軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

585回目 諸行無常

「金が無くなる? この世界で使われている硬貨を生み出しているダンジョンが使えなくなるのか?」

『なると言うか、もう使えなくなったんだよね。これはコチラとしても、うっかりしていた部分でね。途中で気づきはしたんだけど、もう粗方世界を変えた後だったもう手遅れだったんだよ』

ダイスによると、この世界での貨幣の仕組みは神々から見ても珍しい部類であるらしい。

貨幣を生み出す、いわゆる『貨幣ダンジョン』は、様々な国に根付いている。だがそれは、そう見えているだけらしい。

この世界の人々も知らない貨幣ダンジョンの真実は、遥か地下深くで、地脈と一体化している単一ダンジョン、だそうだ。

要は、真の『貨幣ダンジョン』は地中深くに一つあるだけであり、それが地脈の流れをそって根を伸ばし、人の多い場所にダンジョンを作り出しているのだ。

『そして人は、そこから出て来る利用価値のある宝を使う術を思いついた。まぁそれも実は『セクレタリー』のスキルをダンジョンが人に与えて、そうなる様に仕向けたんだけどね』

「『セクレタリー』って、確か流通している貨幣を管理するスキルだったか。って言うか、仕向けたのは神々じゃ無かったのかよ。『ガチャ・マイスター』で使うから、俺はてっきり仕向けたのは神々かと思っていたよ」

『僕らは利用しただけだよ。元々ダンジョンから生み出された貨幣は、エネルギーに変換するのも簡単だったからね。まぁそれはともかく、話の続きだ』

さて、それらを踏まえた上で考えてみよう。

地中深く、地脈と繫がっているダンジョンの本体。そこから枝の様に伸びた『貨幣ダンジョン』。そして空を飛ぶ陸地。

地中深くにあるダンジョンの本体は、あまりに深い所にあった為に今は海の底の更に下だ。本体にエネルギーを送る事も出来ず、本体から指示を得る事も出来ない枝は、当然の様に役目を終えて枯れ果てる。

全ての枝が枯れ落ちる。そうなれば当然ながら本体も…………。

諸行無常。世界の改変が、『貨幣ダンジョン』を死に追いやった。そしてその煽りをモロに受けるのは『ガチャ・マイスター』と言うスキルを持つ俺になる。

ちなみに、ダンジョンと共に用済みになる『セクレタリー』と言うスキルに関しては、世界を改変する最中、この事に神々が気付いた時点で別のスキルに変質する様に書き換えたそうだ。

だから本当に一番影響を受けるのは、俺である訳だ。まぁ、俺が始めた事であるし、受け入れるさ。それに、貨幣がこの世から消え失せるまでは使えるからな。せいぜい大切に使うさ。

「しかし、俺のスキルは良いとしても、また厄介な問題が増えたな。新しい貨幣の事も考えないといけないか」

『そこは君達にお任せするよ。どうにかして、新しい仕組みを作り上げてくれる事を期待してる』

簡単に言ってくれるな。でも、恐らくはさほど難しい事でもないだろう。

確かに国と国は陸地が離れ、行き来するのが難しくはなった。しかし今であれば、各国には俺とフレンドになっている者が大勢いるし、拠点ポータルでも使って『レナスティア』に集まれるからな。話し合いなら、いくらでも出来る環境なのだ。

貨幣ダンジョンがなくなっても既にある貨幣はまだ残っている。今のうちから対策を取っておけば、さほど混乱もしないだろう。

運命神ダイスと話してからの日々は怒涛だった。

各国との話し合い。陸地が空を飛び、各々が空飛ぶ島国となった事での弊害。足りないと催促される飛空艇や、国の位置関係に対する要望と苦情。

目前に迫った『方舟』との戦いに向けた、『方舟』の軌道計算もある。

あの『方舟』は、すでに落ち始めているのだ。避けられない戦いが、空に赤紫の禍々しい流星となって現れている。

流石に、徐々に大きくなっていく禍々しい流星を見てまで口を出して来る国はなく、各国から人が来なくなった『レナスティア』には、久しぶりに静寂が訪れていた。

「…………いよいよ、始まるのね」

各国の島々が、飛空艇に引っ張られて移動していくのを、俺はティアナと共に見ていた。

これは今だけの光景だ。今はまだ、島々が完全に安定していないから、飛空艇程度の力で動かす事が出来る。ダイスによると、だいたい半年はこうして動かせるらしいので、それを利用して戦いの場から遠くに逃がしているのだ。

「そうだな。…………不安か? ティアナ」

「…………うん。準備はいっぱいしたけど、とても足りてると思えないの。もっと出来る事があった気がする。だって、これで負けたら世界が終わるんだもの」

「気持ちは解る。ただ、あれ以上の準備は無理だったさ。俺達は出来る限りの事はした。ここから先は、神ですら見通せない領域だよ」

「…………人事を尽くして天命を待つ、でもないのね? これって、ガモンの国の言葉でしょ?」

「よく知ってるな。でもしょうがないさ、実際に運命神であるダイスが、『ここから先は解らない』って言い切ったんだから」

「…………うん」

俺は不安そうにするティアナを抱き寄せて、その手を握った。

きっと、この戦いに挑む全員が、こうして不安を抱えているだろう。

でも俺は知っている。不安にうつむく仲間達が、もうすぐ顔を上げるだろう事を。信じているのではなく、知っているのだ。この戦いに集まった全員が、そんな不安に押し潰される程弱くない事を。

さあ、幕開けだ。最後の戦いが始まる。