軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

236回目 神々の庭園

『……………………間に合うかも知れん』

荘厳な城の庭園で、豪奢な衣装に身を包んだ初老の男が呟いた。その男の立ち姿は威厳に溢れており、その男が一つの世界で頂点に君臨している事は疑いようがない。それをその雰囲気だけで察知させるだけの凄みが、男からは迸っていたのだ。

『…………うぅむ』

男が見ているのは、幾重にも蔓が絡まった植物の柱だ。紅く大きな花が咲き誇るその柱の中央部分は大きく開いており、そこには水で作られた球体が嵌め込まれ揺らめいている。水であるのは間違いないのに決して零れ落ちないその異常さが、この場所が人の住む世界とは異質である事を物語っている。

そして、その水の球体には我聞が映し出されている。どうやら商人のゲンゴウに、頼まれていたガチャアイテムを渡している所らしい。どんどん積まれていくアイテムを、ゲンゴウの商会の社員達が店へと運んでいく。

『んーー? 何々? また千羽我聞? 好きだね創造神も』

『運命神か。お主こそ、ほぼ毎日見に来ておるだろうが』

『確かに! アハハハハッ!』

ヒラヒラとした色とりどりの布を何枚も羽織り、その隙間からは編み込まれた紐が何本もぶら下がっている、チャラチャラした若い男。

会話からも解る通り、豪奢な服を着た初老の男が『創造神』で、チャラチャラとした服の若い男が『運命神』である。

この場所は、神のいる『神界』にある『神々の庭園』だ。神々が、自分の干渉した世界を見る為の場所。この二柱の神々もは、ここで自分達が力を与えた我聞の様子を見る事を日課にしていた。

『それで? さっきは何をうなっていたのさ?』

『いや、もしかしたら間に合うかも知れんと思ってな。あの世界はもう滅びるだけだと思っていたが…………。運命神よ、一応聞くが余計な手出しはしておらんよな?』

『無いね、最初にちょっと道順を整えた後は、もうノータッチさ。あの千羽我聞は面白い人間だよ。僕の敷いた運命のレールを、まるでそれが見えてるみたいに脱線していくんだから』

我聞がいる世界は滅びに向かっている。あれだけ『魔王』で溢れているのだから、それも当然だ。

その原因となっているのは『事故』であり、本来ならば起こり得ない事が起きたからこそ、神々もあの世界には力を貸しているのだ。もっとも、直接は力を貸せないので『神託』や『勇者の召喚』といった手段でだが。

だが、強力なスキルを与えた『勇者』を何度与えても、事態は好転しなかった。それは事故によって生まれた『魔王』が持つ特性による物が大きかった。あの『郷愁の禍津像』の真実については、実は神ですらも当初は把握できていなかったのだ。

『神の眼すらも曇らせて、あの世界は滅びに向かっている。それに手を出すのは僕達の主義に反するよ。だから新たな『勇者』を選出する時には、完全に運命に任せた。それは創造神だって知っているだろう?』

『ウム。確か召喚される時に、ちょうど『異世界に行きたい』と口にした者を送り込んだのだったな』

『そうだよ。人種も性別も性格も能力も、なにも考慮していない。僕も一度、彼のスキルに潜り込んで話してきたけど、彼は本当に普通の人間だったね。妙に勘が鋭い所はあったけど、それだけさ。スキルに僕が入り込んでいるのを、何となく察知した様子だったからね』

それは、我聞が『マイスター・バー』のマスターを『何か違う』と感じた時の話だ。

『運命を曲げるのは大変だよ、一度敷かれた運命のレールからはみ出すのもね。意識的に外れようとしても、それを含めて運命だったりするから。でも、あの我聞は違う。僕達の思惑を飛び越えて先に進んでいく、だから面白い』

始まりはテルゲン王国に召喚された直後。一番最初の10連ガチャの結果だ。

本来の運命ならば、あそこで確定している☆4の枠からはソコソコの装備が出て、我聞の処遇は『保留』になる筈だったのだ。その後で色々あって放逐され、我聞はスキルのガチャを少しずつ回しながら、苦労して先に進んでいく…………筈だった。

ところが、最初に出て来た☆4は『ランニングシューズ』だった。もっと解りやすくて強力な装備はいっぱいあるのに『ランニングシューズ』。しかも一緒に出て来た☆3の装備も、よりによって『ひのきの棒』。そのせいであの国は、早々に我聞の存在を無かった事にしようとした。役立たずの後ろ楯になる事を、王が嫌がったからだ。

『まさか最初の最初からレールを外れるとは思わなかった。しかも『ひのきの棒』に至っては、こちらが設定をミスっている『予期せぬチート装備』だったし。あれでまた運命が変わったよね。そんな状況で僕が手を出すなんて有り得ないよ、だってただ見てる方が面白いもの』

『…………そうか』

運命神の言葉を聞いて、創造神は再び我聞に眼を向けた。

『…………やはり間に合うかも知れんな。我々の予測では、あの世界はまず間違いなく滅びるのだが、この男が突き進む不思議な運命は、もしかしたらそれを回避するかも知れぬ』

『…………だと面白いよね。僕が用意した『ストーリー・クエスト』も、それが出る頃にはもうクリアされている事が多いし。もしかしたら僕達が気づかない内に世界が救われていたりするかもね』

ならば、余計に眼を離す訳にはいかないなと、創造神は我聞を見続ける。

そんな事とは露知らぬ我聞は、それを映す水の向こうで、ゲンゴウに生活ガチャと食品ガチャから出て来たアイテムを納品していた。