軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:192 魔境の障害

リョゼン領の魔境門は、第五魔境門と呼ばれている。リカルドたちは、その第五魔境門を潜り魔境に入った。

「ここは小鬼族が多い場所だそうですね?」

「そうらしいな。小鬼族ぐらいなら魔功銃で十分だろう」

リカルドは、収納碧晶から【風】の魔彩功銃二丁とガンホルダーを取り出した。

魔彩功銃とガンホルダーをイサルコに渡した。

「これを使ってください。【風】の魔彩功銃です」

「ほう、魔功銃より威力が上だという武器だな」

「用心のために、魔功銃より威力のあるものを持っていた方がいいでしょう」

リカルドもガンベルトを腰に巻いて、魔彩功銃をホルダーに収める。

「不思議な感じだな。魔術士の武器はロッドが定番だったんだが」

イサルコはホルダーから魔彩功銃を抜いたり収めたりして、慣れようとしているようだ。

その時、藪の奥から小鬼族が出てきた。身長が一三〇センチほどの醜い小鬼である。

「ギャア、グギャ」

耳障りな叫び声が耳に届いた。リカルドは素早く魔彩功銃を抜いて小鬼族に向かって引き金を引いた。先頭の小鬼族が血を吐いて倒れる。

「ギャッ……」

後ろに続いていた小鬼族が驚いたような様子を見せた。

その間にイサルコが魔彩功銃を抜いて、小鬼族へ魔彩功銃を向ける。

二人で六匹の小鬼族を倒した。

「魔彩功銃か、面白いな」

イサルコは魔功銃より威力を強化された魔彩功銃が気に入ったようだ。

リカルドは周りを見回した後、記録簿から割り出した位置を確認した。ここから一番近いのは北東の方角へ進んだポイントだ。

「まずは北東へ進みましょう」

「そうだな」

二人が進み始めると遭遇する魔獣が、小鬼族からホーン狼に変わった。とはいえ、この魔獣も魔彩功銃の一撃で倒れるので危険はなかった。

そして、一時間ほど歩いた頃、前方に大きな岩山が見えてきた。この岩山が記録簿にあった目印である。この岩山から東に行ったところに何かがあるらしい。

肝心な部分が切り抜かれていたので、何かは分からない。それにどれほど進めばいいのかも不明だった。岩山に到着、そこから東に向かった。

その辺りから遭遇する魔獣が変わった。三眼熊などの大物である。さすがに三眼熊を魔彩功銃で倒すのは難しい。

リカルドとイサルコは得意の魔術を使うようになった。

二人は【爆散槍】と【崩水槍】などで魔獣を倒し、周囲を探索した。何が見つかるか分からない状態で探すのは、さすがに効率が悪い。

リカルドたちは何も見つけられないまま進む。

「見つかりませんね」

「まあ、簡単に見つかるようでは、リョゼン伯爵がとっくの昔に特産品にしていただろう」

伯爵が特産品にできなかったのは、何か障害があったからだろう。魔境での障害となると、魔獣が最初に考えられる。

「あの二人、大丈夫でしょうか?」

「ん、アンセルモ殿とガヴィノ殿のことなら、大丈夫なのではないか。リョゼン領の魔術士たちが一緒に行ったようだから」

「でも、この領地の魔術士の実力は……」

「分かっている。その魔術士たち自身も承知しているはずだ。あの二人を危険に近付けさせないことくらいはできるだろう」

イサルコは他の候補者二人にあまり興味がないようだ。

「理事は、本気で伯爵の後を継ぐ気があるんですか?」

「私自身、よく分からんのだ。今まで魔術士として生きてきた。今さら伯爵になれと言われてもな」

リカルドはイサルコの気持ちを想像してみた。自分だったとしたら、どうだろう。セラート予言の件がなければ、このまま魔術士として研究を続けることを選ぶ可能性が高いと思った。

「私は運命に任せることにしたよ」

「王太子殿下から要請があったとしても、嫌なら断ってもいいと思いますよ」

「セラート予言通りのことが起きなければ、それでいいかもしれないが……」

魔境の魔獣のことは、王太子に支援を要請すればいい。リカルドが、そう思った時に前方で魔獣の気配がした。

「気をつけろ」

「はい」

リカルドとイサルコは魔成ロッドを取り出す。遭遇した魔獣は、冥界ウルフだった。イサルコは顔をしかめた。

「よりによって、こいつか」

軍馬より一回り大きな巨狼が魔境にできた空き地に寝そべっている。しかも群れを作っていた。五頭の巨大な狼が群れている様子は、イサルコほどの魔術士でも寒気を覚えた。

まだリカルドたちには気づいていない。風下になっているからだろう。

リカルドとイサルコは、この魔獣と戦ったことがある。

「ここは任せてください」

「いいのか。こいつらは強敵だぞ」

イサルコにはかなり手強かったという記憶があるので、リカルドに確認した。

その時、寝そべっていた冥界ウルフの一匹が頭を上げた。

リカルドは急いで黒震魔砲杖を取り出した。【黒震連弾】が起動するようにする。

「気づかれたぞ」

ここで逃げれば、冥界ウルフも見逃した可能性が高い。冥界ウルフにとって人間は、猿の仲間でしかないのだ。

五頭の巨狼が立ち上がり、こちらに鼻先を向ける。

次の瞬間、弾けるように駆け出す五頭の巨大な狼たち。リカルドは深呼吸してから、黒震魔砲杖の引き金を引いた。

歪曲空間弾が生まれ前方に弾けるように飛翔する。絶大な貫通力を持つ歪曲空間弾が巨狼の頑強な肉体に穴を穿った。

強靭な生命力を持つ冥界ウルフは、一発では死ななかった。だが、続けて二発、三発と命中すると大量の血を口から吐き出して地面に倒れる。

残り四頭、先頭の冥界ウルフが倒れたので、その仲間たちは警戒して足を止めた。これは野生の獣としての本能がそうさせたのだが、致命的な失敗だった。

次々に生まれ飛翔を開始する歪曲空間弾が、足を止めた冥界ウルフに向かった。そして、巨大な魔獣の毛皮を貫通し筋肉を引き裂き、内臓に穴を開ける。

イサルコは、次々に倒れる巨大な狼たちを見守った。

「はあっ、時代は動いているのだな。その武器が量産できれば、魔術士は不要な存在になるかもしれん」

三〇発を撃ち尽くしたリカルドは、穴だらけになって倒れている冥界ウルフを観察した。どの狼も息絶えている。

その時になって、ようやくモンタが目を覚ましショルダーバッグから顔を覗かせた。倒れている冥界ウルフの姿を見て、歓喜の声を上げた。

「リカ、あれでマントを作って」

寒くなったのでマントが欲しくなったのだろう。リカルドは苦笑した。

「冥界ウルフの死体はどうする?」

「毛皮や内臓の一部は高く売れますから、持ち帰ります」

リカルドは死体を冷凍収納碧晶に仕舞う。

イサルコは冥界ウルフたちが棲家にしていた場所に向かった。巨狼たちが寝そべっていた場所の奥に小山があり、その山裾に大きな地割れができている。

リカルドは周りの調査を始め、ハードスパイスの木やポルア草がないか探した。一方、イサルコは地割れを調べる気になったらしい。

イサルコは地割れに近付き、中に入った。地割れは大人が三人並べるほどの幅があり、高さは段々と高くなっている。

「あれは洞穴か?」

イサルコは地割れの奥に、洞穴を発見した。

リカルドは目的のものが見つからず、イサルコの姿を探した。

「ん、どこへ? あの地割れか」

地割れに近付いて進んだ。リカルドも洞穴を見つけ中に入る。リカルドが以前に製作した携帯魔光灯を持ったイサルコの姿があった。

「イサルコ理事、何か見つかりましたか?」

「こっちに来て、見てみろ」

イサルコの傍に行って、その目線の先を見た。洞穴の壁に紫色の水晶のようなものが顔を覗かせている。

「紫水晶……いや、紫の 煌竜石(こうりゅうせき) 」

紫の煌竜石は、風系統に属するものである。リョゼン伯爵が特産品化しようとしていた三つの素材より、凄い特産品となるものだ。

リカルドは収納碧晶から二本のスコップを取り出した。

二人は煌竜石が埋まっている地層を試し堀りしてみた。ポロポロと煌竜石が落ちてくる。拳ほどもある大きな煌竜石が掘り出された。

モンタがショルダーバッグから飛び出して、煌竜石を拾い上げる。首を傾げてから、煌竜石に付いている土を落とし、齧ろうとした。

「ダメだ。それは食べられないぞ」

「そうなの」

リカルドの注意を聞いたモンタは、不満そうな顔をしてポイッと煌竜石を捨てた。モンタはアクビをしてからショルダーバッグに戻った。

二人は他の候補者たちと競争しているのだというのも忘れ、何度もスコップを地層に打ち込んだ。瞬く間に一抱えほどの煌竜石が回収できた。イサルコはリカルド以上の量を手に入れたようだ。

「これだけで一財産になるな」

「でも、リョゼン伯爵が指定したものではないですよ」

イサルコが溜息を吐いた。

「仕方ない。探索を再開する」

リカルドは洞穴を出て、空を見上げた。空が赤く染まり始めている。

「理事、他の候補者たちが記録簿を切り抜いた箇所には、冥界ウルフのことが書かれていたと思いますか?」

イサルコが渋い顔をする。

「たぶん書いてあったのではないか。但し、冥界ウルフの部分を切り抜いて、我々を殺そうと考えていたわけではないだろう。単純に場所を教えたくないと思って切り抜いたんじゃないか」

イサルコは、アンセルモとガヴィノにそこまでの策を考える頭はないと思っているようだ。その点ではリカルドも同感だった。

「そうですね。でも、そういうのが一番 質(たち) が悪い気がします」

イサルコが肩を竦めた。

「ところで、伯爵が遺言で書いていたものはなかったですね」

「もう少し先にあるのじゃないか?」

リカルドはもう一度空を見上げ、進むべきか野営するか考えた。

「今日はここで野営しましょうか?」

「そうだな」

リカルドはコンテナハウスを取り出し、冥界ウルフの棲家に置いた。ここなら別の魔獣が来ることはないだろうとイサルコと相談したのだ。

そこで一泊したリカルドたちは、翌朝早くから東に向かう。

半日ほど進んだところで、木々が途切れた。日当たりの良い空き地が広がっている。

問題は鋼鉄サソリが空き地に群れていることだった。

「鋼鉄サソリの横に生えているのは、ポルア草じゃないか?」

イサルコに言われて、鋼鉄サソリの周囲を確認した。確かにポルア草である。

「ここが目的の場所だったようです。他の候補者は来ていないようですね」

イサルコは他の候補者たちが何を考えたか分かった。ポルア草を回収するのに邪魔となる障害は二つ、冥界ウルフと鋼鉄サソリである。

冥界ウルフは遠回りすることで避けられただろうが、鋼鉄サソリは討伐しポルア草を採取しなければならない。

鋼鉄サソリは冥界ウルフよりは格下であるが、とにかく頑丈で仕留め難い敵である。アンセルモとガヴィノは避けたのだろう。

「途中に冥界ウルフがおり、目的地には鋼鉄サソリが待ち構えている。ポルア草は難しい課題だ。アンセルモとガヴィノは『ハードスパイスの実』か『魔境岩塩』を狙うと思うぞ」

「しかし、伯爵が一つではなく三つの素材を指定したからには、残り二つにも鋼鉄サソリ並みの邪魔者がいると思いますけど」

「そうだろうが、冥界ウルフを避けようとすれば、かなり大回りしなければならない。競争しているのだから、大回りする時間を嫌ったはずだ」

リカルドは納得した。

「ところで、鋼鉄サソリはどうしますか?」

「当事者は私なのだから、自分で倒そう」

イサルコは【岩槍散弾】を使って、鋼鉄サソリを叩き潰した。

リカルドたちはポルア草を採取して、帰路に就いた。

「さすがに年かな。魔境での活動はきつい」

イサルコはかなり疲れているようだ。魔境を出て領都モルタの伯爵屋敷に戻った時、アンセルモとガヴィノが戻っていた。

二人とも負傷しており、時々痛みを堪えるような表情を浮かべている。