

「貴様は……」

「アレン……」

ユーリは援護に来たのが俺であることに困惑し、グレイは純粋に驚いた様子で目を見開いていた。

そんな二人に対し、リリアナだけは小さく笑みを浮かべている。

その一方、彼女たちと対峙するジュリアンはというと――

「驚きましたね……手慰みの攻撃に過ぎないとはいえ、まさか一学生に私の攻撃が防がれるとは」

感心したように呟きつつも、余裕の態度を崩すことはない。

ジュリアンによる羽の射出はゲームにも登場した攻撃手段だが、一つ一つの火力は決して高くない。

それを防げる程度では自分の脅威にはならないという考えなのだろう。

(……ちょうどいい。ジュリアンが余裕を見せているうちに、やるべきことを済ませよう)

そう判断した俺は、素早く三人に指示を出すことにする。

「リリアナとグレイは今すぐポーションでMPの回復を! ユーリは下がってHPを回復させてくれ!」

「――――!」

「……分かりました。グレイさんも」

「う、うん」

ポーション類は使用制限があり、HPとMPを同時に回復することはできない。

そのため、それぞれの役割に合わせた方を使用するよう指示を出したのだが……素直に応じてくれているリリアナやグレイに対し、ユーリは納得いかない様子で剣を握り締めながら声を上げた。

「貴様、いったい誰に向かって呼び捨てで――いや、そもそも何のつもりで指揮を取ろうとしている? アルバート相手に辛うじて勝利を掴める程度の貴様に、私が指示される 謂(いわ) れなど――」

「うるさい、 へ(・) た(・) く(・) そ(・) 」

「――……は?」

一瞬、何を言われたのか分からないとばかりに、ユーリらしからぬ間抜けな声が零れる。その翡翠の瞳には純粋な驚愕の色が浮かんでいた。

数秒後、彼女は激昂に顔を赤く染め、肩を震わせながら口を開く。

「き、貴様、いったいなにを……」

「言葉の通りだ。さっきの攻防は見ていたが、馬鹿みたいに攻撃を仕掛けてただろ。ただでさえ格上の、それも暗黒属性を持つ相手に多少のダメージを与えたところで意味がないことも分からないのか?」

「っ!? な、な……」

果敢に攻めていたと言えば聞こえはいいが、この3人の中でユーリが最もダメージを受けているという事実が、無謀な行いであるということを如実に表していた。

強化魔法があるとはいえ、レベルも技術もまだユーリに届いていないグレイの方が軽傷なくらいだからな。

突然、最下位クラスの平民から思ってもいなかったであろう指摘をされ、ユーリは長い金髪を風に揺らしながら言葉を失う。

そんな彼女に向かって、俺は畳み掛けるように告げた。

「暗黒属性は厄介といえ、基本的には防御に特化しているだけ。攻撃自体は大したことがないし、 お(・) 前(・) の(・) 才(・) 能(・) なら十分に凌げるはずだ―― だ(・) か(・) ら(・) 、 ち(・) ゃ(・) ん(・) と(・) や(・) れ(・) 」

「………………」

今度こそユーリは呆然と、その場に立ち尽くす。

翡翠の瞳の奥で、様々な感情が渦巻いているのが見て取れた。

ゲームでも見られなかったような表情なため、かなり新鮮だ。

そんな彼女を眺めつつ、俺は表情に出さないよう注意して内心で苦笑する。

(乱暴な言い方になったけど……親愛度を稼いでいない状態のユーリに言うことを聞かせるには、これが一番だからな)

この時点のユーリはプライドの高さが先行し、親しくない相手からの純粋なアドバイスを聞いてくれるようなキャラじゃない。

あえてコンプレックスな部分を刺激し、逆撫でしてやる方が何倍も成功率が高いはずだ。

(それに、俺が考えている作戦にユーリの力は必要……悪いが、今回はこれで押し通すしかない)

本来は二年編に発生するはずだったジュリアン戦。

グレイやリリアナの実力が十分でない状態で始まったのは最悪だが……逆に、わずかとはいえプラスの要素も存在していた。

二年編の中間試験(クラス単位)から今回の中間試験(学年単位)に変わったことと も(・) う(・) 一(・) つ(・) の(・) 要(・) 因(・) もあり、この結界内には現在、ゲームのジュリアン戦時にいなかった貴重な戦力が2人存在する。

そのうちの1人が彼女、Aクラス代表のユーリ・シュテルクスト。

彼女を上手く扱えるかどうかが、これからの流れに関わってくる。

そして残されたもう一人は、もちろん――

「貴方はずいぶんと、ふざけたことを仰いますね」

――俺の思考を遮るように、ジュリアンが鋭い視線を向けてくる。

その表情には明らかな苛立ちが浮かんでいた。

「私があのお方から賜った暗黒の加護が、大したことないと……? いったいどういう了見で仰られているのでしょうか?」

「――それは、これから俺が教えてやるよ」

そう返し、俺は異空庫の指輪から純白の短剣――【エンチャント・ナイフ】と、漆黒の短剣――【ナイトブリンガー】を取り出した。

――――――――――――――――――――

【エンチャント・ナイフ】

攻撃力:+60

効果:自身の発動した魔法を内部に封じ込め、意図的なタイミングで発動可能。

――――――――――――――――――――

【ナイトブリンガー】

攻撃力:+90

効果:敵の防御力を100%貫通する一撃を与えることができ、代償として敵に闇属性が付与される。ただし人間や魔族、一部の魔物に闇属性が付与されることはない(貫通効果は適用される)。

――――――――――――――――――――

( 切(・) り(・) 札(・) を(・) 切(・) る(・) の(・) は(・) 、全ての準備が終わってからだ)

それまでは、俺一人で時間を稼ぐ必要がある。

そう覚悟を決めて二振りの短剣を構える俺を見て、ジュリアンが興味深そうに口周りをペロリと舐めた。

「ふむ……先ほどの魔法がプロテクトだとすれば、貴方のジョブは【聖騎士】あたりでしょうか……? 既に上位職であることと、その情報入手が漏れていたことには驚きましたが……その程度で調子に乗らないでください!」

ドンッと、ジュリアンの纏う魔力が膨れ上がる。

ア(・) イ(・) ツ(・) から与えられたであろう『暗黒の加護』もまた、ジュリアンにとっての聖域であり、そこを冒涜された事実に苛立っているらしい。

ちなみにジュリアンが勘違いしたらしい【聖騎士】は剣士の上位職であり、プロテクトを始めとした守り系統の聖属性魔法を扱えるようになるが、【ヒール】などの回復魔法や攻撃用の魔法を習得することはない。

それゆえ暗黒属性にトドメを与える手段を持たないことには変わりなく、俺を恐れる素振りはないようだった。

――いずれにせよ、俺のやることは変わらない。

「ふぅ」

小さく息を吐き、眼前の敵を見据える。

こうして俺とジュリアンの戦いが幕を開けた。