軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45.猫の店~買取ときどき情報屋~

買取露店ゆえいつも通り客足はよろしくないが、このまったり感がいいので問題はない。

さて今日の露店では何をしていようかな。今はいくら作っても売れる『ストームキャンディ』があるけど、さすがにそればかり作るのも飽きてきた。猫は移り気な生き物。

ウィンドストームの『魔法玉』を研究してもいいけど、菱形はなあ。ちなみに真円だと『白真珠』や『 宝硝子(ビジュー) 』の最低品質じゃないと成功しない。中級の、しかも範囲攻撃魔法となるとさすがに素材の要求レベルが高い。上級魔法の素材なんて、レア度は天井知らずなんだろうなあ。こわやこわや。

一応持ってきた『錬金釜』を前に何をしようか迷っていると、よく知る人影が店の前に現れた。

「ランさん、こんにちは!」

「にゃあ、ペチカにゃんにゃ、いらっしゃいにゃん!」

今日は銀髪をお団子にまとめたスタイル、ペングーを抱っこしたペチカちゃんである。お供はすっかり大きくなったマッスルミミットのピピちゃん。今日はダチョウはお留守らしい。

「お手紙ありがとうございました。さっそくオズの国、行ってみましたよ!」

「フッ軽にゃ!」

お手紙は、先日運送ギルドから出した。ゲームの中にはメールもあるけど、お手紙もある。元はNPCに連絡を取る機能なのだけど、プレイヤー同士も利用できる。ペチカちゃんとはペンフレンドでもあるのだ。

それでこの前のお手紙には廃墟の街へ行ったことを書いたのだが、さっそく行ってみてくれたらしい。

「オズの気球に乗るの、とってもよかったです!」

「オズの気球」

知らない情報ですね。

「踵を3回打ち鳴らす新しい魔法も、物語の中に入ったみたいでよかったです~」

「銀の靴にゃんね」

知らない情報ですね……?

「猫とは違う冒険をしてきてるにゃ」

「えっ、そうなんですか!?」

ペチカちゃんいわく、まず竜巻に巻き込まれたあと『ウィンドストーム』無しで廃墟の街へ辿り着けたらしい。

にゃんと??

そこからしてだいぶ変わってくるな。

『欠けた通行証』の話は出ず、案山子、樵、ライオンを仲間にしたあとはBOSSが現れて倒したんだって。

ペチカちゃんもシンデレラでこそないけど、HPは低いはずなんだけどな…!?

廃墟の城へ入った後に、人形たちのお願いを聞いて奔走したのは一緒。でもメタルの木や、ゴーレムおばあさんには会わなかったそう。

「メタルの木、中庭にそんな面白そうな木があったとは知りませんでした…!」

「邪悪なガチャの木にゃんよ~」

「せっかく回せるガチャなら回したいのが人情じゃないですか?」

それはそう。行ったところにあった誰でも回せるガチャなら回しておきたいよね。

「ゴーレムも、最近気になっているので仲間にしたかったんですよね。やはりドゥーアかなって思ってたんですけど、もし廃墟の城でも仲間に出来るのだとしたら、迷いますねえ」

ゴーレムおばあさん以外にも、修理したら仲間になってくれるゴーレムっていそうだったもんね。

廃墟の街の方でもゴーレムっぽいものはうろついていたわけだし。

残念ながらペチカちゃんもオズに会ったわけではなくて(たぶんここは会えない仕様なんだろう)、人形のひとりが気球を飛ばしているのに立ち会って、乗せてもらえたのだそう。

「上空まで上がると、なんと、天空を漂う島が見つかるんですよ!」

「にゃん!?」

そ、それはファンタジーではありがちなやつ!

このゲームにも存在したのか!

「地図上に放浪する島がマークされるんです。どうやって行くのかはまだわからないんですけど、ワクワクしちゃいますよね!」

「それはワクワクにゃんね~! 猫も気球に乗ってみるにゃん!」

行き方はわからなくても、そんなの絶対楽しいやつだ。いつかの楽しみとしてもマークしておきたいところ。

それから踵を3回鳴らす魔法とは、いわゆる動作縛りの魔法らしい。複雑な動作と紐付けられている代わりに威力の大きな魔法が多く、舞踊魔法などと言われることもある。ロマン砲スレにも愛好者が多い、といえばどんな感じかなんとなくわかってもらえると思う。

そんな舞踊魔法に位置すると思われる踵を3回の魔法だが、効果はなんということはない、ただの『リターン』だそうだ。

「ちょっと楽しくなるだけの魔法って感じですね」

「にゃあ、たまにはそういうのもいいにゃんね」

「ですね、帰るときにあの場所で使うのはすごく楽しかったです!」

ペチカちゃんの方が、オズの魔法使いに沿った冒険をしてきた感じだな。中級魔法師向け、といったところだろうか。

猫たちの通ったルートは、明らかに人形製作師関連ルートだったから、別物だったのかも。

たぶん、竜巻からそのまま辿り着けたのとか、踵を3回の魔法とかはペチカちゃんの現在の装備が『ロキの靴』で、銀の靴だからだろう。

フーテンさんも靴は持ってきていたけど、竜巻前から装備していたわけじゃなかった。二回目は途中から装備していたようだけど、『欠けた通行証』の話が出た時点で外していたみたいだし。

うーん、推奨装備ってあるもんなんだな。

ペチカちゃんはメタルの木が気になる、猫は気球が気になるということで、今度いっしょに廃墟の街まで行く約束をした。

「中庭に『マジックコットン』があったから、糸の相談もまたさせてもらいたいにゃん~」

「『魔綿の糸』ですね、任せてください! 私としても、この糸は作れはするけどまだ加工するにはLVが足りなくて、余りがちだったので助かります」

そういうのもあるのか。

それでも裁縫素材が流れてこないのは、普通はそこで溜め込んでおくかららしい。布にするのって糸がたくさん必要なんだって。気にせず横流ししてくれるペチカちゃんはやさしい。ありがたや。

「私、あまり織物に興味がないんですよね。布を作るのって大変で難しくて」

「にゃあ」

「だから糸の加工っていうとミサンガとか栞とか、あと編み物が関の山なんです。といってもこれはこれで深い沼なんですけども」

「『裁縫』は派生スキルが半端ないって聞いたにゃ」

「ですねー! 私は服飾関連じゃなくて、装飾関連の裁縫師を目指そうと思います」

「応援してるにゃん~!」

あの裸足でポルクスに齧られそうになってた子がこんなに大きくなって……と猫はちょっと感動である。

予定はまた今度合わせることにして、今日のところはお別れ。ペチカちゃんは天空島の情報収集のために学園都市の図書館へ行くそうだ。

「なにか新しい情報があったら、またお手紙出しますね!」

「楽しみにしてるにゃん~!」

お見送りをして、買取露店を眺めるとまだまだ全然である。今日はもう少し、露店してようかな。

それにしても天空島とは楽しそうだなあ…。

ちょっと情報があるか掲示板を覗いてみたけど、まだ「上空を飛んでいたら見かけた」とか、「雲がかかったかと思って空を見上げたら島だった」のような目撃情報がUMAスレに上がる程度で、天空島と確定したわけじゃないみたい。動いているように見えたという話もあり、超巨大な鳥説も出ている。

超巨大な鳥といえばロックランドバルバトロスがいるけど、あれより大きいとなると「さすがに飛べないんじゃないか」という声が大きい。いやロックランドバルバトロスも、どう考えても飛べるサイズじゃないんだけどね!

海を泳ぐ亀島もあったことだし、やはり天空には島があってほしい。気球に乗るのが楽しみだ。双眼鏡を持っていかなきゃ。いや双眼鏡なんてあるのか?

あー、『遠見』ていうスキルがあるみたい。弓師御用達のスキル。それを補佐する装備品もあって、ゴーグルなどが該当する……、あれ、猫ゴーグル持ってるな。『ドラゴンフライ・グラス』。

ちょっと取り出して調べてみると、やはり視力系スキルの補佐をする効果がついていた。『遠見』、『遠見』かあ……、ちょっと気になる、猫も投擲師だから。

迷ったときには先輩のエドさんに聞いてみよう。メールしとこ。

虚空を見つめてメールを送信していると、店の前に誰かが立った。

背の低い人影。猫のかたちの耳。

「こ、こんにちはニャ」

「にゃあ、ケータくんいらっしゃいにゃん~」

おや、珍しい。

猫の店に来るのなんて、最初に御礼を言いにきてくれて以来じゃないか?

あ、そうか。

「精霊の新しいおうちをお探しにゃん?」

「違うニャ。ちょっと聞きたいことがあって、もしかしたら知ってるんじゃないかって……、いや、無理に教えてくれなくても構わニャいけど……」

しどろもどろに何か言って、最後には両手を前に出してイヤイヤ、と首をふる。ケータくんの肉球は小豆色。

「つまり、どういうことにゃん?」

「かっ、風猫族の里を探してるニャン!」

「そんなものはないにゃん」

「ニャン!?」

「て、風猫族の虎猫さんに言われたにゃんね~」

「にゃ、ニャンと……」

がっくりと肩を落としているケータくん。

なるほど、おそらく種族クエストを探しているのだろう。猫も探しているけど、今のところLVといいランクといい、まだ差し迫ってないからなあ。

ケータくんはそろそろ、そういう お年頃(レベル) なのかもしれない。

「八方塞がりニャン~!」

「にゃあ、そんなに情報がないにゃん?」

「全然ニャン! 風猫族スレはとっくの昔に落ちてるし、風猫族のクランとかも集まりもないニャ! 情報交換の場が全くないニャン~~!」

そうだったのか。

プレイヤーの風猫族をあえて探そうと思ったことがないから、全然知らなかった。風猫族スレが落ちて久しいのは知ってたけど、そもそも全然使われてなくてにゃんにゃん言ってるだけのスレだったしなあ。

「にゃあ、NPC風猫族を地道に探していくしかないと思うにゃん」

「そう簡単に見つかったら苦労はしてないニャ~~!」

それはそう。

しかし種族クエストについては、猫も気になっているところだ。情報を教えてもいいけど、猫も情報が欲しい。こういうものは等価交換である。猫も錬金術師らしくなってきたなあ。

いやこのゲームの『錬金術』等価交換関係ないけども。

「情報はどこまで出てるにゃ? 何人の風猫族に会ったにゃん?」

「風猫族にはひとりしか会えてないニャ。黒猫で、魔道具マーケットにたまに現れるやつニャ。買い物したけど、めぼしい情報は得られなかったニャン」

「にゃん~、何買ったにゃん?」

「何って、普通に『薬草』とかだけど。他に買うものなんてなかったニャン」

「せっかくの風猫族の売店で買うものが『薬草』なんてもったいないにゃん~~!」

「ンニャッ」

ああ~~! きっとすごいガラクタいっぱいの楽しそうなお店だったんだろうなあ!

猫の悔しがりようにケータくんはびっくりしていたけど、そんなことはよろしい。

「風猫族の基本は『交易』にゃんよ。買うにしても物々交換とか、交渉しないと情報は入らないにゃん」

「ニャ…! に、苦手なやつニャン!」

「普段露店でニャンニャンしてるのを思い出すにゃん~!」

「ニャンニャンしてねーし!」

「してるけど、まあそれはいいにゃ。めぼしい情報はなかったって、何も教えてくれなかったにゃ?」

猫の質問に、ケータくんは思案顔になる。

……あっ、いま会話ログを調べてるな。

「ニャ……、黒月夜にまた会いましょうって言われたニャン」

「にゃあ、黒月夜限定NPCにゃ?」

「いや、俺が会ったのは黒月夜じゃなかった。魔道具マーケットも普通だったし……ニャ」

むむ、黒月夜かあ。

黒月夜の『 黒月影(くろつきかげ) 』は、白猫の風猫族ミー(仮)さんにも気に入ってもらえた品だ。

風猫族すべてが『ムーンキャッチ』にはまってるわけではなかろうけど、ちょっと用意しておいた方がいいアイテムかもしれないな。『 金月影(かなつきかげ) 』も含めて。

……いや、また会いましょうっていうなら、『月影』アイテムは関係ないか?

でも黒月夜といえば魔道具マーケットのイベント、それにリボンを確かめられたのもあの街だったし、うーん、気になるなあ。

「俺の知ってることはこのくらいニャ。何か情報はないニャ?」

「にゃあ、魔道具マーケットといえば、気になることがあるにゃん」

猫はケータくんに、魔道具マーケットで手首のリボンを「少ない」と言われたこと、そのリボンは異種族と交流すると増えること、などを話した。

「ニャア、交流~~」

「風猫族は絆の種族にゃ、頑張るにゃん~!」

それから、会いに行けるアイドルじゃなくて風猫族の、ポーツの隠れ島にいる虎猫さんのこともサービスで教えてあげた。

「『ダイヤモンド』を持っていくと別のちょっと面倒くさいイベントが発生するけど、虎猫さんにも会いやすくなるにゃ」

「会いやすく……」

ケータくんは迷っていたようだが、たぶん『ダイヤモンド』を持っていくんだろうな。わりとショートカットしちゃう人だよね。

「世話になったニャン!」

「何か進展があったら猫にも教えてほしいにゃん~」

「あったらニャ!」

颯爽と踵を返し人混みにどんぶらこっこと流されていくケータくんの小さな背を見送る。

ちらりと買取をみるとずいぶん増えていた。短時間にずいぶん増えたな、と売買履歴を見るとケータくんが大量に入れてくれている。

最低品質素材なんて集めるの大変だろうに、わざわざ猫の露店のために貯めておいてくれたんだろうか。ありがたや~、いや、言ってくれれば情報もポイポイ出しましたのに、素直じゃないんだから。

さて、そんなわけで買取も埋まってきたし、いい時間になったし、今日の露店はこんなところかな。

天空島に、風猫族の種族クエスト、魔道具マーケット、黒月夜。いろいろ気になることがたくさんだ。やることリストも大切だけど、やりたいこともたくさんある。

まだまだワクワクすることがいっぱい!

さてさて、今日はなにしよっかな~~!