軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

047 アレンの決意

そもそも、俺がゲームのシナリオ通りに進めたかった理由は何か。

それは、シナリオから外れてしまえば俺のゲーム知識が活用できなくなる恐れがあるのと、グレイが特別な力を取得できない可能性が出てくるからだ(ダンジョン実習でワーライガーを倒した力とはまた別)。

特に後者は最重要事項。

一部のボスキャラを倒せるのはグレイだけなので、そうなったら俺の命はおろか、人類ごと詰んでしまう。

だからこそ、少しでもシナリオを踏み外さないよう――グレイに向けられるはずだった注目を奪ってしまわないよう、俺は実力を隠し、原作通りモブに徹してきた。

その方針を貫くなら、ここでわざとアルバートに負けてしまう方がいいだろう。

だが――

「…………?」

俺がちらりと、舞台袖にいるリリアナに視線を向けると、彼女は不思議そうに首を傾げる。

しかし――今、 現実(シナリオ) は変わった。

リリアナが本来より一年早く留学してきてしまったからだ。

既に原作との乖離は大きく、俺がアルバートと向かい合っているこの状況を始めとして、今後も大小さまざまな変化が生じることは間違いない。

その度に誰かが、できる限り本来のルートに戻るよう調整する必要がある。

そして、その誰かとは当然、この状況を招いた俺自身に外ならない。

俺にはそれだけの責任がある。

しかし、だ。

先日のワーライガー戦のように、常に 画面外(主人公のいないところ) で解決できる問題ばかりが発生してくれるとは限らない。

いつかは必ず、俺が表舞台に立たされる日がやってくるはず。

どうせそうなるなら、その日が少し早まるくらい構わないだろう。

――だから、

「ここで余所見だと? 舐めやがって……!」

思考の海に沈む俺の態度に怒ったアルバートが、唸るような声を上げる。

「エリートと落ちこぼれの違いを思い知らせてやる――喰らいやがれ!」

そして、威勢よく火球を放ってきた。

ゴウッと音を立てて飛翔する魔法。

それを見て、Aクラスを中心におおっと歓声が沸く。

早くも決着がつくと思い込んでいるようだ。

そんな中、俺は小さく呟いた。

「プロテクト」

――――――――――――――――――――

【プロテクト】LV1

属性:聖

分類:治癒系統の初級スキル

効果:MPを消費することで聖なる防壁を出現させることができる。

――――――――――――――――――――

ドンッ!!!

俺の目の前に出現した透明な防壁が、轟音と共に火球を受け止める。

眩い光の洪水の中、火球は防壁を突破することができず、煙をまき散らしながら呆気なく消滅した。

「な、なんだと!?」

煙の向こうから、アルバートの驚愕の声が響く。

闘技場内からも「ありえない!」「どうなってるんだ?」という困惑の声が次々と上がっていた。

(……よし、ちゃんと通用するな)

そんな中で、俺は小さく微笑む。

まともな攻撃手段をもたないヒーラーだが、防御手段なら話は別。

【プロテクト】はれっきとしたヒーラーのジョブスキルであるため、専門職以外が発動した際の減衰効果が存在しない。

そのため何の小細工をせずとも、真正面から防ぐことができたのだ。

とはいえもちろん、それはステータス差があってのこと。

俺のレベルは30で、ゲーム通りなら現在のアルバートは22レベルのはず。

この結果も至極当然だった。

ただ、俺のレベルを知らないアルバートは見るからに狼狽えている。

汗を浮かべた表情で、どう動くべきか悩んでいるのが手に取るように分かった。

(戦闘慣れしていないな)

その隙をつき、煙の中を抜けるようにして俺は突進。

そんな俺を見て、アルバートはようやくハッと現実に戻ってくる。

「くっ、バカが! まぐれで魔法を凌げただけで調子に乗ったのか!? 接近戦を仕掛けてくるヒーラーなんて怖くもなんともない! カウンターを浴びせてや――」

「瞬刃」

「な――がはっ!」

加速する木製の短剣。

それを腹に喰らったアルバートが吹き飛び、勢いよく舞台上を滑っていった。

すると、

「見たか? 今の動き……まるで剣士みたいだったぞ」

「ヒーラーのくせに、なんであんな戦い方ができるんだ……?」

「冗談だろ……Aクラスのエリートが、Eクラスの 最弱職(ヒーラー) に……」

「す、すごいけど……いったい、どうなってるの?」

まさかのEクラスのヒーラーが圧倒している光景に、クラス関係なくギャラリーが騒然となった。

Aクラスの面々は唖然とし、Eクラスからは小さな歓声も上がる。

そんな中、舞台袖からはリリアナの満足げな微笑みと、ユイナがホッと胸を撫で下ろす姿が見えた。

「ごほっ、ごほっ。お前は、いったい……」

「…………」

尻もちをつくアルバートを見下ろしながら、俺はゲームのコイツを振り返る。

現在は分かりやすく周囲のヘイトを稼ぐ小悪党キャラのアルバートだが、『ダンアカ』ではコイツの出番はこの後も存在する。

この交流戦でグレイに敗北したのを機に、時間をかけてまともな性格……とまでは言えないが、ムカつくけど憎めない程度のキャラにまで成長するのだ。

そして一部のシナリオでは活躍の機会もしっかりと用意されており、意外にも重要な役割を担ったりもする。

だからこそコイツには、ここでしっかりと屈辱を刻み込んでおく必要がある。

(まずはその役割を、 主人公(グレイ) から俺が引き継ぐとしよう)

――と、ここまでが理由の大部分だが、正直なところ感情的な物も少しある。

これまで散々、こちらの思惑を嘲笑うように変化し続ける 運命(シナリオ) に、かなりのストレスが溜まっている現実があった。

だからだろうか。そのストレスをここらで、存分に晴らしたい気分だったのだ。

俺は目の前のアルバートに向けて宣言する。

「悪いな、アルバート――少し、 憂(・) さ(・) 晴(・) ら(・) し(・) に(・) 付(・) き(・) 合(・) っ(・) て(・) も(・) ら(・) う(・) ぞ(・) 」

「……は?」

意味が分からないとばかりに困惑の声を上げるアルバート。

そうして、模擬戦本番が始まった。