軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

012 アレンの境遇

突然のことに戸惑う俺の頭上で、エリーゼは続ける。

「本当に……一週間も眠っていたんだもの。無事だと分かっていても、心配せずにはいられなかったわ」

一週間という言葉を聞き、俺は思わず目を見開いた。

「そんなに経ってたんですか?」

「ええ。それだけ魔力の枯渇が酷かったものだから」

そう告げながらも、エリーゼはまだ俺を抱きしめたままだった。

(いや、その……柔らかいのはありがたいんですが……)

苦しさと気まずさのあまり身をよじると、ようやく俺の様子に気が付いたのか、エリーゼは急いで離れてくれた。

「あら、ごめんなさい……けど、その様子だと私のことは覚えていないかしら?」

「……えーっと」

ゲームのキャラクターとしては知っているが、アレンとしてどこで関わったのか分からない。

答えに詰まっていると、エリーゼは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。

「……そう。私はエリーゼ・アデライン。ここステラアカデミーで保健医をしているわ。話したいことは山ほどあるけれど……まずはこちらが先ね」

そう切り出したエリーゼは、この一週間の出来事を説明してくれた。

リリアナたちが無事で、実はアイスフェルト皇国の皇女だったこと(これについては始めから知っていたが、驚いたふりをしておいた)。

そして諸々の事情により、一度帰国することになった、と。

(まあ、状況を考えたらそうなるよな……)

問題は、これによって今後のシナリオがどう分岐するか。

リリアナが登場するのは二年次からなので、しばらくは大丈夫だろう。

だが、必ずどこかのタイミングで歪みが生じるはずだ。

どう対処したものかと思いつつ、ひとまず直近の疑問について尋ねてみる。

「そちらの事情は分かりました。ところで、俺は貴女と会ったことがあるんでしょうか?」

「ええ。アレンくんがまだ幼い頃だったから、忘れていても仕方ないわ。私は貴方のお母さんと、学生時代からの友人だったの。その縁でね」

そういえば、設定資料集によるとエリーゼは確か30代だった。

見た目は20代半ばにしか見えないが、それはさておき。

まさか、ただのモブだった 俺(アレン) とエリーゼにそんな関わりがあったとは。

驚きを顔に出さないようにするも、思わず眉をひそめてしまう。

そんな俺を見て何か勘違いしたのか、エリーゼは優しく微笑みながら語り始めた。

「……ご両親のことは残念だったわ。話を聞いた時、私もしばらくは信じられなかったもの。けれどアレンくんは強いわ。挫けず、目標を叶えるためにこうしてアカデミーに入学したんだから」

……ふむ。

まだ完全に状況が呑み込めた訳ではないが、エリーゼはアレンの境遇について知っていて、そこに心を砕いてくれているらしい。

(これは、アレンのことを知るいい機会かもな)

正直、俺だってまだ 俺自身(アレン) のことをしっかりと把握できていない。

ここでアレンのことを知る彼女と出会えたのも何かの縁だろう。

そう考えた俺は、自分にアレンの記憶がないことをバレないように気を付けつつ、エリーゼから少しずつ話を引き出していった。

――アレンの家族に起きた悲劇は、二年ほど前のことだった。

街道を馬車で移動中、アレンたち家族は突如として、正体不明な魔物の襲撃を受けた。

アレンは軽傷で済んだものの、父親は命を落とし、母親は重傷と共に強力な呪いをかけられてしまう。

その時、同じ馬車に乗っていた半数が死亡。

なんとか魔物を追い払うも、最悪なことに、魔物のかけた呪いはディスペルを始めとした現存するスキルやアイテムでは癒すことができなかった。

もし治せる可能性があるとすれば、呪いを解除できるだけの伝説のアーティファクトを見つけるか、解呪できるだけの実力を持ったヒーラーが現れるしかない。

しかしこの世界でヒーラーは最弱職扱いであり、それだけの実力者などいるはずもなかった。

そのことを知ったアレンは、自らがヒーラーとなり、呪いを解除できるだけの実力者になることを決意したという。

一年前のジョブ選択の際、迷うことなくヒーラーを選んだのはそのためだ。

だが、その努力も虚しく、ほんの数か月前、母親は呪いに耐え切れず命を落としてしまう。

エリーゼは病床に伏せる母親から近況を知らせる手紙を受け取っており――それ以来、ずっとアレンのことを気にかけていたらしい。

――というのが、アレンにまつわる今日までの話。

そこまでを聞き終えた後、真っ先に俺が思ったことはたった一つ。

(お、重たい!)

設定資料集でアレンに家族がいないことは知っていたが、まさかそんな重たい過去を持っていたとは。

ただのモブに与える境遇じゃないだろと衝撃を受ける。

すると、エリーゼはそんな俺を安心させるように、微笑みながら言った。

「私は何があっても貴方の味方よ。何か困ったことがあれば、いつでも私を頼ってほしいわ」

「……えっと、じゃあ、よろしくお願いします」

「っ、ええ!」

満面の笑みを咲かせるエリーゼ。

ゲームではクールな妖艶キャラだったはずの彼女からは想像できない表情に、俺は思わず見惚れてしまった。

その後、俺の体調について確認を終え、ひとまずこの場はお開きとなった。