軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17回目 父の愛

「…………旦那、何があったんでさぁ」

「…………事故だったんだ。悪意とか一切ない事故が起きたんだ」

ジョルダン王国の大道をゆっくりと普通のスピードで進む馬車の御者台で、俺はバルタに言い訳をしていた。

俺の左頬にはティムによって付けられた手形が赤く腫れている。言うまでもないと思うが、俺はティムに箱馬車から追い出されたのだ。

「事故ですかい。でも、若様のあの怒りようだと、どう考えても旦那が悪いように見えますぜ?」

「…………まぁ、どちらが加害者かと考えると、俺が悪いと言えなくもない気がしないでもない」

「どっちですかい?」

「…………俺が悪い」

その俺の言葉を聞いて、ため息をつくバルタ。まぁ、思いがけない事に気が動転していたとは言え、テーブルに身を乗り出したのは俺だし、ティムの秘密を本人に突きつけたのも俺だし、年齢からいえば十六才の少女の唇を奪って胸に手を置いたのも俺である。

…………あれ? これ極刑じゃね?

「いやでもなぁ…………、ティムなぁ…………」

何で男装してんのよ。いや男装はともかくとして、男二人と旅に出るなよ、侯爵令嬢が。もっと女騎士とかの護衛を付けといてくれよ。

などなどと。俺は頭の中で愚痴をつらつらと並べた。万が一バルタがティムの秘密を知らなかった時の為に、口に出さないようにしたのだ。

だが、どうやらその必要は無かった。

「まぁ、お嬢も不注意っちゃそうでやしたし、あっしもお二人の様子が気になって石を避け損ないやしたからね。強くは非難できませんや」

「…………お嬢……か。そっか、バルタは知っていた訳だ」

「当然でやしょう。でなければ護衛がつとまりやせんぜ」

「そりゃそうだな」

「一番の誤算は、お嬢の持つマジックアイテムの効果を旦那のスキルが上回った事ですがね。お嬢のしてるブローチは、王家が抱える『鑑定スキル』持ちすら誤魔化した代物だったんですがね…………」

「…………なんか、すいません」

それからしばらく沈黙が続き、周囲に人通りが無くなった辺りで、バルタがおもむろに口を開いた。

「テルゲン王国の上位貴族には、ひとつ決まり事がありやしてね。上位貴族家に生まれた子供は、十三になると同時に、王城での仕事につかなければいけないんでさぁ」

「十三才で?」

「ええ。丁度その頃に、王立学校が卒業になるんでね。それと同時にって事で。まあ要するに『人質』でさぁ」

ああ、なるほど。幼少期には王立学校がその役目を果たし、それが終われば国がって事だな。

「それとティムのあの姿が、関係あると?」

「ええ。男の子ならば普通に二・三年働いて、王家への忠誠心を刷り込んだあたりで家へと戻されるんですがね。…………女の子は、王城で使用人として働く間に、王族に手を出される事が多いんでさぁ。いくら上位貴族の娘とは言え、王城に暮らす間は味方が少ないんで、身を守る方法が無いに等しいんで。王族に夜伽にでも誘われるならまだしも、大勢に襲われて行方不明なんて事もザラでね。そんな事情をよく知るカラーズカ侯爵閣下は、一計を案じざるを得なかったわけでさぁ」

「…………うわぁ。腐敗した王族ってのは、どこも厄介だな」

「旦那の世界の王族も、そんな感じで?」

「まあ、よく聞くよね」

漫画やラノベの話しではあるが、何作かそんなのを読んだ事はあるし、歴史的にも、そんな話はあったと思う。暴君とか独裁者とか、歴史には必ず暴力と色欲が絡んでいる。

「まあそんな訳でして、お嬢は生まれながらに男の振りを教え込まれましてね。それもこれも、カラーズカ侯爵閣下の娘を護りたい親心でさぁ。実は、侯爵閣下がジョルダン王国と繋がりが深いのも、その辺りに理由がありやしてね」

「…………ん? どういう意味だ?」

「簡単な話でさぁ。他国なら、お嬢は一人の女の子として過ごす事が出来るから、侯爵閣下は他国に信頼出来る場所を用意したんでさぁ」

「はあぁ、凄ぇな」

「まあ結局、悪い虫に集られた訳ですがね?」

「…………あの、カラーズカ侯爵には内緒の方向でお願いします」

「それはお嬢次第でさぁ。わかったらとっとと、許して貰えるように動くといいですぜ。…………まぁ、あっしも旦那が嫌いじゃないんでヒントを出すなら、お嬢は普通に女の子って事でさぁ」

「えっと?」

「甘い物、可愛い物、綺麗な物…………。あの冷たい菓子なんか、良いんじゃねぇですか?」

「…………そう都合よく出るなら、苦労しないよね」

そう口にしながらも俺はスキルを開いて、ティムをフレンドにした事で入手した『☆3以上確定! ガチャチケット!』を取り出した。

…………まさかピノンが出る事を祈る事になるとは思わなかった。

これで出なかったらどうしよう? そう思いながら、俺は祈る気持ちを胸にガチャを回した。

「いやいやいやいや…………!」

出て来たカプセルが、金色に輝いている。ガチャあるあるだ。望んでいない時に限って、レアを引くのである。とあるソシャゲのイベントガチャでよくあった。違うんだと。レアはもう揃っているんだと。欲しいのは一段下のヤツなのだと。

俺は諦めの心境で、金色のカプセルをタップしたのだが。…………俺は失念していた。例の『生活ガチャ』にも☆4☆5の表示があった事を。それならば、食品系にも☆4☆5があって然るべきだと。

金色のカプセルから出てきたアイテムは、『アフタヌーンティーセット』。表示される画像には、ミニケーキがいっぱい乗った三段のケーキスタンドと、ティーポットやティーカップが写っていた。

神に祈りが届いたのか、それは俺が望んでいた以上の、完璧なアイテムだった。