軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

186 新時代へ【完】

世界に電気を復活させるプロメテウス計画は、いわば文明の総決算だ。

魔法文明だけでは成し遂げられない。

地球文明だけでも成し遂げられない。

二つの文明が揃って初めて可能になる大計画。

聖域の魔女が計画し、俺が実行し、世界中から集結した物資と人材が全てを支えサポートする。

俺の知ってる奴も知らん奴も束になって協力体制を作っている。

未来視づてに事態を知り、魔神戦救援部隊に参加してくれたらしい地獄の魔女は、俺にクソデカ用紙に書かれたクソデカ文字のクソデカ感謝状を贈ってくれた。

80年も大昔の魔法杖ハリティプレゼントをまだ恩に着てくれているらしい。義理堅すぎる。直接顔を合わせず文面で済ませてくれたのもマル。せっかくの古魔女からの御礼の手紙だ。あとで家に飾らせてもらおう。

対してちょっと空気読めてなかったのが山上技研の山上氏だ。

なんかね、生き返ってすぐに傍聴した論文発表の一件からずっと俺と直接話したかったらしいんだよね。プロメテウス計画参加にかこつけてやたらと俺と面会したがり、正直迷惑だった。

山上氏の知見と技術には敬意を払うし今後仲良くやっていきたいが、対談はマジ勘弁。半田教授も声聞いた直後にお亡くなりになられたし、ハトバト氏も話してみたらヤバげな爆弾思想持ちだったし、レベル高い技術者と話すのにあんま良い印象ないんだよな。俺の目に見えないところでこれからも頑張っていって欲しい。

大日向教授とマモノくんは忙しい仕事の合間を縫ってちょこちょこ顔を出しに来てくれる。大抵はオコジョを肩に乗せたマモノくんのワンセットだ。

そしてマモノくんの左薬指には指輪が嵌っていて、オコジョの首はリボンではなく指輪で飾られている。

ヒヨリにしこたま釘を刺されたから本人たちに直接は聞かないが、婚約しているらしい。

まだるっこしい。はよ結婚しろ。お前ら二人とも良い奴なんだからさ。結婚の暁には式には出席しないけど是非お祝いの品を贈らせて欲しい。

土壇場でハトバトや地獄の魔女たちを引き連れて魔神戦に介入し姿を消した今代未来視からは、一度だけ消印の無い手紙が届いた。

今は自分と妹とその友達のために力を使い、どこかで楽しくやっているらしい。

追伸で「電気が戻ったらハトバトに音の鳴る人形のオモチャを作ってあげて欲しい」という旨が書かれていた。

それはいいんだけど、何? 俺の友達はお前じゃなくてお前の妹なんだけど。なんでお前からの手紙なんだよ。妹も手紙に言葉を添えてくれてたけど、ほぼヒンディー語だから読めない。

色々助けてくれたのはありがとう。大感謝。でも次は妹さんメインで手紙を書くように言って欲しい。人間に飽きてまたバケモンの姿に戻る気があるなら是非協力したい。いや人間のままでも友達だけどね。

一番気を遣ってくれたのは蜘蛛の魔女さんで、魔神戦で初撃の儀式魔法に参加してくれたのみならず、ツバキ、セキタン、モクタンが一生懸命書いたお手紙を持ってきてくれていた。

彼女は魔神戦後にモクタンとセキタンを心配して急いで日本に帰っていったから長居はしていない。

せっかく作った携行魔力通信機を「青の魔女の長電話イヤ」という理由で全然使わず死蔵しているツバキからの手紙には、最近ギリシャで小さなオリーブ畑を買い取った旨が書かれていた。

魔物退治屋、お医者さん、畑のオーナーの三足の草鞋を履き、ゆくゆくは広大なオリーブ畑を占有し、毎日オリーブ油風呂に入れる最強大富豪になるのだと夢をアツく語っていた。かわいい。お前ならきっとできる。

モクタンとセキタンからの手紙にはささやかな日常が綴られていた。

幼体時代に植えた桜の木が初めて花をつけて綺麗だったとか、大利の枕焦がしちゃったゴメンなさいとか、アヒージョ食べ歩きTier表とか、おっきな虎さん飼いたいからお金貯めてるとか、そんなのだ。

フヨウからの色鮮やかで良い香りのする押し花も添えられていて、流石に郷愁が掻き立てられる。

別にペットに会えなくて寂しいなんて思った事はない。あいつらは俺がいなくてもちゃんとやっていける。自分で自分を幸せにできる。

だが、やはり俺の心の故郷は奥多摩なのだ。

プロメテウス計画がひと段落したら、聖域先生に一言断りを入れて一時帰省したい。

計画に完遂の目途がつきさえすれば、ちょっとぐらいの作業遅延に目くじらは立てるまい。

幸いそのひと段落も今終わる。

俺はヒヨリと聖域の魔女を専用作業室に呼んだ。

プロメテウス計画実証機のお披露目をするためだ。

「杖にする必要あったのか……?」

組み立てが終わった実証機を見たヒヨリは、呆れたような声を上げた。

「コアと直線型の制御機構を接続する必要はあります。が、杖にする必要性は……大利が必要だと思ったなら、それで理由は十分でしょう」

聖域の魔女は苦笑いしたが、一定の理解を示してくれた。

そう。

俺が作った実証機は杖だ。

これが電気を失った世界を終わらせる、最後の杖となる。

銘は「プロメテウス」。

計画の名前をそのまま冠する、人類の叡智を象徴する杖だ。

全魔法金属製の杖の先には金属線で幾何学的に囲われた電球がついている。

俺は仕事を完璧にやった。

もしこれで作動しなかったら、それは聖域の魔女の論理不備だ。

だがそれもきっとないだろう。

きっと上手くいく。

緊張しきって表情を強張らせる聖域の魔女と、俺を信頼しきってリラックスしたヒヨリが、俺に頷く。

あの日、星の降る魔法の夜。

世界の全てが変わって、全てが崩れ去った。

辛い事も楽しい事もたくさんあった。

取り返しのつかない喪失も多かった。

しかし今日この時この瞬間、人類は人類が失った最大の叡智を取り戻すのだ。

俺は万感の思いを込めて電気杖プロメテウスを厳かに掲げ、柄を捻ってスイッチを入れた。

カチリと音を立て、全てが噛み合う。

そして。

崩壊世界の終わりを告げる、新時代の白く眩い光が。

明るく全てを照らし出した。

【完】