軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35.裏路地の店

「なんだか不法侵入な気分にゃん」

「やめるニャ、違うニャ」

ロッジの隙間を人目を忍ぶように通ると、何も悪いことはしていないけど悪いことのような気がしてくる不思議だ。

とはいえ『簡易ロッジ』で建てられた市場の一角などたいした広さではないし、裏路地というほどの広さもないだろう……なんて思ってたら、予想外。

隠されていたのは地下への入り口だ。

……そういえばここ、異界でしたね。なんでもありだな!

「…魔道具マーケット裏ってやつ、掲示板で見かけたことあるニャ」

「あるにゃんね~、闘技場があるとかいう…」

「借金させられてコロシアムは嫌ニャ~!」

「借金しなければ解決にゃん。ちょっとの予算オーバーなら猫が貸してあげるにゃんよ~」

コロシアムに出されるケータくんを放置して帰るのも寝覚めが悪いので、そこは猫に任せてほしい。

もちろん予算内に収まるのが一番だけど、最上位の店っていうし、絶対高そうだもんね。

階段は昼間のトンネルくらいの暗さだったが、降りきってしまうと中は橙色の明かりがところどころ灯ってそれなりに明るい。

じめじめした雰囲気ではなく、思ったよりも賑わっている。NPCもプレイヤーもかなりの人数だ。ガラの悪い連中がたむろしてるとかいうこともない。全然、普通の場所だな?

「変に警戒して損したにゃん」

「まだまだこれからかもしれないニャ!」

ケータくんたら警戒心高め、ネコチャンとして正しい。

地下は屋台やテントの店がほとんどだ。『簡易ロッジ』もないので、店を探すのは大変だろう。先導していたGPSの矢印は、やがて1ヵ所を指してくるりと跳ねるようになった。

「予想外に小さいニャ」

「流行ってるようには見えないにゃん?」

他のテントと比べると一回り小さいし、外に並んでる人もいない。…あまり期待できないような?

猫が疑わしく首を傾げている内に、気合いを入れたらしいケータくんがふんすと店へ踏み出していく。

『いらっしゃい』

「こ、こんにちはニャ!」

続いて店へはいると、出迎えてくれたのはクマのぬいぐるみだ。…これは既視感。

ティアラさんも使っている、ぬいぐるみ店主のくまちゃんじゃないか?

なお色は深みのある赤。ボルドーというよりローズレッドといったところ。

『ルドルフからの紹介? なら仕方ないな。今ちょっと手が離せないから、クマの対応で失礼』

「構わないニャ」

ぬいぐるみクマの声は店主の声だが、落ち着いた音程で男女どちらにも取れる。

ケータくんがクマと話している間に、猫はぐるりと店内を見回す。テントの真上には橙色の灯り、テントを真ん中で区切るカウンターにはぬいぐるみ店主のクマ。客が入っていいゾーンは狭く、木材や金属などの素材や、鍋などが無造作に積み上がっている。なんか錬金釜っぽいアイテムもあるな。

『うちはオーダーメイドしか取り扱わない『属性銃』と『魔道杖』の店。『魔道石』と素材のないやつはお断り。うちからは持ち出ししない、大丈夫?』

「大丈夫、ニャ」

『属性銃』に必要になるのは、まず『魔道石』、そして銃身となる杖(あるいは木材)だ。『属性銃』って銃と名はつくけど魔道杖の亜種なんだよね。

よくRPGとかだと魔法職の通常攻撃が殴るんじゃなくて杖から火の玉出たりする、あの感覚で通常攻撃を魔法攻撃にする手段が『属性銃』といったところ。

しかしこれにはひとつ難があって、本人の魔力は乗らず、ほとんどの攻撃魔法にはついてる必中がついていない。そのため、魔法師の武器というより投擲師の魔法攻撃武器となっている――というのが『属性銃』だ。

つまり『属性銃』の技師さんは、杖と投擲武器の両方を作れる『木工鍛冶師』なのだ。

普通にやると『木工』の武器製作は『杖』か『投擲武器』かに別れていくので、両方極めるのは修羅の道。プラスして『鍛冶』に『錬金術』が必要では属性銃専門生産職になるしかない。それじゃプレイヤーが作れないのも 宜(むべ) なるかな。

他に必要な素材は、金属、紐状の素材、塗料、革または緩衝材、水晶石。この5つは確実に必要で、後は作る店によってまちまちといわれている。

『それじゃあまずは商談といこうか。素材を出してみて』

『属性銃』作りのメインはケータくんなので、お先を譲って素材を出してもらう。

先ほど作った『透銀の魔道石』に、『トレントの枝』、『強気なネジ草糸』、『白月兎の革』、『銀色塗料』、『水晶石』。ケータくんがそれをクマの前の台へ恐る恐る置く。

『うん? 付与素材はこれだけでいいの?』

「ニャア~…、これしか用意がなかったニャ…足りないニャ?」

ふしぎそうに首を傾げるクマに、ケータくんはしんなりしている。

『属性銃』は仕立てる店によって、付与素材を乗せられる数が異なる。クエスト難易度ってやつだ。ましてアップデートも入ったらしい。猫たちのLVがもっと上ならそれもよかったんだろうけど、ケータくんも初めての『属性銃』だろうし、初手からそこまでの装備は求めてなかったに違いない。

しかし『魔道石』の職人ルドルフさんからして上級職人ぽかったから、紹介されたこの店の要求素材が多いのもうなずける話ではある。

『足りなくはないけど、性能に出る。このままだと『トレントの枝』はこの『魔道石』の力を引き出しきれない』

「ニャアア…」

「他の木材ならいいにゃ? それとも、素材を足せば『トレントの枝』でも問題ないにゃん?」

『どちらでも。『トレントの枝』は魔力は問題ないけど、しなやかさが足りない。『属性銃』は普通の杖と違って、真っ直ぐな枝より曲がった枝の方が作りやすい』

おや??

木材って、たしかまっすぐなやつの方が品質が良く分類されるんじゃなかったっけ?

「品質が低い方がいいにゃ?」

『しなやかな素材ならもちろん最高品質がいいに決まってる。でも硬い木材なら、予め多少曲がってる低品質の方が合っている。特に枝系はそう。最低品質のひん曲がってるようなのは困るけど』

おおう、作るものによって木材と求められる品質が違うとは、『木工』界隈もなかなか沼が深そうだな。

「いいのを求めたのが 徒(あだ) となったニャ…」

「にゃ、しなやかにする素材にはなにがあるにゃ?」

『水系の素材か、水属性の素材』

「ないニャ…」

これは…、さてはケータくん、整理整頓すごいするタイプだな? 不要不急の素材、全部売り払っちゃうタイプと見た。

そりゃマケボで売るものも持ってないはずだわ。猫には絶対無理なやつ。

いや、待てよ?

「水系ってことはポーションでもいいにゃ?」

『もちろん。効果は保証しないけど、ないよりはマシ』

「ポーションならあるニャ!」

「さすが調薬師にゃん~」

『おや、調薬師。それなら……そうだ、『中級ポーション』を100個くれたら水素材はこちらで見繕ってあげる』

「100個」

ん??

なにやらクエストっぽいな。

ケータくんが考えてるけど、これは受ける一択では? まさか100個持ってない?

ちらりとケータくんを見ると、耳がぴこぴこした。

『連続クエストになってるニャン』

『にゃあ、何のクエストだろ? でも受けちゃったらいいにゃんよ~』

『せっかくだしな! マイルーム取ってくるニャ』

クマにも断って、ケータくんはいったんマイルームへ行くためにテントを出ていった。

猫はちょっと気になることがあるのでクマに聞く。

「あそこにあるのは錬金釜にゃん?」

テントの中に無造作に積んであるあの釜。気のせいじゃないならあれは初級釜では?

『うん? そう、仕上げ用の釜』

「『属性銃』の仕上げは錬金釜でやるにゃ?」

『ちゃんとしたやり方なら 坩堝(るつぼ) でやるんだろうけど、私は釜。そこまで『錬金術』に通じてはいないから』

「るつぼ」

…… 坩堝(るつぼ) !?!?

「『錬金術』を坩堝でするにゃん?」

『知らない? 機械なら坩堝、生体ならフラスコっていうけど…、まあ『錬金術』の道も深いから、釜で十分と思ってる』

「にゃあ…」

全然知らない話だった…。

坩堝、て金属を溶かすやつだよね? 錬金術ギルドで見かけたことがないんだけど、猫のLVが足りないのか、それともそういう道へ行くには『鍛冶』とかの複合じゃないといけないのか、どっちだろ。

フラスコの方は『調薬』があると分離するとか?? でも、生体? ホムンクルス的な…?

な、謎だ。

『魔道工』も気になってきちゃったし、ここにきて突然に『錬金術』の沼が深くなったぞ!? さすが魔道具マーケット……魔道具と名がつくだけある。

ケータくんがマイルームから帰ってきて、ローズレッドのクマと『中級ポーション』100個をやり取りする。

あ、猫もケータくんとPT組んでるからこの連続クエスト巻き込まれてるな。クエスト詳細から見れるや。

……「魔道具マーケットを救え」?

なんか不穏なクエストのような…なぜこんなところでこんなクエストが生えるんだ、ケータくんめ。

そういえば回復アイテムの要求から始まるクエストは、最終的に戦闘へ行くやつが多いんだよね。ちょっと調べておいた方がいいかも?

『ありがとう。それじゃ、水の素材はおまけしておいてあげる。他はどうする? もう入れたい素材はない?』

「たとえばどんな素材があるニャ?」

『糸を強くする添加剤とか、塗料に入れる魔石粉とか、透明度をあげる研磨剤とかかな』

なるほど、素材の不足を補う素材を足せるのか。それはたしかに場合によっては有用だな。仮にレア度や品質の高い素材を用意出来なくても、上位のアイテムになる可能性があるってことだ。

これはちょっと面白そうだぞ。

というかラインナップ見ると主に粉ですな。粉といえば『パウダー』、じゃなくてなんか持ってた覚えが。えーと、たしか前に作ったやつが。

「こういうのも使えるにゃん?」

出してみたのは大分前に、たしか隠者の村で『錬金術』した『魔法の粉(光)』。『閃光の粉』の方は使いきったけど、こっちは残っちゃったんだよね。

『『魔法の粉』! これは面白い素材。いいよ、使ってあげる。どこに使う?』

「ニャ!? いいニャ? いくらニャ?」

「不良在庫だからお金はいいにゃんよ~ただの好奇心にゃん」

『『錬成陣』での魔法変成は無属性魔法師の特権。素材そのものの価格は安いが、希少性は高い。我々が購入するなら3000zといったところ』

「思ったよりも高値にゃん」

「払うニャ」

律儀!

猫の好奇心が暴走したせいでケータくんの借金を増やしてすまない。

ケータくんはクマと相談の上、塗料に入れる魔石粉代わりに『魔法の粉(光)』を使うことに決めていた。ここに使うと属性値が上がりやすいんだって。

『属性銃』はオーダーメイドだが、だいたい1属性に付き3種類のどれか、もしくはそのイレギュラー品となる。先達の素材を参考に似たようなものを足せば、同じ『属性銃』が仕上がる、というのがこれまで聞いていた『属性銃』だった。

でもアップデートがあったしな。事前に攻略サイトで参照したのとは違う『属性銃』に仕上がるのかもしれない。

素材は確定、作成代金は35万z、なかなかのお値段だが、予想よりは高くない……か? ケータくんもギリギリ予算内に収まったようだ。

「足りてよかったニャ…」

「コロシアム回避にゃん」

『これで製作するから、しばらく待ってて』

台に乗せた品がシュンッと消えていく。後はNPCのハイスピード生産ですぐ出来上がる、はずだ。

どんな『属性銃』になるか他人事ながら楽しみだな~と思っていたら、つんつんと隣からつつかれる。

「んにゃ?」

『さっきの連続クエスト、マイルームでちょっと調べてみたけど、暗黒夜クエストだと思うニャ』

『暗黒夜』

すっかり忘れてたけどそんなのもあったね!?