軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.妖精契約と幽霊船

猫も一応、召喚妖精と契約した場合にどうなるかは書庫の本で確認済だ。それによると、まず妖精の住む異界に連れ去られる。

これは妖精界と呼ばれる異界で、開いちゃいけない異界の扉とはちょっと違う、安定したもうひとつの世界、てやつらしい。青月夜と結びついており、青月夜にしか人は行き来できないそう。

妖精界には、連れてきた妖精と同種の妖精が5体いて、そこから好きな個体を選ぶことになる。ここで以前会ったことのある個体や連れてきてくれた個体を選ぶと最初から共鳴値(召喚獣との好感度)が高く、見知らぬ個体を選ぶと共鳴値最低から始めることになるそうだ。

見知らぬ個体を選ぶのも、見た目の好みやスキルによってはアリらしい。大変らしいけど。

早速、岩妖精へついていく、前にホウレンソウ。

『妖精がいて、ついてこいって言ってるから行ってくるにゃん~』

『お、いてら~!』

『ランちゃん妖精と契約するのね~、いってらっしゃい!』

ちなみに妖精の招待は断ることが出来る。その種族の妖精と契約する気はない、てことになるので、一度断るとしばらくは会えなくなるんだって。

岩妖精を追いかけて洞窟の外へ出ると、日が少し傾き始め、東の空には大きな青月が浮かび始めていた。妖精は月へ向かってずんずん歩いていく。海の上を歩き、空の上を歩く。

ついていく猫も同じように海の上を歩いて、足が地についてるようなついてないような、ふわふわの心地を歩きながら空へ向かっていく。空は歩きにくいわけじゃなく、むしろ足の裏が弾むような感覚だ。面白い。

ちょっと足元を見て、また前へ目を戻したときには辺りは一変して真っ暗になり、少し明るくなる。見上げると星明かりが降り注ぎ、足元からは淡い青の月光が照らしている。

そして猫の前には、帽子を目深に被り腕を組んだ妖精、ブカブカのローブに身を包み杖を持った妖精、ターバンを巻いて小槌を肩に担いだ妖精がいる。残りの2体はアルマジロと、亀だった。

思ったよりバリエーション豊富! 全部岩妖精ガナムで容姿だけ違うのかと思ったら、たぶん土属性の妖精がランダムで出てきてる?

そして同じ岩妖精でも、魔法師寄りのタイプや、生産寄りのタイプもいるらしい。猫があった妖精は、たぶん採集タイプだと思われる。

まあ、ここは猫と会ったことのある、採集タイプの岩妖精一択なんだけどね! アルマジロは可愛いし魔法師タイプや生産タイプも心ひかれるけど、縁で生きるのが風猫族にゃん。

召喚妖精の場合は、こうして呼び出された時点で契約の準備は整っている。改めて貢ぎ物をする必要はない。

腕を組んでる妖精に『召喚石』を差し出すと、むすっとした感じのまま、そっと手を置いてくれた。

『召喚妖精に名前をつけてください』

「レキ」

召喚系はレ始まりにしようかと。最初に会ったとき水晶石を見つけてくれたし、採集系っぽいので 礫(れき) から取ってみた。

レキが光って『召喚石』に吸い込まれ、石は小さな妖精の姿に形を変えた。2個目の『契約石』だ。

足元に灯る月光がキラキラと立ち上ぼり、辺りが明るく照らされていく。帰るときはどこに出るんだろうか。海に出たら嫌だな、と思ってたら砂浜に出ました。よかった。

気になるレキの召喚コストは驚きの15MP。えっ、少な!? 採集型ってこんな省エネなのか…。契約したはいいけどコスト重すぎて出せないとかじゃなくてよかった。

早速出してみると、しばらくキョロキョロしたあと姿を消してしまった。あれ!?

妖精が姿を消しちゃうと、どこにいるのか契約主にもわからなかったりする。妖精界を移動してると見えないってやつらしい。

……ま、まあいいか、召喚コストも少ないし、自由にしてくれたらそれでいいや。

あとで攻略サイトでガナムについて調べておこう。

『ただいまにゃん~』

『おかえり~』

『何妖精と契約した?』

『岩妖精ガナムにゃん』

『おお、猫ちゃんらしいにゃん~』

猫らしい妖精とは??

『でも出したらいなくなっちゃったにゃんよ~』

『妖精はどんなやつでも最初はいなくなるぞ。そのうちその場にとどまってくれるようになる』

なるほど、妖精は消える。コスト消費して共鳴値を上げて仲良くなるまでは言うこときかないのが妖精のスタンダードらしい。大変なんだなあ。

猫がいない間に採掘組も探索組も合流して浜辺で船が来ないか眺めていたらしい。猫も合流して、ついでなのでビーチコーミングした。『貝殻』拾いだ。

みんなは、幽霊船が来て船に乗り込んだらどうなるかわからないので、一度マイルームへ戻って着替えてくるそうだ。戦闘装備が充実している人は大変だね。

いろいろな貝殻があるが、拾うと全部『貝殻』になる。同じ色の貝だけ集めても、インベントリにしまえば色とりどりの『貝殻』になる不思議よ。錬金術に使わない『貝殻』はインテリアアイテムとして知られている。

ついでに『砂』も拾っておく。ルビーは何を拾ってるのか見てみると、ウミウシをつついていた。お、おう。それ食べるの? 毒大丈夫?

皆が戻ってきてしばらくすると、ようやく幽霊船のお出ましだ。

「た、たいへんだ、船が引き寄せられていっちまう! このままだと島に取り残されちまうぞ!」

「いくでー!」

あわててやってきた船員にヤマビコさんが答え、岸を離れようとしている船へ皆で乗り込んだのだった。

勝手に動いている割にはびっくりするほど凪いでいる船に揺られて、幽霊船を眺めている。

帆は破れて折れ、甲板には穴が空き、どうやって動いているのかも定かではない船だ。風もなく、不気味なほど静かな夕暮れに、ただ水音だけが響く。

しかし幽霊船、近づくほどに違和感がある。

「なんか……丸いにゃんね?」

そう、やたらと丸っこいのである。

「あれ、タコの擬態やねん」

「そうにゃん!?」

「キャプテンデビーってそういうことらしいで」

ああ、デビーってタコのデビなのか!

「擬態した上で、体の上にマストの残骸をくっつけてるから幽霊船に見えるって話らしいね~」

「にゃあ…」

わざわざ船を襲うのに特化した姿になってるってこと? それもなんだか不思議な生態だなあ。

「本物の幽霊船にあった人もいるらしいよ」

「特定の青月夜だけ変わるんじゃないかって話ね」

ほうほう。

そういえば猫の持ってる本『月と精霊の扉』によると、春夏秋冬それぞれ一度だけ、大月と呼ばれる月の日があるそうだ。春は青の大月、夏は赤の大月、といった具合に。

だから青の大月の日だけ本当の幽霊船が現れる確率が上がる…とか? いや、それをやったら年1回こっきりになっちゃうからさすがに違うか。

隠者の村で迎えた黒月夜みたいに、途中で金月夜になるとき真の幽霊船になるのかもしれない。金月夜の特殊イベントという方が納得できる。

船は進むにつれて、だんだんと幽霊船(擬態)へ近づいていく。そして船だったらそちらへ渡れる、というくらいまで近づくと、船のなかにギョロンとした目があることに気づくのだ。

ヒエ!? これはSAN値チェックかもしれない、まさに名状しがたきものだぞ。

船員は甲板から全員船室へ避難させる。NPCは戦闘参加しないからね。

「渡ったら戦闘開始?」

「叩いたら戦闘開始っぽい」

「オッケー、準備しよ」

それぞれがバフをかけて準備していく。猫も従魔法のバフをPTへかけていく。ちなみにPTは例のごとく猫ソロPTで分断してもらっている。船の中でルイに乗るのもどうなのか、と一度は降りてみたけど、船の揺れであっちへフラフラこっちへフラフラしてしまって駄目だった。『 足場不問(アシバヲトワズ) 』が欲しくなっちゃう!とらんけど!

ちなみに大なり小なり船の中ではそうなるもので、スキル他、装備や魔法で補助したりしないといけないものらしい。猫の準備不足だったね。

なおルイに乗ると、ルイがうまいこと衝撃を減らしてくれるのかそこまでフラフラしない。ルイは騎獣なので、スキルでは現れない補正があるのだろう。

猫もついでにバフをもらいつつ(ありがたや)、準備が整ったらうなずきあう。

キリリと弓を引き絞ったポユズさんが矢を放ち、同時にヤマビコさんが盾を打ち鳴らす。

すると幽霊船の擬態はスゥッと溶けて、青みを帯びた灰紫の巨大デビが姿を現した。

「げ、これやば」

まもなく日の落ちようとする海の上、この色のタコ、大変見づらい…! ある意味こっちの擬態のが厄介だぞ。

海の中から這い出てきた触手が、こちらの船をがっちりキャッチ。

「あ、隠れるわけじゃないんだ!?」

「逆にやりやすいかも?」

頭は海の中へ逃げたりするようだが、船を捕まえている触手はそのままなようだ。これならまだ、攻撃対象を完全に見失うわけではない。

「下手に切り落とさない方がよさそうか?」

「そうかも。見失っちゃうと厳しそうよ」

「でもあんまりほっとくと船破壊されそうな気もするにゃん?」

「それはそう」

結局しばらくは放置でキャプテンデビー本体を狙い、不穏な気配がしたら対応ということに。

こちらへ向けて伸びてくる触手をフーテンさんが『ウィンドカッター』で切り飛ばす。

「……8本以上脚ある!」

「食いでがあるわあ」

「切っ先落ちてきてないし、海中で治っちゃってるんじゃない?」

「フーテン、しっかり切り落とさなあかんで」

「ヤマビコが捕まったらやるね~~」

「よっしゃ」

やるんかい。

嬉々として捕まりにいくヤマビコさんを眺めつつ、猫はレトの手伝いをしている。今日の猫はヒーラーよ。『カウント』からの『ヒール』で地道な微小回復。

ちなみにキャプテンデビーの攻撃は触手以外にもスミ、船を揺らすなどがあり、大ダメージにはならないもののチマチマ減る。それでもレトのカウントヒールだと足りないんだけど、回数で補う作戦だ。

レトがルイの頭の上に乗ってるのも久々だなあ。

ルビーは絨毯で飛んでいってしまったが、岩妖精のレキと違ってどこにいるかわかるのでそれほど心配はしてない。あ、でも海の方へ出られるとさすがに心配なので控えめでお願いしたい。

ルビーの絨毯は、速度が出ない代わりに高度は5mほど行けるようになっているのだが、海の上だともう少し上へ行けるようだ。新発見。あとでショーユラさんにメールしとこ。

ラージはルイのまわりをコロコロしている。どうやら猫を守ってくれているらしい。偉い…!

ヤマビコさんが触手に捕まり持ち上げられたが、フーテンさんが拡大『ウィンドカッター』で救出。今度はフーテンさんが捕まりそうになり、ヤマビコさんが「あかーーん!」と大変慌てていた。

「触手は完全に切らない方がよさそうやな」

「全部切り落としてからが本番では」

「どうかしら? 触手が邪魔で本体が叩けないわけでもないわよね」

「突攻撃が急所しか入らないから、僕とは相性が悪いね」

「当たると跳ねるけどな。効率が悪い」

話しながらもピュンピュン矢は飛ぶし、ザクザクとタコは切り刻まれている。でもたしかに、見た目の派手さに比べてダメージ星は地味だし、HPバーがあまり動いてない感じがする。