軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:209 一角竜の肉と角

目的の一角竜の角を手に入れたリカルドは、魔境から戻ろうと考えた。

「今回は、妖樹を狩らないんですか?」

パトリックから、魔境へ行くと妖樹を狩るのが毎度のことだと聞いていたシドニーが尋ねた。

「妖樹を狩っていたのは、新しい魔成ロッドを作る材料を手に入れるのが目的だったからね。今回は一角竜の角がある」

「本当に、その角で魔成ロッドができるのでしょうか?」

「昨日の実験では、魔成ロッドとは少し違ったものになったが、研究はこれからだ。魔成ロッドにはならなくても、何かに利用できると思う」

「黒震魔砲杖みたいなものができればいいな」

リカルドとしても、そうなれば嬉しい。魔境から溢れた魔獣に対処する手段が増えるからだ。

コンテナハウスを仕舞って、岩山を下り始めた。

「あれは、昨日やった実験の痕じゃない?」

イヴェッタが木が倒れているのを見つけて声を上げた。

三人は倒れている木に近付き確認した。直径が四十センチほどもある幹の七割が抉れている。シドニーとイヴェッタが抉れた部分を食い入るように見ていた。

「凄いな。これを試した時は、どれくらいの魔力を使ったのですか?」

「中級下位魔術と同じ程度だな」

「んん……どういうことでしょう。この威力は、中級下位魔術とは思えません」

「何を言っているんだ。それが魔術というものじゃないか」

「でも、あれは魔術じゃありません。魔力を圧縮して撃ち出しただけ、ということでした」

「そうだな。それなのに、これだけの威力がある。圧縮方法に何かがあるんだと思う」

魔術単語の中にも圧縮という言葉がある。だが、それは魔力ではなく、魔力により操作する物質を圧縮するものだ。魔力自体の圧縮とは異なる。

魔境門を目指して引き返し始めた。半日ほど歩いた頃、誰かが戦っている声が聞こえてきた。

「行ってみよう」

リカルドは戦いの声が聞こえる方へ向かった。

「そっちへ行ったぞ」

「そいつの噛みつき攻撃には気をつけろ!」

賑やかな声のやり取りが聞こえ、何か硬いものに金属がぶつかる音が響いた。

四人の魔獣ハンターが、ストーンリザードと戦っていた。全長五メートルほどで硬い石のような鎧に覆われた大トカゲである。

魔獣ハンターたちは、弓矢と槍などを使って懸命に仕留めようとしているが、鎧のような皮に阻まれて、攻撃が通らないようだ。

「ストーンリザードは、何かに使えるのですか?」

「鎧の材料になると聞いている。それに肉も旨いと聞いてます」

「そうなんですか。酷く硬そうに見えるけど、旨いんだ」

イヴェッタがリカルドに顔を向けた。

「助けないで大丈夫なんですか?」

リカルドは魔獣ハンターに向かって声を掛けた。

「手助けが必要か?」

攻めあぐねている魔獣ハンターのリーダーが、リカルドたちに視線を向けた。

「魔術士なのか?」

「そうだ」

「だったら頼む。俺たちの魔術士が負傷してしまったんだ」

ストーンリザードを仕留めるために必要な魔術士を連れてきたが、負傷して戦えないらしい。リカルドは一角竜の角を試すことにした。

魔力コーティングした角を取り出し、その先端をストーンリザードの頭に向けてから魔力を注ぎ込んだ。どうしても魔力の通りが悪い。魔力コーティングしていない状態よりはマシになっているが、中級下位魔術の魔力を注ぎ込むのに十秒ほどもかかってしまった。

魔成ロッドなら一秒ほどで流し込める量である。

シドニーとイヴェッタは、角の内部で何が起きているか突き止めようと感覚を研ぎ澄まして、一角竜の角に注目している。

そして、魔力を注ぎ込んだリカルドは、圧縮された魔力を撃ち出した。青白く輝く魔力圧縮玉は、一瞬でストーンリザードの頭に命中して爆発した。

「わっ!」

魔獣ハンターが驚きの声を上げる。あれほど攻撃しても、ほとんどダメージを与えられなかったストーンリザードが一撃で死んでしまったからだ。

リーダーらしい男が、ストーンリザードに近付き本当に死んでいるか確かめた。

「死んでいる。魔術士殿、感謝します」

「魔獣と戦える者は貴重だ。ストーンリザードを相手に死なせるわけにはいかないからね」

怪我をした魔術士の容体を確かめた。ストーンリザードの尻尾で叩かれたらしい。身体中が痣だらけになっているが、骨折はしていないようだ。

リカルドは【治癒】の魔術を掛けた後、【裂傷治癒】の魔術も追加した。その魔術士の傷が完全に治ったわけではないが、歩けるようになるまで回復する。

「ありがとうございます。魔術士協会の方ですか?」

魔術士の魔獣ハンターは、リカルドが魔術士協会の人間だと気づいたようだ。

「ええ、魔術士協会のリカルドです」

「あ、あなたが……」

その魔術士が驚いたので、他の魔獣ハンターが興味を持った。

「この人は、有名な魔術士なのか?」

「何を言っているんだ。この方が、王太子殿下の魔術士、リカルド様だぞ」

「えっ、巨蟻ムロフカを倒したリカルド様」

「副都街の所有者だと聞いたぞ」

リカルドの顔は知られていないが、名前だけは知れ渡っているようだ。

「君たち、ストーンリザードを早く処理しなくていいのか」

「でも、こいつは、あんたたちが倒したから」

「自分たちは、必要ないです」

魔獣ハンターたちは血抜きをして、皮を剥ぎ肉を切り分けた。

処理が終わった魔獣ハンターたちと一緒に魔境門へ戻ることにする。ここから先はストーンフロッグと遭遇することが多くなりそうなので、一緒に戻った方がいいと考えたのだ。

リカルドたちがロッドではなく、黒震槍を構えて進み始めると、魔術士のマルゴルが不審に思ったようだ。

「その変な棒は何ですか?」

シドニーは自分が初めて黒震槍を見た時と同じ反応をしたマルゴルに、ちょっと得意そうに教える。

「これは黒震槍という魔術道具です。槍のような武器なんですよ」

「それが槍? でも、鋼の穂がないから何も倒せないんじゃ……」

「今度、魔獣が出てきたら、どうやって倒すか、見せてあげますよ」

そんなことを言っていると、ストーンフロッグと遭遇した。

「僕に任せてください」

リカルドは苦笑いして任せることにする。黒震槍を手に持ったシドニーが前に出た。

「気を付けてね」

イヴェッタが声を掛けた。

ストーンフロッグは魔獣ハンターの間で嫌われている。倒すのに苦労するからだ。剣や槍で仕留めるのは困難で、下手に攻撃すると武器の刃が潰れる。

「任せて大丈夫なのか?」

魔獣ハンターのリーダーが、リカルドに確認した。

その直後、ストーンフロッグがシドニーに向かって跳躍した。シドニーは飛んでくるストーンフロッグに黒震槍を突き出し、引き金を引いた。

黒震槍の先端に黒い空震刃が形成され、ストーンフロッグの頭に突き刺さる。その一撃でストーンフロッグは死んだ。

「ええーっ!」

リーダーが驚きの声を上げる。そして、死んだストーンフロッグに駆け寄り、傷口を調べた。

「本当に死んでいる。とんでもない武器だな。それは売っているものなのか?」

「いや、これは特別に作ったものだから、売っていませんよ」

シドニーの代わりに、リカルドが答えた。それを聞いたリーダーはガッカリしたようだ。

リカルドたちは魔境門を目指して進み始めた。そして、魔境門に到着し、魔獣ハンターたちと別れる。魔境門近くにある町メラルの宿で一日だけ休養を取ってから王都に戻った。

途中で王都の肉屋に寄ったリカルドは、一角竜の肉を渡して食べられるか調べてもらう。すると、食べられることが分かった。しかも、最上級の肉であり味は巨頭竜に近いものだと分かる。

「凄い高級肉じゃないですか?」

シドニーはすぐにでも食べたそうな顔をする。

「革新派の皆を集めて、ステーキパーティーでもするか?」

「いいですね」

魔術士協会へ戻ったリカルドたちは、革新派のメンバーを集めてステーキパーティーを開催した。場所は究錬局の食堂である。

グレタとタニア、パトリックも魔術士協会に来ていたので参加する。

「怪我はしていないようですね。心配していたんですよ」

グレタがリカルドの身体を見回して言った。

「ちょっとだけ危険な時もあったけど、心配ないよ」

「一角竜の角は手に入ったんきゃ?」

パトリックが尋ねた。リカルドは頷いて角を出して見せた。

「へえー、不思議な感じのする角なのね」

タニアがジッと見つめてから言う。

「タニアたちは、探していた妖樹を見つけたのかい?」

「もちろんよ。妖樹イゴルタは妖樹トリルの亜種なんだけど、赤い実をつけるの。その実が研究に必要だったんだけど、妖樹イゴルタ自体も特殊だということが分かったのよ」

リカルドが首を傾げた。

「どう特殊だったんだ?」

「妖樹イゴルタの枝を使って作った魔成ロッドで【命】の魔術を発動すると、効き目が上がるようなの」

「凄い発見じゃないか」

「それで、お願いがあるんだけど、リカルドのところの飼育場で妖樹イゴルタを育ててくれないかな。種子は採取してきたから」

リカルドは面白いと思い承諾した。

ステーキパーティーが始まった。ナイフで切り分けた肉を口に入れたパトリックが、ニンマリと笑う。

「こいつは旨いがね。副都街の店で売り出せば、大儲けできるんじゃないきゃ」

タニアも一口食べて頷いた。

「本当に美味しい。口の中で溢れ出す肉汁が半端じゃない」

リカルドも食べてみて、巨頭竜に匹敵すると思った。グレタを見ると、目を輝かせてステーキを食べている。夢中になるほど美味しいようだ。

革新派のメンバーも旨いと言って騒いでいる。

この肉は副都街の店で売り出すことにしよう。期間限定ということになるが、評判になるだろう。

家に帰ると、モンタから熱烈な歓迎を受けた。最近、モンタは嬉しいとリカルドの髪の毛をクシャクシャにする。

翌日、魔術士協会へ行ったリカルドは、シドニーとイヴェッタに一角竜の皮を渡して売却するように頼んだ。売った代金は二人で分けてくれと伝えた。手伝ってくれた礼である。

「この皮なんですが、戦闘ローブを作ってもいいですか?」

「構わないけど、あまり丈夫そうな皮じゃなかったぞ」

「黒震魔砲杖で撃たれたら、どんな魔獣だって穴が開きます」

「まあ、そうかもしれない」

リカルドは一角竜の皮の端をナイフで切りつけた。切り裂くことができなかった。シドニーの言う通りらしい。

二人が皮を持って出ていくと、リカルドは一角竜の角の研究を始めた。

まず魔成ロッドの代わりになるか実験した。通常の魔術を発動するのは難しいことが判明する。魔術は魔力の放出・魔力の属性励起・呪文により完成する。

その角に魔力を流し込むと、角の内部で圧縮されるので触媒により属性励起できない。なので、属性励起した魔力を角に流し込んでみた。

「できるんだ。同じように圧縮される」

属性励起した魔力が圧縮され、それを押し出すと窓から空へと消えた。訓練場で威力を試してみると、通常の魔力の時より、威力が強くなる場合がある。

それは【風】【地】【火】【空】の属性に励起させた時だ。

特に【空】の場合は、強力な威力を発揮した。黒震魔砲杖の歪曲空間弾に匹敵する威力かもしれない。但し、歪曲空間弾のように空間自体を歪める効果はなく、貫通力より爆発力が大きいようだ。

問題は魔力の通りが悪いこと、それに圧縮された魔力をどのように制御するかだった。