軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.巨大畑と愉快な農家たち・後

「はいお待たせー、『タイダルウェイヴ・リトル』!」

駆けつけた作業着お兄さんが両手を下から上へと上げると足元に30cm四方の薄い水壁が現れ、その高さを保ったまま畝をサーッと進んでいく。

これは、大量水撒き魔法…!?

「すごいにゃん!」

「わはは、限界縮小した真水の津波魔法だぜ! 直線距離のある畑じゃないと役に立たないけどなー!」

津波は高LV『理力』をもってしても曲げられないらしいので、直線専用らしい。でも畑はよほど辺鄙なところに作ってない限り、まっすぐなものだから問題ないだろう。威力を限界まで縮小しているので、土も削らないし作物も傷めない、まさに畑専用水撒き魔法に調整してあるのだとか。

他にも嵐をもたらす魔法を縮小して小さな雨雲を畑に出す『テンペスト・ミニミニ』などの大規模水撒き魔法もあるらしい。小さく出すだけじゃなくて『理力』で雨雲をコントロールする必要があり、そちらは更に難易度が高いそうな。同じところに延々水撒いてたりしたら根腐れしちゃうもんね。

攻撃魔法を放つと畑はすぐ駄目になってしまうので、畑魔法(?)はダメージ判定は出ず現象だけは起きるギリギリを狙う『魔力操作』の限界縮小と、それを操る『理力』の習熟が問われる分野なのだとか。

ヒーラーは『回復属性魔法』の『魔法師』だから、『魔力操作』や『理力』は当然持ってるが、縮小の習熟はあまりしないものなので、畑魔法はマイナーなんだって。へええ。でも大きい畑には、あったら絶対便利だよねえ。

ちなみにミニとかリトルとかついてるのは固定詠唱とか呼ばれるやつで、何度も同じようにアレンジして使ってるとそれを魔法パターンとして登録出来るやつ。

もちろん縮小よりも拡大の方がよく使われる。有名どころで言うと『ファイアーウォール・ワイド』とか。『ファイアーウォール・デラックス・スペシャル・パノラマ・ワイド』まであるってマ?

そして魔法名を声に出す人はだいたい『詠唱』という呪文を言うと効果が上がるスキル持ち。PTプレイでは分かりやすさ重視で何の魔法を使っているか声に出すことが求められるので、このスキルもついでに取ってる人が多いのだとか。

治癒師はこれを持ってるか持ってないかで大分回復量が変わるらしく、必須に近いそうな。

『我が呼び声に応えよ!』みたいなのつけると更にパワーアップするらしいが、芸術点(?)が問われるのでなかなか難しく、やる人は少数派とか。

カソックお姉さんにトランスファーでMPを回復してもらい、『タイムパス』。作業着班が『プランツ・サンクチュアリ』するので『クリーン』はなしだ。

『プランツ・サンクチュアリ』は、範囲がちょうど畑1枚分らしい。

途中『畑ロリポリ』が徒党を組んでごろんごろん襲ってくるトラブルもあったが、歴戦の農家たちの敵ではなかった。

彼ら相手ではロリポリはもはやただのボールだ。直径20cmくらいなのでほんと黒いボール。開いてるとかなりでかくてやばい。しかし丸まってる内は転がる以外出来ないので、投げられてはキャッチ回収されて畑の外に放り投げられる運命。

カソック班のMP回復や作業班で交代休憩してるベンチの方へ集められ、彼らがぷすぷす刺して手作業で駆除していく。ロリポリの防御は厚いが、簡単に倒すツボがあるらしい。

「畑ロリポリもギルドに納めるにゃ?」

「うちではコンポスト行きね。意外といい土になるのよ」

「コンポストやっぱり便利にゃん?」

「メインの獲物にもよるわね。機械系とか無機物系の素材はコンポスト入れられないし、植物系だけだとあまりいい土にならない。いろいろな狩り場を持ってないと、宝の持ち腐れよ」

「にゃあ…」

猫はそれほど戦闘してないので現段階で持ち腐れるのはわかっている。物欲退散ッ!

「モグラもコンポスト?」

「普通のはそう。さっきのみたいなちょっとでかいのは、場合によってはギルド報告がいるから注意が必要ね」

ギルド畑では、この害獣が出たら報告が義務って種類がたまにいるんだそうだ。そういうのの報告が漏れると駆除が間に合わず畑に大量に出るようになり、今回のような畑レイドが起きることになる。

「今回のは現場になる地区を全部プレイヤー畑でおさえて、敢えて放置してレイド起こしてみようって話になったんだけどね。根源絶つとどうなるんだろう?ていう興味もあり」

ちなみに今回のレイドはノシシらしい。うん、猪だ。そのために地区の畑で結託して瓜坊を見逃し続けてきたそうな。

あれやこれやと話しつつぽくぽくと歩いては魔法を使い、トランスファーしてもらい、進んでいく。

そのうちカソックお姉さんのMPが切れて交代。さっきの牛獣人お兄さんになった。ルイに乗ってても見上げるほどでかい。

さすがに農作業時はカソックではないのか、白いツナギの上下に、麦わら帽子装備になっている。

彼とも農業情報交換をしつつ魔法をかけてはトランスファーしてもらっていると、ポユズさんが参戦してきた。

ポユズさんもデニムのツナギに麦わら帽子だ。形から入るタイプ! 猫はそういうノリ大好き。

「お待たせ! ラン、ありがとう、僕も出来たよ」

「ポユズさんもおめでとうにゃ~ん!」

「ついでに『タイムパス』も覚えてきたから、僕に任せて!」

「有能~~!」

やんややんや。ひとしきり褒め称え、猫は休憩に回る。

魔力回復部隊はいるけど、ずっと作業してると疲れちゃうだろうからと適宜休憩が取れるホワイトなアルバイトだ。

ヤマビコさんはポユズさんから教本を預かったそうで、『タイムパス』を覚えるために一旦帰っていった。

そういえば『水晶玉』は狙い通りうまく使えたらしい。だからヤマビコさんは畑を出たらたぶんフーテンさんに回収されて、彼のマイルームで『水晶玉』借りるんじゃないかな?

さすが上級者ポユズさんの超範囲拡大『タイムパス』は広大。

ワッサーッと緑が生え伸びたあと、追うように『プランツ・サンクチュアリ』の光の柱が乱立する様は、まさにどこかの聖域のようですらある。畑だけど。そのあと緑の網が大量に射出されたり、ロリポリが砲丸投げのように宙を舞ってたりするけど。

ミニ津波がワーッと畑を走っていき、作業班がわらわらと座り込んで若葉を取ったり、脇芽を摘み取ったりしている。

コボルト連れの人も結構いるようで、麦わら帽子のワンコたちがハサミ片手にせっせと収穫してるのはなかなかに可愛い。えっちらおっちら籠を運んでいくワンコもいる。

柴犬とヨークシャーテリアが多いな。産地の違い? それとも飼い主さんの好み? いいなあ、コボルト。

ヤマビコさんひとりで魔法使ってたときは、ヤマビコさんの休憩時間や作業効率考えるとギリギリ間に合わんかも~だったけど、ポユズさんの拡大魔法と、あとヤマビコさんもパワーアップする見込みなのでかなり余裕が出たらしい。猫の魔法はにぎやかしだ。のんびりバイトになった。

そしてヤマビコさんが帰ってきた後には、猫の魔法はお役御免。『魔力操作』のLV的にMP効率的な問題がね、はい。

せっかくだから農業経験値も稼いでく?と誘われ、収穫のお手伝いに参加することにした。

猫のギルド売店にはまだ出てない種だから、LV足りんかもしれん…と思ったけどそうでもなく、普通に収穫出来てしまった。横で見てくれていた牛獣人さんに感心された。

「猫さんは『魔力感知』とか持ってます? 収穫する葉が的確なので失敗しないんだと思いますよ」

「『魔力感知』はまだ持ってないにゃん。採取と同じ扱いになるなら『発見』かにゃ?」

魔力感知が農業で使えるなら『マジックセンス』もありか、と使ってみると、あ、なるほど、葉が光る。

この葉脈に光がつまってるやつが収穫サイン? 収穫の成否によって経験値に差があるらしいから、『魔力感知』の有無は農家にも重要なのかもしれない。出たら是非取得しておきたい、『マジックセンス』の上位互換ときくし。

そんなこんなでわちゃわちゃしているうちにリーさんが合流し、最終的にはエドさんとフーテンさんも合流した。

「にゃあ、みんな出来たにゃん?」

今日の今日じゃ無理って話じゃなかったっけ。

「ヤマビコが売店でプランター買ってきて『倍速農業せえ』とかいって預けて来たから早まったんだよ~。大変だったけどねえ」

なるほど植木鉢よりプランターの方が一気に育てられる。

プランターはギルド加入してないと買えないので、ヤマビコさんはジョブ登録して気づいたんだろう。猫は気がつかなかった。有能~!

しかし終わりかけだったため、せっかくの高MP魔法師なのにフーテンさんはあまり出番がなかった。

「いや~、せっかくだから農家レイド参戦どう?って話になって。俺の出番はそこからよ~。猫ちゃんも参加する?」

「いくらなんでも適正LVってもんがあるにゃあ」

「生産関連だからそこまででもないんじゃないか? 農業LVでダメージ入るとかだったら、フーテンなんてカスだが」

「やばい、ありそう」

せっかくアタッカーとしてスカウトされたらしいのに、ダメージカスだったら面白すぎるな。

話してたらヤマビコさんと牛獣人さんも休憩にやってきた。

「フーテンは笑い事で済むけど俺なんてタンクやぞ、洒落にならんわ」

「害獣は畑の持ち主のLVとか一切考慮せず突っ込んでくるから、そういうのはないですよ」

と牛獣人さん。この人がヤマビコさんに野菜を卸してた人らしい。ら、ライバル農家だった?

「だから専業農家ってマイルーム農業せざるを得ないんか」

「畑がでかくなるとどうしても害獣との戦いですからね。魔法雷柵とか、金でどうにかなる部分もありますけど」

「猫ちゃんはやっぱりレンタル畑はやらないの?」

「レンタル畑よりはマイルーム増築で畑を増やしたいにゃん~」

レンタル畑の話をあれこれ聞いたけど、とにかく金がかかるという話だったし、なにより広い畑を魔法農業するにはMPが足りなすぎる。

猫にはマイルーム農業が合ってるにゃんね~。

「拡張じゃなくて増築なの? 壁紙高いよ?」

「拡張するにはLV30にならないとダメにゃん」

「あ~それがあったねえ。早く大きくおなり…。レイドやっぱり参加しといたら?」

「減衰はするでしょうが、経験値はかなり入ると思いますよ。攻撃いれたりしないまでも、バフでもあれば適当にまいてもらえれば、貢献度で経験値もらえますし」

「バフ持ってたっけ?」

「ないにゃんねえ」

改めて考えても変な魔法しか持ってないな。

「ありゃ。なら、投擲で攻撃仕掛ける方ですかね。参戦して観戦してるだけでももらえますが、多少は撃った方が貰えるものが多いですよ」

「にゃん~マケボでバフの教本でも探してみるにゃん~」

「勤勉だねえ。観戦レイドなんて初心者の頃にはよくあるから気にしなくて大丈夫よ~」

「ぽかーんと見てる内に終わってたってパターンがあるある」

「ありますねえ」

いやいや。見てる内に終わってたっていうのと、最初から何も出来ないのがわかってて参加するのはなんか違うじゃん?

この前のミミット大行進みたいになるなら何も出来ずに終わる自信があるぞ。

無事収穫はすべて夕方前に終わり、若葉も結構刈り取ることが出来たそうで、バイト代はかなり弾んでくれた。やったぜ。

元凶農家さんは作業着からカソックに着替えていたが、これがやたらと似合う金髪碧眼銀縁メガネの落ち着いた青年神父さんで、とても種が取れない畑が死んじゃうと大暴れした人には見えない。

「この度は皆様にご迷惑をおかけしてしまいました。ご助力に感謝いたします。あなたに豊穣神のご加護がありますよう…」

にこりと微笑み、黙礼をする姿はまさに神父。低くて耳触りのいいお声。ファーザー・ファーマー。作業着農家にバイト代を配りに行く後ろ姿までぴんと背筋が伸びている。雰囲気のある人だなあ。

「…もしかしてロールプレイ勢にゃん?」

「そうよ~。掲示板で暴れまわったのがあの人だってわかったときにはかなりざわついてたよ。ガワが剥げたの初めてだったからねえ」

なるほど、ロールプレイが思わず剥げるほどだったから、手伝い人員が集まったのかもしれんな。あとで掲示板ちゃんと見ておこ。

ちなみにバイト代を払いにいった先でもみくちゃにされてブチ切れて高笑いしながらクワを振り回していた。歓声が上がっている。ガワ…?

「あ、あれもロールで、黒神父と白神父の二重人格設定なんだよ~」

「なるほど……?」

奥が深い世界ね??