軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

198回目 野心持つ者の妄執

ジョルダン王国の王都、その貴族街にある豪邸の一つで、一人の男が激昂していた。

「取り戻せないとはどういう事だ!! アレを手に入れるのにどれだけ金を払ったと思っている!! 何としても取り戻せ! あれはワシが買った物だ!!」

「そ、それが、どうやら既に国にもアレの存在がバレているらしく、手を出せば足がつく恐れが…………!」

「何だと!? なぜ国にバレる! 根回しはしておいた筈だろう!!」

萎縮する部下を前にギャアギャアと喚いているデップリと越えた男。豪奢な服装から解る通り上位貴族に名を連ねる男は、苛立ちのあまりにワインの入ったグラスを膝をついて震える執事姿の男に投げつけた。

この男の名はアクダイカーン=アブクゼニス。アブクゼニス公爵家の当主であり、アブクゼニス公爵家は一応、王家に連なる血筋でもある。

「クソッ! もう少し、もう少しでワシの悲願が、アブクゼニス公爵家の悲願が叶うのだぞ!! 後は白狐族の巫女と生け贄となる血を揃えるだけで、ワシの意のままになる『神獣』が手に入るのだぞ!!」

白狐族の巫女と生け贄。アブクゼニスが言っているのは、拐われて奴隷とされた姉弟であるニッカとダッカの事だ。今は我聞に保護されている二人を拐わせて『隷属の首輪』を嵌めたのはアブクゼニスが雇った者達である。

アブクゼニスは自分の目的を果たす為に、力を欲していた。国の騎士団とも戦える力、それを圧倒し国の全権を握れる力。

アブクゼニスの言う悲願とは、現・王家に成り代わって新たな王家を立ち上げる事だ。要はクーデターを起こそうと目論んでいるのである。

「役立たず共め! どれだけ金をバラ撒いたと思っとるんだ!! あの役人ども! 奴隷を密かにワシの所まで運ぶ事も出来んのか!! 奴らを選んだのは貴様だぞ、チゴヤー!!」

「で、ですから旦那様。王都に着く前に何らかの事故があり、あの二人は近くにいた冒険者に拾われてしまったのです」

「ならばその者達に金を渡して引き取ればいいだろうが!!」

「それが…………、拾ったのは先日に国から報せがあった『ドゥルク=マインドの後継者』なのです。奴等はターミナルス辺境伯家に逗留しており、買収などはとても出来ません。噂では、ドゥルク=マインドも幽霊となって存在しているとか…………」

「バカな事を! 幽霊などと何を言っとるのだ! 万が一それが事実でも祓ってしまえばよいだろうが!!」

口ではそう罵りながらも、アブクゼニスとて事態が悪い事は認識していた。だがアブクゼニスには時間がない。クーデターの話はすでに動いているのだ。野心ある隣国、『テルゲン王国』をも巻き込んで。

テルゲン王国では、秘密裏に兵が集められている。アブクゼニスが起こすクーデターと時を同じくしてジョルダン王国へと攻め込むつもりだからだ。アブクゼニスはそのためにテルゲンの王と、辺境伯に大金を払っている。いまさら引くに引けないのだ。

「ぬうぅ…………! やはり駄目だ、ここは多少強引な手を使ってでも…………いや! 何がなんでも奴隷どもを手に入れるのだ!! どんな手を使っても構わん! 必ず取り返すのだ!!」

そう言うとアブクゼニスは、自分の執務机の引き出しから、禍々しくも悪趣味な像を取り出して机の上に置いた。

それは紛れもなく『郷愁の禍津像』であった。『郷愁の禍津像・キツネ』。それはジョルダン王国に封印されている魔王の一体、『キツネ』の像だ。

「コレと魔王との繋がりに、神獣の血を引くとも言われる白狐族の血が合わされば、『魔王』は『神獣』へと生まれ変わる。そうすればそれを成したワシに忠誠を誓う『神獣』となり、その眷族を兵として使えるのだ! 白狐族の持つ力を考えれば、強力無比な軍隊を作れるに違いない。その力さえあれば、ワシがこの世界全てを手にする事も不可能ではない…………!!」

魔王と『郷愁の禍津像』に何らかの繋がりがあると言うのは、アブクゼニス公爵家が抱える学者や研究者が突き止めた事実だ。

魔王の封印の地が放つ魔力の波と、同じ個体を模した『郷愁の禍津像』が放つ微弱な魔力の波は同じ物であり、魔王と『郷愁の禍津像』の間には、かなり強い繋がりがある。

魔王を意のままに操る為にアブクゼニスがやらせていた研究で判明したこの事実に、アブクゼニスは狂喜した。魔王とその眷族を自らの忠実な駒として使う未来が見えたと、錯覚したからだ。

そしてアブクゼニスの野心と狂った妄執にあてられてか、その研究は徐々に道を外れていき、やがては狂気とも言える方向へと進んだ。

魔王と神獣は元々同じものだと言う。ならば魔王を神獣に戻す事も出来るはず。『郷愁の禍津像』はその為のアイテムに違いない。

魔王が稀に生み出す強力な眷族は、人々を生け贄として生み出すに違いない。ならば生け贄を正しく捧げれば、更に強力な眷族を生み出せるのでは?

つまり、魔王に『郷愁の禍津像』と神獣の血を引く種族を生け贄に捧げ、神獣の血を引く種族の巫女が祈りを捧げれば、強力な眷族を従えた神獣が生み出せる筈だ!

新たに生まれた命だ、それを成したアブクゼニスに忠誠を誓うはず!!

……………………妄執とは眼を曇らせる。それが野心を元とした物なら尚更に。

アブクゼニスの狂気は、そうとも知らずに破滅へと突き進んでいた。