軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:86 鳥の賢獣

ベルナルドとアントニオは飼育場で働く従業員を募集するために、近隣の村を廻る旅に出発した。二人の他はベルナルドの使用人であるカレルとピネイが一緒である。

今回の旅は徒歩の旅だ。村へ向かう道が整備されていない場所もあり、ガタガタの道を馬車で走ると酷い目に遭うからだ。

「リカルド君は残念だったね」

「ええ、王領の村々を見て廻りたがっていたんですが、ナスペッティ財閥の依頼を任されたようです」

ナスペッティ財閥は、サムエレ将軍の実家であるナスペッティ伯爵家の分家が起こした財閥で、幅広い商売をしている。中でも魔術道具の開発と販売には力を入れている。

そのナスペッティ財閥が新型魔光灯の開発を魔術士協会に依頼したらしい。その依頼をイサルコ経由でリューベン局長がリカルドに頼んだのだ。

「ほう、新型魔光灯ですか……今までの魔光灯と何が違うのでしょう」

「何でも、今までより明るく、消費する魔力を少なくしたいそうです」

「それは難問ですな。リカルド君でも苦労しそうだ」

朝早く出発したアントニオたちが、最初の村に到着したのは昼過ぎになった頃だ。

前もって村長に手紙で従業員を募集していることを伝えているので、職を探している若者を集めているはずである。村長の家に行くと一〇人ほどの若者が集っていた。

ベルナルドとアントニオは一人ずつ面接を行い、アントニオは二人、ベルナルドは三人の若者を採用した。

「村長、この五人をお願いします」

「はい、ありがとうございます。今年は王都の働き口が少なくて困っておったのです」

「ああ、今年の王都は災難が続いたから、仕方ないのですよ」

ベルナルドは王都の様子を説明した。

「そこまで被害が大きかったとは知りませんでした」

ベルナルドとアントニオは五人の若者に支度金を渡し、一〇日後に王都の東門に来るように言い付ける。

その日は村に泊まって、翌朝次の村へ向け出発する。

次の村へ半分の距離を進んだ頃、雨が降ってきた。

「これはいかん」

アントニオたちは雨宿りできそうな場所を探したがない。

「カレル、マントを出してください」

ベルナルドはマントを雨具代わりにしようと思い、カレルに命じた。カレルに収納紫晶を持たせており、その中にマントを入れているらしい。

その時、アントニオが止めた。

「必要ないです」

そう言うと、リカルドから預かっている収納碧晶からコンテナハウスを取り出し、道路の脇にある草地に置いた。

「さあ、中に入ってください」

アントニオがコンテナハウスのドアを開けると全員が中に入った。

「これはリカルド君のコンテナハウスですね」

「ええ、弟が貸してくれたんです。万一野宿することがあったら、便利だからって」

アントニオは中にある魔光灯のスイッチを入れ明るくする。

「狭いですが、快適な部屋ですな」

クローゼットからタオルを取り出したアントニオは、他の三人に渡した。

「「「ありがとうございます」」」

タオルで濡れた服や身体を拭くと椅子に座って、雨が止むのを待つ。

「このコンテナハウスもそうですが、タオルも素晴らしい発明ですな」

「リカルドは大したものじゃないと言うんですが、天才じゃないかと思う時があります」

ベルナルドは同意するように頷く。

「リカルド君は昔から聡明だったのですか?」

アントニオは首を捻り。

「いえ、ファビウス領で一緒に暮らしている時は、普通の子供でした。あいつは天気の良い日に日向でボーッとして、雲が流れる様子を見ているのが好きな奴でした」

「ふむ、そうするとアレッサンドロ殿の所に居る時に変わる切っ掛けのようなものがあったのでしょうか?」

「そういえば、アレッサンドロ伯父さんの代わりに、妖樹エルビルの狩りに行かされたとか言ってたな」

「ふむ、危険な目に遭って、才能が目覚めたのでしょうか」

「そうかも知れません」

ベルナルドとアントニオが話をしている間に、雨が止んだ。

外に出たアントニオたちはコンテナハウスを収納碧晶に仕舞い、旅を再開した。少し歩いた先に次の村へ通じる脇道を見付ける。その村は主要街道から離れた場所にあり、途中の道はあまり整備されていなかった。

道路整備の一つに魔獣が嫌う臭いを放つ薬草の種を播くというものがある。今まで歩いてきた道の両側には、その種が播かれ魔獣避けの薬草が生い茂っていたが、脇道の方は所々にしか魔獣避けの薬草が残っていない。

「ここから先は、魔獣が出るかもしれません。気を付けて行きましょう」

ベルナルドが注意した。

「旦那様、護衛を雇わなくて良かったのですか?」

「ここいらに出てくる魔獣は、ホーン狼か妖樹トリルくらいです。魔功銃や魔彩功銃があれば十分ですよ」

ベルナルドの言葉通り、四匹のホーン狼と遭遇した。

アントニオとベルナルドが【風】の魔彩功銃を取り出し、カレルとピネイは魔功銃を取り出す。

唸り声を上げながら近付いてくるホーン狼に狙いを定め、アントニオは引き金を引いた。発射された衝撃波は頭に命中し、ホーン狼は呆気なく倒れた。

瞬く間に四匹のホーン狼が倒され、その死骸をアントニオが収納碧晶に入れる。

「三年前なら、商人の私がホーン狼を倒すなど考えもしませんでした。ですが、新しい武器が開発され、ひ弱な者でも魔獣を倒せるようになりました。今は大きく時代が変わる時期なのかもしれません」

ベルナルドは魔彩功銃を仕舞いながら告げた。

何度か魔獣と遭遇したが、無事に村に到着する。この村は建築資材であるタイルを特産としている。近くの山から青い顔料となる鉱石が産出し、その顔料と粘土を混ぜ整形して焼き上げたものを王都で売っているのだ。

この村でも村長の家に行き、集まっている若者を面接し雇う者を選んだ。

面接が終わった後、村長がベルナルドに相談を持ち掛けた。

「ベルナルド殿、ちょっとよろしいですか?」

「何でしょう」

「顔料の鉱石を採掘する山で、村の者が変な鳥を捕まえたのですが、売れないものかと思いまして」

「変な鳥……見せてもらえますか?」

村長は蔓で編んだ籠を持って来て、中に居るフクロウの雛のような鳥を見せた。

『オナカ スイタ』

『タベモノ チョーダイ』

『ママ、ママ』

アントニオの頭の中に声が響いた。アントニオには聞き取れたが、ベルナルドたちにはちゃんとした言葉では聞き取れなかった。何か言っているのは分かるのだが、それが言葉にならない。

念話が聞き取れるかどうかは、その人の魔力制御レベルが関係していると言われている。それでリカルドから訓練を受けたアントニオだけが聞き取れたのだ。

「モンタと同じだ」

「賢者ミミズクですな。賢獣を三羽も捕まえるとは……この子たちの親はどうしたのです?」

村長にも分からないらしい。村人が見付けた時は、雛だけだったようだ。

「一羽だけでも欲しいな」

アントニオが呟く。ベルナルドは値段の交渉を始めた。

賢獣の相場は決まっていない。どれだけ喋れるか、どれだけ賢いかにより価値が変わるからだ。さらに子供の頃の賢獣は、ちょっとしたことで死ぬので価値が低くなる。

村長との値段交渉が終わり、一羽を金貨十二枚でベルナルドたちは購入した。それが相場かどうかは、ベルナルドも含め誰も分からない。ベルナルドも賢獣を扱った商売をしたことはなかったからだ。

三羽の雛は一羽をアントニオが、残りの二羽をベルナルドが引き取ることにした。

アントニオは村の子供たちにバッタやコオロギに似た昆虫を集めてきてもらい、お駄賃として銅貨数枚程度を渡した。

アントニオとベルナルドは、その昆虫を雛たちに食べさせた。ふわふわした綿毛に覆われた雛たちは、小さな口を精一杯大きく開けて餌を呑み込む。

「可愛いですね」

「本当に、そうですな。貴族の奥様方が手に入れたがる気持ちが分かります」

賢獣は貴族の奥様方に人気で、捕らえられたほとんどの賢獣が奥様方に飼われているようだ。

アントニオたちは合計四つの村を廻り必要な従業員を決定した。

夕方頃、王都に戻ったアントニオたちは、それぞれの雛を抱えて家に帰る。

家の中に入ると、最初にセルジュが雛を見付けた。

「それ何?」

「これは賢者ミミズクの雛だよ」

セルジュがコテッと首を傾げ。

「賢者ミミズク?」

「モンタと同じ賢獣だよ」

「ねえねえ、もっと近くで見せて」

アントニオは小さな籠に入れた雛をセルジュの前に持ってきた。セルジュは眼をキラキラさせ雛を見つめる。

「名前は決めたの?」

「メルだよ」

「へえー、可愛いね」

パメラとモンタがダイニングルームから顔を出し。

「ああ、可愛い~」

「モンタも見る」

アントニオはリカルドの姿がないので、セルジュに尋ねる。

「リカルドは居ないのかい?」

「今日は魔術士協会に泊まるって」

リカルドは泊り掛けで研究しなければならないほど忙しいらしい。

母親のジュリアは台所で夕食を作っているようだ。普通の家庭よりは遅い夕食になりそうだ。ジュリアは店で仕事をしてから帰って食事の支度をするので仕方ない。

リカルドとアントニオは、店は他の人たちに任せ家のことに専念したらと思ったが、ジュリア本人が店を続けたいらしい。

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

アントニオたちが従業員の募集に旅立つ前々日。

魔術士協会の会議室で理事会が開かれていた。そこには代表理事のジェズアルド、究錬局のリューベンとイサルコも参加している。

「さて、今日の議題はナスペッティ財閥から依頼された新型魔光灯の開発についてだ。リューベン局長、まだ担当する研究員を決めていないと聞いとるが、何故だね?」

リューベンは少し顔を強張らせ。

「理由は、優秀な研究員が重要な研究を始めておりまして、すぐには依頼の研究を始められない状況なのです」

本当は依頼の内容を聞いた研究員たちが、何かと理由を付け引き受けなかったからだ。

新型魔光灯の開発については、ナスペッティ財閥の研究者が五年ほど研究を続けたが、成果を出せなかった難問だった。それを知っている魔術士協会の研究者たちは、引き受けなかったのだ。

ジェズアルドが不満そうな表情を浮かべる。

「優秀な研究員とは、ライモンドやジャンピエロのことかね?」

「……その二人は最優秀な研究員と言えるでしょう」

長老派のリューベンとしては、王権派のライモンドを認めたくはなかったが、実績で言えば二人が最優秀だと言える。

「優秀な研究員は、他にも居るのではないのかね」

「代表理事は誰のことを考えておられるのです?」

「イサルコ理事の下に雑務局から来た少年が居たはず……確かリカルドとかいう名だったか」

リカルドは組織上イサルコの下にいるわけではないが、今までの経緯からイサルコの弟子の一人だと思われている。なので、リカルドが素晴らしい魔術論文を発表するとイサルコの株が上がる。

リューベンはジェズアルドからリカルドの名前が上がったのを聞いて、リカルドにナスペッティ財閥の依頼を押し付けるのもいいかもしれないと思った。

リカルドでも新型魔光灯の開発は難しいと考え、リカルドが失敗すれば師匠格のイサルコに責任を取らせるように話を持っていくことも可能だと企む。

「私はリカルドには荷が重いと思うのですが、イサルコ理事が責任を持つならリカルドに任せましょう」

イサルコはいきなり責任がどうこう言い出したリューベンに慌てた。

「待って下さい。リカルドは発表会を終え、討伐局の応援で双角鎧熊を倒してきたばかりなのですよ。少しは休ませてあげてください」

リューベンがイサルコに視線を向け。

「別に構わんよ。二、三日休んでから研究を始めたらいい。新型魔光灯の研究は半年ほど先に結果を出せばいいのだから」

「それなら、ライモンドかジャンピエロの研究が一段落してから、彼らに任せたらいい」

イサルコが反論すると、リューベンが首を振る。

「研究期間が半年あると言っても、それでは時間が足りない。二、三日休んだら取り掛かれるリカルドとは違う」

結局、議論でリューベンに敵わなかったイサルコは、リカルドに新型魔光灯の研究を頼むことになった。

リカルドはイサルコに恩義を感じているので、引き受け休まずに研究を開始した。

そして、アントニオが旅から帰り、ユニウス家で夕食が始まった頃、リカルドは魔術士協会の研究室で頭を抱えていた。

「面倒な依頼を押し付けられてしまったな」

より明るく、それでいて消費魔力量を小さくという相反する課題を出され、リカルドは頭を悩ませていた。ここ二、三日、様々な角度から魔光灯を調べ、いいアイデアが浮かばないか知恵を絞っている。

魔光灯に使われている魔術回路は遥か昔に時間を掛けて完成したもので、完成度の高いものだ。これを改良するのは何らかの革新的技術開発が必要だった。

魔光灯は魔力を光に変えるシンプルな原理により光を放っている。

暗くなったので、実験用に作った魔光灯のスイッチを入れる。魔光灯の真上に太陽光に近い色をした光の玉が現れ、部屋の中を照らし出す。リカルドは光の玉を見つめながら考え始めた。

リカルドは光が電磁波の一種であることは知っていた。

「波長が短くなるに従い、電波・赤外線・可視光線・紫外線・X線・ガンマ線と変化していたはず。魔光灯は魔力をどの範囲の電磁波に変換しているんだ」

人間の身体に害がない点を考えると紫外線・X線・ガンマ線は含まれていないと判る。

「赤外線はどうだろう?」

リカルドは手を光の玉に近付けた。掌に熱を感じる。若干だが赤外線も含まれているらしい。

「魔力を可視光線だけに変換するよう改良してみるか」

リカルドは深夜まで魔術回路の変更作業を行い、いつの間にか研究室の机に覆い被さるようにして寝ていた。

翌朝、起きたリカルドは改良した魔光灯を試してみた。部屋を暗くし魔光灯のスイッチを入れる。

魔光灯の真上に真っ白な光の玉が現れ、部屋を照らす。明るさはあまり変わらないように感じる。

魔力の使用量を計測してみると、以前の魔光灯より使用量は減っている。

「使用魔力量に関しては、少し進歩したけど……明るさは駄目か」

リカルドは大きな溜息を吐く。