軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49.オススメの商品です

ペチカちゃんが一通り掲示板で情報を調べてみる間、猫は猫で情報収集してみることにした。

情報収集といっても、アルテザは来たばかりで何もわからんからうろうろするだけなんだけど。とはいえペチカちゃんがスルーしてしまったところも、もしかしたらあるかもしれない。普段ならそんなん無さそうと思うところだけど、ペチカちゃん雨が怖くて最近早足っていってたからね。

まずは予定どおり、ナザールさんの染色工房へ行ってみよう。ここからだと、プレイヤーの露店通りを突っ切るのが早いな。

財布の紐、メイビー・よし!

……うん、こればかりはなんともいえん。出会いは一期一会だってミーさんもいってたもんね!

露店通りへ来た。

わあ、ぬいぐるみ店主しかいない…!

なんだこのメルヘンな通りは…。

自由都市は無人だったり、明らかに暇そうに座ってる店主だったり、露店内で楽しそうに雑談してる人とかもいたのに、見事にぬいぐるみ店主しかいない。

これもまた街の特徴かもしれんな…。

アルテザ、プレイヤーでも着ぐるみ装備とか、仮面装備とか多いんだよね。生産職が多いっていうから、身バレ防止とかそんな感じなのかも?

眺めていくと、置いてある展示品を見つつオーダーするのが基本のようだ。たまにそのものを売ってるところもあるけど、とても少ない。

そしてオーダーは1日からかかるみたい。NPCの仕事が早すぎるだけで、材料集めたりとかもあるし、なんだかんだ1日は普通かかるよね、うん。

いろんな装備があるな~~と歩いていくと――自由都市と違って流れるほど人通りはない――、気になるものを見つけた。

『すべる絨毯~すごくすべる!すべらないけど更にすべるようになりました!当社比1.3倍!(参考数値)~』

なんだこれ。

見た目は50cm四方のミニ絨毯たちだ。ぬいぐるみの後ろのパーテーションに紐を掛けて、洗濯物のように吊るされて展示されている。

カラフルな花模様があったり、エキゾチックな幾何学模様があったり、かと思えば羊毛の濃淡だけで織られたと思われるモノクロ絨毯もある。

色も模様もバリエーション豊か。このサイズなら玄関マットとかにしてもよさそうだし、今みたいに壁掛けで飾るのもインテリアによさそう。

「ハッ、お客さん!? お客さんです!? ヤッダァー、猫さんアルテザは初めて!?」

「にゃ!?」

いきなりテンション高くぬいぐるみが喋りはじめてびっくりした。ちなみにペンギン。コウテイペンギンかな、でかい。猫サイズだ。なんでもありだなぬいぐるみ。

「ドーモドーモ、アルテザ名物『すべるようですべらないやっぱりすべる絨毯のお店』へようこそー! 開店から1枚も減らない悲しいお店、それがぼく…」

突然のテンション落下!

落差が激しい。

「…すべる以下略な絨毯って何にゃん?」

「いきなり略された! そういう効率重視するひとぼくしゅき♡ よっくぞ聞いてくれましたー!!」

そこからつるつると流れたペンギン氏の長い長い口上は割愛するとして、要約すると、だ。

すべる絨毯とは、ペンギン氏が独自に見つけた配合の羊毛(いろいろ混ぜた混合毛)を紡いで織った、不思議な絨毯である。

なぜか置くと滑っていく。

何の家具を乗せても滑っていき壁に激突する。そこで止まらず角度を変えて更に滑る。なんだって?

ならばいっそ移動用に使ったらいいのでは?と人間が乗ってみると、滑らない。

坂道を段ボールソリするみたいに滑ったら楽しそう? はい、滑らない!

そんな摩訶不思議絨毯であるらしい。

販売前に詳細を教えないことはフェアではない、と全てを説明して販売しているせいか、今まで1枚も売れたことがないという。

「なにしろお高いんです!!」

「自分で言ったにゃん!」

「正直をモットーにしております! だってこの配合に使われてる毛にお高いのがあって!値下げできない! もはや意地!!」

「にゃあ…」

絨毯1枚、53万z。55万のところ断腸の思いでのお値引きらしい。

「なんと今なら7日間の返品保証付き!」

「そんなことするから全部戻ってきちゃうにゃん~」

「にゃ、にゃん~~!」

ペンギンはしくしくと泣き真似している。

……このぬいぐるみ店主、動くぞ。さては中身大商人だな!?

生産で大商人とか、相当売れて儲けてないと出来ないやつ。

オーダーメイドで儲かってるけど露店もしたくて、でも忙しくなるのは嫌だから売れない商品を冷やかしで売ってるタイプだなこれ!

「ちなみになんでコレすべるにゃん?」

「ここだけの話、配合の一部に『スマッシュゴート』の毛を使用しているからです! あ、もちろんそれだけではないのですけど」

スマッシュゴートは山岳地帯に出るヤギのmobだ。高いところからの滑空突撃がヤバいという噂。しかも数歩なら空を走れるらしく、途中の方向転換も出来るので狙われたら避けるのが至難の業だとか。

なお特攻のため、失敗しても成功してもヤギに大ダメージである。他mobの先遣隊として来るのがそれはそれは厄介だそうな。

「なんで滑らなくなるにゃ?」

「安全装置として、生物がのると滑らない効果をパーマしております!」

「パーマ?」

「オウ! これは失敬、言葉足らずでしたね!」

パーマとは「パッシブ」+「 増(ま) す」からの造語で、装備生産では共通用語らしい。「装備者からMPを一部吸い取って効果を発揮するスキル(主としてパッシブ)がついてる」こと、またはその装備についてるパッシブ効果のことを指すのだという。単なる付与とはちょっと違うので区別されてるんだとか。

ペンギンいわく「パッシブあるでパーシバル派もおります!」。

聞かないとわからないやつだった。こういうのは掲示板でも解読に時間かかるんだよね。

「つまりこの絨毯は本来は滑るもので、生物が乗るとパッシブ『滑らない』が発動するにゃん?」

「イグザクトリィ!」

「逆にならないにゃ??」

「ならない! それがこの絨毯なのです……」

生産の世界も思うようにいかないものなんだなあ。

「……実を申しますと、ここだけの話、人が乗っても滑りっぱなしの絨毯は作れるんですよ」

「にゃ」

「ただそうすると摩擦がすごいのか、耐久がすごい勢いで減るのです。絨毯なのに!一瞬で擦りきれる! もうね、アホかと」

「絨毯である意味ないにゃんね?」

「そう! でもなぜかこの滑る効果、絨毯にしないとつかないのです…! 絨毯は古いほどいいというのに、あっという間に成金の遊びで消費されていく! なんと虚無でさみしい時間だったことでしょう!」

「ままならないにゃん」

ドバァ、と涙があふれだすアクションで悲しむペンギン。ぬいぐるみ店主もアクションできるのか…。

そこでペンギン氏は苦心の挙げ句、絨毯にパッシブ『滑らない』(実際は盾向けアクティブスキル『不動』と生産付与補助スキル『持続』を合体させたもの)を実装することに成功したそうな。

「つまりこの絨毯ってそのままの方が売れるのにわざと売れなくしてるにゃ?」

「そう……いうこともあるかもしれませんね?」

横を向いて下手くそな口笛を吹くアクションのペンギン氏。

ちなみにこの絨毯、置いておくと滑って勝手に耐久を減らして散っていくので、家具にする際は吊るしてタペストリーにするのがオススメとのこと。

しかしその用途の絨毯風タペストリーならば、家具屋にいけば1/10の価格で買えることだろう。

「もはや絨毯じゃないにゃん」

「それはいわない約束でしょおとっつぁん~!」

今度はおいおいと伏せて泣くアクション。バリエーション豊かだなあ。泣くアクションひとつとってもいろいろあるのね…。

というかここまでいくとアクション芸というか、うまく使い分けられていて感心する。

「本当はぼく…空飛ぶ絨毯が作りたいんですよ」

「あこがれにゃんね~」

「滑る絨毯に『浮遊』をパーマ出来たら完成だと思うんです! でもね、『浮遊』系の装備って、アーティファクトなんですよ~~!」

このゲームに置ける『アーティファクト』とは、主に生産不可品の意味を持っている。つまりドロップ、もしくは宝箱などからの採取のみのアイテムだ。かつては万能薬もアーティファクトだった。

「魔子族の専用魔法ででも出てくれればワンチャンあるんですけど、魔子族ってまだ里が見つかってないじゃないですか。背景ストーリーとしては、星の洗礼を浴びて浮遊するようになったとかなんとか出てるんですけど」

「にゃ」

星の洗礼。

それってもしや、星魔法なのでは?

たしかに重力系だしなあ。そうか、魔子族って星属性なのか。

魔子族の種族紹介プロモ映像で、某元気玉のようなでかい火の玉を掲げてるところがあったんだけど、あれってまさに 火球(かきゅう) だったわけか。隕石ストライク。なるほどな~。

「ペンギンさんは魔法は何属性使えるにゃん?」

「お?聞いちゃいます? 私、魔法マニアなんでスキルとしては3属性ですけど、魔法としては15属性使えちゃいますよ!」

ぐふふ、と嘴を羽根で押さえつつペンギン氏。動きはだいぶ微妙なんだけど、ぬいぐるみとしては可愛いのがなんか悔しい。

「ならもうちょっと探してみるといいにゃん。15属性の先に『星属性』があるにゃ。これが重力系にゃんよ~」

「なん……だと……?」

ピシャーン!と雷に打たれたアクションの後、ころんと後ろへ転がったぬいぐるみペンギンが、がばりと起きあが――ろうとしてジタバタしている。

ペンギン、足短いからな…。

「あっ、あああー!またやってしまったー! 助けて、助け起こしてへるぷみー!」

「にゃあ、猫非力だから無理にゃん」

「大丈夫、ぼくの中身は夢と希望が大半で、 綿(わた) はちょっぴりしか入ってませんので! とっても軽いんです!」

くったりと力を抜き手を差しのべてくるペンギン氏。いや見るからに重量級なんだが、ほんとか…?

「助け起こしてもいいけどお願いがあるにゃん」

「にゃん!? この状況でその提案…、さてはぼくをひどい目に合わせるつもり!? 魅惑のボディーがまたひとを狂わせてしまった…。さすが天才のぼくが作った最高傑作! なんて罪作りなペンギン! くう~!」

そのポジティブ思考、嫌いじゃないぞ。

「猫、メエメエ様について探してるにゃん。アルテザが拠点ならなにか知らないにゃん?」

「メエメエ様? メエメエ様って、あの通り雨のメエメエ様です?」

「それにゃん。白くてふわふわヒラヒラのメエメエ様にゃん」

「ヒラヒラ?? 通り雨の雲がふわふわ羊みたいだからメエメエ様って聞きましたけど、別のメエメエ様がいらっしゃる?」

あれ、やっぱりシーツお化けはメエメエ様関係ないやつ??