軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

幕間:迷子の犬狼

自由都市にくると必ず読む本がある。

それは行政施設の図書室にあって、狭い空間にぎっしりと詰め込まれた書物にいつもうっとりしてしまう。実物の本がこんなにたくさんあるなんて、まさにVRだなあと感心するのだ。

初めてVRで本を持ったときにはその重さに驚いたものだけど、今は慣れたものだ。この重さの分だけ、容量が詰まっている……ということもまあ、VRでは滅多にないのだが。

ペチカのお気に入りの、自由都市の歴史本は評判があまりよろしくない。大長編の歴史本で大河ドラマのように波乱万丈で面白いのだが、如何せん情報が多すぎる、というのがその理由だ。お友だちのランにもあまり好評ではなかった。

ランは薦められたものを悪くは言わないが、趣味が合わなかったときはちょっとわかりやすい。風猫族の種族特徴でもある猫のおひげが、やたらソヨソヨするのだ。猫耳や尻尾は動かないので、なかなか頑張ってくれているのだと思う。

おひげってどんな感じがするんだろう。特に何も考えずに普通の人族を選んでしまったペチカには、ちょっと想像がつかない。こういうとき、風猫族とか獣人族もよかったかなあ、と思ったりもする。

さて、今日はその風猫族のランと待ち合わせをしている。

従魔の証が手に入る『迷子の犬狼』というクエストをふたりともまだやっていなかったので、一緒にやってみようということになったのだ。

本来はソロ向けのクエストだが、PTで受けると犬の数が増えて選べるようになるという。性能はソロより下がるらしいが、魔法攻撃タイプの従魔が欲しいペチカと、物理攻撃タイプの従魔が欲しいランとで一緒に挑めば、欲しい従魔に当たる可能性が上がるのではないかという話になったのだ。

待ち合わせはいつも通り冒険者ギルド前。自由都市の街歩きはだいたいやり終えて、寄る場所といえば行政施設とギルドくらいになったペチカと違い、ランはいろいろな場所にいつも顔を出している。そのせいか、待ち合わせよりほんの少しだけ前に飛び込んでくるのがパターンだ。

赤いスカーフを着けた大荷物のロバに乗った、灰色の猫ちゃんが姿を見せる。

「お待たせしましたにゃん~!」

「今きたとこです!」

いつ見ても毛並みのいい猫がしゃべるのは和む。しかもにゃんにゃん言う。最初は中身がいるんだよなあ…と考えることもあったが、今は楽しんだもの勝ちだと割りきっている。夢を見せてくれる猫ちゃん、最高ではないか!

まずは近況を話し合い、冒険者ギルドで『迷子の犬狼』の依頼を受ける。

「じゃあ、ついに工房デビューしたんですね!」

「にゃん~、迷ったけど買っちゃったにゃん」

LV30になった記念に、ランは工房部屋として部屋を増築したらしい。倉庫を改装しようと思ったけど、箪笥が溢れちゃって無理だったそうだ。それはそうだろう。なにせこの猫ちゃんは大変物持ちだ。大抵のアイテムは聞けば出てくるし、なぜかその場で持ってたりもする。商人というプレイスタイルによるものだろうか。

魔法使いらしくアイテムは最小限しか持てないペチカには、その物持ちぶりが青い猫型ロボットのポケットにも見えてくる。

「でもさすがに工房セットには手が出なかったにゃんね~」

「あれは高いですもんね~」

話題になるのは憧れの工房部屋のセット建築だ。マイルームで生産をするための家具アイテムを各種揃えた工房セットは生産職なら一度は誰もが憧れる工房セット家具だが、お値段は大変かわいくない。細々と生産家具を揃えているうちに、結局は買わずに終えてしまうのが工房セット家具でもある。

「猫はいろいろ手を出してるから、結局はちまちま買うのがあってるにゃ」

「手広くやっていると、セット家具は難しいですよね。雰囲気は最高なんですけどね、工房部屋」

「憧れは憧れのままで終わるにゃん…」

哀愁の漂う猫ちゃんである。

聞くところによると『錬金術』『農業』のみならず、『調薬』に『料理』にと手を伸ばしているようなので、セット家具はスタイルに合わないのだろう。

ペチカも生産は『裁縫』に絞っているが、『糸車』や『ドラムカーダー』などは買ってしまったし、今更セット家具に手を出すには、ちょっと躊躇うものがある。あれは富豪が壁紙目当てに買うアイテムだ。いや、たしかにすごく雰囲気はあってかっこいいんだけども。錬金術師の工房は特に 驚異の部屋(ヴンダーカンマー) ぽい博物館みがあり、ランが憧れるのもわかるセットだった。

「マイルーム関連はお金が一瞬で蒸発しますよね」

「その通りにゃん~あっという間にゃんよ」

世知辛い話をしつつ、冒険者ギルドで示された場所へ辿り着く。

『迷子の犬狼』は、逃げ出してしまった犬を探してほしい、という男性からの依頼だ。犬の特徴を教えてもらい、プレイヤーが探して連れていくと、男性はすでに自分の犬を探しあてており、プレイヤーは連れてきた犬を自身の従魔に出来るというクエストである。

ちなみに従魔にしない場合でもしばらくは連れ歩くことが出来、一時間ほど従魔にしないままでいると、犬を譲ってくれないかという提案を受けるようになる。そこで譲ると別途報酬が手に入る。ただし譲る相手は旅人なので、手放すと二度とこの犬と再会することは出来ないそうだ。愛着がわく前に別れておくのが吉とも言われている。

ちなみに連れ歩かない場合は、しばらくの間待っていてくれる。犬の好感度にもよりけりだが、1~2週間ほどは会えるが、それを越えると消えてしまうんだそうな。

なんらかの事情で従魔に出来ない場合は、どちらかを選択することになる。

「飼い主から聞く犬の特徴でだいたいの傾向がわかるって話でしたね」

「にゃあ、黒くて小さい犬って話だったにゃんね?」

「それならえーと…、魔法型か、回避型の物理型かどちらかみたいですね」

「大型犬じゃなくてよかったにゃ。幸先がいいにゃんね!」

「ですね!」

求めていたタイプの従魔が手に入りそうでよかった。

ペチカは、あまりこのゲームに効率を求めていない。テイマーになって従魔と縁が出来たが、来るもの拒まずで来ている。個性的な仲間たちは可愛いし、今のところ生理的に無理という相手もいない。

ランは虫タイプや爬虫類タイプでも問題なくいけるようだが(猫だからだろうか…?)、ペチカはそのふたつがあまり得意ではない。ジェリもちょっと怖いと感じてしまう方だ。

ランの連れたジェリ、ラージは仮面をつけているせいか可愛く見えるから、触れあえば大丈夫かもしれない。しかしわざわざ危ない橋を渡ろうと思えないのも実情である。

街をうろうろしつつ、指示された通りの毛並み、サイズの犬を探す。実は街では見つからず街の外で見つかるのだが、こうして街のなかを一通り探した方が、結果的には探す時間が少なくなる、というのが先人の見つけた攻略法だ。

何人か街の人と話をして、「街の中では犬は見かけない」という話が出たら外へ探しにいく合図だそうな。

「あら猫ちゃん、今日は屋台が出ていたわよ」

「本当にゃ? あとでいってみるにゃん~、今は犬を探しているにゃんよ」

「まあ、どんな犬?」

うろついていると、ランの顔の広さに驚く。街を歩いているだけでNPCに話しかけられるというのは、ペチカにはない経験だ。たしかにペチカは街歩きをあまりしない方ではあるけれど、しかししていれば話しかけられるというわけでもないのだろう。やはり風猫族だからだろうか。

さくさく話を終えて、次は屋台へいき、屋台のおじさんと話をして、と次々話が繋がっていく。

「わんころといえば、角の飯屋の息子が飼ってた犬が逃げ出したって聞いたな」

「たぶんそのわんちゃんにゃ!」

「あれなら、角の飯屋のじいさんが連れていっちまったよ。長い散歩でもしてるはずだぜ」

「にゃ、そ、そうだったにゃん?」

「おうよ」

街中捜索中に、答えが出てしまった。

ペチカとランは顔を見合わせた。

『あにゃ……、これ、このまま街の外へ探しに行ってもいいにゃ??』

『だ、だめな気がしますね…!?』

なんだか掲示板で伝わっている話とは、違うクエストになってしまった。しかしこういうこともランと遊ぶときにはよくあることだ。

ペチカはひとつうなずいて、それなら街を探すだけだと切り替えた。

「まずは角のご飯屋さんを当たりましょう!」

「そうにゃんね!」

ふたりで角の飯屋とやらを訪ね、おじいさんの外出中と孫がすねてしまったこと、息子が勘違いして犬をさがしていることなどを教わる。

「お…、恐ろしいほどほうれんそうが出来てないにゃん」

「家庭内不和でしょうか…!?」

このゲームは基本はほのぼのとしているのだけれど、ときどきとんでもないものを盛り込んでくるから油断できない。

ちょっとドキドキしたけれど、聞いてみればなんということはない。息子が犬にいたずらをしたので祖父が反省するまでと犬を連れていってしまい、しかしそれを息子が父には言わずに「犬がいなくなった」といったせいで忙しい父は勘違いをし、冒険者ギルドに依頼してしまった…というのが真相だったらしい。

飯屋のおかみさん(祖母)は気がついたが、もう依頼してしまったものは仕方ないと呆れた様子だった。

「にゃあん、時間が解決してくれるやつだったにゃんね~」

「似たようなわんちゃんを見つけるミッションをやらない場合、これどうなるんでしょうね…」

「にゃ、それがあったにゃん」

とりあえず解決を見守ることにしたものの、このままクエストのエンディングを迎えると、掲示板でみた通りにはいかない。それもまたワクワクするからいいか、とペチカは気長に待つことにした。

飯屋で出た炒飯はとてもおいしかった。自由都市に中華飯店があったなんて盲点だ。ランも天津飯を頼んでご満悦だった。

「まさかそんなこととは知らず、ご迷惑をおかけしてしまって…」

「にゃあ、そんなに気にしなくていいにゃんよ~」

「そうですよ! 私たちこそ探さずにお邪魔してて申し訳ないくらいで」

「いえいえ、行き先がわかってるなら動かないのは当然のことです」

犬を探していた男性が戻ってきて、かくかくしかじかで『迷子の犬狼』はクエストクリアがついた。報酬に迷惑料として色をつけてもらい、冒険者ギルドへ。

そこで『従魔の証』がもらえて、クエストは終了した。

「にゃあ……わんこが……」

「いませんでしたね……」

あとあと調べたところ、これが追加ルートで正規ルートだったらしい。プレイヤーは従魔の証だけを手に入れて、新しい従魔は自分で探す、というルートだ。

従魔の証は欲しいけど、フルクは別にいらない、とか、自由に選びたい、という意見が多くて導入されたようだ。

なるほど、と納得はしたものの、ちょっとクエストで会えるフルクも楽しみにしてたので残念な気持ちもしたペチカだった。

「首輪も作っておいたんですけども」

「準備万端だったにゃん!? なんだか悪いことしちゃったにゃん…」

「いえいえ! 全然、思ったより早く終わりましたし、時短で『従魔の証』が手に入ってよかったですよ!」

「にゃん~」

ちょっと落ち込んでるランを励まし、お揃いで作っていた首輪もさりげなく渡すことに成功した。ランとお揃いのフルクが欲しかった下心はあるが、お揃いは白狐のヴィで達成出来てはいるので、多くは望むまい。

今度はさりげなくヴィにつける装備を作ってお揃いを目指そう、と心ひそかにペチカは誓ったのだった。