軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38.不思議な栞

「まあ、こいつは裏技みたいなもんだ。はみ出て大きくなっちまったもんは、圧縮してやれば収まることがある。『錬金術』でも不可逆なもんはあるがな」

「にゃん……、沼の気配しかしないにゃ」

「多かれ少なかれどの道もそんなもんだ」

それはそう。

でも『圧縮』を1個でやるパターンがあると、出来ることがすごい増えちゃうにゃん。これは……これは猫、ひとりでは絶対やりたくないぞ!!

「ところで灰色猫、『動く文字』を持ってるなら『不思議な栞』は持ってないか?」

また懐かしいアイテム名だ。

もちろん持ってます。

「お? 駄目元で聞いたが持ってるのか。なるほど、コレクションファイルを持ってねえのか」

ルドルフさんは猫を見てふむふむとうなずく。

「コレクションファイルにゃん?」

「学園都市で買えるぞ。コレクターとはトレードやバトルが出来るようになる。興味があるならファイルを購入してみるといい」

待って、これカードバトルのミニゲーム要素だったんです!!?

「猫、カードゲームは苦手にゃんね…」

「まあ、ただのコレクターも多い分野だよ」

「ルドルフさんはカードバトラーにゃ? コレクターにゃ?」

「俺はコレクターだな」

「なら栞を買い取ってくれるにゃん?」

「買い取りてえところだが、今回は違うんだ」

ルドルフさんはそこで声を潜めると、こそりと猫に告げた。

「今夜、暗黒夜で異界が溢れるって話は知ってるか?」

「知らなかったけどそうじゃないかとは思ってたにゃん」

「なら話は早い。ここで暗黒夜に溢れる異界といえば、『夜闇に透ける霧の橋』だ」

「にゃあ? 『青天の塔』じゃないにゃ?」

『夜闇に透ける霧の橋』は猫が魔道具マーケットへ入る際に霧の人影と会った橋だ。夜にだけかかる橋で、異界―― 幽世(かくりよ) であるマーケットと 現世(うつしよ) のフィールドを繋いでいる。

一方、猫のいう『青天の塔』は魔道具マーケットの近所にあるダンジョンだ。『別れの川』を渡って西側にある。

異界の扉防衛戦だっていうから外のダンジョンからくる魔物から街を守るとばかり思っていたのだが。いや、橋も外といえば外だけどさ!

防衛戦にはもちろん街を守るという役割もあるが、基本は防衛しつつ攻めていくものらしい。

つまり今現在あふれているダンジョンを攻略して、ダンジョンBOSSを倒してしまえば侵攻が止まるんだって。それで残党狩りして終わり、というのが普通の暗黒夜の防衛戦らしい。

クラン対抗でもあるからあちこちでCVCが起きたりもするが基本はタイムアタックで、ちょっと遅れて来たら終わってたというのもよくある話なんだとか。上級者怖い。

でも今回の防衛戦は攻め込む先がない……、てことになる、のか?

「『青天の塔』があふれることもあるが、今回は妖精が騒がしい。おそらく間違いないだろう」

「にゃあ…、『夜闇に透ける霧の橋』があふれるのと『不思議な栞』が関係あるにゃん?」

「話が早いな灰色猫。『不思議な栞』で妖精召喚が出来る、て話は知ってるな?」

その話は本屋さんで聞いたことがある。本屋さんの言い方だと「出来るものもある」であって必ずしも、て訳じゃなかったけど。

「そうだ、いつもなら『出来るものもある』が、それが 偽妖精(ギヨウセイ) 界と繋がる暗黒夜となれば話は違う」

「偽妖精にゃ?」

「偽妖精界、だ。妖精界とは似て非なる、妖精界に帰れなくなった妖精の異界ってやつだな」

「ややこしいにゃんね」

「異界は全部ややこしいもんだ」

それはそう。

現世と違うなら異界、ていうアバウトな区切りだからすごくいろいろある。

簡単にいえば偽妖精界は『人と明確に敵対する妖精の異界』てことで良さそうだ。

そして偽妖精界で役立つのが『不思議な栞』だという。

「ざっくりいうと、まともな妖精からすると、偽妖精は雑魚らしい」

「雑魚」

「そして偽妖精界は現世より簡単に妖精を喚べる。それこそ『不思議な栞』を然るべき場所に置くだけでな」

「にゃあ、強力な助っ人が呼べるわけにゃん!」

うむ、と大きくうなずくルドルフさん。

でも待てよ?

「然るべき場所、てどこにゃん?」

「それを探してほしい」

「にゃん??」

ルドルフさんの話はこうだ。

『不思議な栞』にはモチーフがある。たとえば落ち葉の形をしていたり、四つ葉のクローバーっぽかったり、風景画の描かれた型抜きカードだったりといろいろだ。

それが「あってもおかしくない場所」が然るべき場所、てやつらしい。

つまり落ち葉の栞ならば落ち葉のある場所に、四つ葉のクローバーならクローバーのある場所や幸運に恵まれている場所に、といった具合に。

「にゃあ~、それが街を守る手助けになるにゃんね?」

「ああ。妖精がいれば防衛は格段に楽になる」

ならばやらないわけにはいくまい。承諾するとクエスト一覧が更新された。

「『不思議な守り人』を用意しよう!」とな。やってみようではないか。

「俺のダブってる『不思議な栞』も持っていってくれ」

「ルドルフさんはやらないにゃ?」

「俺ァ、雇われ店主なんだよ。勝手に店を閉めるわけにはいかねえの」

「残念にゃん~~」

そういう設定だったか。

ルドルフさんから12枚の『不思議な栞』をもらった。使わなかったとしても返さなくていいそうな。猫がカードコレクターだったら使わず懐にいれちゃったところだ。まあそういうのも加味したイベントなんだろうな、とメタ読みしつつ。

しかし中途半端な数だな? もしかしてアライアンス合計人数×2枚とか? 人海戦術なクエストだったりする?

猫が持ってる栞は7枚ある。合わせて19枚、たしかにこれはひとりではちょっと厳しそうな数かも。

『魔道具マーケット到着にゃん~! 猫ちゃんはなんかクエストしてる?』

『さすが大商人は機がわかってるにゃん~!』

ちょうどいいところに!!

元は暗黒夜にはダンジョンの復活BOSS周回に行こうとしていたらしいフーテンさんたちは、猫のメールでこちらへ切り替えてくれた。いわく『DP稼げるならそっちのがいいからね~~』とのこと、ありがたい。

かくかくしかじかにゃんにゃんとルドルフさんから聞いたことを伝える。

『『不思議な栞』か~~、うちはあれ、学園都市のコレクターに全部渡しちゃってるんだよねえ…』

『にゃん~』

『ああいうのを集める気概のある子はうちにはいなかったにゃん』

『エドさんああいうの好きそうにゃん?』

『沼の気配がするって早々に手を引いてたね~』

『なるほどにゃん~』

たしかに深い沼を感じる…。

『まあでも猫ちゃん、19枚もあるんでしょ? それだけでも大変な数よ?』

『にゃあ、出来る範囲でいいか~と思ってたにゃん』

『それもそうね~。というか場所を探すだけなら他のことしてても手伝えるから、不思議な栞の 写真(スクショ) もらっておいてもいーい?』

『その手があったにゃんね~!』

『どうせクエスト探しに歩き回るだろうからね~一石二鳥』

『にゃあ、とっても助かるにゃん! 猫は『不思議な栞』のコレクターがいないかも探してみるつもりにゃん~』

コレクターからもらえるカードの数に関係するかも、ということでフーテンさんたちにもアライアンスを組んでもらうことにして(ちゃんとケータくんにも断った)、まずは合流。

簡易ロッジの集まる区画がやはりわかりやすかったので、そちらで集合するとプレイヤーの数がびっくりするほど増えていた。ガヤガヤしておる。

無事向こうから発見してもらうことが出来た。猫とルイはいい目印らしい。

「お待たせしましたにゃん~!」

「今来たとこ~~」

「すごい混雑にゃん~」

「そうね~、まずは移動した方がよさそう」

この辺りと、あと 転移施設(ポータルポート) の傍がかなり混雑しているようだ。自由都市でもイベント時は混むけど、あそこは目印になるところが多いからそこまで人の流れが滞ることはない。ここは目印になりそうなものが少ないからなあ。

「あ、あのロッジは今日は食料品店にゃんよ~、猫が荷を下ろしたから間違いないにゃん」

ちょうど良さそうな待避場所を発見。この辺は来たときに荷物を下ろしまくったので、ロッジの中にどの店舗が入ってるのか猫は詳しいのだ。

ヤマビコさんが嬉しそうに声をあげた。

「おっ、なら炊き出し関連のクエの話が聞けるかもしれんな。入るか」

ロッジへ移動して、ヤマビコさんが代表して店主と会話。その隙に『不思議な栞』の 写真(スクショ) をみんなに渡していく。

「こうして見るとこんな場所ないだろ、ていうような屋外が多いな」

「これとか、見るからに崖だね」

エドさんが唸り、ポユズさんが示したのは風景画の型抜きカード。断崖絶壁が描かれている。

ここがダイアモンドの谷だったらなあ、と思うような絵だ。さすがにマーケットの中にはないだろう。

他にも森林の絵とか、お城の絵とか、風景画シリーズは難易度が高すぎる。これが5枚ほどあるので、この分は切り捨ててもいいかもしれない。

「落ち葉とかクローバーとか、植物系はどこかしらありそうね。自然がないわけじゃないし」

リーさんの言うとおり、魔道具マーケットは通りしか舗装されてないので、そこかしこに草が生えている。植物の同定には手間取りそうだが、なんとかなりそうな気もする。

他にも小さな黄色い花のブーケとか、わりと用意出来そうなアイテムが書かれた栞などもある。

「ランが元々持ってた栞はともかく、もらったっていう12枚はどこかしら当てはまる場所があると見ていいんじゃないか?」

「でもそうすると、この崖どこかにあることになるわよ?」

「…それがあったな。8割はある、とかそんな具合かもしれない」

うーん、謎の崖よ…。

「おっしゃ、炊き出しクエストいけそうやで。そっちはどないや?」

「とりあえずこれ 撮影(スクショ) ね~」

ヤマビコさんの方は、食料品店から食事処を紹介してもらい、そこから持ち出しでの料理になるだろうとのこと。

「持ち出しか、きつくないか?」

「その分、食材の品質は問わんらしいで。不良在庫化しとった低品質肉の処分祭やな」

低品質肉はスジ肉が多いとか聞いたことある。あまり大型のmobじゃないと肉の名称が出ずまとめて『肉』で出て、品質で部位がわかるとかなんとか。スジ肉も煮込んだら美味しいよね。

それにさっき農家神官さんたちがまとめて到着していたので、野菜もなんとかなるはずだ。農家は畑の妖精に嫌われないために最低品質野菜専用タンスがあるそうだから。

連絡してもいいかヤマビコさんに聞くと快諾されたので、早速メール。すぐさま応援に来てくれることになった。

神官スレが祭になると言うのでちょっと覗いたらたしかに『俺の倉庫街が火を噴くぜ!』と加速していた。

部屋を超えて街までいってる、だと…!?