軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:208 一角竜の魔法

幸いなことに魔獣は一匹だけだった。一角竜は大物狩りをする時、群れで行動することがあるのだ。リカルドは一人で前に出た。

「ここは自分に任せてくれ」

シドニーとイヴェッタは少し後ろに下がる。

【地】の魔功ライフルを取り出したリカルドは、その銃口を一角竜に向けた。魔功ライフルで仕留められるとは考えていないが、一角竜がどれほどタフなのか知りたかった。

リカルドたちに気づいた一角竜が、一声吠えてから襲ってきた。そのスピードは驚くほど速く、魔術を放つ時間はなかっただろう。リカルドは一角竜の頭を狙って引き金を引いた。

魔功ライフルから衝撃波が発射され、一角竜の顔に命中する。命中した衝撃で竜の頭がパンチを食らったかのように跳ねた。

「やったー!」

後ろでシドニーが声を上げた。だが、竜と名の付く存在が、この程度で仕留められるわけがなかった。

唸り声を上げながら再び襲ってくる一角竜。リカルドは雷鋼魔砲杖を取り出して、引き金を引いた。中級上位の魔術である【雷渦鋼弾】とほほ同じ威力のある魔術が放たれる。

電気を帯びた鋼鉄片の渦が一角竜を切り刻む。その魔術は一角竜の全身に傷を付けたが、仕留められなかった。だが、一角竜は確実に弱っている。

全身から血を流している一角竜から、大きな魔力の流れを感じた。リカルドは一角竜の角に注目する。魔力は角に集まっていたからだ。

ただ傷だらけであるためか、動くのをやめ魔力を角に注ぎ込んでいる。リカルドは魔成ロッドと触媒を取り出して、【炎風陣】を起動させた。

この魔術も段々と手慣れてきて起動するまでの時間が早くなっている。リカルドの身体を防御の風が繭のように取り巻く。

一方、一角竜は魔力を集め終わり魔法を発動させた。一角竜の角は魔力を圧縮する力を秘めているようだ。一角竜が注ぎ込んだ魔力は角の内部で圧縮され、恐ろしい威力を秘めた存在に変貌していく。

「ちょっと待て、一角竜の魔法は、強烈な衝撃波を発するというものじゃなかったのか」

一角竜が放とうとしている魔法がとんでもないものだと感じたリカルドは、慌てて起動中の【炎風陣】の魔術に魔力を注ぎ込み強化する。

圧縮された魔力は、角の内部だけではなく外側にも力を及ぼし始める。青白く輝く燐光のような光を角全体が放つようになったのだ。そして、青白い光を放つ結晶のようなものを、リカルドを目掛けて撃ち出した。弾丸に匹敵する速度で飛翔した青い魔力の結晶は、リカルドの防御魔術と激突し火花を散らす。

一角竜の魔法は驚くほど強力な威力を秘めていたが、魔力の総量ではリカルドが上だった。膨大な魔力を注ぎ込んだ防御魔術が、青い魔力の結晶を受け止め内包する魔力を消耗させ最後には消した。

リカルドが魔法を受け止めたのを見た一角竜は、もう一発放とうと魔力を集め始める。

「冗談じゃない」

リカルドは黒震魔砲杖を取り出して、引き金を引いた。【黒震連弾】が起動し連続で三〇発の歪曲空間弾が発射され、一角竜は肉塊と化す。

「大丈夫ですか?」

シドニーとイヴェッタが心配そうな顔で寄ってきた。

「冷静に考えると黒震魔砲杖は必要なかったな。だけど、魔術士協会の資料には、一角竜があんな魔法を放つなんてなかったんだがな」

「きっと新しい発見なんですよ」

シドニーが嬉しそうだ。一方、イヴェッタはリカルドが手に持っている黒震魔砲杖に興味を持ったらしい。

「その武器は?」

「初めて見るのか。これは黒震魔砲杖という武器だ。特別な素材を使って、最高の技術で製作した国宝級の武器だよ」

「では、その黒震魔砲杖の素材を集めるために、一角竜を狩りに来たのですか?」

「そうじゃない。一角竜の角は、特別な魔成ロッドの素材になるのではないかと考えている」

リカルドは一角竜の死骸に近付き、角を拾い上げた。六十センチほどの青白い角だ。鉄で出来ているかのような重さがある。

「ズシリと重い。普通の角とは違うようだ」

「僕にも持たせてください」

シドニーにお願いされて、リカルドは渡した。

「本当だ、重い」

イヴェッタも持ちたそうにしていたので、重さを確かめさせた。

「さて、そろそろここを離れよう。血の臭いを嗅ぎつけて別の魔獣が来るかもしれない」

リカルドたちが歩き出そうとした時、魔力察知で北の方角から魔獣の集団が近付いてくるのに気づいた。

「まずい、魔獣の群れだ。逃げるぞ」

リカルドはシドニーたちに告げて駆け出した。左手の方角に岩山が見えたので、そちらに向かう。走っている途中に、後ろから追い駆けてくる気配を感じた。

かなりの集団が追い駆けてくるようだ。

リカルドたちは岩山に辿り着いた。ゴツゴツとした岩が斜面を形成している。リカルドたちは、その斜面を必死で登った。十メートルほど登ったところに、幅二メートル・高さ五メートルほどの石柱があった。

リカルドたちは、その後ろに隠れる。

その直後、魔獣が姿を現した。一角竜の群れである。たぶん倒した一角竜の吠え声を聞いて集まったのだろう。そして、仲間が死んでいるのを発見して、リカルドたちを追ってきたのだ。

「何匹いるんだ?」

そう言いながらシドニーが数えている。

「うわっ、十六匹もいますよ」

石柱の後ろに隠れているのは、バレているようだ。一角竜の視線が石柱に集まっている。

「これは、戦わないとダメな感じです」

シドニーが嫌なことを口にする。

リカルドはどうするべきか考えた。一番確実なのは黒震魔砲杖で攻撃することだが、先ほどの攻撃で魔力が空になっている。どうしても、魔力充填の時間が必要だった。

「二人で時間を稼いでくれないか。魔力を充填したら、自分が責任を持って片付けるから」

「分かりました。こんな時こそ、【九牙竜爆】を使う時です」

「私は【九爪竜撃】にします」

シドニーは一撃の威力で【九牙竜爆】を選び、イヴェッタは命中率を考え【九爪竜撃】を選択したようだ。リカルドは魔力充填の作業を始め、二人は触媒を取り出した。

一角竜たちはお互いに叫び声を上げ、戦意を高めている。そして、一匹が岩山の斜面に向かって突進する。

シドニーが【九牙竜爆】の呪文を唱え始めた。

魔術が完成し、シドニーの周りに九本の空気を圧縮した牙竜槍が浮かんでいる。合図の声が響き一本の牙竜槍が飛翔した。

一角竜は牙竜槍に気づいていたが、無視したようだ。牙竜槍が一角竜の胸に命中した。突き刺さった牙竜槍は、強烈な爆発を引き起こす。一角竜は胸に穴が開き斜面を転げ落ちていった。

それを見た一角竜が次々に突進を開始する。シドニーは次々に牙竜槍を放ったが、一角竜も警戒しており避けるようになった。牙竜槍は誘導ができないので躱されると命中しない。

イヴェッタが【九爪竜撃】の魔術を完成させた。彼女の周りに竜爪が浮かび、合図を待っている。

一匹の一角竜が石柱を回り込んで、リカルドたちに襲いかかろうとした。そいつに向かって竜爪を放つ。躱そうとした一角竜を追尾するように竜爪が軌道を変え、一角竜の頭を切り裂いた。

竜爪は確実に命中したが、一撃で仕留められなかった一角竜もいる。シドニーが九発の牙竜槍を放ち終えたのを見て、リカルドは【風】の魔功ライフルを渡した。

魔功ライフルを撃った経験のあるシドニーは、それを使って迎撃する。但し、魔功ライフルは斜面から一角竜を叩き落とすだけで致命傷を負わせることはできなかった。

一角竜たちがリカルドたちの近くまで迫るようになった時、黒震魔砲杖の魔力充填が終わった。

「後は任せてくれ」

リカルドがそう言った時、一角竜たちの様子が変わった。魔力を角に集め始めたのだ。

「あの魔法を放つつもりか」

リカルドは慌てて黒震魔砲杖を構え、歪曲空間弾をばら撒き始めた。歪曲空間弾の貫通力は驚異的であり、一角竜たちは次々に血を流して倒れる。

リカルドが最後の一匹を仕留めた時、岩山の斜面は真っ赤に染まっていた。

「ふうっ、やっと終わった」

三人は気が抜けたように座り込んだ。

「一角竜が最初から魔法を使わなかったのは、なぜでしょう?」

イヴェッタが首を傾げていた。あれほど威力のある魔法を持っているのなら、最初から使えば良いのに、と思ったようだ。

「一角竜は魔法を使う時に、動きを止めるようだ。それが嫌なんだと思う」

リカルドは一角竜の動きを思い出して推理した。その答えに、イヴェッタは納得したらしい。

しばらく休んでから、まず角だけを回収した。最初に倒した一角竜の角も合わせると十七本の角を手に入れ、リカルドは笑みを浮かべる。

「さて、残りはどうするか?」

「皮は丈夫そうなので回収した方がいいと思います」

「私もそう思います。それと肉は食べられるんでしょうか?」

リカルドは首を傾げた。資料には肉が食べられるか書かれていなかったのだ。

とにかく血抜きをして、皮を剥ぐことにした。

全部の皮を剥ぐのに、二時間ほどかかった。そして、肉も持って帰る事にする。リカルドは冷凍収納碧晶を二つ所有しており、処理した肉を分散して仕舞う。

すべての作業が終わった時、夕方になっていた。

リカルドは岩山の中腹に平らな場所があるのを発見し、そこにコンテナハウスを出して野営することにした。

シドニーとイヴェッタが夕食の準備をしている間、リカルドはコンテナハウスの外に出て一角竜の角を調べ始めた。まず角に魔力を流し込む。

すると、角の内部に魔力を貯蔵する何かがあるのを感じた。これはホーン白虎や雷嵐虎の角と同じようだ。ただ少し違っている点がある。

角の内部で魔力が圧縮されるのを感じた。そのまま魔力を注ぎ続けると、魔力が暴れだすのが分かった。これは紫玉樹実晶に魔力を注ぎ込み収納紫晶を作る時の感触に似ている。

リカルドは暴れる魔力を抑え込み、中級下位魔術に使う程度の魔力を注ぎ込んだ段階で、その圧縮された魔力の塊を押し出すような魔力操作をした。

角の先から青白く輝く結晶のようなものが飛び出して、空に消える。

「ふーん、こういう仕掛けになっているのか。面白いな」

難点は魔力を圧縮する過程で、魔力が暴れだすことだろう。魔成ロッドには魔力を制御する機能がある。この角にも魔力コーティングを施せば暴れる魔力を抑えやすくなるだろうか?

リカルドは試すことにした。魔力コーティングならコンテナハウスの中に入って行う方が良いだろう。

「食事の支度ができましたよ」

イヴェッタがリカルドに声を掛けた。食事を終えたリカルドは、また一角竜の角を取り出す。

「その角はどういうものなんですか?」

シドニーが尋ねた。

「この角には、魔力を圧縮する機能がある。ただ、その制御は難しいようだ」

「えっ、魔成ロッドは作れないんですか?」

「これから試してみようと思っているところだ」

リカルドは角を持ち、魔力コーティングの要領で魔力を角の表面に流し込み始めた。

魔力の圧力が高まるに連れて、角の表面に変化が起こる。奇妙な模様が浮かび始めたのだ。通常の雪華紋ではない。多数の 蔓(つる) が 絡(から) まるような模様で、それが青白く光り浮かぶ。

「おっ」「まあ」

シドニーとイヴェッタが驚きの声を上げる。

作業を続けたリカルドは、角の先端まで魔力コーティングを終わらせる。青白い複雑な模様が浮かぶ、ロッドに似たものが完成した。

「試してみるしかないな」

リカルドたちは外に出た。外は日が落ちて暗くなっている。満月が出ているので真っ暗ではないが、足元が辛うじて見える程度である。

リカルドは完成したものに魔力を流し込む。すると、先ほど流し込んだ時とは違い魔力が通りやすくなっている。半分ほどの時間で中級下位の魔術で必要な魔力が角の内部で圧縮された。

圧縮した魔力を抑え込む制御も容易になったようだ。

リカルドは岩山の中腹から斜め下の地面に向かって圧縮した魔力を放った。青白く輝く魔力の塊が撃ち出され、地面に着弾する。

音から判断すると、木に命中したらしい。爆発音のようなものが響いた後に、メキッという音が聞こえ、木が倒れる音がした。

「何か凄いですね。触媒も呪文も必要ない魔術なんて。まるで魔法みたいです」

イヴェッタの言葉にリカルドとシドニーも同意する。

「魔法か。これが魔法の仕組みなのかもしれないな。研究してみるのも面白いかもしれない」

何度か実験してみて、リカルドは不満を持った。魔力を流し込み始めて発動するまでの時間がかかり過ぎるのだ。

発動するまでの時間を改良できないものか? リカルドはいくつかの案を考え出し、それを試してみたくなった。だが、こんな場所で実験するわけにはいかない。

その日は休んで、魔境を脱出することにした。