軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

137 中国文化展覧会

常闇平原を抜けて到着した中国の首都北京では、折よく文化展覧会が開かれていた。

新時代(グレムリン災害~)の中国文化を振り返る展覧会で、古い物ではグレムリン災害発生当日に発行された最後の新聞。新しい物では武仙集団が新開発した「 魔力炮(モーリーパオ) 」が展示されているという。

武仙集団の 魔力炮(モーリーパオ) ……絶対に金科玉杖を解析して作ったヤツじゃん? 大変興味があります。

金科玉杖売却から半年、中国きっての大企業がどこまでやれたのか?

見せてもらおうじゃないか。

ところが文化展覧会が開催されている会場に二人でいくと、妙に人の気配が無い。それは嬉しいのだが、「罢工」と書かれた看板が入口に立てられ、封鎖されていた。

ヒヨリは溜息を吐いてガッカリする。

「あー。よりにもよってか」

「何がなんて? 読めん。職工? 竣工?」

「ストライキだとさ」

「ええ……」

展覧会開催中って駅前パンフレットに書いてあったけど? 嘘じゃん! 報連相はどーなってるんだよ!

ストライキするのはいいけど、それならそうと分かるようにしてくれ。無駄足になっちまった。

「しゃーない。こういう事もある。文化展覧会デートなんて流行んねーし、俺が楽しいだけの場所行くよりヒヨリと一緒に楽しめる場所行った方が良いよな」

「…………。まあ待て。やりようはある」

ヒヨリの肩を叩いて帰ろうとすると、何やら策がある風の事を言い出す。

ストライキ中なのに何をする気だろうとヒヨリの後ろについていけば、展示会場の建物の裏口に行き、貼り紙に書いてあった住所に目玉の使い魔を飛ばした。

すると、ものの十数分でオッサンが大汗をかき全力ダッシュで駆けつけ、何やら交渉が始まる。

そして最終的には握手が交わされ、オッサンは裏口の鍵を開けてニコニコしながら帰って行った。

ヒヨリは裏口を開け、俺の手を取って中へ誘う。

「よし。入ろう大利。貸し切りだ」

「おいどうやったんだ? なんか取引だの口添えだの聞こえたけど」

「ストライキの代表を呼んで、展覧会運営に私から賃上げについて口添えするから、今日一日貸し切りにしてくれと言った」

「つよい」

流石奥多摩交渉担当大臣はやる事が違うぜ。自分の名声と立場を活かしたムーブ! 俺にはとても真似できない。というかそういう発想すらなかった。マジでリスペクトっす。

「ヒヨリ、歩きにくい。くっつくな」

「いいだろう? デートなんだから」

「えー? そんなにくっつきたいならおんぶか肩車するか?」

「……いいか? モクタンが喜ぶ事と私が喜ぶ事は違う。覚えておけ」

よく分からんが、ヒヨリは腕を絡めるのをやめて不機嫌そうに一歩離れた。

くっつきたがってるのに、もっとくっつく提案をすると不機嫌になる……? 意味不明。女心は複雑怪奇過ぎるな。肌感的には魔王グレムリンの複雑さとどっこいどっこいだ。

ごちゃごちゃしたが結果的には文化展覧会デートは無事成立し、俺は心ゆくまで中国のグレムリン災害以後の文化史を堪能した。

展示ルートは古い時代から現在へ時間が進む順番で物品が並べられていて、強化ガラスと鉄柵で保護されている品も多い。

グレムリン産業(魔獣産業)が盛んな国なだけあり、それ系の展示の割合が高かった。

嘘か真か世界最古の 紅眼獣(カーバンクル) の剥製とか。

全グレムリン製の 魔造酒(ネクタル) 専用酒器とか。

現在の中国に併呑された小国の皇帝が着ていた魔獣革のコートとか。

しかし一番目を惹いたのは、張 璃茉が描いた魔晶画だった。

絵画の下の説明をヒヨリに読み上げてもらったところによると、張 璃茉(2001~2099)は21世紀を代表する魔晶画家なのだそうだ。

魔晶画とは、粉末状に砕いた色付きグレムリンを絵具として使って描く絵画を指す。

変わった絵具を使っている以外に特別何があるわけではない画法なのだが、張 璃茉の作は一味も二味も違う。

初期の作は平凡なのだが、2028年~の絵画で突然才能が開花。絵そのものが妖しい魅力を帯びるようになり、鑑賞する者を惹きつけてやまない。

特に展示中の『饕餮地獄絵図』は名作として名高く、張 璃茉の孫は国家主席たっての頼みで展覧会への貸し出しを了承したという。

俺はかつて中国を破壊した甲1類魔物 饕餮(とうてつ) の悪逆を描いたおどろおどろしい絵に圧倒され、覚えのある惹きつけられる感覚に愕然とした。

「……なあ。これ、魔石使ってね?」

「私もそう思ったが、何か違うんだよ。魔石は使っていない。かといって普通のグレムリンを使って描いているとも思えない」

絵から感じる不思議な光沢というかオーラというか、そういう魅惑的な雰囲気は魔石から感じるモノととてもよく似ていた。

魔石を砕いて絵具にするとかいう超絶もったいない事をしているのかと思ったが、ヒヨリは首を横に振る。

「そもそも璃茉は1000枚以上こういう絵を描いている。魔石を絵具にしているならそれだけで破産するし、そもそもそんなに大量の魔石は手に入らない」

「ほー……? じゃあどうやってこういう、雰囲気? の絵を描いてるんだ」

「知らん。絵具なのか技術なのか。璃茉が死んで謎は謎のままになった」

「げーっ。俺が死んでる間にオモロい事しないで欲しかったな。いや綺麗だけどさ。理屈はとにかく」

「ああ。恐ろしいが、美しい絵だ」

俺達はしばらく額縁に入れ飾られている張璃茉の絵を陶然と眺めた。

魔石には何時間でも見ていられる不思議な輝きがある。それと同じ魅力を持つ魔晶画を描ける唯一無二の画家の逝去がつくづく惜しまれる。

張璃茉の絵は全部で七枚飾られていて、一枚一枚じっくり見ていく。

最後の絵に目を移した時、ヒヨリは呻いた。

その絵のタイトルは「蓝仙」。

描かれているのは他でもない、青の魔女その人だ。

おいおい! この展覧会で一番面白いぞこれ。

どうなんですか、青の魔女さん! いや藍仙さん!

この絵を見てなにか一言!

「お前の絵じゃん。有名人~」

「さ、流石に照れる。あまり見るな」

「あー、まああんま良い出来じゃないもんな。けっこう不細工」

「…………」

俺が素直に感想を言うと、ヒヨリは照れ顔を引っ込めて真顔になった。

な、なんだよ。美人に描かれてるとでも言って欲しかったのか? 嘘言ってどうするんだよ。

本当に不細工だろコレは。マトモな審美眼を持っている人間なら口を揃えて同意するはずだ。

「本物の美しさとは比べ物にならん。へたくそだ」

「うぁあっ……!」

ヒヨリは心臓のあたりを手で押さえて呻き、その場に崩れ落ちた。

まーたヒヨリ殿が挙動不審になっておられるぞ。情緒不安定過ぎる。そんな感受性豊かで文化展覧会に来て体がもつのか?

「お前、お前は本当にそういうところだぞ。全部本心で喋るからお世辞の百倍効く」

「は? 良い事だろ。嘘をつくのはダメだってヒヨリも子供の頃に習っただろ」

ガキんちょでも知ってる当たり前の事を、当たり前に実践する。これこそが責任ある立派な大人の行いというものだ。

あまり絵の件でアレコレ言うとまた精神異常を起こしそうだったので、ヒヨリの再起動を待って次の展示ブースに行く。

順路に従って進んでいき、期待の魔力炮は最後の展示だった。

やはり武仙集団の最新技術展示で、未来を作る! みたいな感じのヨイショがズラズラ説明文に書かれていた。

見た目的には大砲。ぶっとい銃身の後部に腕を突っ込んで魔力をチャージすると、黒いビームが出るらしい。金科玉杖のダウングレード兵器って感じに見える。

「やっぱり無駄に大型化したか。このサイズになると最適体積超えて魔力効率バカ下がりしてるはず。でも半年で劣化模倣できたのはまあまあか……?」

「技術者0933の協力についても書かれているな。一行だけさらっと」

「待て。技術者?」

聞き捨てならんぞ。

ああん? 誤訳か? 俺は魔法杖職人だが?

俺が睨むと、ヒヨリは肩をすくめた。

「仕方ない。お前、最近あんまり新しい杖作ってないだろ。こう思われもする」

「そ、そんなはずは」

言われてみればそこはかとなく心あたりがあったが、杖は作ってるぞ。そのはずだ。

不安に駆られ、生き返ってから世に出した杖を指折り数えて確認する。

キュアノスのバージョンアップは除外するとして……

魔力を身体強化に変換する魔法螺旋杖。

それとオークションに出した金科玉杖と……

…………。

えっ!?

に、二本だけ!?

少ねぇーッ!

キュアノス改造だのイアトロス・グラスだの四次元機能だの、興味の赴くままにアレコレやっていた結果、一年強でたった二本しか新しい杖を作ってない。

由々しき事態だ。いくら高級志向少量生産とはいえ、年産二本は流石に少ない。

そりゃあ技術者として誤認されもしますわ。ちくしょう。杖職人から技術者に鞍替えしたと思われてやがる。

「すまんヒヨリ。旅先でアレだけどちょっと仕事したい。俺の魔法杖職人としてのアイデンティティ崩壊の危機だ。杖を作って世に出さないと」

「おい本気か? 別に急がないが、日本に戻ってまた出発して、なんてしてたら一生かかってもルーシ王国に着かないぞ」

「出先でも仕事はできる。工具持ってきてるし」

俺は工作機械を全く使わず、持ち運びできる工具で仕事をする。奥多摩の工房に戻る必要はないのだ。

とはいえ材料確保の問題はある。中国はグレムリン生産が盛んだから、グレムリンには困らない。

問題は木材だ。フヨウがいないと上質な木材を作ってもらえない。そこらへんの木材で間に合わせるのは嫌だ。最高品質・最高級品・オーバーテクノロジーの代名詞、0933の名が廃る。

「そうだ。花の魔女一族って世界中にいるだろ? このへんにもいるんじゃないか? そいつに協力してもらえれば旅のついでに材料確保ができる!」

「また女を引っかける気か? ダメだ」

「お前は一体何を言っているんだ」

ヒヨリは渋ったが、説得すると中国にいる花の魔女一族の場所を教えてくれた。

幸い、旅の経路と中国の花の魔女一族の居場所が被っていたので、ルート変更はない。

中華が誇る大河、長江流域の肥沃な大地に根付いた花の魔女一族の名前はキンレンカ。

花の魔女の娘で、フヨウの妹。

そして大都市武漢を魔物の襲撃から長らく守り続けている守護者でもある。

キンレンカーッ! 俺だ、お前のねーちゃんの友……仲間……割と仲がいいご近所さんだ! 杖作りに協力してくれ!!