作品タイトル不明
438回目 異世界のゴミ事情
レナスティアにある天空城の城下町で散々買い物をした次の日。早朝に食事を持って訪ねて来たティアナと二人きりで朝食を食べた後で、俺は天空城に泊まったゲンゴウ達を訪ねた。
ゲンゴウ達は広い部屋の中で戦利品の整理や検証をしていたらしく、とても広い部屋なのに物が散乱している状況になっていた。
「改めて見ても凄いな。しかもこれで買った物の一部だろ? 本当にどんだけ買っているんだよ」
半ば呆れを含んだ俺の独り言に、それが聞こえたゲンゴウの部下達は苦笑した。彼らは並べられている物を整理しながら、容量の小さいマジックバッグに詰める作業を、忙しそうにやっている。
ちなみにゲンゴウはと言うと、部下に指示だしはしているものの、床に座って目の前の幾つかの商品を見て首を傾げていた。
「おはようございます。どうかしましたかゲンゴウ殿?」
「あっ! これはガモン殿、おはようございます。来てた事にも気づかず、申し訳ないです」
「いえ、いいんですよ。それで、何か悩み事ですか?」
「いやぁ、ちょっと使い道の解らない物を前に悩んでいましてな。取り敢えず買えるだけ買おうとかき集めましたが、こんな事なら店員に詳細を聞いておけば良かったと後悔しておる所ですわ」
「使い道がわからない、ですか」
「ええ。例えばこれなのですが…………」
そう言ってゲンゴウが取ったのは『ゴミ袋』だった。
ゴミ出しに使う透明な物で、表面に大きく『30リットル、三十枚入り』と書いてある。
「…………? 使い道も何も、ゴミ袋ですけど?」
「ええ、だからこそ解らんのですよ。例えばこれです」
ゲンゴウは、おもむろに駄菓子の個別包装の飴玉を取り出して、袋を破って口に入れた。その瞬間、手元に残ってゴミとなった包装紙が消え失せる。ガチャアイテムの特性として、ゴミは消えると言うルールがあるので当然である。
「とまあ、このようにガチャアイテムはゴミが出ません。ならばこれの用途は何ですかな?」
「…………そりゃ、この世界のゴミを…………あぁっ!?」
「気づかれましたか。…………ええ、もしそうだとしたら、これはとんでもない代物となります」
ゴミ袋とは、家庭内のゴミを一つにまとめてゴミ出しをする為の袋であり、パンパンにゴミを詰めて口を結んで閉じた瞬間に、それはゴミそのものとなる。もはや『ゴミの入ったゴミ袋』ではなく、『ただのゴミ』になるのだ。
そうなるとどうなるのか。中身を残してゴミ袋だけが消える? いやいや『ゴミ袋』だぞ? そんな訳ないだろう。だとするならば、だ。
「ゴミ袋ごと、中に入っているゴミも消える。って事だよな?」
「…………でしょうな。これはとんでもない物です。有用な方法はもちろんですが、悪用しようと思えば簡単には出来てしまうでしょう。極端な話、死体を消し去る事も可能かと思います。完璧な証拠隠滅に使えてしまう…………」
魔法がある世界だ。証拠隠滅となれば魔法で燃やしたりが一般的だが、それには大量の魔力が必要になるし、全てを燃やし尽くすってのは技量がいるため、そう簡単ではない。
それが犯罪者などに身を落としている者ならば尚更だ。そんな芸当が出来る技量と魔力があるならば、そもそも犯罪者になど落ちない。
「このゴミ袋ですが、これまでガチャからは出なかったのですかな?」
「いや出てる。使ってないから普通にいっぱいありますよ。この世界のゴミって基本生ゴミだし、街では集積所に集めてスライムなんかに処理させるのが一般的でしょ? 毎日生ゴミをバケツに入れて捨てに行く人達を見てたし、その量も少ないのを知ってたから、いらないと思って出してなかった」
「フム。確かに一般家庭だとそうですな。腐る前に捨てるので毎日の作業になりますからな」
「旅の間に出たゴミなんかも、生ゴミは埋めるし、それ以外は専用の袋に入れて持ち帰るとバルタから聞いた事がある。何でも、匂いのする物をその辺に捨てると、モンスターに匂いを辿られて襲われるとか。だから専用の袋ってのも、モンスターの皮で作られた物になるんですよね?」
「ええ、その通りです。どうしてもゴミを残して行くならば魔法で焼却か凍結が一般的になりますな」
うーん、となれば口を結んでしまえば消えるこのゴミ袋は使えるかも知れないが、量的にどうなんだろうか? このゴミ袋がいっぱいになるまで口を結ばなかったら、結局匂いは垂れ流しになる訳で、ゴミの強い匂いはモンスターを引き寄せる可能性が高い。
難しいな、これ。
「フーム。使い所としてはレストランや宿屋ですかな。人が多く、ゴミが多い所は助かるでしょう。人を選んで売るならば、犯罪に使われる事も少ないでしょう」
いつの間にかゲンゴウの思考は、ゴミ袋をどうやって売るか、の方に舵がきられている。流石は商売人。大商会の会頭をしているのはやはり伊達ではない。
「ひとまずはワシの店や従業員の寮で使ってみます。これがどういう品なのかは、やはり使ってみるのが一番わかりますからな」
「それは確かにそうですね」
ゲンゴウもその気になったし、ゴミ袋がゲンゴウの店に並ぶ日も近いかも知れない。