軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

152 国際秩序連盟主席独立捜査官コンラッド・ウィリアムズ

一定以上の国力を持つ国の軍事力には、大抵見せ札と伏せ札がある。

自国の軍事力をフルオープンにする馬鹿はいない。情報は力なのだ。

1万の兵力を2万と誇張して吹聴する事もあれば、兵力は1万だけと言いつつ密かに裏で500名から成る精鋭秘密部隊を動かしていたりする。

こういった軍事的情報操作の一環として行われる手法の一つが、超越者隠しである。

自国で生まれた超越者の存在を隠匿し、密かに運用するのだ。

超越者の存在は威嚇としても大変有用なので、超越者が二名以上いれば一人を見せ札に使い、もう一人を伏せ札にする、といったやり方が主流だ。

例えばイギリスは名前も顔も分からない超越者が国のために密かに活動していると有名で、密かに活動してるはずなのになんで有名なんだよ! というツッコミを受けまくっている。

情報漏洩でバレバレなのかも知れないし、わざと情報を流しているのかも知れないし、本当は伏せている超越者なんていないのにいるフリをしているのかも知れない。

情報戦の土俵に立つだけでゲンナリしてくるあたり、イギリスという国はどこまでもイギリスだ。

日本にも超越者の極秘部隊があるという噂がまことしやかに流れているし、中国も、アメリカも、真韓民国も、そのテの噂に事欠かない。

インドにも極秘運用されている超越者の噂がある。そういう噂が無い国の方が珍しいのだから、噂があって当然なのだが。

今回ヒヨリにヘルプがかかった案件は、インドが国際法に違反する形で超越者を密かに動かしているという情報を国連がキャッチした事に端を発する。

世界に魔法が広まってから90年ほどが経ち、戦争や軍事開発にもルールができた。

過度に残虐な魔法が禁じられたり、特に強力な魔法に使用制限がかけられたり。分かりやすいところでいえば意図的な魔法地形作成の禁止とかね。アレは土地汚染みたいなモンだから。

で、なんかインドはそういう国際的なルール違反をやってるらしいから、国連の警察部門的なところが「それほんと~?」ってなテンションで調査をはじめたと。

コンラッド・ウィリアムズはその調査担当官だ。

元々、ウィリアムズは国連の駐印施設に魔力通信機を運び込む仕事をしていて、その仕事の後にインドの国際法違反調査に取り掛かる予定だった。

山上技研驚異の技術により、最近になって正十二面体フラクタルを使わずとも魔力通信機の稼働が可能となって、国連施設には実地試験がてら優先的に通信機の配備が進められている。

正十二面体フラクタルを使用した地球の裏側からでも通信できる本場モンとは違って、山上技研が開発した新式魔力通信機の通信限界距離は5km前後。

それでも山上技研以前の技術では正十二面体フラクタル未使用通信機の通信距離限界は1m未満だったから、爆発的な進歩だと言えるだろう。

5km範囲で通信できるなら、理論上8000個ぐらい等間隔に配置すれば地球を一周するリレー式通信網ができる。小学生並の単純計算でしかないから実際そう簡単にはいかないだろうけど、19世紀並の通信網の復活は現実的だ。

ウィリアムズが国連の施設に通信機を運び込み試験稼働させたところ、通信圏内にいたヒヨリのキュアノスが反応。不審に思いながらも通話に応じたらアラびっくり! という流れだ。

キュアノスは魔力通信機のハッキングができるぐらい優秀な高性能通信機能を兼ね備えている。ヒヨリはなんか急に繋がった旧友との通信に驚きつつしばらく通話して、困ってるから助けてくれ、というヘルプを受け取った。

事の次第をなんだかめっちゃ俺の顔色を窺いながら説明したヒヨリは、しつこく繰り返した。

「誓ってこれは単に友人を助けるためでしかない。コンラッドの事はなんとも思ってない、ただの友人だ。しかし友人ではある、助けて欲しいと言われれば応えたい」

「はあ。いいんじゃないか……?」

クソ長い話をされた割に、内容が薄くて困惑する。

見ろ、ツバキを! 話が長い上に無駄に細かいせいで寝ちゃってるぞ。

何をそんなに言い訳っぽく微に入り細を穿つような説明をゴチャゴチャする必要があるんだ?

お前、大日向教授が困ってたら理由なんて聞かずにサッサとすっ飛んでくだろ。

俺だって友達が困ってたらすぐ助けに行くし。まあ助けに行ったせいで怒られた経験もあるのだが(荒瀧組)。

俺がどうとか関係ある? 行けよ、助けに。必要だと言うならもちろん俺も同行する。

どうにも話の流れが分からず首を傾げていると、ヒヨリはなんとも言えないモヤモヤした顔をした。

「嫉妬とかは全くないのか? 男友達に会いに行くんだぞ」

「だから会いに行って助けてやればいいだろ。俺もついてく……ああ、浮気が疑われるのが嫌とか言ってたけどその話? その心配って事? でも、お前浮気しないじゃん。浮気は有り得ないって言ってたし。浮気は有り得ないって言ったって事は、浮気は有り得ないんだろ? 何をどう嫉妬しろって言うんだ」

もしヒヨリに浮気の予定があるなら、俺だって気が気じゃない。

ウィリアムズが俺より魅力的な男で、ヒヨリが俺との交際を解消して、ウィリアムズと新たに交際を始めるかも知れない。想像しただけで頭がおかしくなりそうだ。

しかし、ヒヨリはそういうのしないって言ってた。

じゃあ、そんな心配はしなくていい。嫉妬の理由はない。

単純明快な話のはずだが……俺はまた何かコミュ障を発動させた勘違いをしているのだろうか? 論理的破綻は無いように思えるが。

考えても考えても意味が分からない。考えすぎて混乱し始めた俺に、ヒヨリは微笑んだ。

「忘れていた、お前はそうだったな。いつでも私の言葉をまっすぐ信じてくれる。心を操られても信じてくれるぐらいだからな」

「え、もしかして信じない方がいい……?」

「いや、大利はそのままでいてくれ。全て私の杞憂だったというだけの話だ」

ヒヨリはまだ昼間だというのに突然俺の頬にキスをするという破廉恥行為に及んだかと思うと、スヤスヤのツバキを起こし、友達と合流するために荷造りを始めた。

よく分からんが、ヒヨリが嬉しそうだから良し!

結局ヒヨリが何を不安がっていたのかの謎の解明については今後の課題としておこう……

ヒヨリの友達、ウィリアムズが待っていたのは俺達がいたインパールの隣町、ワンゴイの国連地域開発局の建物内だった。

「やあ、久しぶりだね、青の魔女。また会えて嬉しいよ」

南国風の応接室で俺達を爽やかな笑顔で迎えたのは、二十歳ぐらいの男だった。

金髪碧眼で、やたらと顔が良い。美男子はかくあれという顔面偏差値の高さだ。顔の造形は線が細い感じなのに、服の上からでも引き締まった筋肉が分かるぐらいで、佇まいも風格がある。

つよそう。エルフ耳だし。プラス10点!

でもなーんか入間に雰囲気が似てる。マイナス100点!

「ああ、一年ぶりぐらいか? 紹介しよう、こっちの燃えてるのがツバキ。魔人だ」

「ミミミ、こんにちは。お兄さん強そう」

「はいこんにちは。しっかりした挨拶ができて偉いね」

「エライゾ! えへん!」

「それからこっちが大利だ。散々話したから知っているだろうが、直接会うのは初めてだろう?」

「お、大利です……ども……」

「はじめまして、僕は国際秩序連盟主席独立捜査官コンラッド・ウィリアムズ。噂はかねがね。気軽にコンラッドと呼んでくれると嬉しい」

「ウ、ウス……」

白い歯を見せて物腰柔らかな笑顔を浮かべ手を差し出してくるウィリアムズに気後れしつつ、なんとか緊急握手ミッションを達成する。

こいつ怖いな。圧倒的な陽キャのオーラが俺の闇の衣を引き剥がしにかかってくる。週末に友達呼んで庭でバーベキューパーティーしてそう(偏見)。相容れない。

俺が後ろに下がりツバキを盾にして光の波動を防御していると、ヒヨリは咳払いして威圧的にウィリアムズに言った。

「つまり、そういうわけだから。見ての通り大利は生き返った。私達は今、交際している」

「……うん。おめでとう、また君の素敵な笑顔が見れるという事だろう? こんなに嬉しい事はないよ」

「結婚を前提にした交際だ」

「…………うん」

左手の薬指に嵌まったキラリと光る婚約指輪を見せながら言うヒヨリに、ウィリアムズは長めの沈黙を挟み柔らかに頷いた。

それから俺の目を真っ直ぐ見て口を開いたので、俺は反射的に目線を外そうとしたが、妙な圧があってバチンと目が合ってしまった。何? こわ。

「大利賢師。青の魔女を頼むよ。彼女を幸せにしてあげてくれ」

「え、はい……」

「友人として、僕は青の魔女の幸せを心から願っている。君は青の魔女に選ばれたんだ。上から目線に聞こえると思うけど、これだけは言わせて欲しい。どうか、彼女を託して良かったと思わせてくれ」

そう言うウィリアムズは額縁に入れて飾っておきたいぐらいの人の良さそうな笑顔を浮かべていた。それなのに笑顔以上のものが隠れている気がして気後れする。

ふーむ? まあ、魔王討伐の時からの付き合いなら、80年来の友人だ。そんな古い付き合いの友人が彼氏を紹介してきたら、思う所の一つや二つあるのだろう。知らんけど。

「聞いてて思ったんだけど、もしかしてウィリアムズとヒヨリってけっこう仲いい? 友達より上? 親友ぐらい? 俺とヒヨリが結婚する事になったら結婚式に招待した方が良いぐらいの関係?」

「…………………………うん」

ウィリアムズはかなり長めの沈黙を挟み、胸のあたりを手でぎゅっと掴みながら微笑んで頷いた。むむむ、お手本みたいな爽やかスマイルだ。

こいつ本当に顔が良いな。ヒヨリ以外の女子にキャーキャー言われてそう。顔の良さを攻撃力に換えられるならたぶん家の一軒や二軒吹っ飛ばせる。

顔面攻撃力に感心していると、苦笑いするヒヨリが俺の肩を叩いてきた。

「大利、あまり虐めてやるな。それ以上はコンラッドの心臓がもたない」

「えっ! 心臓病あんの? 座れば? いや待てよ違うなそんなわけない、比喩表現か? 俺が無自覚精神口撃したって事? 何が? どれ? どの言葉が悪かった? すまんウィリアムズ俺こういうの勉強中でさ、傷つけたんだったらごめん……」

どうやら今日はバッドコミュニケーションが出てしまう日らしい。

困った。もう黙っておこう。ウィリアムズは話してて楽しい奴でも無いし。

口にチャックをして黙ると、ウィリアムズは深呼吸して気を取り直し、俺達にソファに座るよう勧めた。自分も座り、スナックが盛られた籠を手で示す。

「楽にして。大利は親しくない者とする雑談が嫌いだという話だし、ツバキもたぶん込み入った話は苦手だろう? 新しい友人たちとの会話を楽しむのはまたの機会にして、今は用件を話そうか」

「待て聞き捨てならん今俺のこと友達っつったか? は? なんだお前? コミュ障か?」

「大利静かに。話が進まない。ツバキ、口を塞いでおけ」

「ミ」

ツバキに手で口を塞がれ喋れなくなり、ウィリアムズの話を大人しく聞く他なくなる。

俺がモゴモゴと声にならない抗議の声を上げる中、ウィリアムズは今回のインドの国際法違反疑惑について話し始めた。