軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.予定はくるうもの

『なんてものを丸投げしてくるにゃあああ!!』

ナマナマさんからメールが来た。『錆びついた心臓』を受け取ってくれたらしい。

『猫には扱いきれない代物だったにゃんよ~』

『こっちでも扱いきれないにゃんよ~!』

『にゃあ、迷惑だったにゃん?』

『そんなことないですありがとううう!!』

情緒が不安定でらっしゃる。

『でもこれ人形っていうよりゴーレム用っぽいのよ』

『人形とゴーレムってやはり別物にゃん?』

『違う……のかなあ? いや、うーん、……どうなんだろ? ゴーレム考えたことなかったからなあ』

『錆びついた心臓』を見た感じ、『思う心』とちょっと形というか、造りが似てたんだよね。それで買って(物々交換して)みた次第なんだけど。

『錆びつきのこういうアイテムって廃坑のゴーレムからポロポロ落ちるアイテムでさ、これまでにも『錆びついた腕』『錆びついた足』とか、結構あったのよ』

『ゴーレムの部品にゃんね』

『そそー。レアだと『錆びついた鍵』とか『錆びついた目』とかね』

ほうほう。いろいろなアイテムがあるんだね。

『錆びついた鍵』とかこれだけ系統が違う感じがするのは気のせいか?

ナマナマさんいわく、他にも『古びた鍵』というレアアイテムがあるけど、これも別に廃坑に扉とかないし、何に使うかわからないんだって。

『とにかく、心臓は初めてのアイテムでして』

『よかったにゃん?』

『でも! 鍛冶ギルドで聞いてみたけど、錆つきアイテムはやっぱり『鍛冶』にはどうにも出来ないみたいでさ~~!』

『にゃん~、残念にゃん…』

『いや待って、詳しく聞いてみたら、錆系アイテムの担当はどうも『錬金術』っぽくて』

『にゃん?』

おっと意外な展開?

……でもないか。猫は『赤錆びた土』は『錬金術』でなんとかなると思っていたのだった。てことは『錆びついた心臓』もなんとかなってもおかしくない。

『盲点だったにゃん!』

『アルテザにも錬金術師はいるらしいんだけど、いるらしいって噂止まりで。一応俺らも探してるんだけど、もしかしたらジョブがないと見つからないタイプかも?て話してたとこなんす』

『なるほど』

『つまり、お暇が出来たらアルテザにちょっと戻ってきてほしいのよ』

『了解にゃん~』

アルテザにはショーユラさんの工房があり、なにかと集まって話がしやすい。そんな感じで人形連合の拠点はアルテザになりつつある。

鍛冶作業をするにもドゥーアより学園都市の方が設備が進んでるとあって、最近はドゥーアから足が遠ざかっているのだとか。

『急いでないからいつでもいいんだからねっ!』

『ゆっくりいくにゃん~』

『お待ちしてますぅ』

ふむ、そういうことなら迷いの森も気になるし、一度戻るとするか。アルテザでホーム更新しなければ『リターン』でドゥーアに戻れる。ちょっとの寄り道は旅の醍醐味だ。

どうせ戻るなら、観光も後でいいか。お土産なら妖精街で買ったキノコと草がある!

荷車を出して運搬ギルドで荷物を積み、冒険者ギルドでやれそうな依頼は受ける。準備万端。

採掘ギルドで崖崩れクエストを受ければすぐに通れるはず。

「崖崩れなら解消しましたよ。もう通常通り、通ることが出来ます」

「にゃん?」

おや、通るときは必ず受けられると思ったらそうじゃないらしい。タイミングの問題だったか。

「通れるようになってよかったにゃん~」

「はい。ですがくれぐれも気をつけてくださいね」

「わかったにゃん!」

クエストひとつ損してしまった気分。まあ仕方ないか!

気を取り直して、行くぞ迷いの森。

ドゥーアからアルテザ行きの迷いの森は、アルテザから来るときほど短い道のりではない。というのも、迷いの森は入る向きによって、森が変わるからだ。同じ名前のダンジョンが2種類ある感じ。更にふたつのダンジョンで迷う仕掛けがあってややこしくなってる、らしい。

猫は攻略地図を見ちゃうので気にならないけどね!

崖崩れがあったといわれていた場所は、どうも森の入り口にある、山肌に沿って続く坂道のあたりらしい。行きにゆるやかな上りの坂道になってたところ。

道幅はそれなりに広い分、ここが崩れてたら作業はかなり大変そうだなあ。

そう思いながら頭上を見上げたところだった。

メエエエエーー!と甲高い声が山間に木霊する。

「にゃん!?」

や、山羊!?

もふもふだけどほっそりした山羊が崖に垂直になっている。

マークは赤く、敵対、つまり魔物だ!

こんなところで敵に遭うと思ってなかったのでワタワタしてしまう。

山羊はそんな猫を見下ろして、カカッと蹄を鳴らした。大ジャンプ、かと思えば空中を蹴って更に跳ぶ。

と、飛んだァ!?

あ、ああ、なんか聞いたことあるぞ、山岳地帯に出るという山羊のmob。

空飛ぶ絨毯の材料にもなっていた、たしか名前はスマッシュゴート。高いところからの滑空攻撃がヤバイというやつで…!

走馬灯のように一瞬いろいろなことが過ったけど、山羊の一撃はそれはもう速かった。ドドーンとね。

速すぎて『ポヨ』も間に合わなかった。突撃の衝撃で山羊ごと崖の向こうへ投げ出される。あっ、これここで耐えても落下ダメージで終わるやつ。

「にゃああ~~~!!」

猫が落ちるということは猫以下、荷車やらルイやらラージやらみんな落ちてしまう…!

なんとか送還をしようとメニューを開こうとするけど、開かない。なんですと!?

イベント中!?

いつのまに。

滞空時間がやたら長く感じるのもイベントだからか。

崖にはスマッシュゴートが鈴生りで、どんどこ降っていくのが見える。何をしているんだろう?? 落ちることに意味があるのか? それとも追われている?

不思議に思って見上げると、そこには大きな赤い……、なんだあれ、巨人か? それとも動く樹? トレントだろうか??

巨大な赤茶けた枯れ木っぽい物体がおり、山羊をしっしと追い払っている。山羊はそいつから逃げて崖から飛び下り、時々は崖にかすって岩や土砂を崩していく。

崖崩れの原因はこれか!

ていうか「崖崩れ解消しました」って安全に渡れますってことじゃなくてもしかして「イベントの準備、整いましたよ!」てことだった…!?

紛らわしすぎる!!

長い滞空時間が終わり、くるりと世界がひっくり返った。今度はぐんぐん地面が近くなる。あわわ、待って待って心の準備が出来てない!

というかこれ、イベントだから全滅はしないんじゃない?? そう信じるぞ!

まもなく地面!という瞬間に視界が一瞬、一面の緑に染まる。

激突ではなく、ふわりと包み込まれるような心地。

見るとそこには大きな……ヒト? 苔むして崩れた倒木が人間のカタチをしているというような、不思議なものが立っている。

落ちているときに見たものより青々としていて、形も結構違うけど、トレント、かな?

どうやら両腕(?)で猫たちを抱えて受け止めてくれたらしい。

「ありがとう、にゃん?」

樹の人は猫たちをそっと地面に下ろすと、バイバイ、というように手を振って森の中へ去っていった。

な、なんだったんだ……?

とりあえず、受け止めてもらえたおかげで猫たちの被害はゼロだ。スマッシュゴートの突撃を受けた猫だけはHPが1になっていたが、これはイベントによるものなんだろう。レトと猫で『ヒール』をかけて問題なし。

荷車の耐久も減ってない。よかった。

問題は、ここはどこかということだ…。

メニューの表示によると『惑わしの深い森』となっている。なんか微妙に違う。迷いの森じゃない森があったとは…。

猫には無理そうな予感がするぞ。

残念ながらダンジョンのようで、マイルームへの帰還が出来ない。セーフティエリアだから敵の姿はないけど、なんとなく心が休まらない。

ここで猫に取れる手段は3つある。

まず、『リターン』しちゃう。これがいちばん安全。ただし戻るのはドゥーア。

次に、ルイ以外を送還して進む。全滅前提スタイル。これも戻ったらドゥーア。

最後に全員で頑張る。猫の全力スタイル。うまく行けばアルテザへ辿り着ける。

うーん。

しかし考えてみると、このクエストを踏んだのはたぶん採掘ギルドだ。そして猫は『見習い採掘士』でランクは高くない。『採掘』さえ持っていればこのクエストは誰だって踏む可能性がある。それこそ初心者も。

ならばそこまで強い敵は想定されてないんじゃないかな?

全力スタイルで挑んでもいいんじゃなかろうか。せっかく新しいところ来たのにすぐ帰っちゃうんじゃもったいないしね!

そんなわけで準備、といってもいつも通りだ。心配なのは孵化したてのラモだが、なんとかなるだろう。

とりあえず『幻惑の香炉』で回避アップがあるし、雀の涙の防御力だろうけど『ガードアップ(従)』でバフをかけておく。

うーん、『インビジブル』を覚えておくべきだったな。『インビジブル』はヘイト避けになるので、従魔の育成にもぴったりなのだ。

まあ覚えてないものは仕方ない! いくぞ!

そろそろとセーフティエリアを出て、先へ進んでいく。

先といっても道は全然ない、何処へでも行ける森の中なのだが。猫のスキル『森歩き』が働いているのか、調べるべき場所が光って見えるので助かる。

たとえば木を調べると方角がわかったり、足元を調べると生息する生き物の見当がついたりする。この辺に住んでるのは小動物が多いようだ。マルモとか、そういうのかな。危険度は低そう。

猫は北へ向かいたいので、そちらへとりあえず進んでいくことにする。

森の中は薄暗く、時折甲高く鳴く鳥の声なども聞こえてびっくりする。南方の森だが鮮やかな花の植物とかはなくて、せいぜいが白や黄色がある程度であとは全部緑だ。

青から黄緑までさまざまな濃淡で広がる植物の群れは、だんだん慣れてきて寂しい感じすらする。

とかなんとか油断していたら黒い影に襲われてびっくりしたんだけどね!

ブラックニャッコだ! とあわてて身構えたのにラージが体当たりしたらコテンと転がって終わった。

……。

思ったよりラージが強い。

というかブラックニャッコってめっちゃ小さいな? 子猫サイズの猫ちゃんだ。本当に今のブラックニャッコだった??

もう消えちゃったからわからない。でもドロップが『黒い毛玉』なので、たぶんブラックニャッコだったんだろう。

3回目に襲われたときに理由が判明。カーバンクル コ(・) ニャッコだった。生きてるうちにターゲットを見ないと名前が隠蔽されるタイプの、厄介な敵だったらしい。

カーバンクルなのはさておき、子猫かぁ…。

心情としては保護したいところだが、接敵と同時にラージにどつかれて終わっている。

コニャッコ、あまりにも弱すぎて逆に気になるな。どうにか出来ないだろうか?

よし、試しに罠をはってみよう。持っててよかった『罠』スキル。エドさんに作ってもらった罠もある。

『箱罠』と『くくり罠』とあるのだが、コニャッコのサイズだと小動物用の『箱罠』がよさそうだ。

支柱を立てて、屋根を作って、という設置には『罠作成』スキルも生きる。

完成! 中に仕込む餌は『ニャルコール』……はダメだな。『猫まっしぐら』にしておこう。

……。

いま気づいたけどもしかしてカーバンクルコニャッコに襲われてるのって、猫が『ニャルコール』を箪笥にしまい忘れたせいか?

いやいや、そんなまさか。

…まさかだよね?