軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

025 ダンジョン実習

「ふぅ、何とか間に合ったか」

数十分後、1-Eの教室。

ちょっとしたトラブルに巻き込まれはしたものの、時間通りに登校できてホッと胸を撫で下ろす。

「おはよう、ユイナ」

そのまま自分の席に着くと、俺は前の席に座る茶髪の少女――ユイナ・ネルソンに、いつも通りの挨拶を告げる。

しかし、

「え? う、うん。おはよう、アレンくん」

「……?」

その声には、いつもの柔らかさが感じられなかった。

俺と視線を合わせようともせず、どこか落ち着かない様子で机の上の教科書を弄っている。

いったい何があったのかと気になったが、そんな俺の思考を遮るように教室の扉が開く音が響いた。

「皆、揃っているな」

聞き慣れたセリフと共に、担任であるリオンが入ってくる。

肩甲骨まで伸ばした白髪と、相変わらずの凛々しい佇まいが目立っていた。

「さっそくだが、今日はダンジョン実習だ。準備はできているな? 現地まで移動するぞ」

こうして、『ダンジョン・アカデミア』のプロローグ最終パート、ダンジョン実習が始まった。

◇◆◇

しばらくして、俺たちはEランクダンジョン【新星の迷宮】の前に集まっていた。

ここ【新星の迷宮】は全5階層のダンジョン。

下の階層に行くほど魔物の強さが上がり、厄介なギミックも複数存在する。

とはいえ上階層に限れば、第1階層は5レベル以下、第2階層でも10レベル以下の魔物しかいないため、かなり安全とされている。

「全員、魔導学生証は持っているな? この魔導センサーにかざすことで入場が許可される。私に続いて入ってこい」

リオンの案内に従い、俺たちはセンサーに魔導学生証をかざして中に入る。

中はいわゆる洞窟型のダンジョンで、以前に入った【駆け出しの迷宮】と似た雰囲気をしていた。

「ギィィィイイイイイ!」

リオンの先導のもとダンジョン内を歩いていると、さっそく魔物が出現する。

骨だけの体が特徴的な魔物、スケルトンだ。

ここはまだ第一階層なので、レベルも5以下と非常に弱い。

それを一振りで倒したリオンは、魔物と初遭遇したにもかかわらず、学生たちに動揺した様子がないのを見て小さく頷く。

「ステラアカデミーに入学できる時点で、ここにいる者の多くは魔物を討伐した経験があるだろう」

一息入れ、リオンは続ける。

「しかし、ダンジョンは常識が通用しないことも多く、様々な厄介なギミックを孕んでいる。落とし穴や石針といったシンプルな罠はもちろん、魔物が大量発生する魔力溜まりや、高難易度の階層まで強制的に移動させられる転移魔法陣まで、その内容は多岐にわたる。【駆け出しの迷宮】を始めとした一部の低ランクダンジョンのみがこれまで入場を許可されていたのは、そういったギミックが存在せず危険性が低いためだ。ここを含め、遭遇するギミックの悪質さによっては、低ランクのダンジョンでも呆気なく命を落とすことがあると、重々承知しておけ」

真剣な表情で釘を刺すリオン。

それを聞いた学生たちは、ここまでどこか物見遊山気分だったのを反省するかのように、ごくりと固唾を呑み込んでいた。

引き続き、ダンジョン内の探索は続く。

リオンはそのまま1~2階層で発見済みのギミックを解説し、次の課題を出した。

「では、これから実際に探索を行ってもらう。行動範囲は1~2階層に限り、ここまで説明したギミックには引っかからないよう重々承知しろ。一時間後、討伐した魔物の魔石を提出してもらう。その質と量次第では加点もあるため心するがいい」

(――来た!)

俺にとって、待ちに待った自由時間だ。

この隙に、探し求めていた隠しアイテムを手に入れるつもりだった。

その隠しアイテムが存在するのは第3階層なため、リオンの言いつけを破ることになる。

周囲はさっそくパーティーを組んでいるようだが、ここは単独行動といくのが一番自然に動けるだろう。

「っ!」

「…………」

その時、ふとユイナと視線がぶつかる。

が、一瞬で外された。

今朝の挨拶と同じで、どこかいつもと様子が違う。

距離を置かれている……というよりは、何か話しかけたいことがあるけど、うまく切り出せずにいるような感じだ。

(何があったんだ? ……それともまさか、本当に俺が、知らないうちに彼女を怒らせるようなことをしてしまっていたり……?)

ユイナと知り合ってまだ二週間だが、彼女が優しいことはよく知っていた。

さらにはゲーム時代から好きだったキャラクターでもあるのだ。

そんな彼女に嫌われているとしたら、ショックもショックだが……

(いや、気のせいだよな。それより今は切り替えよう。ここからは時間の勝負になるんだから――)

「ねえねえ」

「――ん?」

などと思っていた矢先、後ろから声をかけられる。

俺は振り向き、そこにいる少女――ルクシアを見て目を見開いた。

「えっ?」

思わず、間抜けな声まで零してしまう。

しかし、ルクシアはそんな俺を気にする素振りもなく、

「私と組もうよ、アレン!」

元気いっぱいの様子でそう言ってくる。

だが、俺からすればそれどころではなかった。

「……何で、ルクシアがここにいるんだ?」

「ええっ!? 私も同じクラスメイトだよ!?」

ルクシアの反論はもっとも。

しかし、俺がそう尋ねたのには理由があった。

というのもだ。

ルクシアは実力が飛びぬけているためか、ゲームでは何かと理由をつけてパーティーに入れられない場面が多く、仮に入れられたとしても主人公を含めたパーティーメンバーの獲得経験値が少なくなるなどの仕様が存在していた。

このイベントは前者だ。

『ダンアカ』ではダンジョン実習が終わった後、遅れてやってきたルクシアが――

『通りすがりの貴族のご令嬢を助けてたので遅れました! いっぱいお礼してもらっちゃって、断るのも申し訳ないと思ってたらこんな時間に~! えっ、グレイくんがジョブを獲得したの!? すごーい! 見たかったー!』

――と、明らかに嘘としか思えない言い訳をしていたはず。

なのに、いったいなぜ……

想定していなかった事態に、俺は困惑するしかなかった。