作品タイトル不明
348回目 亜神『ハクラテン』
「…………えっと、大ババ様は神獣なんですか? 女神ヴァティーと一緒で?」
「む? …………おお、確か蛇神じゃったな。いや、違う。あの方はこの世界に来る前の元から神じゃが、妾は次元を降りて長く過ごす内に、信仰を集めて神にまでなったクチじゃな。本物と比べると亜神と言ったところか」
「亜神…………」
「おうよ。ちなみに妾の後ろにあるのが本体じゃよ。今じゃただの石じゃがな」
大ババ様が自らの後ろを青い火の玉で照らすと、そこには丸まった狐を模した真っ白な石の彫刻があった。
「『郷愁の禍津像』!?」
「禍津像? いや、これはただ妾の本体を石に変えただけの物じゃよ。…………『郷愁の禍津像』? …………どこかで聞いたのぅ…………?」
大ババ様は、『郷愁の禍津像』をよく知らなかった。そこで俺が『郷愁の禍津像』について話すと、自分のコレは禍津像とは別の物だと言い切った。
まあ確かに、俺達の見ているそれは『郷愁の禍津像』とはずいぶんと様子が違う。色々違うが、一番の違いは、禍津像は苦悶の表情をしているが、大ババ様のそれはむしろ安らかな顔をして眠っている様に見える事だ。
「…………そうか、ダンジョンに行った者が話していた物じゃな。あまりに不気味だったので持ち帰らずに売って来たと言っておったのぅ。それが魔王の本体じゃったのか。なるほど、魔王の気配が目に見えて減ったのはそういう事であったか」
大ババ様は、外の世界で魔王が数を減らしている事には気づいていたが、その理由を『魔王を倒せる勇者』が現れたからだと思っていた。大ババ様も神獣ではあるが乗って来た『方舟』が違うため、『郷愁の禍津像』の真実自体は知らなかった。
長く生きていてそんな事あるのか、とは思ったが、大ババ様によると、魔王が多く封印されてから、大ババ様は封印の地を避けるように生きて来たそうだ。弱くなったとは言え自分も神獣の端くれ、魔王に何らかの影響を与えてはいけないと、徹底して避けて来たらしい。
「それなら、大ババ様の本体はなぜ石化を?」
「あれは妾が自分で石に変えたのよ。妾自身の暴走をさせぬ為にな」
大ババ様は、元は一匹のごく普通の狐だった。
白い毛並みが自慢で、他の兄弟達よりも生命力と魔力が高かったので、『方舟』に乗る動物に選ばれた狐だ。
方舟に乗り、次元を越えてこの世界に降り立ち、まさに何もない不毛の大地が、方舟の力によって自然溢れる地になった世界に降り立ち、眷属を生み出していった。
眷族が増え、代を重ねるごとにその白狐の力は増えていき、眷族の白狐に対する感情も、親愛の情から信仰へと変わっていった。
そしてただの狐だった白狐は神格を得て亜神となり、自らに『ハクラテン』の名を付けた。
「自分で名付けたんですか」
「あの時は他に付けてくれる者などおらんかったしの。かと言え、亜神となったのに名が無いのでは格好つかんしの。その頃には人類も増え始めておったし、名乗れる名は必要じゃったのよ」
当初、ハクラテンの眷族達はただの狐だった。それが人との関わりを持つにつれて人に憧れを持ち、その憧れがハクラテンにも伝わって、生み出される眷族に獣人が現れるようになった。
最初の獣人は、二足歩行をする子狐だった。そこから段々と進化が進み、ハクラテンもまた人の姿を取るようになって『白狐族』が誕生した。
言葉が通じるようになり、人との関わりも増えていったが、それも人と人が争い始めるまでだった。
「最初は軽い諍いだった。それが人同士の物から街へと規模が大きくなり、やがては国同士の戦争となった。妾達はそれに関わってはいなかったが、妾達がその国にいると言う理由だけで、白狐族は戦争に巻き込まれたのじゃ」
白狐族のいた国は、戦争に勝ちもしたが負けもした。繰り返される権力争いだったが、ハクラテンはそれには関わらず、離れた所からそれを見ていた。
だが、ある時に白狐族のいた国を滅ぼした大国の愚王が、見た目が美しく力を持つ白狐族を『戦利品』と見なした。要は、奴隷とするべく白狐族狩りが始まったのだ。
当然だが、ハクラテンがそれを許す筈もない。だが突然の厄災に被害は大きくなり、ハクラテンの怒りが爆発した。
怒りに呑まれた神獣を前にしては、どんな大国だろうと滅びる以外に無い。その大国を青い炎によって歴史の消し炭としたハクラテンだったが、その怒りは収まらず、さらに幾つもの国を滅ぼした。
これにはハクラテン以外の神獣も危機を感じ取り、数体の神獣が協力して、ハクラテンの怒りを圧し潰した。
そのおかげで、ハクラテンは正気を取り戻したのだが、その胸の奥には未だに消えぬ怒りがある。ハクラテンはその怒りの再燃により、人類を滅ぼすのを防ぐべく、自らの本体を石化させ、限りなく人に近い今の姿になったのだ。
「とまぁ、妾のこの石化はそうした経緯じゃな。その『郷愁の禍津像』とは成り立ちからして違うであろう?」
「確かにそうですね。まったく別物のようです」
正気を取り戻し、本体を石化させる事で力も失ったハクラテンは、眷族である白狐族と共に隠れ住む事に決めた。
美しく力を持つ白狐族をつけ狙う者は後を絶たないが、逆にこの地に長くいる人間達は白狐族を陰ながら支えてもくれている。だからこそ、白狐族も人との繋がりを絶ってはいないのだ。