軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62.グイグイ来すぎなんですけど

いや、魔石を使う灯だって焜炉だって天火だって冷却箱だって、ぜんぶ魔道具なの。でもね、ほら、日本人感覚としてそういうのは電気で使ってた道具に近いじゃない?

でもマジックバッグは違うのよ、だってこんなちっちゃな袋にいろんなモノをガンガン収納できる、一目で物理的におかしいでしょなトコが魔法なのよ。ファンタジー感が違うのよ。

「こちらの収納魔道具は小型で、内部の時間を止めることができないのですよ。ですから、この美味しいパンも冷めてしまうのが少しばかり残念ですね。それでも、十分美味しくいただけると思いますので、本当に助かります」

近侍さんはさわやかな笑顔で言ってくれちゃう。

でも、小型で内部の時間を止めることができない、ってことは……。

「内部の時間を止めてしまえる収納魔道具も、公爵さまはお持ちなのですか?」

「持っている」

思わず訊いてしまった私に、公爵さまは一言答えてくれた。

公爵さまは一言だけだったけど、近侍さんがさらに説明してくれた。

「エクシュタイン公爵家が所有している収納魔道具は、その収納力においても我が国随一です。生きもの以外はなんでも収納できますし、時間を止めてしまえますから、収納した状態そのままで保存できます」

「それはすばらしいですね」

私はもう素直に感動してしまった。

だってファンタジーよ。とってもファンタジーなのよ。この世界に転生して16年、なんかやっとファンタジーっぽいお話なのよ。いや、自分の固有魔力である筋力強化は、不本意ながら、ある意味とっても役に立ってくれてはいるけれど。

「ゲルトルード嬢は魔道具にご興味がお有りですか?」

イケメンがその顔面圧力全開で私にほほ笑みかけてくる。

おかげで私の傍にいるシエラなんか、ホントにぽーっとしちゃってるもんね。うん、ふつうの女子の反応だわね。

でもごめんなさいね、私ゃ前世の記憶のおかげで、見た目と違って中身はすっかりスレちゃってるもんで。しかも、実はイケメン耐性がめっちゃ高いのよ。

だからもう、にっこりとお返事できちゃう。

「興味というほどではございませんが、収納魔道具は初めて目にしたものですから」

「そうですか。もしご興味がお有りでしたら、私の弟が魔法省の魔道具部に勤めておりますので紹介いたします。いつでもお声をかけてください」

なんだろ、何かフラグ立てられちゃった?

あ、でも弟さんが魔法省に勤めてるって……つまりこの近侍さん、アーティバルトさんも貴族だってことね。まあ、そうだろうとは思ってたけど。高位貴族家は執事や近侍も貴族が務めるのがふつうだって聞いてるし。

むしろ、伯爵家である我が家の執事が平民のヨーゼフだっていうほうが珍しいのかもしれない。そう言えば、ヨーゼフをいじめてたあの役立たず執事も貴族だったような?

などと考えながら、私はとりあえず笑顔で私は答えておいた。

「ええ、機会があればぜひお願いいたします」

あー笑顔を頑張りすぎて顔が引きつる。

そんでもってナリッサも近侍さんをにらみすぎて、げふんげふん、笑顔を向けすぎて、いい加減顔が引きつってると思う。

それにしても、近侍さんがこんなにグイグイ来てるのに、公爵さまが静観しちゃってるっていうのも、なんだかなーだよね。

このイケメン圧は公爵さま公認?

なんか勘ぐっちゃうな、イケメン圧で何か私への要求を通りやすくしようとか……あ、アレかな、後見人になるとかいうヤツ。

あーでも、まだお母さまと全然話せてないのよねえ。昨日の今日で、公爵さまがいきなり来られたのもその話なのかな。

でも圧も何も、こっちはもう公爵さまにご迷惑かけっぱなしのお世話になりまくりなんだから……そう思って、私はようやく思い出した。

『クルゼライヒの真珠』! その代金! そんでもって、蒐集品目録―――!

うわー公爵さま、今日のご訪問は絶対ソレだよね?

『クルゼライヒの真珠』を買い戻すための相談。我が家の蒐集品の中からどれを、あのイケオジ商人に渡すのか。

って、蒐集品目録ってケールニヒ銀行から取り寄せないとダメなんぢゃ……いまからカールをお使いに、ってダメだわ、下働きの子どもに目録なんか渡してくれないでしょ、銀行は。ヨーゼフは動けないし、ナリッサなら侍女頭だから……。

焦りながらついナリッサに目を遣ると、ナリッサは何か確信に満ちた笑顔でうなずいてくれた。

「ゲルトルードお嬢さま、そちらの『さんどいっち』は、そろそろ切り分けることがお出来になりますでしょうか?」

にこやかに問いかけながら、ナリッサが私と近侍さんの間に割り込んでくる。

「せっかくでございますから、こちらも公爵さまに味わっていただきましょう」

「え、ええ、そうね、そうしましょう」

私もにこやかにうなずいて見せると、近侍さんが嬉しそうに言った。

「では重ね重ね申し訳ございませんが、私もご相伴させていただいても?」

「もちろんでございます」

って、私が答える前からとっくに食べる気満々だったでしょうが。

ちょっと公爵さま、そっと目を逸らしてないで! この人、貴方の近侍でしょ!

そこにまた、ナリッサが割り込んでくれる。

「では、ご足労おかけして申し訳ございませんが、客間へとご移動願えますでしょうか?」

「え、いや、このままここで……」「客間を整えましてございます」

言いかけた近侍さんの言葉を、ナリッサがぶった切った。

「客間には、当クルゼライヒ伯爵家蒐集品の目録をご用意してございますので、公爵さまにはそちらでぜひご覧いただきたく存じます」

こんな厨房なんかで伯爵家の蒐集品目録広げさすんぢゃねーよ、とナリッサの笑顔が強烈に主張してる。

って、ナリッサいつの間に!

さっきカールにささやいてたのは、客間を整えてねってことだったのね。

それに目録! 本当にいったいいつの間に! 午前中のうちに銀行から取り寄せてくれたんだわ、ああもう、ナリッサが有能過ぎる!

「公爵さま、申し訳ございませんが客間にご移動願えますでしょうか?」

私も頑張って笑顔を振りまいた。「こちらのおやつもすぐにお運びします。どうぞ召し上がってくださいませ。その後、我が家の蒐集品目録をご確認いただければと存じます」

「そうか。ではそのようにしていただこう」

目を逸らしていた公爵さまは、何事もなかったかのように腰を上げた。

そのとき、お母さまの目がちらりと私に向かった。そうだ、お母さまはご存じない。なぜ我が家の蒐集品目録を公爵さまに見ていただく必要があるのかを。それに、後見人の件についても、少しでもいいから事前に話をしておきたい。

私はお母さまに小さくうなずき、声を上げた。

「公爵さま、昨日といい今日といい、至らぬことばかりで本当に申し訳ございません。客間では正式なお茶をご用意させていただきますので、まことに申し訳ございませんが、少々お時間をいただけますでしょうか?」

なんだか訝しげに軽く眉を上げた公爵さまに、私は正式な礼をする。

「わたくしも母も衣装を着替えさせていただきたいのです。これ以上公爵さまにご無礼差し上げるのも恥ずかしくございますので」

「ふむ」

自分のあごに手を遣って、公爵さまは私の姿をさっと上から下まで見てくれちゃった。

そりゃーもう、お母さまの黒いドレスはともかく、私なんか昨日はブリーチズ姿で、今日は自分で脱ぎ着できちゃうような貴族令嬢にあるまじきドレスを着てるからね! エプロンで隠してるけどね! そもそも今日は厨房で、マルゴとお料理の相談することしか考えてなかったからね!

それで納得してくれたのか、公爵さまはうなずいて言ってくれた。

「相分かった。では、客間でお待ちしよう」

私は公爵さまに礼を言い、すぐに指示を出した。

「ナリッサ、公爵さまを客間にご案内して。シエラはお茶のワゴンを用意してね。マルゴはそのサンドイッチを公爵さまにお出しできるようにしてちょうだい。そうね、サンドイッチの残りは、せっかくだから作ったばかりの蜜蝋布で包んでおきましょう」

厨房の扉を開けたシエラがすぐにワゴンの用意に取りかかり、マルゴも嬉しそうに干してあった蜜蝋布を持ってきた。

「ゲルトルードお嬢さま、これをどのように使えばよろしゅうございますか?」

「簡単よ、手で温めると形が……」

「それはいったい何ですか? 蜜蝋布とおっしゃいましたか?」

だーかーらー!

イケメンのくせに気配を完全に消してくるの止めて!

さっさと公爵さまと一緒に客間へ行ってよ、近侍さん!