軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38.もはや手段を選んでいられません

「とにかく、これからわたくしたちにできることを考えましょう」

私はそう言って客間を見回した。

いま客間にいるのは私のほか、お母さまとナリッサと、そしてようやく立ち直ったらしいヨーゼフの4人。

さすがに今回は、まだ幼いアデルリーナや新入りのシエラとハンスとマルゴ、それにやっぱりまだ子どものカールには詳細を話さないことにした。

「そうね、過ぎたことは仕方ないわ。これからのことを考えましょう」

お母さまも気持ちを切り替え、そう言ってくれる。

前向きになってくれたお母さまに、私は胸をなでおろした。

「ではまず、『クルゼライヒの真珠』の件ですが、これはもう公爵さまを信じてご連絡をお待ちするしかないと思います」

「わたくしもそう思うわ。あの公爵さまは、悪いかたではないようですものね」

お母さまの言葉に私もうなずく。

「はい。とにかくこの件に関しては待つしかないと思います。ただ、それでも……」

私はきゅっと唇を噛んだ。「お金の準備はしておくべきだと思っています」

だって、もし公爵さまが首尾よくあのイケオジ商人から『クルゼライヒの真珠』を取り戻してくれたとしても、無償なんて絶対あり得ないよね? それどころか、こちらが受け取った代金にさらに上乗せして買い戻し代金を要求してくること間違いなしだよ。

でも、受け取った代金はもうタウンハウスの購入に使っちゃった。

お母さまの信託金があるとは言っても、一度にあれだけの金額を支払うことは難しい。

私の言葉に、お母さまも唇を噛んでる。

「ええ、そうね、ルーディ。貴女の言う通りだわ。とにかくお金をなんとかしないと……」

「大丈夫です、お母さま」

私は努めて明るく言った。「だって、あれを売ったときとは事情が違います。あのときは、マールロウのお祖父さまが信託金を残してくださっていたなんて、まったく知りませんでしたでしょう? おかげでいまは、当面の生活費の心配はなくなりましたもの」

「ええ、そうね。本当にそうだわ」

お母さまも少しだけ口もとを緩めてくれた。

私はさらに言う。

「それに、お母さまの服飾品が売れましたし、今日はツェルニック商会がわたくしの考案した意匠を買い取りたいと言ってくれました」

「ああ、ええ、そう、そうだったわね」

思い出したように目を見開いたお母さまに、私はまた努めて明るく言うんだ。

「お母さま、わたくしほかにも何か、自分で考えたものがお金にならないか考えてみましたの。それで思いついたのが、先日わたくしが作った甘い蒸し卵なのですけど……」

「ええ、あれは本当においしかったわ」

お母さまの顔がほころぶ。そしてナリッサとヨーゼフに顔を向けた。

「貴方たちも食べたでしょう? とってもおいしかったわよね?」

「はい。あれは確かに美味しゅうございました」

顔を向けられたナリッサが答えた。相変わらず表情は澄ましてるんだけど。

ヨーゼフもにこやかに、美味しゅうございましたって答えてる。

あ、甘い蒸し卵ってプリンのことね。マルゴを採用する前に、私が適当に作っておやつに出したんだけど、我が家の全員にすっごい好評だったんだ。

「わたくし、ほんの思いつきで作ったのですけれど……ナリッサも初めて食べたって言ってたわよね?」

「はい。少なくとも私は初めて口にしました。おそらく王都でも、あのようなおやつはどこにも売っていないと思います」

お母さまも言ってくれちゃう。

「わたくしも初めてだったわ。不思議な口当たりで、でもとっても美味しくて」

ってことは、平民の間でも貴族の間でも、プリンは食べられてないってことよね? まあ、お母さまの場合、ほとんど社交に出てないから確証はないんだけど。

そうだ、マルゴに訊いてみよう。マルゴなら平民の食べるものはもちろん、いろんな貴族家の厨房で働いてたって言ってたから、いろいろ知ってるに違いない。

「わたくし、お料理の意匠登録があるかはわからないのですけれど、もし可能であればどこかの商会に意匠の買取をしてもらうこともできるのでは、と思うのです」

「では、クラウスに問い合わせてみましょう」

ナリッサがしっかりうなずいてくれた。

ええもう、このさい手段は選ばないわよ。

私の前世の記憶を使いまくってでも、なんとかお金をゲットしなきゃ。

こういうことってあんまり言いたくないけど、やっぱりお金があればたいていのことは片が付くのよ。こっちの世界でもそれは同じ。

ホント、魔法があって魔物もいるようなファンタジーな世界だろうが、そういう世知辛さはまったく変わらないからね!

それに、あんな落書き程度のデザイン画でもツェルニック兄弟があれだけ食いついたんだから、ホントにちょっとしたことでも上手くやればお金になると思うの。

ただ問題は、ナニが売れるのか自分ではわからない、ってことなのよね。

だって貴族相手にせよ平民相手にせよ、いったいナニが受けてナニが望まれるのかなんて、いまの私にはまったくわからないんだから。本当にあんな思いつきの、ほんのちょっとしたコード刺繍が売れるなんてホンットにまったく思ってなかったし。

てかもう、サンドイッチ作ってあんなに驚かれるなんてこっちがびっくりだわよ。なかったんかいサンドイッチ! って本気で驚愕したもん。ホントに、ホンットーに、いままで誰も考えつかなかったの? パンに具材を挟んで食べるっていう、そんな簡単なことを。でも、そのおかげで、サンドイッチもお金になるかもしれないわ。

とにかくこれからマーケティングとリサーチが必須!

などと私が頭を巡らせていると、お母さまが私の手を取った。

「ルーディ、貴女がわたくしの娘であることを誇りに思います」

「お母さま?」

お母さまは私を見つめ、そしてなんだか胸に染み入るような、しみじみとしたほほ笑みを浮かべる。

「どんなときもくじけず、いつも前を向いて自分にできることを考え、それを一生懸命行う。言葉でいうほど簡単ではないことなのに、貴女は当たり前のようにしてしまうのよね。本当に貴女はわたくしの誇りよ。わたくしの娘でいてくれることに心から感謝しています」

「お、お母さま、何をおっしゃるのです?」

私はびっくりしてなんだか声が上ずっちゃう。「そんな、わたくしこそお母さまの娘に生まれてどれほど感謝しているか……!」

だってね、ホントに、本当に私、お母さまが居てくれなければいま生きてないと思うのよ。

あのゲス野郎は本当に本気で私のことなんかどうでもいい、むしろとっとと死んでくれたほうが余計なカネを使わなくて済む、って思ってたんだからね。

暖炉の魔石や毛布だけじゃないのよ、まじで、冗談抜きで、私はまったく食事が与えられていなかった時期があったくらいなんだから。

もちろんお母さまにはそんなことは知らされていなかった。でも、その事実を知ったとたんお母さまは、抗議のハンガーストライキを行ってくれちゃったんだよね。それでゲス野郎が根負けして、私にも一応食事が提供されるようになったんだけど。

まあ、食事が与えられていなかった時期、私は自分でこっそり厨房へ行って自分の食べるものを調達してたから、貴族令嬢であるにも拘わらず料理ができるっていう設定になっちゃったんだけどね。料理っていっても、パンの切れ端と残りものでサンドイッチとかそんなのだったんだけど。

でもだから私がいきなりプリンを作っちゃっても、我が家の誰も不審に思わなかったっていう。

ただそれについても、あのゲス野郎のおかげだなんて死んでも思わないわね。

だけど、私が凍死することなく、また餓死することなく、いまもこうして生きてるのは間違いなくお母さまのおかげなの。

何度だって言うけどね、私はお母さまの娘に生まれ、その上こうして愛されているっていう実感を得られているだけでもう、この世界に転生してきてよかったって、本当に心から思ってるのよ。

だからどんな手段を使っても、お母さまもアデルリーナも、我が家の全員をしっかり守って養ってみせるわ!