軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

scene:155 雪の王都

雪が降り続けた翌朝、リカルドが起きると、モンタが布団の中に潜り込んでいた。起き上がったリカルドは、着替えて一階に下りる。

ダイニングルームには、アナベラの家族がいなかった。アナベラだけが残って朝食の用意をしている。

「おはようございます」

「ああ、おはよう」

「ご両親は?」

「家の様子を見に行きました」

リカルドは玄関から外に出た。冷たい空気が肌を突き刺すように感じられる。辺り一面が真っ白になっていた。雪が腰の当たりまで積もっており、歩くのも簡単ではなさそうだ。

雪には人が通った跡が残っていた。アナベラの家族が残した跡だろう。リカルドは歩くだけでも大変だと分かり、カンジキを作ることにした。

ダイニングルームに戻り、ストーブの前で材料があるかチェックした。

材料は木の枝と針金、それに丈夫な紐である。枝は妖樹トリルの枝を使うことにした。この枝は魔成ロッドを作ろうと思い収納碧晶の中に溜め込んでいたのだが、忙しくて作れず鮮度が落ちてしまったものだ。

妖樹の枝は多くの魔力が含まれている新しいものほど良質な魔成ロッドとなる。もはや使えない材料だった。適当な長さに切って、楕円形にして針金で固定する。

それに隙間をなくすように紐を多めに巻き付けて、靴に固定する仕掛けを作った。アナベラの家族たちの分も作り外に出る。

カンジキを履いた足は、雪に少し沈むものの深くは沈まず歩けるようだ。

跡を辿ってアナベラの家まで行った。家の前で呆然と立ち尽くしている家族を見つけた。家を見ると、柱が折れたようで、完全に崩壊している。修理ではなく、建て直しが必要だ。

「そのままだと、風邪を引きますよ。我が家に戻って食事をしてから、どうするか考えましょう」

アナベラの家族が、リカルドの声に驚いて振り返った。

「リカルド様……ありがとうございます」

もっと落ち込んでいるかと思っていたが、割と元気だ。崩壊した家を見て何か吹っ切れたらしい。

「アナベラさんが、朝食の準備をしています。戻りましょう」

リカルドはカンジキを渡し使い方を教えた。

「あれっ、沈まない」

アナベラの妹はカンジキの効果に驚きの声を上げた。

父親も歩き出し驚く。

「こんなの初めて見ました」

「雪の多い地方では、よく使われるものです」

「さすが魔術士様です。博識なんですね」

朝早いのに動き始めた者は多かった。商売をしている者は、店の様子を見に行こうとしているらしい。だが、雪が邪魔をして中々先へ進めず苦労している。

これほど雪が深くなると、輪っかだけのカンジキでは沈んでしまう。リカルドが紐を多めに巻いて隙間をなくしたことで効果が高くなったようだ。

家に戻ると朝食の用意が終わっていた。朝食を食べ、どうするかアントニオと話し合った。

「俺は飼育場が心配だから、向こうへ行く。泊まることになるかもしれん。家のことはリカルドに任せる」

「いいですよ」

リカルドは自分のカンジキをアントニオに渡した。ユニウス料理館は臨時休業にするしかないようだ。リカルドは、ユニウス料理館に行ってから、魔術士協会へ向かうことにした。

「気をつけてね」

「母さんたちは、家で休んでて。セルジュたちは庭で遊ぶのはいいけど、外には出ないように」

セルジュが不満そうな顔をする。

「何で……外に行きたい」

リカルドが笑って、

「雪が凄いから、外へは行けないんだ」

「そんなことないよ」

セルジュが庭に出て雪の上を歩こうとしたが、埋まってしまった。雪塗れのセルジュが、しょんぼりして戻ってきた。

「雪が多すぎるよ。ぜんぜん歩けないんだもん」

リカルドが門を出ようとした時、城からの使いが現れた。ガッシリとした体格の男で、なぜか肩で息をしている。王太子がリカルドを呼んでいるという。

リカルドが支度をして外へ出ると、積もった雪には、大人一人がやっと通れる狭い道ができていた。体力のある者が力尽くで道を開いたようだ。

「これは、あなたが?」

「王太子殿下のご命令です」

リカルドは変な気遣いを見せる王太子に、また厄介な頼みをされるのでは、と嫌な予感を覚えた。

使いと一緒にバイゼル城へ向かった。まず商店街の方へ向い、商店街にある入り口から地下道へ下り、地下道を通って城へと歩く。

リカルドは地下道をチェックしながら歩いた。一定の間隔で、リカルドが開発した新型魔光灯を使った街灯のようなものが設置されており、カンテラなどの明かりなしでも歩けるようになっていた。

「地下道を整備したんですね?」

「はい。王太子殿下がセラート予言対策として、地下道整備を命じられたのです」

バイゼル城近くの出入り口から地上に出て、城に入り王太子の執務室に向かう。部屋に入ると王太子が外の雪景色を見ていた。

「待っていたぞ」

「突然の召喚、何事でしょうか?」

「どうやら、余は雪を甘く見ていたようだ」

王太子の説明によると、地下道に食料などの備蓄品を運ぶ前に、雪が積もってしまい、倉庫から備蓄品を運べなくなったらしい。

倉庫から入り口までの距離は、二百メートルほど。兵士に雪かきをさせれば何とかなるのでは、とリカルドは考えた。しかし、それくらいのことは、王太子も分かっているだろう。

「お前だったら、どうする?」

「雪かきをして、道を作るしかないと思います。できれば、雪かき専用の道具も用意した方が良いかと」

「ふむ、魔術で何とかならんのか?」

王太子が期待していたのは、魔術だったらしい。だが、魔術を街中で放つのは危険だ。

リカルドは魔術の危険性を王太子に伝えた。

「なるほど。雪をどかすために放った魔術で、臣民が傷つくことにでもなれば、一大事だ」

「それより重要な問題がございます」

「それは何だ?」

「屋根に積もった雪です。あの雪を下ろさないと、家が潰れます」

リカルドはすでに潰れた家が何軒もあることを王太子に伝えた。

「何だと、そんな報告は受けておらんぞ。よし、兵士に命じて雪下ろしを手伝わせよう」

王太子は、潰れた家の調査も行うように命じた。まだ、埋まっている者がいるなら、助け出さなければならないからだ。

王太子は、リカルドからカンジキのことも聞いて、急いで作らせた。

リカルドや王太子にとっては、ドタバタした冬だったが、何とか乗り切り雪の被害が拡大することを止めることができた。

地下道については王都民に知らせ、地下道に入りさえすれば食料などが手に入ることを広めた。

この雪による被害は、魔境の近くにある土地すべてに及んだらしい。幸いにも雪は数日でやんだので、死者の数は多くなかった。ただ輸送関係に影響が出て、食糧不足となった地方があったようだ。

「今回のことは、教訓として将来に活かさねばならん。小さなことでも記録に残し、問題点並びに対策を報告せよ」

王太子の命令が、王領ならびに王家直轄領で徹底された。

今回の災害で優れた判断力と素早い処理を評価された王太子は、その名声を上げた。そのことにより、メルビス公爵とオクタビアス公爵寄りだった貴族たちの中に、王家の権威を認め忠誠を誓う貴族が現れ始める。

面白くないのは、両公爵である。特にオクタビアス公爵の陣営から大勢の裏切り者が出たため、オクタビアス公爵は機嫌を悪くしたようだ。

一方、リカルドの方は、自宅の雪下ろしや建設中である副都街の確認などで忙しい日々を過ごした。落ち着いたのは、冬も終わりとなった頃だ。

研究をする時間ができたので、トリデル沼で手に入れたホーン白虎の白い角を調べ始めた。長さは五十センチほどで金属のような光沢がある。

リカルドが魔力を流し込んでみた。魔力の手応えが妖樹の枝に似ている。違うのは角の中に黄玉樹実晶や紅玉樹実晶のような手応えもあることだ。

その部分には魔獣の意思が宿っていたのだろう。今は白紙の状態になっている。

「面白い、これは凄いものになるかもしれないぞ」

リカルドが珍しく興奮するほど熱中した。だが、白い角を調べれば調べるほど腑に落ちない点が出てきた。

「おかしい。あのホーン白虎は、この角を使いこなしていなかった。なぜだ?」

リカルドはブツブツと呟きながら詳しく調べ始めた。その結果、この白い角を持っていた魔獣が未成熟な個体だったのだと分かる。

背中に嫌な汗が吹き出した。あの魔獣が成獣だったならば、倒されていたのはリカルド自身だったかもしれないと悟ったのだ。

「これは、ヤバイ事態なのかな」

幼獣だったということは、親が育てていたことになる。虎は母虎だけで子供を育てると聞いた記憶があるので、母虎が子供を探しているかもしれない。

ただ自然界において子供が亡くなることは珍しくない。母虎が諦めて他の子供を育てることに集中しているのなら良いのだが。

それでも不安が残ったリカルドは、白い角で武器を作ることにした。角の中にある黄玉樹実晶と紅玉樹実晶に似た機能を詳しく調べた結果、属性励起した魔力を蓄えられる蓄積機能と魔力を制御する機能があることに気づいた。

魔力蓄積機能は『魔力キャパシタ』、魔力を制御する機能は『制御核』と名付ける。

リカルドは、この組み合わせで魔砲杖のようなものが作れることが分かった。

問題は、どれほど強力な魔術を組み込めるかだ。

魔砲杖には魔成ロッドが必要である。しかし、白い角は魔成ロッドの代わりになる可能性があった。

「これが、どれほど魔力に耐えられるか」

この角の持ち主が、膨大な魔力を咆哮に乗せて放っていたのを思い出した。あの魔力は尋常なものではなかった。ならば、リカルドが扱える最大限の魔力を込めても大丈夫なのではないか。

そう思えてきた。

魔力コーティングしようと思った時、リカルドに迷いが生じた。属性色ロッドにするか通常の魔成ロッドにするか。属性色ロッドにすれば、強力な魔術を放てるようになるが、その属性色の魔術以外は放てなくなる。

属性色ロッドにするなら、黒の属性色一択だろう。リカルドの魔術の中で最強の魔術が【空震槍破】であり、それを放てる魔砲杖モドキができれば、強力な味方になるからだ。

(でも、普通の魔成ロッドというのも魅力がある。組み込む魔術の選択肢が広がるからな)

それに【空震槍破】は強力な魔術だが、強力すぎて使う機会が少ない。妖樹エルビルや双角鎧熊クラスの魔獣が相手の場合、【雷渦鋼弾】を選択する方が効率的なのだ。

リカルドは悩み選択した。

属性色ロッドとして魔力コーティングすることにした。強力な魔獣に対抗するものが欲しかったからだ。リカルドは全力で白い角を魔力コーティングする。

魔力に意識を集中させ、繊細な操作を行う。放出する魔力が振動し色が黒に変わる。リカルドは黒い魔力で魔力コーティングを始めた。

白かった角が黒に変わり、その表面に金色の雪華紋が浮かび上がる。流し込んだ魔力量は、一級魔成ロッドであるエルビルロッドを作った時を超えていた。

この国で初めて魔成ホーンが出来上がった瞬間である。

魔力コーティングが終わり黒く変色した角を触った。その瞬間、ゾクリとした感覚が背中を走る。禍々しいほどに強力な力を秘めていると感じたからだ。

【空震槍破】の魔術を因子文字に置き換え、制御核に刻もうとした時、ここに組み込める魔術が一つではないことに気づいた。

制御核の容量から計算して、三つの魔術を組み込めると分かる。

リカルドは、すぐにもう一つの魔術を決めた。【空震槍破】が大砲だとすれば、機関銃に相当する魔術を組み込むのが良いと考えたのだ。

人間が魔術を放つ場合、魔術に込める魔力量を正確に制御することは難しい。また、連続して魔術を放つことも困難である。

だが、因子文字で組み上げた魔術は、両方とも可能なのだ。

リカルドは魔成ホーンと触媒カートリッジを組み合わせ、属性励起した魔力を魔成ホーンの魔力キャパシタに溜め込む仕組みを作り上げ、一つの武器を創り上げた。

後に黒震魔砲杖と呼ばれるようになる武器は、ロマナス王国で最も有名な魔砲杖となる。

この時点で、黒震魔砲杖に組み込まれている魔術は二つ。【空震槍破】と【黒震連弾】だ。【黒震連弾】は、三十発の黒く変色し歪んだ空間を撃ち出す魔術である。

その歪曲空間弾ともいうべき弾丸は、凶悪な威力を秘めていた。どんな硬いものでも命中した部分の物質を分子分解して穴を開けてしまう力だ。

リカルドは、飼育場近くの海岸へ行って試射を行った。黒震魔砲杖のセレクターを【黒震連弾】にしてから、海に突き出た大岩に向かってライフルのような黒震魔砲杖の引き金を引いた。

連続して凄まじい爆裂音が響き、大岩に三センチほどの穴が開く。厚さ五〇センチほどもある岩を、歪曲空間弾は貫通したようだ。