軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:173 【水】の魔彩功銃

リカルドが魔術士協会へ行くと、究錬局の前に 人集(ひとだか) りが出来ていた。掲示板にミシュラ大公国を支援するために編成される魔術士部隊の募集が貼り出されていたのだ。

その魔術士部隊の指揮官はアウレリオ王子で、補佐が宮廷魔術士長のヴィットリオとなっている。当然、宮廷魔術士長の息子サルヴァートも一緒なのだろう。

「今日、アウレリオ殿下とサルヴァート殿が来て、呼びかけを行うそうだ」

究錬局の同僚が教えてくれた。別の同僚が会話に加わり、重要な情報を伝える。

「サルヴァート殿が、賢者マヌエルの上級魔術を受け継いだ、という噂がある。アウレリオ殿下の話の後、新しい魔術を披露するらしい」

「賢者の魔術ですか。それが本当だったら凄いですね」

「リカルドも見てみたいと思うだろ」

賢者の上級魔術に関心がないというと嘘になる。アウレリオ王子の呼びかけというのを聞くことにした。王子が来るのは講堂らしい。

同僚たちが講堂に向かい始めたので、リカルドも後ろから付いて行く。講堂に入り待っていると、アウレリオ王子とサルヴァートが現れた。

アウレリオ王子は壇上に立ち演説を始めた。

「今、同盟国であるミシュラ大公国が危機に瀕している。他国の争いだと傍観することは許されず、王太子殿下は、支援部隊を彼の国に送り出した」

王子は周辺諸国の状況を説明した後、オクタビアス領に侵攻したトリドール共和国軍を非難する言葉を並べた。共和国軍は敵なのだと強調する。

王都ではトリドール共和国を許すな、という声が高まっている。王国にしてみれば、世論が共和国を許すなとなっていることが望ましい。

このタイミングで共和国軍を徹底的に叩き、数年間は軍事行動ができなくなるような状態にしておきたいのだ。

そのことはアウレリオ王子も承知しており、王太子に協力するという名目で魔術士部隊の編成を申し出た。

アウレリオ王子はトリドール共和国の非道な振る舞いを訴え、魔術士たちの協力を求めた。そして、戦いで活躍した者を宮廷魔術士に取り立てると約束する。

魔術士にとって、宮廷魔術士は憧れの存在である。宮廷魔術士になれるかもしれないと思った魔術士たちは、魔術士部隊に入ることを志願した。

王子の話が終わり、魔術士たちは訓練場に向かった。サルヴァートが開発したという新しい魔術を見物するためだ。

サルヴァートが披露する新しい魔術というのは、魔術士部隊に入れば伝授するというものらしい。新しい魔術を餌に魔術士を釣り上げる算段のようだ。

訓練場に到着。サルヴァートが前に進み出た。

「これから披露するのは、【火焔槍撃】と名付けた魔術である」

リカルドは『あれか』と思った。交易船で南の大陸に向かう途中、サルヴァートが見せた上級魔術だ。【火焔剛槍】を独自に改良した魔術だったはず。

サルヴァートは魔成ロッドと触媒を取り出した。パッと現れたので収納紫晶を手に入れたのだろう。的は積み上げた土嚢だ。

精神を集中するサルヴァートの手から魔力が溢れ出し、ロッドの周りで渦を巻く。触媒が撒かれ魔力が真っ赤に変色する。綺麗な赤だった。魔力の流れに淀みがあると、ところどころが 斑(まだら) になるのだが、サルヴァートの魔力は一点の淀みもない。

呪文が詠唱され、魔術が発動した。ロッドの先に炎の塊が現れ、巨大な槍へと変わる。その槍が弾けるように飛翔を開始した。土嚢に命中した炎を纏った槍は、周辺を焼き焦がし炎を撒き散らしてから消えた。上級魔術と呼ぶに相応しい十分な威力だ。

見守っていた魔術士たちが、ざわざわと騒ぐ。

「この魔術は、高等魔術教育学舎の教授が開発された【火焔剛槍】を改良したものだ。威力は同じで射程が三倍になっている」

サルヴァートが説明すると、称賛する声があがった。

魔術士たちはサルヴァートを囲み質問攻めにした。本当に【火焔槍撃】を教えてくれるのか聞き出したかったのだ。

リカルドは賢者の上級魔術について話を聞けそうにないと判断し、自分の研究室に戻った。現在研究しているのは、【水】の魔彩功銃の効果についてだ。

魔彩功銃には【火】【風】【水】【地】の四種類がある。一応【空】もあるのだが、これは魔彩功銃ではなく、黒震槍になったので除外する。

【火】の魔彩功銃は熱を伴った衝撃波を出し、【風】の魔彩功銃は衝撃波の威力が強化される。そして、【地】の魔彩功銃は射程が伸び貫通力が増大することが分かっていた。

だが、【水】の魔彩功銃だけは効果が分からない。

普通の魔功銃に比べれば、威力が上がっているのは分かっているのだが、どういう効果がプラスされているのか判明していない。それを研究するために様々な実験をしてみたが、手掛かりは得られなかった。

リカルドは【水】の魔彩功銃で様々な物を撃ち、その残骸を調査した。木材や土嚢、金属板、動物の肉などを試してみたが、成果がなかった。

今日は粘土に向かって試し撃ちしたが、粘土が飛び散っただけに終わっている。

「分からんな」

その時、ドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けると、サルヴァートが立っていた。

リカルドはサルヴァートを室内に招き入れる。

「リカルド殿、ご活躍のようですね」

雷嵐虎を退治した件を言っているらしい。

「偶々、雷嵐虎が現れた現場に居合わせて、サムエレ将軍の手伝いをしただけです」

「謙遜しなくてもいいだろう。一人で雷嵐虎のような魔獣を倒したというのは、凄いことだよ」

「そう言ってもらえると光栄です」

「ところで、リカルド殿はアウレリオ殿下の魔術士部隊には参加しないのか?」

「ええ、実戦に参加するより、魔術道具などの製作に協力する方が役に立ちそうなので」

「なるほど、王太子殿下に裏で協力しているということか」

「サルヴァート殿は、ミシュラ大公国へ行かれるのですか?」

サルヴァートはアウレリオ王子と一緒に出兵し、共和国軍に鉄槌を下すつもりだと言う。

「残念だな。リカルド殿が一緒に行ってくれれば、共和国軍を壊滅させることもできたのに」

「それは大げさですよ。それより、賢者マヌエルの上級魔術を受け継いだという噂を聞きましたが、本当なんですか?」

サルヴァートは躊躇っていたが、決断したように告げた。

「そうか。噂になっているのか」

本当なら秘密にしておきたかったのだが、賢者の上級魔術を練習しているところを父親のヴィットリオに見られ、打ち明けたら部下である宮廷魔術士たちに自慢されてしまったそうだ。

「賢者マヌエルが開発した上級魔術の資料を、モルニア諸島で発見した」

「本当に、幸運ですね。羨ましい」

「何を言っている。羨ましいのはこっちだ。新しい上級魔術で雷嵐虎を仕留めたそうじゃないか。噂になっていたぞ」

目撃者が大勢いたので、口止めが効かなかったようだ。

「知られてしまいましたか。自分の切り札だったのですが、雷嵐虎が相手だと切り札を切るしかありませんでした」

「よほどの強敵だったようだな」

「ええ、今までで一番の強敵でした」

それから様々な話をして一時間ほどが経過した。リカルドは賢者の上級魔術について話を振ってみたが、上手く話を躱された。

どうやら話す気はないようだ。仕方ないだろう。リカルドも【空】の魔術については話す気がないのだから、お互い様である。

だが、一つだけ面白い話が聞けた。大海蛇がブレス攻撃した時、その衝撃波が海面を叩き水飛沫が装甲高速船にかかったらしい。

大海蛇から逃げ切った後に、装甲高速船の甲板を調べると塩が溜まっていたという。

サルヴァートが帰ってから、リカルドは考えた。塩が溜まっていたということは、大海蛇の衝撃波ブレスに海水から塩を分離する効果があったのではないか?

リカルドは副都街へ向かった。飼育場に到着し海岸へ出る。砂浜では子供たちが遊んでいた。よく見るとモンタがいる。

「リカ、一緒に遊ぼう」

モンタがリカルドに気づいて駆け寄ってきた。リカルドの身体を駆け上り肩の上で頬ずりをする。

「メルは一緒じゃないのか?」

「魚を狩りに行ったよ」

モンタが空を指差した。空ではメルがゆうゆうと舞っている。不意に急降下を始めたメルは、海面に足からダイブした。

「何で、ミミズクのメルが魚を獲れるんです。海鳥じゃないのに」

「メルも賢獣、頭がいいんだよ」

「ふーん、海鳥の真似をしているのか」

メルは大きな魚を捕まえ運んできた。

「メル、凄いな。そんな大きな魚を捕まえられるんですね」

「ギャギャッ」(魚、美味しいから、好き)

「毒がある魚もいるから、気をつけるんですよ」

「ギャグッ、ギャギャ」(大丈夫、毒のある魚、知ってる)

モンタがリカルドに尋ねた。

「リカ、モンタに会いに来たの?」

「残念ながら違う。ちょっと実験をするために来たんです」

「実験……何?」

「魔彩功銃の実験です」

子供たちが集まってきた。何が始まるのか、興味を持ったらしい。

「リカルド様、何が始まるの?」

「ちょっとした実験です」

リカルドは収納碧晶から大きな鍋を取り出した。海水を鍋に汲み上げ、砂浜の上に置く。

「少し離れてください」

子供たちが鍋から離れると、リカルドは【水】の魔彩功銃を手に取った。鍋の海水を狙って引き金を引く。盛大な水飛沫が上がる。

子供たちがワーッと騒いだ。モンタがどんな実験か、不思議に思ったようだ。

「ねえ、何で海水を撃ったの?」

「ちょっと待って、鍋の中を調べるから」

リカルドは海水が三割ほどに減っている鍋を調べた。その底には何かが煌めいている。塩だ、塩が結晶化して鍋の底に沈んでいた。

リカルドは海水を舐めてみた。しょっぱいはずの海水に塩気がない。全く味がないというわけではないが、極端に塩分濃度が低くなっているようだ。

モンタがリカルドを真似て味見した。

「ん、しょっぱくない」

周りで見ていた子供たちが鍋に寄ってきて味見する。

「本当だ。しょっぱくない」

「不思議……」

リカルドは【水】の魔彩功銃の効果が判明して満足した。それに、この発見は様々な産業に利用できそうだ。塩の生産、真水の製造は考える価値がある。

◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

リカルドが研究目標を一つクリアした頃、トリドール共和国のメルセス城塞都市でバスタール王家の末裔であるフベルト・バスタールが仲間を集め、決起するタイミングを話し合っていた。

フベルトは商人であるグラウルの妻ヨゼフィーナの兄である。

「フベルト殿下、ロマナス王国のおかげで武器も揃えられました。王国との約束通りに戦いを始めましょう」

「だが、成功するだろうか?」

「ミシュラ大公国、ロマナス王国の二国と戦っている今なら、バスタール地方を奪い返せると思います」

フベルトは悩んだ。この戦いに敗北すれば、バスタール王国を再興する機会はないかもしれない。悩んだ末、すべてを賭けて戦う覚悟を決めた。

「共和国により虐げられたバスタールの民のため、ここに命を賭けて戦うことを誓う」

旧バスタール王国の将兵たちが、気勢を上げた。

その翌日、メルセス城塞都市の統治機関である白亜城が襲われ占拠された。そればかりではない。城塞都市全体が旧バスタール王国兵により制圧された。

その知らせは、すぐにトリドール共和国の首都ギセルに届いた。評議会のニコライ議長は、即座に緊急評議会を開くことを決めた。

その緊急評議会は紛糾した。

「議長、どうされるのですか?」

軍務統括委員会のパヴェル委員長が質問した。

「決まっておろう。即刻メルセス城塞都市は奪い返す」

「ですが、ロマナス王国とミシュラ大公国の国境へ派兵しており、残りの兵力が不足しております」

ニコライ議長が顔を真赤にして怒り始めた。

「馬鹿者、ロマナス王国など相手をしている場合か。あそこに派兵した一万を早急に戻せ」

「しかし、危険です。ロマナス王国との国境線が危うくなります」

「ロマナス王国が共和国に攻め込むとでも言うのか?」

「それは……可能性としては低いです」

「ならば、兵を戻せ。旧バスタール王国の奴らを皆殺しにしろ」