作品タイトル不明
452回目 世界樹の呼吸
世界樹の枝葉が生い茂る場所まで来ると、出て来るモンスターの強さが一段階上がった。枝葉の影からだけでなく、足元にある世界樹の幹の皮を飛ばして出てくる虫系のモンスターもおり、油断出来ない状況だ。
実際に今も、世界樹の皮の影から飛び出して来たバスケットボールぐらいのカブト虫が突進してきたので、何とかそれを盾で弾いた所である。
苦し紛れに突き出した槍は甲殻に弾かれたし、普通の攻撃では通りそうもない。
『ビィィィィッ!!』
「ぐっ!? くそっ! 小さいなりで結構強いな! このカブト虫は!!」
「そいつは硬いだけじゃなく、羽は刃になっているから気をつけろ! それと針のような体毛も飛ばして来るぞ!!」
「わかった!!」
イマメルバーンの言う通り、そのカブト虫は体毛の針を纏めて飛ばして来た。
俺はそれを構えた☆4『突風の盾』から放つ風魔法で散らし、飛ばした針の後を追うように突進してきたカブト虫のバランスが崩れた所を、☆4『核熱の槍』に風景が歪む程の熱を纏わせて貫いた。
核熱、という言葉で嫌な予感はしていたが、槍に貫かれたカブト虫はその部分が一瞬で溶けて絶命した。いやぁ、熱を纏わせていない槍を弾く程に硬い甲殻が溶けるとか、どんだけだよ。これは例え悪人でも人相手には使えないな。怖いもの。
「戦闘終了っと。…………武器は変えとくか」
俺は☆4『核熱の槍』をスキル倉庫にしまって、☆4『氷河の槍』を取り出した。物が溶ける程の高温よりは、凍りつく方がまだ良い気がしたからだ。
あんな危ない武器を仲間のいる所で振るうには、俺はまだ未熟過ぎる。ステータス的にはかなり強くなったとは思うが、技術的にはまだ武器を使いこなせていないからな。一応、アレスとかと訓練はしてるんだけどな。
「…………それにしても、不思議な光景だよな」
戦闘が終わり、落ち着いた事で周囲に眼を向ける余裕が出来た。俺達は、宇宙空間のような場所に枝葉を広げる『世界樹』の上に立っているのだが、この場の景色は、まさに想像を越えていた。
まず明るい。縦横無尽に広がり密集する枝葉は空を覆い、今や宇宙空間は見えなくなっている。だが、明るいのだ。
この枝葉が密集している場所に来るまでは、宇宙空間に太陽の様な物が見えていたし、その光を反射していたのか世界樹自体も輝いていた。
だが、宇宙空間が見えないこの場に来てよく解った。この世界樹、普通に光っているのだ。特に葉っぱだ。もうホント、ずっと光り続けている。
「なんで光っているんだこれ? 浮島にあった『世界樹の苗木』は光ってなかった筈だけどな」
「ああ、これは世界樹の呼吸の影響だ。そちらにある苗木は空気のある場所にあるから普通に呼吸が出来るが、ここは本来、空気の無い空間なのだ。この場で呼吸をしようとするならば、普通ではない方法を取る事になるのは当然だ」
どうやらイマメルバーンは俺の疑問に答えてくれたつもりらしいが、よく意味が解らなかった。
いや、植物だって呼吸をしているのは知ってるよ? 二酸化炭素吸って酸素吐いてくれてるもの。でも何でそれで光るのかって話ですよ。そもそも、空気の無い宇宙空間で呼吸って説明が無理あるだろ。
「どうやら納得いっていないようだな。なら、もう少し説明が必要だな。まず、宇宙空間に満たされている物が何かは知っているかね?」
「…………魔力、ですか?」
「そうだ。世界が吸っているのは、まさにその魔力なのだ」
空気の無い宇宙空間に枝葉を伸ばす世界樹だが、やはり世界樹も空気が欲しい事は変わらない。だが宇宙空間には魔力はあっても空気は無い。
そこで世界樹は宇宙空間にある魔力を大量に吸収し、それによって樹木魔法を発動し、魔法によって自分に適した環境を作る事にしたのだ。…………メチャクチャかよ。
「…………つまりなにか? この場所で俺達が呼吸出来ているのも、光があるのも、世界樹が自分に合わせて周囲の環境を変えているからなのか? 光と大気を自分で作り出して?」
「そういう事だな。魔力は宇宙空間に無限にある物だ。世界樹が自分の住みやすい環境を作る程度の魔力ならば、造作もなく賄えるだろう。問題としては、魔力に溢れ、住みやすい環境が出来た事でモンスターが多くなった事ぐらいだろうか」
「モンスターにとっても住みやすい環境か。俺達にとっては迷惑でもあるな」
「世界樹にとってはどうなのだろうな。しかしモンスターも、自分達の命を繋いでいるのが世界樹だと言う事は解っているので、世界樹を害したりはしない。なので、共生関係が築けているとも言えるな」
自分の住み良い環境を自分で作るか。野生の生物にはたまに見られる光景だと解ってはいるが、スケール感がヤバイよな。まさに宇宙規模。世界樹とは、俺の想像なんか軽々と越えるほどに、とんでもない樹木だ。
そりゃ葉っぱ一枚とっても、貴重な薬の素材になる訳だ。