軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

597回目 盤上の戦い

ここまで上手く行き過ぎていて、少し空気が緩んでいたのは確かだ。『◇天空城『レナスティア』』を直接襲おうとした幻獣の眷属も蹴散らした事もあって、何があっても対応できると安心してしまった気持ちもあったのだろう。

全体的に広がっていた弛緩。その隙を『方舟』と幻獣は上手く突いて来た。

「俺達が下がったタイミングを突いて来たのも上手いな。交代した後よりも、交代するタイミングの方が混乱が起こりやすい」

「感心してる場合じゃないでしょ? どうするのガモン」

「まず切り札の一つを切る」

現れた幻獣は三体、それぞれ大猿『カラブ・ハヌマーン』、大鯨『フォグホエール』、大ムカデ『グラウドピード』。

その全てが体毛や口の中に『狂った神獣』を隠していたが、中でも大猿の幻獣は、その隠していた神獣の全てが猿に類似した神獣で構成されていた。おそらくあれらは、あの大猿の眷属に近いのだろう。

となれば幻獣と神獣達の間に、なんらかの繋がりがある可能性がある。俺のスキルの、フレンド機能のように。

「なら纏めて叩くのが良いだろうな。ドゥルク、アリアの『モンスター・チェス』で大猿達を倒せるか?」

『ウム、任せておけ。アリアの嬢ちゃんなら上手くやるじゃろう。儂も付いていき、しっかり見ててやろう』

「任せたぞ!」

囚われの『方舟』を離れ、三体の幻獣と多くの神獣は『方舟』を縛る鎖の大元を叩こうと動き出した。

本来ならばその全てを☆5『闘神『ガルネシア』の闘技場』に転移させたい所だが、闘技場の許容を大幅に超えているので、少し工夫がいる。

そこでまず、俺は猿系統の神獣を引き連れる大猿の幻獣に、アレスの妹で『賢者』であるアリアとドゥルクを向かわせた。

幽霊状態のドゥルクがアリアを連れて、『方舟』を捕らえる『神罰の鎖』の一本、大猿の幻獣が向かったその根元の島へと転移した。

『どうだアリアよ、行けるか?』

「はい! 兄もアラムも命がけで戦ったんです! 私も戦えます!!」

『良い覚悟じゃが気負い過ぎるでないぞ。どうしようも無くなったならば投了せよ。後は儂らが何とかするわい。お主の後には儂を含め多くの仲間がいる事を忘れるな』

「はい!!」

ドゥルクはアリアの返事を聞くと満足そうに頷き、飛行魔法を発動した。

そしてドゥルクと共に空を飛び、大猿の幻獣と多数の猿系統の神獣達に相対したアリアは、☆5『モンスター・チェス』を取り出した。

「行きます! 『モンスター・チェス』、起動!」

魔力の高まりと共にアリアの持つ『モンスター・チェス』が輝きを放ち、アリア達と大猿の幻獣、さらにそれに従う神獣達までをも、周囲の空間ごと取り込んだ。

もはやアリア達はこの世界から隔離され、『モンスター・チェス』が作り上げた擬似世界へと移動したのだ。

そこは、まさにチェスの盤上の世界。八✕八の世界において、幻獣とそれに従う神獣達はマス目に別れ、その頭の上には場所に応じてチェスの駒のマークが浮かび上がった。

対するアリア側には、アリアがドゥルクと共にダンジョンを回り、集めて来たモンスター達が、それぞれの場所に応じたチェスの駒を連想させる鎧を着て待機している。

当然ながら相手側の『キング』は幻獣だが、アリア側は違う。アリアは駒を動かすプレイヤーであり、キングの位置にいるのはアリアが選んだモンスターの一体である。

これならば一見、安全そうにも見えるかも知れないがそうでもない。負けると、プレイヤーは一定時間、全身の全ての感覚が遮断される。五感も魔力も全てが。

その状態で敵の前に放置されればどうなるか、そんなのは語るまでもない。万が一そうなった際にアリアを連れて離脱する為に、ドゥルクはここにいるのだ。

『だがまぁ、万が一は『万』に『ひとつ』じゃからな。ここで起きるとは思えんがのぅ』

ドゥルクの呟きと共に、ゲームがスタートした。

基本的なルールはそのまま『チェス』なのだが、駒を相手の駒にぶつければ倒せるかと言われると、そうでは無い。

チェスの駒とは言え、モンスター。チェスの駒とは言え『幻獣』に『神獣』である。そう簡単に倒せる筈もない。

だが、この『モンスター・チェス』の特殊ルールがあれば、倒すのも不可能ではない。

《モンスター・チェス》特殊ルール

・駒を相手の駒にぶつけて倒せなかった場合、ぶつけた駒はぶつけられた駒に対して、一定時間『無敵状態』となる。

・駒をぶつけられた場合、その駒となっているモンスターのステータスを半減する。また、同種の別の駒をあてられた際は、さらにステータスは半減となる。ただし、別の種類の駒をあてられた場合は、ステータスは元に戻る。

この特殊ルールがあれば、いかに幻獣であろうと、やり方次第で倒せる。

この『モンスター・チェス』と言う盤上遊戯においては、アリアが最もそのポテンシャルを引き出せると、ドゥルクは確信しているのだ。

そして、ドゥルクの確信が現実のものとなったのは、半日後の事である。全ての神獣を倒されて丸裸となった『ハヌマーン』は、盤上において何もさせて貰えずに散って行ったのだ。